ある、僕の妄想


キャスト

オクヤマ    唄う人。わかりづらい。
ハラダ     弾く人。物覚えが悪い。
ヨシダ     ある集会の会長。言葉遣いが不思議。
トモ      金持ち。
クサマ     ヘンなやつ。
アベ      ある集会の会員。
カクモト    大手レコード会社の幹部。及び、ある集会の幹部。


プロローグ

        怪しげな照明。
        ヨシダが立っている。

ヨシダ     吸って、吐いて。吸って、吐いて。疑ってはいけません。はい、私の言うことは?…そう、絶対。微笑み。微笑み。


        この時、ヨシダは(使えたら)霧吹きかスプレーのようなものを散布している

ヨシダ     ゆっくりと吸って、吐いて。吸って、吐いて。吸って、吸って、吸って、吐かない。はい、吐かないよ。何が起こるかわからないからね。油断しないように。吐かないよ。吐かない。


        ヨシダ、長めにスプレーを撒く。

ヨシダ     そう、人の世なんて儚いものなのです。わずかな出来事で全てが狂いだしてしまう。あげく、全て消えて無くなってしまうやもしれぬ。儚いね。ほんと。でも、絶望する必要も恐れる必要もありません。私の考えを受け入れて、私と共に生きさえすれば、この儚い世界に惑わされることはなくなるのです。さあ、あなたの絶望と恐怖、私が取り除きましょう。あら、今日は新しいお仲間がいらっしゃるようでがすね。へっへ。つきましては、入会費、初年度年会費、月会費、週会費、施設使用費、微笑み費、その他もろもろ費、そして仲間の証、幸福の壷の代金を収めてください。はい、明細。いいですか?幸せになりたくば、出し惜しみしてはなりません。世界は、ギブアンド・何とやらよ。

        暗転。
呼吸の音が重なり合い、いつの間にか波の音が聞こえてくる。

@センジョウ

        魂の抜けたようなオクヤマ。黙ってギターを抱くハラダ    。
        クサマ、アベ 、トモ の三人が座って会話をしている。

        波の音FO

クサマ     はあ…疲れた…。
トモ      疲れてるのは君だけじゃないんだよ。
アベ      そうですよ。
クサマ     ああ、ごめん。そうだよね。
アベ      見て下さいよ。みんなグダグダじゃないですか。
クサマ     (辺りを見渡して)うん、グダグダだ。
アベ      そんなことありませんよ。
クサマ     えー。
アベ      みんな一生懸命生きてるんですよ。
トモ      そうだぞ。
クサマ     ちょっと、何で僕責められてるの。
トモ      頑張れクサマ。
クサマ     応援されても。
アベ      応援には応えましょうよ。
クサマ     えー。
アベ      応えるべきですよ。たとえ応援するに値しない人間だったとしても、応援されたからにはそれに応える義務があります。
クサマ     それ、僕を馬鹿にしてるの。
アベ      クサマさんごときの人間でも、
クサマ     ごときって言われた。
トモ      まあまあ、もういいじゃない。この話は。
アベ      まあ、いいですけど。
クサマ     そうだよ。この流れ、僕不愉快なだけだもの。
トモ      だからね、話題変えよ。はい、おしまい。クサマごときの話は。
クサマ     駄目押しだよ…。
アベ      象のおしっこで頭洗ったことあります?(トモに)
トモ      いや、ないなあ。
クサマ     話題変わりすぎだろ?っていうか、アベ君おしっこで頭洗ったの?
アベ      象のおしっこですよ!
トモ      そこ重要だぞ。
クサマ     え、ああ、そっか。象のおしっこで頭洗ったことあるんだ…。
アベ      何言ってるんですか。
クサマ     え?
アベ      ありませんよ。
クサマ     え、ないの?
アベ      あるわけ無いじゃないですか。
クサマ     えー、てっきりあるもんだと。
アベ      なんですか、おしっこて。
クサマ     お前が言ったんだろ。
トモ      うわ、今この人お前って言った。
クサマ     あ、いや、
トモ      ちょっと、いくらなんでもお前はアウトだよ。
アベ      アウトです。
クサマ     今のは言葉のあやで…
アベ      言葉にあやがあっちゃまずいんですよ!(立ち上がる)
クサマ     えー、そんなに厳しいの…。
アベ      …あの人がいつも言ってました。

    三人、沈黙。

クサマ     …アベ君、やっぱりあの人のこと、
トモ      そうだ、食料ってどれくらいあるのかな。
アベ      あ、そうですね。僕見てきますよ。
トモ      あ、お願い。

        アベ、はけようとする。

クサマ     そういえばお腹空いたなあ。
トモ      お腹空いてるのは君だけじゃないんだよ。
アベ      (戻りながら)みんな一生懸命生きてるんですよ。
クサマ     えー、そこ食いつくの?

    アベ、はける。

クサマ     それ言うために戻ってきたの?
トモ      まあ、世の中いろんな人がいるから。
クサマ     あんたはなんだ。
トモ      あんた…あんたは、セーフ。
クサマ     …セーフか。
オクヤマ    うわーい、やったーい。

    皆ちょっとびっくりする。

トモ      大丈夫なんですか、オクヤマさん。
ハラダ     大丈夫ってことはないんじゃないの、あんなことしたわけだし。(ギターを鳴らす)
トモ      そうですよね…。
ハラダ     まあ、大丈夫でしょ。(ギターを鳴らす)
クサマ     どっちですか。
ハラダ     でもまあ、生きてるし。(ギターを鳴らす)
クサマ     まあ、生きてるけども。っていうか何なんですか、さっきから、その、じゃらーんっていうのは。
ハラダ     え?(ギターを鳴らす)何のこと?(ギターを鳴らす)
クサマ     それそれそれ。そのじゃらーんて、じゃらーんってやつ。
ハラダ     ああ、これ。忘れないようにさ。僕はギター弾けるんだぞ、ギター弾ける人間なんだぞって。なんか忘れちゃいそうだから。
オクヤマ    お腹空かふー。
クサマ     え?
オクヤマ    空かふー。
クサマ     何ですか、ふって。
ハラダ     新しい助詞だと思う。多分お腹空いたんじゃない。
クサマ     ああ。
トモ      ほら、皆お腹が減るんだよ。
クサマ     わかったよ。
ハラダ     人間だからね。

        アベ、戻ってくる。

トモ      あ、どうだった?
アベ      …。
トモ      ちょっと、何で黙ってるの。
アベ      察してください。
トモ      …。
アベ      二三日です。
トモ      え?
アベ      全員が同じだけ食べるとすると…二三日しか…。
オクヤマ    ハトサブレーの逆襲だ!…ひー。

        オクヤマ、おとなしくなる。

クサマ     なんか、段々ダメになってる気がする。誰がとか、何がってわけじゃないんだけど、段々ダメになってきてる気がする。
トモ      確かに。
アベ      そうですね。
ハラダ     僕たちは大丈夫。
クサマ     一番酷い気も、しなくはない。
トモ      今、一体何処にいるんだろうね。
アベ      見当もつきませんね。まっすぐ進んでるかどうかも怪しいですから。
クサマ     でも、何処かには着くんだよね。
アベ      それはわかりませんよ。保障はありません。
クサマ     でも、地球は丸いんだし。
アベ      それはわかりませんよ。
クサマ     丸いよね。
トモ      でも、食料が尽きる前には何処かに辿り着かないと…。
アベ      終わりですね。
トモ      死ぬの、僕たち。
アベ      死にますね。
クサマ     言い切った。
アベ      だって死にますよ。実際。
トモ      なんか、急に死に近づいた気がする。がって感じじゃないんだけど、こう、ががってのとは違うんだけど、むしろ、すすって、すすすって、いや、ひゅひゅひゅっかな、
クサマ     擬音ばっか忙しいな。
トモ      でも、死ぬんだよ。
クサマ     確かに、今まで考えてたのとは何か違うね。実感はあるんだけど、恐怖って言うか、そういうのは何か…。
アベ      うまく言えませんね。
クサマ     …うん。
ハラダ     オクヤマだったら、なんて言うんだろう。

        皆、オクヤマを見る。

トモ      なんて言うんですかね。
ハラダ     多分、よくわかんないんだろうなあ。
アベ      そうですね。
クサマ     絶対よくわかんない。

    皆、笑う。

ハラダ     忘れたくないなあ。こいつのこと。(しみじみ)
クサマ     ハラダさん…。

    沈黙。波の音。

トモ      何でだろう。
クサマ     え?
トモ      何でだっけ?
クサマ     何が?
トモ      何でこんなことになったんだっけ。何がいけなかったんだっけ。
クサマ     …。
オクヤマ    ギョーン…。

オクヤマ、初めて起き上がる。

ハラダ     オクヤマ。どうした?
トモ      大丈夫ですか?
オクヤマ    (辺りを見回して)ギョーン…ギョーンショージャ…。
ハラダ     オクヤマ?

   オクヤマ、舞台中を彷徨い歩く。

クサマ     どうしたんですか?
ハラダ     オクヤマ。
オクヤマ    ショギョ…ショギョ…ショギョ…

1.0;     オクヤマ、はけ口を指差して何かを訴えている。
        他のもの、口々にオクヤマの名前を呼んだり、心配したりする。

オクヤマ    ショギョウ…ショギョウ…うあー!

    オクヤマの声に音楽が重なり、大音響。
        激しい照明の中、場面が転換される。

A専用

        オクヤマ、うつ伏せで何かを書いている。
        そのそばでハラダ、ギターを弾いている。
        舞台後方には、トモ、カクモトが後ろ向きで座っている。

ハラダ     (ギターを弾きながら独り言)…書けた?
オクヤマ    …。
ハラダ     うん、頑張って。己のために。あわよくば、ハラダのために。必死こいて、必死こいて、疲れたら私の胸で少しお眠りなさい。って、僕気持ち悪い!けど、愛して。皆ハラダを愛して。あ、でも、愛してるからって僕の肖像画を書いちゃダメだよ。オクヤマはちゃんと書くもの書いてね。
オクヤマ    女性専用車両の隣の車両ってさ、
ハラダ     え?
オクヤマ    女性専用車両の隣の車両ってさ、男性専用車両の如くならないかな?
ハラダ     何だ如くって。っていういか何、いきなり。
オクヤマ    だって乗るでしょ。隣の車両が専用車両だったら、乗るでしょ。女性は。
ハラダ     ええ、ああ、どうだろう。
オクヤマ    女性は乗るでしょ。
ハラダ     乗るのかな。乗るのかもね。
オクヤマ    空いてるし、安全だし。
ハラダ     うん。もう、乗るでいいよ。
オクヤマ    空いてるし、安全だし。
ハラダ     うん、わかったから繰り返すのはやめて。アレなのね、最近のオクヤマ君の興味は、女性専用と男性専用の表裏一体にあるのよね。
オクヤマ    よし。じゃあ、適当に弾いてみてよ。
ハラダ     え、あ、うん。何を?
オクヤマ    何をって、今の。
ハラダ     え?
オクヤマ    この曲はミディアムテンポでいいかなって思ってるんだけど、どうかな。
ハラダ     どうかなって、え。今の、歌詞なの?
オクヤマ    うん。
ハラダ     今のって、その、女性専用車両のくだり?
オクヤマ    うん。
ハラダ     わかりづらいよ。
オクヤマ    ♪女性〜専用車両の〜
ハラダ     いやいやいや。
オクヤマ    ♪隣〜、と、隣〜、隣〜、
ハラダ     こだわらなくていいから。
オクヤマ    いや、こだわらなきゃダメでしょ。そこは、こだわるべきでしょ。
ハラダ     なんで?
オクヤマ    だってほら、トモ君の。
ハラダ     え?
オクヤマ    トモ君。

        トモ、前方に出てくる。(ここでは回想として登場する。)

ハラダ     何だっけ?
オクヤマ    もう忘れたの?先週のストリートライブの時さ、(立ち上がる)
トモ      お疲れ様でした。今日も、すごいアレでした。
ハラダ     アレって何だ。
オクヤマ    いつもありがとうね。
トモ      あ、これ、少ないんですけど。カンパってことで。

        トモ、札束を地面に投げる。

ハラダ     ひゃあ。(下品に拾う)
オクヤマ    ホント、こんなにいつも悪いね。全然遠慮はしないけど、悪いね。
トモ      いいんですよ。僕、金持ちですから。いい金持ちですから。
ハラダ     いい金持ちって何だ。(お金と戯れる)
オクヤマ    君のおかげでお金には困らないからなあ。ありがとうね。あ、いや、お金くれるからありがとうってわけじゃないよ。
トモ      わかってますよ。
オクヤマ    君のおかげでバイトしなくていいからありがとうってことだよ。
ハラダ     おんなじじゃねえかい!(お金で突っ込む)
トモ      わかってますよ。
ハラダ     わかっちゃうのかよ!(お金に突っ込む)
オクヤマ    あれ?今日は、一人?
トモ      はい。いつも一人です。
ハラダ     ぶっちゃけトモ君以外お客さんいたことないからね。わはは。

        オクヤマ、落ち込む。

トモ      わあ。オクヤマさんが落ち込んだ。
オクヤマ    どうせ僕の唄はわかりづらいんでしょうよ。
ハラダ     大丈夫だよ。わかりづらいだけだって。

    オクヤマ、さらに落ち込む。

トモ      なんで余計落ち込むようなこと言うんですか。
ハラダ     甘やかしちゃいけないと思って。
トモ      保育士かよ。
ハラダ     保育士だよ。
トモ      嘘を吐け。
ハラダ     えっと、こないだ頭が痛かったので、バファリンを飲みました。嘘です。
トモ      いや、嘘を吐けってのは命令ではなくて。っていうか、何なんですかその嘘は。
ハラダ     僕頭痛くならないから。
トモ      すごい自信。
ハラダ     バファリンは飲んだけど。
トモ      飲んだのかよ。えー。
ハラダ     だって、バファリンの半分はおもむろにできているからあ。
トモ      違いますよね。
ハラダ     残りの半分はおもしろでできているからあ。おもしろは譲れないからあ。
トモ      …さようか!
オクヤマ    ほっとかないでください…。(起き上がる)
トモ      あ。
ハラダ     ね。自分で起きれるのよ。甘やかしちゃダメ。
トモ      保育士かよ。
ハラダ     保育士だよ。
トモ      嘘を吐け。
ハラダ     えっと、セックスしたい。嘘です。嘘です、したいです。
トモ      したいんだ。
オクヤマ    安っぽいセックスの話は終わりにしよう。安っぽいセックスの話してると安っぽい人間になっちゃうから。安っぽい人間は安っぽい唄しか書けないから。
ハラダ     ドンキホーテで売られちゃうから。
トモ      安っぽい。っていうか安い。あ、ちょっと、いいですかね。
ハラダ     三日くらいなら同じ服着れる。
トモ      安っぽい人間になる前にいいですかね。
オクヤマ    何?
トモ      お二人は、デヴューする気ないですか?

    オクヤマ、吹き出して痙攣する。

トモ      ああ、吹き出して痙攣した。
ハラダ     こら、デヴューの話は禁じ手だぞ。売れないコンビにデヴューの話は。
オクヤマ    コンビって言うなあ。(痙攣しながら)
ハラダ     ああ。デュオ。売れないデュオにデヴューの話はアルテマウエポンだよ。
トモ      あ、いや、確実にできるってわけじゃないですよ。オーディションがあるって話を。
ハラダ     オーディション?
トモ      近々、クラムボンミュージックが、オーディションをやるらしいんです。
オクヤマ    (起き上がって)クラムボンっていったら、業界最大手じゃんか。
トモ      公にはされてないんですが、次に売り出す新人を探しているらしいんです。
ハラダ     うおー。
オクヤマ    すげー。

    オクヤマ、ハラダ、乱舞する。

オクヤマ    …あれ、ちょっと待って。そのオーディション、公にはされてないんだよね。
トモ      はい。
オクヤマ    何で君は知ってるの?
トモ      あ…。
オクヤマ    ねえ、何で?
トモ      …金持ちだからです。

    間。ハラダ、トモの臭いをかぐ。

ハラダ     金持ちだからかあ。
オクヤマ    臭いで納得?
トモ      知り合いに幹部がいるんですよ。
ハラダ     なるほど。
オクヤマ    なんだ、コネか。
トモ      え?
オクヤマ    俺たちはコネなんかに頼んないよ。
ハラダ     オクヤマ。なんだよ、チャンスじゃないか。
オクヤマ    そりゃチャンスかもしんないけど、コネでデヴューしたところで、俺たちの本当の価値は認められない。
ハラダ     オクヤマ…。
トモ      そうですか…。
ハラダ     ごめんね。
トモ      いいですよ。
ハラダ     あんなんだけど、根は…根は…ごめんね。
トモ      わかってますよ。
オクヤマ    トモ君。
トモ      はい。
オクヤマ    ちなみにオーディションはいつ?
トモ      あ…来週です。
オクヤマ    ふうん…。
ハラダ     …ごめんね。
トモ      わかってますよ。
ハラダ     よく見ると、顔、怖いですね。
トモ      わかってますよ。

オクヤマ、何気なくうつ伏せになり、思いっきり歌詞を書き始める。

ハラダ     うえー?すっごい書いてる!
トモ      え、あ、受けるんですか?
オクヤマ    当たり前だろ。誰が受けないって言った?
ハラダ     さっきの台詞なんだったんだよ。
オクヤマ    チャンスだからね。奇麗事言ってらんないでしょ。
ハラダ     (ギターを鳴らす)
トモ      じゃあ、先方には伝えておきますね。
オクヤマ    うん、よろしく。
トモ      じゃあ、来週。忘れないでくださいね。

    トモ、退場。

ハラダ     ああ、そっか。思い出した。オーディションか。
オクヤマ    そうだよ。そのために書いてんだから。
ハラダ     そうだったそうだった。最近物忘れが…。
オクヤマ    だからさ、いい曲作んなきゃ。
ハラダ     それで、そのオーディションっていつだっけ?
オクヤマ    えっと、来週って言ってたね。先週。
ハラダ     そっか。

        しばらくの間。

ハラダ     え?
オクヤマ    何?
ハラダ     いつだって?
オクヤマ    トモ君は来週って言ってた。先週。
ハラダ     先週の、来週?
オクヤマ    うん。
ハラダ     先週の来週っていつよ?

    間。青ざめる二人。

二人      今日じゃね?

        カクモトが振り返り、場面が変わる。

Bオーディション

カクモト    (振り返りながら)次の方。
二人      (正面を向いて)失礼します!
カクモト    それじゃあ、早速だけど、
オクヤマ     聞いてください、『転校生の唄』。
ハラダ     (いきなり弾き始める。アップテンポの曲。)

        二人、歌い始めるがカクモトに止められる。

カクモト    歌歌う前に自己紹介してもらえるかな。私まだ君たちのこと何も知らないから。
オクヤマ    あ、すいません。
ハラダ     ハラダです。
オクヤマ    オクヤマです。
ハラダ     二人合わせて、『源氏平家』(適当なお笑いっぽいコンビ名)
オクヤマ    えー。ちょっと待って。
ハラダ     何?
オクヤマ    俺たちそんな漫才師みたいな名前だったっけ?
ハラダ     違った?
オクヤマ    違うよ。
ハラダ     じゃあなんだっけ。『イチゴ・ミルク』?
オクヤマ    エロいよ。
ハラダ     『サディスト・マゾヒスト』?
オクヤマ    エロいよ。
カクモト    まあ、グループ名とかいいからさ、今度こそ曲聞かせてよ。
オクヤマ    あ、はい。よろしくお願いします。

    二人、顔を見合わせる。

オクヤマ    聞いてください。『僕は悪くない』
ハラダ     (弾き始める)

        と、此処でカクモトが明らかに自分から電話をかける。

カクモト    ああ、ごめん。
オクヤマ    (歌をさえぎられて)え…?
カクモト    ちょっと電話かかってきちゃった。
ハラダ     (気付かず弾き続ける)
オクヤマ    今、自分からかけてませんでした?
カクモト    それじゃあ、ごめんね。
オクヤマ    ちょっと、オーディションは、
カクモト    終わり。
オクヤマ    終わり?
カクモト    なんかさあ、あれよ。よくわかんない。私にわかんないってことは、万人にアレされないってことだから。売れないってことだから。

        オクヤマ、呆然とする。

ハラダ     もうしばらくストリートで頑張ろう。

    オクヤマ、ハラダ、舞台後方へ。
        入れ替わってカクモト舞台前方へ。

C会長

    カクモト、先ほどの電話の続き。

カクモト    もしもし、カクモトですが。

1.0;    ヨシダ、登場。

ヨシダ     あら、カクモトさん。
カクモト    すいませんでした。お電話遅れてしまいまして。こっちの仕事、手が離せませんで。
ヨシダ     いいんですよ。
カクモト    あ、でも、おかげで資金のほうは心配ないです。
ヨシダ     今週の集会も資金のほう任せるわね。
カクモト    はい!
ヨシダ     よろしくね、期待してるわ。
カクモト    ありがとうございます!

    ヨシダ、カクモト、ツー、ツー、とか言いながら退場。

Dストリートライヴ

トモ登場。

トモ      あ、どうでした?
ハラダ     ああ、
オクヤマ    売れないって。はは。

        沈黙

トモ      ああ、そうですか…。
ハラダ     まあ、仕方ないよ。
トモ      何かすいません。
ハラダ     仕方ないよ。あの人のいってること、その通りだったもん。
オクヤマ    うっせえやい。
トモ      何か言われたんですか?
ハラダ     わかりづらいって。
トモ      ああ。
オクヤマ    わかってんだよ。デヴューするってことは、売れせんの曲作ってくってことなのは。でもさ、なんか、違うじゃん、違うじゃん…。
ハラダ     出た出た、アーティスト発言。ああ、嫌だ嫌だ。
オクヤマ    アーティストなんだよ。いいじゃねえか。
ハラダ     ひえー。
オクヤマ    お前なんだよ。
ハラダ     そんなことよりさ、お笑いをやろう。
オクヤマ・トモ はあ?
ハラダ     ネタも考えてあるんだよ。
オクヤマ    何でだよ。
ハラダ     もしもの時のために書き溜めておいたんだよ。
オクヤマ    ねえよ、もしもの時は。
ハラダ     ええ、やろうよ。
オクヤマ    やらないよ。馬鹿じゃないの?
ハラダ     誰が馬鹿やねーん。

    ハラダ、壮絶に突っ込む。
オクヤマ、放心。

ハラダ     冗談だよぅ。

    三人、舞台後方へ。


Eフルキャスト

アベ      あの、興味ありませんか?
クサマ     え、君に?
アベ      いや、僕にではないです。
クサマ     君には多少。
アベ      聞いてないです。ですから、もし宜しければ一度お話聞いていただきたいなと。
クサマ     え、恋バナ?
アベ      違いますよ。何で僕が恋バナしなくちゃいけないんですか。
クサマ     君には興味あるから。
アベ      怒りますよ。
クサマ     え、叱ってくれるの?
アベ      あー、怖いよこの人―。
クサマ     食べちゃうぞー。
アベ      わー。

        クサマ、アベを追いかける。
        不思議な踊りを踊っていた三人にぶつかる。

ハラダ     ぎゃー。(倒れる)
アベ      助けてください。
オクヤマ    どうしたの?
アベ      あの人に、
クサマ     うへへ。
アベ      あの人にー。
オクヤマ    あの人に何されたの?
アベ      食べられそうに。
オクヤマ    マジで?
クサマ     うへへ。
オクヤマ    やりかねないかも。ちょっと、あんた。嫌がってるじゃないか。
クサマ     うへへへ…いや、誤解されるとアレなんで先に言いますけど、冗談でやってたんですよ?
アベ      わー。
オクヤマ    冗談でこんなに怯えるかよ!
クサマ     えー?
アベ      怖いよー。
オクヤマ    あんた、どういうつもりだよ。
アベ      怖いよー。
クサマ     えー?
アベ      怖いよー。壷を買ってよー。
オクヤマ    え?
アベ      壷を買ってよー。あわよくば二つ買ってよー。

        オクヤマ、アベをクサマに突き出す。

アベ      わ。
クサマ     ね、だから、僕のほうが迷惑してるんですよ。
オクヤマ    うーん。
アベ      迷惑って、別にそういうつもりじゃ…。
オクヤマ    君は何をしてたの?
アベ      この人があまりにも不幸そうな顔してたんで、幸福の壷をお譲りしようとしてたんですよ。
クサマ     失礼なこと言わないでよ。顔は生まれつきなんだから。
アベ      生まれつき不幸そうだったんで。
クサマ     もう、セクハラだよ…まあ、いいけど。(ちょっと嬉しそう。)
オクヤマ    で、その壷を買えば幸せになれるの?
アベ      え、興味あります?
オクヤマ    あ、いや、
アベ      僕、『ほほえみの会』のアベと申します。興味がおありでしたら是非僕たちの仲間に。
オクヤマ    ごめん、遠慮しとくや。
アベ      じゃあ、とりあえず壷だけでも、
オクヤマ    いりません。
アベ      ち。
オクヤマ    ち?
トモ      壷なら、僕買おうか?
アベ      本当ですか?
トモ      うん。
アベ      あ、でも…。(顔を覗き込む)
トモ      何?
アベ      お金あるんですか?
トモ      あるよ。お金だけは。
オクヤマ    だけはって言っちゃった。
アベ      でも、結構しますよ。
トモ      大丈夫。
アベ      本当ですか?
トモ      僕お金持ちだから。
アベ      疑わしい。
トモ      何で僕には厳しいんだよ。
アベ      顔が…。
オクヤマ    顔こだわるね、君。
アベ      凄い悪い顔してるじゃないですか。
トモ      えー。
アベ      お金持ちには見えませんね。
トモ      なんなのこの子。
アベ      自分で稼げるような顔してませんもん。
トモ      え。
アベ      人の金で遊んでる顔です。
オクヤマ    アベ君、それは言いすぎだよ。
トモ      …。
アベ      顔の話ですよ。
ハラダ     顔?

    ハラダ、起き上がる。

ハラダ     顔を見てよ!
オクヤマ    うわ、起きた。
ハラダ     僕の顔はどう?
アベ      え?
ハラダ     顔を見てよ。

        アベ、顔を見る。

アベ      わあ。(怯える)
ハラダ     どう?どぅ?
アベ      人間の顔じゃない。
ハラダ     え?
アベ      人間じゃない。
ハラダ     ちくしょー!
クサマ     ハラダさん?

    クサマ、ハラダに近寄る。

クサマ     やっぱりそうだ、ハラダさんだ。
ハラダ     え?
クサマ     クサマです。お久しぶりです。
オクヤマ    何?知り合い?
ハラダ     ううん。知らない。
クサマ     そんな。僕ですよ、昔工場でお世話になった。
オクヤマ    ハラダ工場で働いてたことあるの?
ハラダ     ないよ。
クサマ     えー。
オクヤマ    ハラダとは長いけど、そんなこと聞いたことないなあ。
トモ      オクヤマさんは、ハラダさんとどこで知り合ったんですか?
クサマ     工場ですか?
オクヤマ    ううん。サーカス。
トモ      サーカス?
オクヤマ    うん。サーカスで火の輪くぐってた。
トモ・クサマ  えー。
ハラダ     オクヤマは、サーカスから僕を救い出してくれたんだ。
オクヤマ    連れて逃げただけだよ。

    オクヤマ・ハラダ、談笑。

クサマ     サーカスに売られるって、工場で何したんだろう。
アベ      あの、それで、壷は?
トモ      だから買うって。
アベ      でも、顔が。
トモ      まだ言うか。
アベ      なんか金持ちっぽいもの持ってませんか?
トモ      金持ちっぽいもの?
アベ      時計とか、車とか、そういうの見れば信じますよ。

    トモ、考える。

アベ      やっぱりね。
トモ      やっぱりってなんだよ。買うよ、買ってくるよ。金持ちっぽいもの買ってくるよ!
クサマ     今は何してるんですか?(ハラダに)
ハラダ     お笑い。
オクヤマ    歌だよ。歌。
クサマ     歌手ですか?
オクヤマ    そんなたいそれたものでもないけどね。
トモ      絶対ですから。
オクヤマ    え?
アベ      待ってますよ。
トモ      絶対買ってきますから!

        トモ、走って去る。
        他の皆、それを追いかける。
        ドサクサに逆らって、カクモト、登場。場面変わる。

F初ライヴ

ヨシダの声   私を信じれば、全て救われます。
        
ヨシダ登場。と、すぐに引き返す。


ヨシダ     ちょっと、今言ったの誰。え。言葉にあやがあっちゃまずいのよ!
ヨシダ、カクモトのもとへ。

カクモト    お疲れ様でした。
ヨシダ     お疲れ。どうだった?私、うまく喋れてた?
カクモト    まあ、個性的な喋り方ではありましたけど、ばっちりですよ。
ヨシダ     ダメなのよ、それじゃあ。もっと、こう、自然じゃなきゃ。
カクモト    いや、でも会員はそんなこと気にしてませんよ。
ヨシダ     ねえ、カクモトさん。
カクモト    はい。
ヨシダ     誰かいないかしら。今の子で、自然に話せる子。あなた、子供いるのよね?
カクモト    はい…いや、でも、
ヨシダ     別にその子が何考えてるかは問題じゃないのよ。伝えたいことを、文章にする力があればいいの。内容じゃないの。
カクモト    会長、どうしてそのような人を?
ヨシダ     (聞いてない)出来れば頭悪い子がいいわ。うまいこと言えば、ホイホイホイってついてくるような子。
カクモト    うーん。
ヨシダ     やっぱりいないわよね。
カクモト    あ。

        カクモト、電話をかける。
        カクモト・ヨシダ、下手による。
        オクヤマ、ハラダ登場。

オクヤマ    まさか連絡来るなんてなあ。
ハラダ     世の中何があるかわからないもんだね。
オクヤマ    あの人、実は見る目あったんだな。
ハラダ     そうかなあ?
ヨシダ     お待ちしてました。
カクモト    久しぶり。この間は悪かったね。
オクヤマ    いえ。むしろ感謝してますよ。あの、そちらは?
カクモト    ヨシダさん。私の…上司だよ。
ハラダ     業界人だ。業界人間だ。
オクヤマ    妖怪人間みたいに言うなよ。
ヨシダ     素晴らしい。ボケとツッコミだわ。
オクヤマ    え?あ、よろしくお願いします。
ヨシダ     よろしく。
ハラダ     で、何処でやれるんですか?
カクモト    じゃあ、二人とも、そこの舞台で頼むよ。

        二人、舞台前方へ。
        ヨシダ、スプレーを撒く。

オクヤマ    …ん、何か臭くない?
ハラダ     そうかな。
オクヤマ    え、臭うよ。
ハラダ     わかんないや。
オクヤマ    あー!ヘンな臭いする!気になりだしたら止まんないよ、これ。
ヨシダ     深呼吸をしてごらんなさい。
オクヤマ    深呼吸?
ヨシダ     やってごらんなさい。すー、はーって。

1.0;     オクヤマ、深呼吸をする。

ハラダ     どう?
オクヤマ    …やーばい。気持ちいい。
ハラダ     マジで?(深呼吸)…そうかあ?
オクヤマ    気持ちいい!やろうぜハラダ、泡の如く!
ハラダ     よくわかんないけど、いくよ!

1.0;     二人、演奏のポーズ。
        歓声。とともに、ヨシダ、カクモト、退場。
        入れ替わりにトモ、クサマ、アベ。

オクヤマ    気持ちよかったー!
ハラダ     そうかあ?
トモ      どうでした?初ライヴ。
オクヤマ    気持ちよすぎて覚えてない。
トモ      えー。
ハラダ     僕は普通に覚えてない。
クサマ     えー。
アベ      意外によかったですよ。
トモ      アベ君見たの?
アベ      はい。
トモ      いいなあ。
アベ      週末ですよ。
クサマ     何で君が知ってるの?
アベ      幸せになりたいので。
トモ      そうか…なんとしても壷を買わねば!
アベ      決意だけじゃ駄目ですけどね。
トモ      きっと買うさ。
アベ      金持ちっぽいものあったんですか?
トモ      今はないけど、必ず手に入れる。便利なものがあるからね。
アベ      便利なもの?
トモ      便利だわー。ほんと、便利だわー。
アベ      一人で盛り上がらないでくださいよ。
トモ      あっと言わせてみせるから。

        トモ、便利で盛り上がりながら退場。

オクヤマ    よし、ハラダ、次のライヴに向けて曲作ろうぜ。
クサマ     今度のはどんなテーマですか?
オクヤマ    そうだねえ、
クサマ     やっぱり、アーティストって社会風刺とかしちゃうんですか?
オクヤマ    最近面白いことないからなー。戦争やってたときは色々言えたんだけど。
ハラダ     まあ、終わっちゃったからね。
オクヤマ    終わっちゃったもんなあ、戦争。あー、勿体無いな。
アベ      え、戦争なんてあったんですか?
クサマ     えー?テレビでわーわー言ってたじゃない。
アベ      僕、テレビ見ないんで。
クサマ     そういう問題?
アベ      禁じられてるんですよ。
クサマ     え?
アベ      俗世界の情報を無闇に取り込むことは。
クサマ     俗世界?
アベ      僕たちにとっては、教えが全てであり、全てなんです。
クサマ     え、うん。全てなんだね。
アベ      あの人を眺めているだけで、幸せになれるんです。
クサマ     悔しい。
アベ      あの人の話を聞いてるだけで、気持ちよくなれるんです。
クサマ     悔しい。
アベ      だから、見ません。
クサマ     わかったよ。
アベ      あの、それで、戦争っていつ終わったんですか?
クサマ     始まり知らないのに終わりには興味あるの?
オクヤマ    随分前だよ。つっても、あんなちっちゃい国、寄ってたかってアレしたら、大体どうなるかわかってたけど。
ハラダ     僕にはわからなかった。
オクヤマ    人間界に首を突っ込まないで。
ハラダ     はーい。
オクヤマ    まあ、戦争なんてどうでもいいっちゃどうでもいいからね。

        オクヤマ退場。

アベ      なんか、取り残された気分です。
ハラダ     アベ君、気にしなくていいよ。オクヤマも言ってるけど、戦争なんて僕らにとっちゃどうでもいい事なんだから。ただ、僕等のなんかめんどくさいものの矛先が戦争っていうものに向いてた期間があって、それがなんか楽な期間だったってことだから。他のこと考えてなくていい期間だったってだけのことだから。(カッコいい)

        ハラダ、退場。

クサマ     一番いけない人に諭されてしまった。

        クサマ、アベ退場。
        場面変わって、ヨシダ、カクモト登場。

G-@ヘンな人の野望

カクモト    彼ら、アレでいいんですか?
ヨシダ     本当は私がアレしないといけないんだけどね。どうしてもね、不自由なりよ。国語が。
カクモト    それはわかりますけど…。

        ヨシダ、カクモトに絡みつく。

ヨシダ     あら…不安なのかしら?駄目よ、カクモトさん。私を信じて。信じるものはなんとやらよ。なんとやらがなんだったかは忘れたけど。
カクモト    …はい。
ヨシダ     いいわ。カクモトさん。あなたにだけは教えてあげる。いいえ、教えないのは反則だわね。
カクモト    私だけに?何をですか?
ヨシダ     盗むのよ。
カクモト    盗む?
ヨシダ     私はね、盗みに来たの。言葉を。でも、私だけじゃムリだったから、あの子達も一緒に盗んじゃうの。カクモトさん。お願い。どうしても、手に入れて欲しいものがあるの。
カクモト    …はい。
ヨシダ     船が欲しいわ。

        ヨシダ退場
        カクモトは下手で後ろを向いて座る。

G-Aネットオークション

トモ      便利ちゃん、便利ちゃん。

トモ、座る。

トモ      ネットで探せば、絶対に金持ちっぽいもの手に入るだろ。…でも、なんだお金持ちっぽいものって…ん、何だこれ。うわ、すげ。すげえ、お金持ち価格だ!これだ。早速入札しよう。…よし。これでアベ君から壷が買えるぞー。


        カクモト、振り返る。
        此処からは二人のオークション対決。

カクモト    なんだ…オークションで船買うなんて私一人だと思ったのに、物好きもいるもんだな。出来るだけ足が着かないようにと思って、オークションを選んだが、何だこの船の名前。『蝉嘔吐丸』。
トモ      …あれ、他にも誰か入札してる。なんだよー。くっそ、結構金持ってる人もやってるんだなあ。でも、負けないぞ。僕の顔が懸かってるんだから。これは僕と顔との戦いなんだから。
カクモト    粘るなあ。まあいい。金ならある。一気に吊り上げて諦めさせるだけだ。
トモ      うわ、急に上がったなあ。残り時間も少ない。勝負に出たってわけか。でも、見てろよ。
カクモト    何、食いついた?意外に金持ってるな、こいつ。時間も迫ってる、まずいな。
トモ      よし、入札が止まった。これは勝ったぞ。
カクモト    会長は必ず手に入れろといったんだ…よし。出し惜しみしても仕方ないからな。これでどうだ。
トモ      えええ!?

        トモ、退場。ヨシダ登場。

ヨシダ     これで足は用意出来た。カクモトさん、出来る限りの食料を船に積んで。いつでも出航出来るように。
カクモト    はい。しかし、会長がいない間、集会はどうするんですか?
ヨシダ     ああ。いいわ。
カクモト    いいわって…。
ヨシダ     私もう戻って来る気ないから。
カクモト    え?
ヨシダ     かいさーん。
カクモト    解散?そんな!
ヨシダ     大丈夫よ。あなたは連れて行くわ。
カクモト    そういう問題じゃ…。
ヨシダ     私の使命に、必要ないものは、必要ないの。要らない物は、何にも要らないの。目的を達成することだけが、私の生きる意味なのよ。意味なの。
カクモト    …わかりました。二回ずつ。
ヨシダ     あとは、あの子達ね。
カクモト    本当に、ついてくるんでしょうか?
ヨシダ     来るわよ。馬鹿だし。特にあの歌ってる子は絶対に来るわ。
カクモト    …保険として、餌を撒いておくのはどうでしょう。
ヨシダ     餌?
カクモト    はい。

        ヨシダ、カクモト、退場。

H船上ライヴ?

        入れ替わって、クサマ、アベ、トモ。

クサマ     船上ライヴ?
オクヤマ    うん。ヨシダさんが取り仕切ってくれるんだって。
クサマ     うおー!
アベ      解散…。
トモ      ちくしょー!
ハラダ     彼らはどうしたの。
オクヤマ    知らない。
アベ      解散って、解散ってあんたそれ…。
ハラダ     それより、ホントにあのヨシダって人大丈夫なの?
オクヤマ    大丈夫って?
ハラダ     信用できるの?なんか胡散臭くない?
オクヤマ    あの人は平気だよ。ただ胡散臭いだけだし。
クサマ     やっぱ胡散臭いんだ。
オクヤマ    それに、多少胡散臭いほうが、業界人って感じするじゃん。
クサマ     すごい危険な考え方。
ハラダ     …それもそうかな。
クサマ     あ、納得した。
オクヤマ    皆絶対来てくれよな…。

        オクヤマ、ふらつく。

ハラダ     オクヤマ。
オクヤマ    何でもない。
トモ      どうしたんですか。
ハラダ     こないだからおかしいんだよ。顔色悪いし。
クサマ     そんな体でライヴなんて、大丈夫なんですか?
オクヤマ    こんな体でライヴなんて、大丈夫だよ。
アベ      ライヴってヨシダさん来るんですか?
ハラダ     え、うん。
アベ      僕、行きます。
クサマ     え、アベ君いくの?
アベ      アベ君、行きます。行って、やらねばなりません。
クサマ     じゃあ、僕も行こうかな。
アベ      えー。
クサマ     いいじゃんかよ。暗がりだし。
アベ      げー。
クサマ     冗談だよ。
トモ      冗談好きだな。
オクヤマ    トモ君も来るよね。
トモ      あ、はい。もちろん行きますけど…船かあ。
オクヤマ    何?
トモ      蝉嘔吐丸。
オクヤマ    はい?
ハラダ     とにかく、無理はしないで。オクヤマが壊れちゃったら、僕嫌だからね。
オクヤマ    お笑いできなくなるからか。
ハラダ     …そうだよ!

        全員、走って舞台奥へ行き、後ろを向く。
        カクモト、ヨシダ登場。

ヨシダ     あら、意外といい船じゃない。
カクモト    意外といい値段しましたからね。
ヨシダ     積み込むもの積み込んだし、今、無敵よ、この船。
カクモト    準備は出来ましたね。
ヨシダ     あの子達早く来ないかしら。
カクモト    あ、来ました。
ヨシダ     おーい。(とかなんとか言って手を振る)

        ハラダたち、手を振る。

ヨシダ     手を振ってるわ。
カクモト    振ってますね。
ヨシダ     馬鹿みたいだわね。
カクモト    馬鹿みたいですね。
ヨシダ     馬鹿じゃねえの!(叫ぶ)
カクモト    聞こえますよ。
ヨシダ     (大声で)待ってたわよー。早くいらっしゃーい。

        ハラダたち、わーとか言って前に来る。
船の中。

オクヤマ    うおお、すげえ、船ん中ってこんなんなってんだー。
ハラダ・トモ  船だー。(トモはテンション低い)
クサマ     っていうか、普通に船だ。魚群探知機とかある。
ハラダ     メカだー。
クサマ     もうちょっとシャレた船なかったのかな。これ漁船じゃん。
オクヤマ    でかけりゃいいんだよ。
クサマ     いいんですか?
オクヤマ    いいっていってよ!
クサマ     あ、ちょっとは嫌なんだ。

        アベ、舞台袖へ向かって。

アベ      おおうえ!
トモ      大丈夫?
アベ      酔いました。おおうえ!
トモ      まだ動いてないのに!
アベ      大丈夫です。おおうえ!
ヨシダ     きゃー。
オクヤマ    ヨシダさん。
ハラダ     妖怪人間。
クサマ     妖怪?
オクヤマ    すいません、こんな…大きな船用意してもらっちゃって。
ヨシダ     いいえ、船を用意したのはカクモトさんだから。
ハラダ     やるな。
オクヤマ    こら。ありがとうございます。
クサマ     あの、今日って、どれくらい入るんですか?
カクモト    え、ああ、結構入る予定。
クサマ     アバウト。
カクモト    っていうか、連れがいるってのは予定外。
クサマ     え?
カクモト    いや。

        カクモト、ヨシダを連れて。

アベ      おおうえ!
クサマ     ああ、吐いてるなあ。(時計を見る)もうすぐ時間ですよね。
カクモト    どうします?彼ら。
ヨシダ     うーん。
クサマ     他のお客さんは?
ヨシダ     うーん。
カクモト    会長。
ヨシダ     出航!
オクヤマ以外  えー!?
ヨシダ     ぼー。
カクモト    蒸気船じゃないのに!

        船、動き出す。皆、船の揺れを表すマイムを適当に。

クサマ    (マイム)やるならちゃんとやれよ。
アベ      あ、楽になった。(立ち上がる)
トモ      動き出したのに?(立つ)
オクヤマ    船が出たー!

オクヤマ、客がいないことに気付かずはしゃいで外へ。(退場)

クサマ     客は?
ハラダ     メカだー!
カクモト    会長、こいつらまで連れてっていいんですか?
ヨシダ     うーん、やっちゃった。
カクモト    えー、考えなし?
クサマ     ちょっと、どういうことですか?
ヨシダ     うー…。

        ヨシダ、外へ逃げる。

クサマ     あ、逃げた!
アベ      ちょっと待てこらー!

        ハラダ、クサマ、アベ、追って退場。

カクモト    か、会長。

        トモ、カクモトに気付く。

トモ      親父。
カクモト    トモ…久しぶりだな。
トモ      …うん。
カクモト    お前が彼らを。手紙読んでくれてたんだな。ありがとう。
トモ      別にあんたのために読んだんじゃない。あの人たちの役に立ちたかったんだ。
カクモト    そんなに彼らが好きか。
トモ      ああ。少なくともあんたよりはずっとね。
カクモト    そうか。
トモ      っていうか、あのオーディション、審査員あんただったんだな。
カクモト    そうだよ。
トモ      言えよ…。
カクモト    っていうか、私が主催だからね、あのオーディション。
トモ      ええ?
カクモト    私が勝手にやってるの。会社にはオーディションやるっていって、その費用をちょっと私用に回してるの。
トモ      なんだよそれ、横領じゃん。
カクモト    職権乱用と言え。
トモ      一緒だよ。じゃあ何、あのオーディション嘘だったの?
カクモト    嘘じゃないよ。ちゃんとオーディションはするけど、誰も受からないだけ。
トモ      最低だ…あの人たち本気だったんだよ?
カクモト    あ、まあ…でも、ヨシダさんが拾ってくれたわけだしな。
トモ      拾うって言うな。そのヨシダって人は会社の人?
カクモト    ああ、いや、私がお世話になった人だよ。
トモ      胡散臭いなあ。
カクモト    胡散臭いよなあ。
トモ      あんたが言うな。

        気まずい間。

カクモト    なあ、お金は足りてるか?
トモ      大丈夫だよ。
カクモト    足りなくなったらいつでも言えよ、父さんなあ、結構稼いでるん…。
トモ      うるさいなあ!大丈夫だって言ってるだろう!
カクモト    そんなムキになるなよ…。

        さらに気まずい間。

カクモト    母さんは、母さんはどうしてる。
トモ      …。
カクモト    母さんは、元気か。
トモ      …死んだよ。
カクモト    え?
トモ      あんたが出てってから暫くして、母さん病気したんだ。
カクモト    …悪い冗談はよせ。
トモ      冗談なもんか!
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カクモト    …ホントなのか。
トモ      死んだよ。なのにあんたは二人分の生活費を送ってきた。毎月、二人分。どうすればいいかわからなかった。
カクモト    知らなかったんだ。
トモ      …そんな時に、あの人たちと出会った。あの人たちのために、お金使おうと思ったんだ。いや、使ってもらおうと思ったんだろうな。だって、あのお金がある限り、僕は、あんたを許せそうに無かったから。実際許せなかった。許せない。
カクモト    すまん。
トモ      許せないって言ってるだろ。
カクモト    忙しかったんだ。
トモ      やめろよ。この期に及んで言い訳すんなよ。
カクモト    言い訳なんかじゃ、
トモ      やめてくれよ!あんたのこと、嫌いになっちゃうよ…。

        カクモト、何もいえない。

トモ      何処連れてく気だよ。僕から、あの人たちまで取らないでくれよ。
カクモト    …。
トモ      汚い話だけどさ、必要とされてればそれでよかった。たとえお金だけでも、僕を必要としてくれる人が欲しかったんだ。欲しかったんだよ。
カクモト    私もだ。給料が振り込まれるたびに、私は家族を捨てて、仕事を選んだってことを思い知らされた。怖かったよ。毎月毎月金ばっかり増えていくのが…はじめは、少年から壷を買っただけだった。
トモ      壷?
カクモト    そのうち、あの集会のためにと金を寄付するようになって、あの人喜んでな。すぐに幹部にしてくれたよ。
トモ      壷…。
カクモト    あの人は純粋に、ただ純粋に喜んでくれた。私の金を、なんの遠慮もなく使ってくれた。金でなら、あの人の役に立てるって思ったんだ。悲しくなんか無かったよ。むしろ、気持ちよかった。本当だよ。本当に。気持ちよかったんだ。
トモ      馬鹿だよ、あんた。
カクモト    そうだな、私は馬鹿だ。
トモ      僕と一緒だよ。僕達、馬鹿だ。

        ヨシダ、逃げ帰ってくる。
        オクヤマ以外の他のもの、追って入ってくる。

ヨシダ     カクモトさーん、あの子達怖い。
クサマ     僕たちをどうする気だ。
ハラダ     肉を食わせろー。あわよくばセロリをー。
アベ      会長―。
ヨシダ     きゃー。
カクモト    会長。
ヨシダ     あ、あなたたち不自然なのよ。不自然はいらないの。
クサマ     不自然?
ヨシダ     あなた(クサマ)は、何か、何か突然その子(アベ)に発情するし。その子はその子で私に何かアレだし。
ハラダ     僕の何処が不自然だって、
ヨシダ     不自然でしょう!あなたは、顔が、不自然じゃろう!顔が、顔が。早く、あの子連れてきなさいよ。
ハラダ     オクヤマは不自然じゃないの?
ヨシダ     自然よ。
一同      えー。
ヨシダ     自然よ。あの子は、わかりづらいわかりづらい言ってるけど、案外普通なのよ。彼。
ハラダ     あ、オクヤマに普通って言ったら怒るぞー。
カクモト    会長、どうして自然な言葉にこだわるんです。
ヨシダ     …まあ、隠してたってしょうがないわね。どうせいずれわかるんだし。この国の言葉を盗むのが、私に与えられた仕事なのよ。
ハラダ     盗む?
カクモト    ですから、盗むってどういうことなんです?
ヨシダ     持って帰るのよ、国に。そして、教えるの。国民に。
カクモト    国?
クサマ     国民?
ヨシダ     あれー?言ってなかったかしら、私外国人よ。異人さんよ。
一同      えー?
クサマ     確かにヘンな人だとは思ってたけど。
カクモト    すごく変なだけだと思ってた。
ハラダ     外人かー。やられた、妖怪じゃなかった。
ヨシダ     先進国にスパイを送り込むためにね、言葉を教えるの。つまり、私はスパイのためのスパイね。
カクモト    スパイ…。
クサマ     じゃあ、僕達、外国に連れてかれるんだ。
ハラダ     初めての海外旅行は拉致でした。
トモ・カクモト 親子で…。
ヨシダ     大丈夫よ。悪いようにはしないから。

        沈黙。

オクヤマ    (入りながら)客がいねえぞ!
一同      遅!
オクヤマ    ヨシダさん、どういうことですか!
ヨシダ     えー、最初っからせつめいすんのー?

        一同、それはだるいとかなんとか。

ヨシダ     あのね、私、外人なの。
オクヤマ    …ふげらぱ!(とびちる)
ヨシダ     あとは、察して。
オクヤマ    察した。
ハラダ     マジで?
オクヤマ    ふざけんなよ、今まで騙してたってことかよ。
ヨシダ     そんな…利用してただけよ。
オクヤマ    そうか、利用してただけか…ってなるかい!!
ハラダ     下手糞!
オクヤマ    すいません。俺の歌はなあ、俺自身なんだよ。
ヨシダ     じゃあ、言わせてもらうわ。言葉を盗むことは、私自身なの。その為に育てられたの。アイデンティティなの。そう簡単に奪われてたまるか。
オクヤマ    そんなの知るかよ!
ヨシダ     私だってあなたのことなんて知らないわよ。世界はね、自己中心的に出来てるのよ!カクモトさん、そろそろ沖だわ。舵を取って。
トモ      親父!
カクモト    トモ…お前まで怖い目にあわせてごめんな。私は、父親失格だ。
トモ      親父!
ヨシダ     早く。

        カクモト、はけかける、

トモ      それでも、あんたは僕の父親だ!

        カクモト、退場。

トモ      親父!
ヨシダ     きゃー、里帰りよー。
オクヤマ    ちくしょー!

        オクヤマ、ヨシダに飛び掛るが、スプレーをかけられる。

オクヤマ    あー、ヘンな臭いする!
ハラダ     アレだ、オクヤマをヘンにしたのは。
オクヤマ    ちがーよ、あー、ヘンにしたんだよ。
ハラダ     あー、ヘンになってる。
オクヤマ    ぐー。
ヨシダ     そうだわ。今のうちに静かにさせておきましょ。

        一同、ハラダの後ろに隠れる。

ハラダ     何で僕なんだよ。
クサマ     なんか、強そうだから。
ハラダ     もやしっ子だよ。
ヨシダ     いくわよー。
一同      うわー。
ハラダ     (一発ギャグ・ギターを鳴らす)

        ヨシダ、吹っ飛ぶ。

一同      えー?
ヨシダ     な、何よー!
一同      うわー。
ハラダ     (一発ギャグ・ギターを鳴らす)

        ヨシダ、吹っ飛ぶ。

クサマ     何か出てる!何か、ビームみたいの出てる!
ハラダ     ええい!(ギターを鳴らす)

        ヨシダがおののいている間に、オクヤマがスプレーを奪い、蓋を外して一気に飲み(?)干す。

オクヤマ    とったどー!

        オクヤマ、倒れる。

クサマ     今だ!

        皆でヨシダを取り押さえる。

ヨシダ     くそー。何すんのよ。
トモ      それは、こっちの台詞だよ。
ヨシダ     離して!こんなの、駄目よ!
クサマ     あのね、拉致って犯罪だよ。半端ないよ。国際問題にだってなりかねないよ?
ヨシダ     そんなちっちゃなこと言ってられないのよ!
ハラダ     ちっちゃくねーぞい!
ヨシダ     待ってるのよ、国で、私の帰りを。私の任務を。
ハラダ     そんなの知ったこっちゃないよ。
ヨシダ     帰らなきゃいけないのよ!私が帰んないと、負けちゃうのよ!負けちゃうのよ!
ハラダ     何にだよ!
ヨシダ     戦争によ!

        全員、手を離す。

ヨシダ     開放?
クサマ     …え、なに、もしかして、あんたの国って、あの国?
ハラダ     あの国だろ。
トモ      あの国ですね。
ヨシダ     何よ、皆して人の国をあの国あの国って。とにかくね、私が行かないと戦争が、
アベ      戦争は、終わりましたよ。
ヨシダ     …え?
アベ      戦争は、終わりました。
ヨシダ     冗談よしてよ。
アベ      ずいぶん前ですよ。知らなかったんですか?
クサマ     すごいよ、受け売りだけで人を追い詰めてる。
ヨシダ     そんな…どうすんのよ。私。
アベ      僕を捨てた罰ですよ。
トモ      彼を捨てると戦争が終わるんだ。
ヨシダ     どうすんのよ、無くなっちゃった、アイデンティティ。どうすんのよ。どうすんのよ。
ハラダ     帰ろうよ。一緒に。
ヨシダ     嫌。目的のない人生なんて、絶対嫌。イヤ。イヤー!

        ヨシダ、走り去る。

アベ      会長!

        アベ、追いかけて舞台袖へ。

アベ      うわあ!
ハラダ     どうしたの?
アベ      飛び込んだ…海に…。
ハラダ・クサマ えー?

        アベ、クサマと入れ替わりに走って袖へ。

アベ      会長…!

アベ、退場。

クサマ     アレ、死んだかな?
トモ      死んだんじゃない?随分沖に来てるだろうし。
クサマ     そっか…そうだよな。
ハラダ     でも、これで帰れるじゃん。
トモ      それはそうですけど、えらいドライだなあ。
ハラダ     まあね。
クサマ     褒められたと思ったんだろうか。
トモ      でも、リアリティないな。人死んでんのに。
クサマ     そうだね。でも、これで帰ったとしても、もっとリアリティのない生活に戻るんだろうね。
トモ      なんだかな。
ハラダ     なんだかなー!
クサマ     とにかく、帰ろう。
アベの声    わー!
クサマ     どうした?

        アベ、戻ってくる。

アベ      吊った!あの、カクモトって人、ネクタイで首吊った!
一同      えー?
アベ      なんか、こう、(ジェスチャー)舵のとこにうまい具合に、こう、
クサマ     よくわかんないよ!
アベ      とにかく、舵が動きません!
一同      えー?
トモ      親父―!

        トモ、退場。

クサマ     えー…。

        暗転。波の音。
        場面@の続きにつながる。

エピローグ

        オクヤマの叫び声。ストロボ。

クサマ     オクヤマさん、行っちゃいましたよ。
ハラダ     何か見えたのかな?
アベ      でも、もう外真っ暗ですよ。
ハラダ     そうだよね。

        ハラダ、ギターを弾き始める。

クサマ     ちょ、ちょっとハラダさん。ぴりぴりするんでやめてくれません?
ハラダ     え?(ギターを鳴らす)
クサマ     イタイイタイ。それそれ。また、なんか出てますよ。
ハラダ     ああ、ごめん。自分じゃ調節できないんだ。
アベ      いつからこんなんなっちゃったんですか?
ハラダ     こんなんってひどくね?ああ、昔、雷に打たれてからかな。
トモ      雷?
ハラダ     うん。それ以来、漏電するようになっちゃって。
クサマ     漏電っておかしいですよね。
ハラダ     いや、するのよ、これが。充電しすぎると、余計な分が出ちゃうからあぶないのよ?
クサマ     充電?
ハラダ     うん。しないと動けなくなっちゃうから。
クサマ     ロボットじゃないんだから。

        ハラダ、ロボットダンス。

クサマ     嘘を吐け、お前は人間だ。
ハラダ     ホントだよ。しいて言えば、人間になりたかったロボ。
クサマ     ねこじゃん。
トモ      でも、確かにそういわれると納得できる節も…。
ハラダ     だからね、僕のメモリには限界があるんだ。新しいこと覚えると、どんどん忘れてっちゃう。
クサマ     それで、僕のこと…いやいやいや。
ハラダ     僕ね、怖いんだ。いつか、自分のこと忘れちゃうんじゃないかって。
アベ      そうなんですか。
ハラダ     でもね、それ以上に、オクヤマのこと忘れるのが怖いんだ。あいつのことは絶対に忘れたくない。だから、ずっと一緒にいたいんだ。
トモ      ハラダさん。
ハラダ     好きなんだ。あいつのこと。
アベ      ハラダさん。

        小間。

クサマ     じゃあ、僕も言う。
トモ      え?
クサマ     好きなんだ。アベ君のこと。
一同      えー。
クサマ     一目見たときから、いやらしい意味で好きなんだ。
アベ      えー。

        クサマ、アベを抱きしめる。

クサマ     だからもう、あいつのことなんて忘れろよ。僕は、君のことちゃんと見てるから。(超カッコいい)
アベ      …。

        アベ、クサマの背中に手を回す。

ハラダ     受け入れたー!
トモ      おめでとう!
ハラダ     えー?
オクヤマ    (入ってきて)見えたー!

        オクヤマ、アベとクサマにちょっと引きながら。

オクヤマ    陸!陸見えた!
クサマ     え?でも外は…。
オクヤマ    見えたー!歌えるよ!
ハラダ     こいつには見えたんだよ。
オクヤマ    早く、行こうよ!
ハラダ     おう、行こう。
トモ      ハラダさん。
ハラダ     僕は、信じるよ。オクヤマには見えたんだ。
アベ      でも、
ハラダ     あんなんなっちゃったけどさ、まだあいつ歌う気なんだよ。だったら、僕はとことん付き合う。あいつは、僕の相方だからね。
オクヤマ    相方って言うな!
ハラダ     はいはい。

        ハラダ、オクヤマ、退場。

トモ      僕も、あの人たちについてく。決めた。そう決めた。
クサマ     …僕たちも、一緒だよな。
アベ      はい。

        全員、退場。

        大音響、全員(死んだ人も)が戻って来る。

トモ      オクヤマに何かが見えていたかは、誰にもわからない。
クサマ     ハラダが本当にロボットなのかも、誰にもわからない。
アベ      このあと彼らがどうなったのかも、誰にもわからない。
ハラダ     しかし、唯一つ言える事は、
オクヤマ    唯春の夜の夢の如し。

乱舞。
照明。
終わり。










最後まで読んでいただいてどうも有り難うございます。ご褒美といってはアレですが、 おまけとして「ある、僕の妄想(第一稿)」を用意しました。
めんどくさいので何も手をつけてません。別物としてお楽しみください。

ある、僕の妄想(第一稿)

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