キャスト
オクヤマ 唄う人。わかりづらい。
ハラダ 弾く人。物覚えが悪い。
ヨシダ ある団体の団長。言葉遣いが不思議。
クメ 金持ち。うまくしゃべれない。
クサマ ヘンなやつ。ゲイの疑いあり。
アベ ある団体の団員。
サトウ(ルオウにするかも) 大手レコード会社の幹部。及び、ある団体の幹部。
プロローグ
幻想的な照明。
中央にヨシダが立っている。
その後ろに他のキャストたち。この場面ではコロス的扱い。
ヨシダ 皆さん。本日もお忙しい中お集まりいただき、ほんと、良いと思います。すごく。わたくしこれから少しばかり長い話をします故、そう固くならずに、リラックスして聞いてみるのはいかがかしら。ほら、講演会とか、お芝居とか観てると、痛くなるでしょう、お尻が。お尻。ケツ?ここんとこ(尾骶骨)が。なるでしょ。え、なるよね。私だけってことは、ないわいな。ないわいな。よしよし。何の話だっけ。そうだ。ケツだ。違う。そうそう、だから力を抜いて聞いてって話。聞けって話。話。物語?キケッテ物語?何それ。意味わかんない。ちんぷんかんぷん。なに、ちんぷんって。意味わかんない。キムチ投げるわよ。誰に。知らないわよ。え、何。きょとんとしちゃう。誰が。知らないわよ。誰か止めてよ。わたくしめを。
ヨシダ、いきなり何かを投げるマイム。
ヨシダ えい!
クサマ ぐえ!(倒れる)
ヨシダ 効くわー。キムチ。キムチ効くわー。でも、キムチはおしいわね。近いけど、近いだけ。そんな感じ。ああ、私今、ただ投げたくて投げたんじゃないんですよ。キムチ。ようするに、力んで聞いているとキムチもよけられないわよ、という警告?そういうこと。
クサマ、起き上がる。
ヨシダ それじゃあ、リラックスするために深呼吸をしましょう。ベターだけれどもね、意外と効果あるんですよ。大きく息を吸って、全て吐き出して。リラックスついでに体の中の淀んだものを、カオスを、追い出してしまいましょう。大きく吸って、吐いて。
キャストたち、ヨシダの合図に合わせて深呼吸を始める。
ヨシダ ゆっくりと吸って、吐いて。吸って、吐いて。吸って、吐いて…。
この時、ヨシダは(使えたら)霧吹きかスプレーのようなものを散布している
ヨシダ 吸って、吐いて。吸って、吸って、吸って、吐かない。
キャストたち、慌てて口元を押さえる
ヨシダ はい、吐かないよ。何が起こるかわからないからね。油断しないように。吐かないよ。吐かない。
ヨシダ、長めにスプレーを撒く。
ヨシダ そう、人の世なんて儚いものなのです。わずかな出来事で全てが狂いだしてしまう。あげく、全て消えて無くなってしまうやもしれぬ。儚いね。ほんと。でも、絶望する必要も恐れる必要もありません。私たちの考えを受け入れて、私たちと共に生きさえすれば、この儚い世界に惑わされることはなくなるのです。さあ、あなたの絶望と恐怖、私たちが取り除きましょう。あら、今日は新しいお仲間がいらっしゃるようでがすね。へっへ。
アベ 、ヨシダのもとへ。
ヨシダ では、早速私たちの仲間の証として、幸福の壷をお譲りしましょう。
ヨシダ、はけ口へ近づく。
ヨシダ お支払方法は一括でお願いします。
ヨシダ、退場。
キャストたち、深呼吸を再会し、次の場面へと転換する。
呼吸の音が重なり合い、いつの間にか波の音が聞こえてくる。
@センジョウ
魂の抜けたようなオクヤマ。黙ってギターを抱くハラダ 。
クサマ、アベ 、クメ の三人が座って会話をしている。
波の音FO
クサマ ぐったりとしているね。僕たち。
クメ うん。ぐったりしてる。
アベ ぐったりですね。
クメ でも仕方ないよ。
アベ 仕方ないです。
クサマ 仕方ないのかな。
アベ 仕方ないんですかね。
クメ 仕方ないよ。
アベ 仕方ないです。
クサマ そうかなあ。
アベ そんなことありませんよ。
クメ いや、仕方ないんだよ。
アベ 仕方ないんですって。
クサマ …アベ君。
アベ はい。
クサマ …いや。
アベ 何ですか?
クサマ 何でもないよ。
アベ おかしな人ですね。
クサマ そういうこと言わないでよ。
アベ 言いますよ、僕は。
クサマ やめてよアベ君。
アベ やめませんよ、僕は。
クサマ お願いだよ。
アベ いいえ。
クサマ 結構凹むんだよ、君に言われるとさ。
アベ おかしな人ですね。
クサマ ああ、また。
クメ なんだこれ。
クサマ はあ…疲れた…。
クメ 疲れてるのは君だけじゃないんだよ。
アベ そうですよ。
クサマ ああ、ごめん。そうだよね。
アベ 見て下さいよ。みんなグダグダじゃないですか。
クサマ (辺りを見渡して)うん、グダグダだ。
アベ そんなことありませんよ。
クサマ えー。
アベ みんな一生懸命生きてるんですよ。
クメ そうだぞ。
アベ 努力してるんですよ。
クメ 努力だぞ。
アベ 植民地ですよ。インドですよ。
クサマ わかったよ。
アベ マハトマです。
クサマ ガンジーと言え。
アベ ガンディジー。
クサマ はあ…。
アベ クサマさん、何か言うことがあるんじゃないですか。
クサマ え?
アベ 何か言うことがあるんじゃないですか。
クサマ (空気的に)…ごめんなさい?
アベ 何で謝るんですか。
クサマ えー、だって、なんかそんな空気だったじゃない。
クメ どんな空気だよ。
クサマ だって、何か言うことあるんじゃないかって言われたら謝るもんでしょ。普通。
クメ そうかあ。
クサマ もう、枕詞だよ。
クメ ああ、たらちねか。
クサマ それはよくわかんないけど。
アベ 謝って欲しいわけじゃないんですよ、ガンジーは。
クサマ え、今僕ガンジーに謝ってたの?
アベ クサマさんは時空を超えたんですよ。
クサマ 君を通して?
アベ はい。
クサマ いよいよわからなくなってきた。
アベ …で、それから。
クサマ え?
アベ それから。
クサマ …何を求められているのか見当もつかないよ。
クメ 頑張れクサマ。
クサマ 応援されても。
アベ 応援には応えましょうよ。
クサマ えー。
アベ 応えるべきですよ。たとえ応援するに値しない人間だったとしても、応援されたからにはそれに応える義務があります。
クサマ それ、僕を馬鹿にしてるの。
アベ クサマさんごときの人間でも、
クサマ ごときって言われた。
クメ まあまあ、もういいじゃない。この話は。
アベ まあ、いいですけど。
クサマ そうだよ。この流れ、僕不愉快なだけだもの。
クメ だからね、話題変えよ。はい、おしまい。クサマごときの話は。
クサマ 駄目押しだよ…。
アベ 象のおしっこで頭洗ったことあります?(クメに)
クメ いや、ないなあ。
クサマ 話題変わりすぎじゃない?っていうか、アベ君おしっこで頭洗ったの?
アベ 像のおしっこですよ!
クメ そこ重要だぞ。
クサマ え、ああ、そっか。象のおしっこで頭洗ったことあるんだ…。
アベ 何言ってるんですか。
クサマ え?
アベ ありませんよ。
クサマ え、ないの?
アベ あるわけ無いじゃないですか。
クサマ えー、てっきりあるもんだと。
アベ なんですか、おしっこて。
クサマ お前が言ったんだろ。
クメ うわ、今この人お前って言った。
クサマ あ、いや、
クメ ちょっと、いくらなんでもそれはないんじゃないの。
アベ 酷いです。
クサマ 今のは言葉のあやで…
アベ 言葉にあやがあっちゃまずいんですよ!
クサマ えー、そんなに厳しいの…。
アベ …あの人が、いつも言ってました。
三人、沈黙。
クサマ …アベ君、やっぱりあの人のこと、
クメ そうだ、食料ってどれくらいあるのかな。
アベ あ、そうですね。僕見てきますよ。
クメ あ、お願い。
アベ、はけようとする。
クサマ そういえばお腹空いたなあ。
クメ お腹空いてるのは君だけじゃないんだよ。
アベ (戻りながら)みんな一生懸命生きてるんですよ。
クサマ えー、そこ食いつくの?
アベ、はける。
クサマ それ言うために戻ってきたの?
クメ まあ、世の中いろんな人がいるから。
クサマ あんたはなんだ。
クメ あんた…あんたは、セーフ。
クサマ …セーフか。
オクヤマ うわーい、やったーい。
皆ちょっとびっくりする。
クメ 大丈夫なんですか、オクヤマさん。
ハラダ、ギターを鳴らす。
ハラダ 大丈夫ってことはないんじゃないの、あんなことしたわけだし。(ギターを鳴らす)
クメ そうですよね…。
ハラダ まあ、大丈夫でしょ。(ギターを鳴らす)
クサマ どっちですか。
オクヤマ 100円ショップの消費税は反則じゃないの?
ハラダ ああ、ワンコインじゃ足りなくなっちゃうもんね。(ギターを鳴らす)
クサマ 本当に大丈夫なんですか?
ハラダ でもまあ、生きてるし。(ギターを鳴らす)
クサマ まあ、生きてるけども。っていうか何なんですか、さっきから、その、じゃらーんっていうのは。
ハラダ え?(ギターを鳴らす)何のこと?(ギターを鳴らす)
クサマ それそれそれ。そのじゃらーんて、じゃらーんってやつ。
ハラダ ああ、これ。忘れないようにさ。僕はギター弾けるんだぞ、ギター弾ける人間なんだぞって。なんか忘れちゃいそうだから。
オクヤマ お腹空かふー。
クサマ え?
オクヤマ お腹空ふー。
クサマ ふ?
オクヤマ 空かふー。
クサマ 何ですか、ふって。
ハラダ 新しい助詞だと思う。多分お腹空いたんじゃない。
クサマ ああ。
クメ ほら、皆お腹が減るんだよ。
クサマ わかったよ。
ハラダ 人間だからね。
アベ、戻ってくる。
クメ あ、どうだった?
アベ 食べ物は心配ないです。保存食ですし、あれだけあれば全員が数週間はやっていけると思います。
クメ よかった。
ハラダ (オクヤマに)オクヤマ、ご飯、あるって。
オクヤマ 紙ではない?
ハラダ おそらく紙ではない。
オクヤマ 十中八九?
ハラダ 十中十。ヤギじゃないからね。
クサマ ちょっと待って、今食べ物はって言ったよね。
アベ はい。
クサマ はって何?
クメ どういうこと?
アベ それが…食べ物は十分にあるんですが、問題は水なんです。
クメ 水?
クサマ 水って?
オクヤマ わーらー!(わらわらする)
クサマ ちょ、大丈夫ですか?
ハラダ 今こいつヘレンケラーだから!ヘレンケラーにはサリバン先生が必要だから!
クサマ はい?
ハラダ こいつのサリバン先生は僕だけだから!うわー!
オクヤマ・ハラダ、ちょっと泣く。
クサマ で、水がどうしたの?
アベ はい。飲み水として使えるような水が、ほとんどないんです。全員が同じだけ飲むとすると…二三日しか…。
クメ そんな…。
短い沈黙。
クサマ 水なんてすぐそばに腐るほどあるのにな。
クメ なんか、ね。その。アレ。ね、ひ、ひひ、あの、あの、
クサマ 何か皮肉だね。
クメ うあー、先、先言われた。先。
クサマ よくなんないね、それ。
クメ …うん。
アベ 水だけは、節約していきましょう。
クサマ そうだね。
ハラダ おい、オクヤマ、泣くな。節約だって。勿体無いって。
オクヤマ おばけ?
ハラダ そう、おばけおばけ。
オクヤマ ひー。
オクヤマ、おとなしくなる。
クサマ なんか、段々ダメになってる気がする。誰がとか、何がってわけじゃないんだけど、段々ダメになってきてる気がする。
クメ 確かに。
アベ そうですね。
ハラダ 僕たちは大丈夫。
クサマ 一番酷い気も、しなくはない。
クメ 今、一体何処にいるんだろうね。
アベ 見当もつきませんね。まっすぐ進んでるかどうかも怪しいですから。
クサマ でも、何処かには着くんだよね。
アベ それはわかりませんよ。保障はありません。
クサマ でも、地球は丸いんだし。
アベ それはわかりませんよ。
クサマ 丸いよね。
クメ でも、食料が尽きる前には何処かに辿り着かないと…。
アベ 終わりですね。
沈黙。
アベ 終わりですね。
沈黙。
アベ 終わり
クサマ もういいよ。
クメ 死ぬの、僕たち。
アベ 死ぬんじゃないですかね。
クメ 死ぬのかな。
アベ 死にますね。
クサマ 言い切った。
アベ だって死にますよ。実際。
クメ なんか、急に死に近づいた気がする。がって感じじゃないんだけど、こう、ががってのとは違うんだけど、むしろ、すすって、すすすって、いや、ひゅひゅひゅっかな、
クサマ 擬音ばっか忙しいな。
クメ でも、死ぬんだよ。
クサマ 確かに、今まで考えてたのとは何か違うね。実感はあるんだけど、恐怖って言うか、そういうのは何か…。
アベ うまく言えませんね。
クサマ …うん。
ハラダ オクヤマだったら、なんて言うんだろう。
皆、オクヤマを見る。
クメ なんて言うんですかね。
ハラダ 多分、よくわかんないんだろうなあ。
アベ そうですね。
クサマ 絶対よくわかんない。
クメ でも、なんか、いいこと言ってると思う。
ハラダ うん。思う思う。
クメ でも、よくわかんない。
皆、笑う。
ハラダ 忘れたくないなあ。こいつのこと。
クサマ ハラダさん…。
ハラダ 死にたくないなあ…。
アベ 死なないですよ、ハラダさんは。
ハラダ どうして。
アベ どうしてって…だって、ねえ。
クメ ああ。ねえ。
クサマ うん。
ハラダ 何この屈辱。
沈黙。波の音。
クメ 何でだろう。
クサマ え?
クメ 何でだっけ?
クサマ 何が?
クメ 何でこんな、こんなことになったんだっけ。何、何がいけなかったんだっけ。
クサマ …。
オクヤマ ギョーン…。
オクヤマ、初めて起き上がる。
ハラダ オクヤマ。どうした?
クメ 大丈夫ですか?
オクヤマ (辺りを見回して)ギョーン…ギョーンショージャ…。
ハラダ オクヤマ?
オクヤマ、舞台中を彷徨い歩く。
クサマ どうしたんですか?
ハラダ オクヤマ。
オクヤマ ショギョ…ショギョ…ショギョ…
オクヤマ、はけ口を指差して何かを訴えている。
他のもの、口々にオクヤマの名前を呼んだり、心配したりする。
オクヤマ ショギョウ…ショギョウ…うあー!
オクヤマの声に音楽が重なり、大音響。
激しい照明の中、場面が転換される。
A
オクヤマ、うつ伏せで何かを書いている。
そのそばでハラダ、ギターを弾いている。
舞台後方には、サトウが後ろ向きで座っている。
ハラダ (ギターを弾きながら独り言)…書けた?
オクヤマ …。
ハラダ うん、頑張って。オクヤマが頑張ってる間にハラダ は漫才をしているから。一人で。一人だけど、漫談じゃないよ。あくまでも漫才をしているから。
ハラダ、一人漫才をやってのける。
ハラダ どうも、ありがとうございましたー。どう?
オクヤマ …。
ハラダ うん、頑張って。己のために。あわよくば、ハラダのために。必死こいて、必死こいて、疲れたら私の胸で少しお眠りなさい。って、僕気持ち悪い。けど、愛して。皆ハラダを愛して。あ、でも、愛してるからって僕の肖像画を書いちゃダメだよ。オクヤマはちゃんと書くもの書いてね。
オクヤマ 女性専用車両の隣の車両ってさ、
ハラダ え?
オクヤマ 女性専用車両の隣の車両ってさ、男性専用車両の如くならないかな?
ハラダ 何だ如くって。っていういか何、いきなり。
オクヤマ だって乗るでしょ。隣の車両が専用車両だったら、乗るでしょ。女性は。
ハラダ ええ、ああ、どうだろう。
オクヤマ 女性は乗るでしょ。
ハラダ 乗るのかな。乗るのかもね。
オクヤマ 空いてるし、安全だし。
ハラダ うん。もう、乗るでいいよ。
オクヤマ 空いてるし、安全だし。
ハラダ うん、わかったから繰り返すのはやめて。アレなのね、最近のオクヤマ君の興味は、女性専用と男性専用の表裏一体にあるのよね。
オクヤマ よし。じゃあ、適当に弾いてみてよ。
ハラダ え、あ、うん。何を?
オクヤマ 何をって、今の。
ハラダ え?
オクヤマ この曲はミディアムテンポでいいかなって思ってるんだけど、どうかな。
ハラダ どうかなって、え。今の、歌詞なの?
オクヤマ うん。
ハラダ 今のって、その、女性専用車両のくだり?
オクヤマ うん。
ハラダ わかりづらいよ。
オクヤマ ♪女性〜専用車両の〜
ハラダ いやいやいや。
オクヤマ ♪隣〜、と、隣〜、隣〜、
ハラダ こだわらなくていいから。
オクヤマ いや、こだわらなきゃダメでしょ。そこは、こだわるべきでしょ。
ハラダ なんで?
オクヤマ だってほら、クメ君の。
ハラダ え?
オクヤマ クメ君。
クメ、登場。(もしくはサトウと同じように後ろにいてもよい。)
ここでは回想として登場する。
ハラダ 何だっけ?
オクヤマ もう忘れたの?先週のストリートライブの時さ、(立ち上がる)
クメ お疲れ様でした。きょ、今日も、すごい、すごいアレでした。
ハラダ アレって何だ。
オクヤマ いつもありがとうね。
クメ いえ、僕お二人のアレなんで。
ハラダ アレって何だ。
オクヤマ 照れるよ。
クメ あと、これ、少ないんですけど。カンパってことで。
クメ、札束を地面に投げる。
ハラダ ひゃあ。(下品に拾う)
オクヤマ ホント、こんなにいつも悪いね。全然遠慮はしないけど、悪いね。
クメ いいんですよ。僕、僕金持ちですから。いい金持ちですから。
ハラダ いい金持ちって何だ。(お金と戯れる)
オクヤマ 君のおかげでお金には困らないからなあ。ありがとうね。あ、いや、お金くれるからありがとうってわけじゃないよ。
クメ わかってますよ。
オクヤマ 君のおかげでバイトしなくていいからありがとうってことだよ。
ハラダ おんなじじゃねえかい!(お金で突っ込む)
クメ わかってますよ。
ハラダ わかっちゃうのかよ!(お金に突っ込む)
オクヤマ あれ?今日は、一人?
クメ はい。いつも一人です。
ハラダ ぶっちゃけクメ君以外お客さんいたことないからね。わはは。
オクヤマ、落ち込む。
クメ わあ。オクヤマさんが落ち込んだ。
オクヤマ どうせ僕の唄はわかりづらいんでしょうよ。
ハラダ 大丈夫だよ。わかりづらいだけだって。
オクヤマ、さらに落ち込む。
クメ なんで余計落ち込むようなこと言うんですか。
ハラダ 甘やかしちゃいけないと思って。
クメ 保育士かよ。
ハラダ 保育士だよ。
クメ 嘘を吐け。
ハラダ えっと、こないだ頭が痛かったので、バファリンを飲みました。嘘です。
クメ いや、嘘を吐けってのは命令ではなくて。っていうか、何なんですかその嘘は。
ハラダ 僕頭痛くならないから。
クメ すごい自信。
ハラダ バファリンは飲んだけど。
クメ 飲んだのかよ。えー。
ハラダ だって、バファリンの半分はおもむろにできているからあ。
クメ 違いますよね。
ハラダ 残りの半分はおもしろでできているからあ。おもしろは譲れないからあ。
クメ …さようか!
ハラダ、おもしろを始める。
この間もオクヤマは落ち込み続けている。
ハラダ どう?
クメ エンタくらいなら出れる気がする。(世界観によってはこの台詞かえる)
オクヤマ ほっとかないでください…。(起き上がる)
クメ あ。
ハラダ ね。自分で起きれるのよ。甘やかしちゃダメ。
クメ 保育士かよ。
ハラダ 保育士だよ。
オクヤマ 嘘を吐け。
ハラダ えっと、セックスしたい。嘘です。嘘です、したいです。
クメ だから、命令ではなくて。っていうか、したいんだ。
オクヤマ お前はセックスできないからあ。
ハラダ がーん。(ギターを鳴らす)
クメ それはじゃーんだから。
ハラダ がーん。(ギターを鳴らす)
クメ じゃーんですよ。
オクヤマ お前はセックスできないからあ。
クメ あなたもやめなさい。
ハラダ NOSEXハラダはははー。
クメ えー。
オクヤマ 安っぽいセックスの話は終わりにしよう。安っぽいセックスの話してると安っぽい人間になっちゃうから。安っぽい人間は安っぽい唄しか書けないから。
ハラダ ドンキホーテで売られちゃうから。いや、もう99ショップレベルだから。
クメ 安っぽい。っていうか安い。
オクヤマ 消費税は反則じゃない?
クメ 安っぽい人間になってきている。あ、ちょっと、いいですかね。
ハラダ 三日くらいなら同じ服着れる。
クメ 安っぽい人間になる前にいいですかね。
オクヤマ 何?
クメ お二人は、メジャーには興味ないですか?
オクヤマ メジャーって?
クメ メジャーデヴュー。
オクヤマ、吹き出して痙攣する。
クメ ああ、吹き出して痙攣した。
ハラダ こら、デヴューの話は禁じ手だぞ。売れないコンビにデヴューの話は。
オクヤマ コンビって言うなあ。(痙攣しながら)
ハラダ ああ。デュオ。売れないデュオにデヴューの話はアルテマウエポンだよ。
クメ あ、いや、確実にできるってわけじゃないですよ。オーディションがあるって話を。
ハラダ オーディション?
クメ 近々、○○レコーズが極秘、極秘のオーディションをやるらしいんです。
オクヤマ (起き上がって)○○っていったら、業界最大手じゃんか。
クメ 公にはされてないんですが、次に売り出す新人、新人を探しているらしい、らしいんです。
ハラダ うおー。
オクヤマ すげー。
オクヤマ、ハラダ、乱舞する。
オクヤマ …あれ、ちょっと待って。そのオーディション、公にはされてないんだよね。
クメ はい。
オクヤマ 何で君は知ってるの?
クメ あ…。
オクヤマ ねえ、何で?
クメ …金持ちだからです。
間
ハラダ 金持ちだからかあ。
オクヤマ 納得するの?
クメ 知り、知り合いに幹部がいるんですよ。
ハラダ なるほど。
オクヤマ なんだ、コネか。
クメ え?
オクヤマ 俺たちはコネなんかに頼んないよ。
ハラダ オクヤマ。なんだよ、チャンスじゃないか。
オクヤマ そりゃチャンスかもしんないけど、コネでデヴューしたところで、俺たちの本当の価値は認められない。
ハラダ オクヤマ…。
クメ そうですか…。
残念そうな二人。
オクヤマ クメ君。
クメ はい。
オクヤマ ちなみにオーディションはいつ?
クメ あ…来週です。
オクヤマ ふうん…。
オクヤマ、何気なくうつ伏せになり、思いっきり歌詞を書き始める。
ハラダ うえー?すっごい書いてる!
クメ え、あ、受けるんですか?
オクヤマ 当たり前だろ。誰が受けないって言った?
ハラダ さっきの台詞なんだったんだよ。
オクヤマ チャンスだからね。奇麗事言ってらんないでしょ。
ハラダ (ギターを鳴らす)
クメ じゃあ、先方には伝えておきますね。
オクヤマ うん、よろしく。
クメ じゃあ、来週。忘れないでくださいね。
クメ、退場。
ハラダ ああ、そっか。思い出した。オーディションか。
オクヤマ そうだよ。そのために書いてんだから。
ハラダ そうだったそうだった。最近物忘れが…。
オクヤマ だからさ、いい曲作んなきゃ。
ハラダ いい曲よりも、まずはわかりやすい曲を書いたほうが…。
オクヤマ、怒る。
ハラダ ひゃあ、ごめん。怒らないで。
オクヤマ ぷんぷん。
ハラダ それで、そのオーディションっていつだっけ?
オクヤマ えっと、来週って言ってたね。先週。
ハラダ そっか。
しばらくの間。
ハラダ え?
オクヤマ 何?
ハラダ いつだって?
オクヤマ クメ君は来週って言ってた。先週。
ハラダ 先週の、来週?
オクヤマ うん。
ハラダ 先週の来週っていつよ?
間。青ざめる二人。
二人 今日じゃね?
サトウが振り返り、場面が変わる。
Bオーディション
サトウ (振り返りながら)次の方。
二人 (正面を向いて)失礼します!
サトウ どうしたの?息切らして。
オクヤマ あ、いや、なんでもないです。すいません。
ハラダ 遅刻しそうになって走ってきた訳じゃ決してないです。
サトウ うん。全部わかった。
オクヤマ ハラダ。
ハラダ ごめん。
サトウ まあまあ、気にしないで。現に間に合ってるわけだから、それで合否決めたりしないから。
オクヤマ ありがとうございます。
サトウ それじゃあ、早速だけど、
オクヤマ 聞いてください、『変速ミリタリー覚悟』。(ハラダに視線)
ハラダ (いきなり弾き始める。アップテンポの曲。)
オクヤマ ♪いつか見たの、変速ミリタリー覚悟〜。
サトウ ちょっと、
オクヤマ ♪確か見たの〜
サトウ ちょ、ちょっ、
オクヤマ ♪変速〜
サトウ ちょっと、やめ、やめ。
オクヤマ ミ…(やめる)
二人、演奏をやめるが腑に落ちない顔。
サトウ え、何。何なのこの空気。え、私が悪いの、これ。
ハラダ (すげえ嫌な顔をしている。)
サトウ うわあ、すげえ嫌な顔してるよ。
ハラダ (さらに嫌な顔をする。)
サトウ うわあ、
ハラダ (さらに嫌な顔をする。)
サトウ うわあ、
ハラダ (さらに嫌な顔をする。)
サトウ どんどん嫌な顔になってるよ。
ハラダ、どんどん嫌な顔をしていき、体中嫌な感じになってしまう。
オクヤマ おい、やりすぎだよ。
ハラダ、我に返る。
ハラダ ごめん、我を忘れてた。我を忘れて嫌な顔してた。
オクヤマ 一応オーディションなんだからさ、
サトウ 一応?
オクヤマ 嫌な顔はやめとけよ。むしろ、いい顔する場面だよ。
ハラダ そうか。
ハラダ、すごくいい顔をする。
サトウ あ、いや、すごくいい顔に挑戦するのは構わないんだけど、歌歌う前に自己紹介してもらえるかな。私まだ君たちのこと何も知らないから。
オクヤマ あ、すいません。
ハラダ ハラダです。
オクヤマ オクヤマです。
ハラダ 二人合わせて、『源氏平家』(適当なお笑いっぽいコンビ名)
オクヤマ 初耳だよ。えー。ちょっと待って。
ハラダ 何?
オクヤマ 俺たちそんな漫才師みたいな名前だったっけ?
ハラダ 違った?
オクヤマ 違うよ。そもそも何だ、源氏平家って。
ハラダ ぽいじゃん。
オクヤマ ぽいってなんだよ。
ハラダ 漫才師っぽい。
オクヤマ だから、漫才師じゃない。
ハラダ やってみようよ。
オクヤマ やらないよ。
ハラダ ちょっとでいいから。
オクヤマ やりません。
ハラダ やろうよ、平家―。
オクヤマ 待て待て。
ハラダ 何?
オクヤ 俺、平家か?
ハラダ うん。
オクヤマ えー。
ハラダ 僕が源氏なんだから、オクヤマは平家でしょうが。
オクヤマ お前源氏か。
ハラダ 光源氏だよ。
オクヤマ ぎゃー!
ハラダ (何かを探している)
オクヤマ ローラースケートを探すな!
ハラダ あった。
オクヤマ ない!
ハラダ、ムーンウォーク。
オクヤマ すごいけども。源氏平家はないでしょ。
ハラダ じゃあなんだっけ。『バナナ・ミルク』?
オクヤマ おいしいよ。
ハラダ 『サディスト・マゾヒスト』?
オクヤマ SMだよ。
ハラダ 『やすしきよし』
オクヤマ あちゃー。
サトウ あのう。
ハラダ 何だよ。
オクヤマ こら!
ハラダ あ、しまった。
オクヤマ オーディション中だぞ!あの人誰だと思ってんだよ。
ハラダ 校長先生。
オクヤマ 違う。違うし、校長先生だったとしても、言葉遣いおかしいだろ。
ハラダ うあー。お前さあ、恥かかすなよ。
オクヤマ 勝手にかいたんだろ。
ハラダ だとしても、相方をフォローするのが相方のつとめだろ。
オクヤマ 傲慢。っていうか、お前相方って言うのやめろよ。
ハラダ 何でだよ。
オクヤマ 何でって、何か違うだろ。
ハラダ え、何が違うんだ。
オクヤマ 俺たちは、漫才師じゃない。
ハラダ マジで?
オクヤマ お前!
サトウ あのう。
二人 ああ!
サトウ 面白いねえ、君たち。
ハラダ ありがとうございます。
オクヤマ 馬鹿。
サトウ まあ、グループ名とかいいからさ、今度こそ曲聞かせてよ。
オクヤマ あ、はい。よろしくお願いします。
二人、顔を見合わせる。
オクヤマ 聞いてください。『え、それって天然?』
ハラダ (弾き始める)
と、此処でサトウが明らかに自分から電話をかける。
サトウ ああ、ごめん。
オクヤマ (歌をさえぎられて)え…?
サトウ ちょっと電話かかってきちゃった。
ハラダ (気付かず弾き続ける)
オクヤマ 今、自分からかけてませんでした?
サトウ それじゃあ、ごめんね。
オクヤマ ちょっと、オーディションは、
サトウ 終わり。
オクヤマ 終わり?
サトウ 君たちのやりたいことがさ、私にはわからないな。私がわからないってことはさ、つまり万人にアレされるものじゃないってことなのね。
オクヤマ だけど、俺たちの表現に共感してくれる人たちがきっと、
サトウ じゃあ、はっきり言うけどさ…売れないんだよね。って言うかいらないんだよね、売れない奴らは。君たちみたいな。
ハラダ (やっと気付いて)な…
サトウ ぜんっぜん、いらないんだよね。
サトウ、立ち上がる。
サトウ 売れる曲出来たらまたおいで。もし、出来たらね。
オクヤマ、呆然とする。
ハラダ もうしばらくストリートで頑張ろう。
オクヤマ、ハラダ、舞台後方へ。
入れ替わってサトウ舞台前方、はけ口の近くへ。
場の空気変わる。
C団長
サトウ、先ほどの電話の続き。
サトウ もしもし、サトウですが。
ヨシダ、登場。
ヨシダ あら、サトウさん。
サトウ すいませんでした。お電話遅れてしまいまして。こっちの方の仕事で、手が離せませんで。
ヨシ いいんですよ。
サトウ すいません。
ヨシダ いいですって。ただ、次からは先に連絡入れてくださいね。さもなくばはったおしますから。
サトウ 意外に怒ってた。すいません、わかりました。
ヨシダ そっちの仕事はどうなの?
サトウ はい、いつもの通りです。全く、代わり映えしませんよ。
ヨシダ そうですか。
サトウ あ、でも、おかげで資金のほうは心配ないです。
ヨシダ きゃー。
サトウ お金すごい食いついた。
ヨシダ やったー。
サトウ 無垢な人。
ヨシダ 今週の集会も。資金のほう、任せるわね。
サトウ はい!
ヨシダ よろしくね、期待してるわ。
サトウ ありがとうございます!
ヨシダ、サトウ、ツー、ツー、とか言いながら退場。
Dストリートライヴ
オクヤマ、ハラダ、前の場面から舞台後方で後ろ向きに座っている。
クメ登場。
クメ あ、どうでした?
ハラダ ああ、
オクヤマ いらないって。はは。
沈黙
クメ ああ、そうですか…。
ハラダ まあ、仕方ないよ。
クメ 何かすいません。
ハラダ いいよ、僕は満足してるから。
オクヤマ 何でだよ。
ハラダ 僕、面白かったから。
オクヤマ そんなの求めてねえんだよ…。
ハラダ 僕、すごい面白かったから。
オクヤマ ああ…。
クメ 何この温度差。
ハラダ でもさあ、仕方ないよ。あの人のいってること、その通りだったもん。
オクヤマ うっせえやい。
クメ 何か言われたんですか?
ハラダ わかりづらいって。
クメ ああ。
オクヤマ ああって何だ。
クメ いや、ねえ?
ハラダ ねえ。
ハラダ・クメ、盛り上がる。
オクヤマ わかってんだよ。デヴューするってことは、売れせんの曲作ってくってことなのは。でもさ、なんか、違うじゃん、違うじゃん…。
ハラダ 出た出た、アーティスト発言。ああ、嫌だ嫌だ。
オクヤマ アーティストなんだよ。いいじゃねえか。
ハラダ ひえー。
オクヤマ お前なんだよ。そんなに嫌ならやめてもいいんだぞ。
クメ オクヤマさん。
ハラダ いいよ。
クメ ハラダさん!
オクヤマ そうか…。
ハラダ 音楽をやめて、お笑いをやろう。
オクヤマ・クメ はあ?
ハラダ 音楽をやめて、お笑いをやろう。
オクヤマ 何言ってんだよ。
クメ そうですよ。
ハラダ お笑いをやろう。ネタも考えてあるんだよ。
オクヤマ 何でだよ。
ハラダ もしやの時のために書き溜めておいたんだよ。
オクヤマ ねえよ、もしやの時は。
ハラダ ええ、やろうよ。
オクヤマ やらないよ。馬鹿じゃないの?
ハラダ 誰が馬鹿やねーん。
ハラダ、壮絶に突っ込む。
オクヤマ、放心。
ハラダ 冗談だよ。
三人、舞台後方へ。
Eフルキャスト
アベ あの、興味ありませんか?
クサマ え、君に?
アベ いや、僕にではないです。
クサマ 君には多少。
アベ 聞いてないです。ですから、もし宜しければ一度お話聞いていただきたいなと。
クサマ え、恋バナ?
アベ 違いますよ。何で僕が恋バナしなくちゃいけないんですか。
クサマ 君には興味あるから。
アベ 怒りますよ。
クサマ え、叱ってくれるの?
アベ あー、怖いよこの人―。
クサマ 食べちゃうぞー。
アベ わー。
クサマ、アベを追いかける。
不思議な踊りを踊っていた三人にぶつかる。
ハラダ ぎゃー。(倒れる)
アベ 助けてください。
オクヤマ どうしたの?
アベ あの人に、
クサマ うへへ。
アベ あの人にー。
オクヤマ 見るからに危険そうな人だな。あの人に何されたの?
アベ 食べられそうに。
オクヤマ マジで?
クサマ うへへ。
オクヤマ やりかねないかも。ちょっと、あんた。嫌がってるじゃないか。
クサマ うへへへ…いや、誤解されるとアレなんで先に言いますけど、冗談でやってたんですよ?
アベ わー。
オクヤマ 冗談でこんなに怯えるかよ!
クサマ えー?
アベ 怖いよー。
オクヤマ あんた、どういうつもりだよ。
アベ 怖いよー。
クサマ えー?
アベ 怖いよー。壷を買ってよー。
オクヤマ え?
アベ 壷を買ってよー。あわよくば二つ買ってよー。
オクヤマ、アベをクサマに突き出す。
アベ わ。
クサマ ね、だから、僕のほうが迷惑してるんですよ。
オクヤマ うーん。
アベ 迷惑って、別にそういうつもりじゃ…。
オクヤマ 君は何をしてたの?
アベ この人があまりにも不幸そうな顔してたんで、幸せになる方法を教えてあげようとしたんですよ。
クサマ 失礼なこと言わないでよ。僕は、
オクヤマ ああ、確かに。
クサマ 納得しないでよ。顔は生まれつきなんだから。
アベ 生まれつき不幸そうだったんで。
クサマ もう、セクハラだよ…まあ、いいけど。(ちょっと嬉しそう。)
オクヤマ で、その壷を買えば幸せになれるの?
アベ え、興味あります?
オクヤマ あ、いや、
アベ 僕、アベと申します。興味がおありでしたら詳しいお話させていただきたいんですが。
オクヤマ ごめん、遠慮しとくや。
アベ 壷だけでも、
オクヤマ いりません。
アベ ち。
オクヤマ ち?
クメ 壷なら、僕買おうか?
アベ 本当ですか?
クメ うん。
アベ あ、でも…。
クメ 何?
アベ お金あるんですか?
クメ あるよ。お金だけは。
オクヤマ だけはって言っちゃった。
アベ でも、結構しますよ。
クメ どれくらい?念のため。
アベ、クメに耳打ち。
クメ 大丈夫。
アベ 本当ですか?
クメ 僕お金持ちだから。
アベ 疑わしい。
クメ 何で僕には厳しいんだよ。
アベ 顔が…。
オクヤマ 顔こだわるね、君。
アベ 貧乏顔じゃないですか。
クメ がお。
アベ お金持ちには見えませんね。
クメ なんなのこの子。
アベ 自分で稼げるような顔してませんもん。
クメ え。
アベ 人の金で遊んでる顔です。
オクヤマ アベ君、それは言いすぎだよ。
クメ …。
アベ 顔の話ですよ。
今まで伸びていたハラダが起き上がる。
ハラダ 顔占い師が来たって本当?
オクヤマ うわ、起きた。
ハラダ 顔占い師は何処?
オクヤマ 何だそれ。
クサマ あ。
ハラダ あ、君か。僕の顔はどう?
アベ え?
ハラダ 顔を見てよ。
アベ、顔を見る。
アベ わあ。(怯える)
ハラダ どう?どぅ?
アベ 人間の顔じゃない。
ハラダ え?
アベ 人間じゃない。
ハラダ ちくしょー!
クサマ ハラダさん?
クサマ、ハラダに近寄る。
クサマ やっぱりそうだ、ハラダさんだ。
ハラダ え?
クサマ クサマです。お久しぶりです。
オクヤマ 何?知り合い?
クサマ はい。
ハラダ ううん。知らない。
クサマ えー?
オクヤマ 知らないの?
ハラダ うん。
クサマ そんな。僕ですよ、昔工場でお世話になった。
オクヤマ 工場?
ハラダ 覚えてない。
クサマ ハラダさん、僕のこと可愛がってくれたじゃないですか。
ハラダ えー?
オクヤマ ハラダ工場で働いてたことあるの?
ハラダ ないよ。
クサマ 機械みたいに働いてたじゃないですか。
ハラダ そうだっけ。
クサマ 僕がやめるとき、これくれたじゃないですか。
なんかへんなもの。
クサマ まだ工場にいると思ってたのに。
ハラダ 覚えてない。
クサマ えー。
オクヤマ ハラダとは長いけど、そんなこと聞いたことないなあ。
クメ オクヤマさんは、ハラダさんとどこで知り合ったんですか?
クサマ 工場ですか?
オクヤマ ううん。サーカス。
クメ サーカス?
オクヤマ うん。サーカスで火の輪くぐってた。
クメ・クサマ えー。
ハラダ オクヤマは、サーカスから僕を救い出してくれたんだ。
オクヤマ 連れて逃げただけだよ。
オクヤマ・ハラダ、談笑。
クサマ サーカスに売られるって、工場で何したんだろう。
ハラダ だから工場は、
アベ あの、それで、壷は?
クメ だから買うって。
アベ でも、顔が。
クメ まだ言うか。
アベ なんか金持ちっぽいもの持ってませんか?
クメ 金持ちっぽいもの?
アベ 時計とか、車とか、そういうの見れば信じますよ。
クメ、考える。
アベ やっぱりね。
クメ ややや、やっぱりってなんだよ。買うよ、買ってくるよ。金金金持ちっぽいもの買ってくるよ!
クサマ 今は何してるんですか?(ハラダに)
ハラダ お笑い。
オクヤマ 歌だよ。歌。
クサマ 歌手ですか?
オクヤマ そんなたいそれたものでもないけどね。クメ君がいなかったら…
クサマ クメ君?
オクヤマ ああ、彼…
クメ 絶対です、絶対ですから。
オクヤマ え?
アベ 待ってますよ。
クメ 絶対買ってきますから!
クメ、走って去る。
他の皆、それを追いかける。
ドサクサに逆らって、サトウ、登場。場面変わる。
F初ライヴ
出来れば、ヨシダの演説。(音声)
終わってヨシダ登場。
サトウ お疲れ様でした。
ヨシダ お疲れ。どうだった?
サトウ 素晴らしかったです。間違いなく幸せになれますよ。
ヨシダ そうじゃなくて、今日の私。
サトウ え?
ヨシダ うまく喋れてた?
サトウ それは、ええ。
ヨシダ 本当?ちゃんと、この国の言葉で喋れてた?自然に喋れてたでやんすか?
サトウ やんす…まあ、個性的な喋り方ではありましたけど、ばっちりですよ。
ヨシダ ダメなのよ、それじゃあ。もっと、こう、自然じゃなきゃ。自然であれ、私。
サトウ それはちょっと…。
ヨシダ 若くあれ、私。
サトウ それもちょっと…。
ヨシダ そうなのよね…私じゃちょっと駄目なのよ。もっと駄目なの。
サトウ いや、でも団員はそんなこと気にしてませんよ。皆団長を心から崇めてます。
ヨシダ (聞いてない)やっぱり、駄目なのかしら。連れてかないと。ねえ、サトウさん。
サトウ はい。
ヨシダ 誰かいないかしら。今の子で、自然に話せる子。あなた、子供いるのよね?
サトウ はい…いや、でも、
ヨシダ 別にその子が何考えてるかは問題じゃないのよ。伝えたいことを、文章にする力があればいいの。内容じゃないの。
サトウ 団長、どうしてそのような人を?
ヨシダ (聞いてない)出来れば頭悪い子がいいわ。うまいこと言えば、ホイホイホイついてくるような子。
サトウ うーん。
ヨシダ やっぱりいないわよね。
サトウ あ。
サトウ、電話をかける。
サトウ・ヨシダ、下手による。
オクヤマ、ハラダ登場。
オクヤマ まさか連絡繰るなんてなあ。
ハラダ 世の中何があるかわからないもんだね。
オクヤマ 履歴書だけでも置いてきてよかった。あの人、実は見る目あったんだな。
ヨシダ お待ちしてました。
サトウ 久しぶり。この間は悪かったね。
オクヤマ いえ。むしろ感謝してますよ。あの、そちらは?
ハラダ 業界人だ。業界人間だ。
オクヤマ 妖怪人間みたいに言うなよ。
ヨシダ 素晴らしい。ボケとツッコミだわ。これこそこの国の文化。ぞくぞくする。
オクヤマ え?あ、よろしくお願いします。
ヨシダ よろしく。
ハラダ で、何処でやれるんですか?
ヨシダ いいわ。そのアクティヴな感じ。びくびくする。
オクヤマ 怯えてるの?
ヨシダ きゃー、つっこまれたー。
オクヤマ なんなのこの人。
ハラダ オクヤマ、業界人間。
オクヤマ そっか。
ヨシダ あなた達に決めた。
オクヤマ 決めたって…やったあ!
ヨシダ 早速だけど、唄って頂戴。サトウさん、今日、団員はいかほど?
ハラダ 団員?
サトウ 結構いますよ。
ヨシダ 準備をお願いわさ。
サトウ はい。じゃあ、二人とも、そこの舞台で頼むよ。
二人、舞台前方へ。
オクヤマ 此処かぁ。
ハラダ 此処かぁ。
ヨシダ、スプレーを撒く。
オクヤマ …ん、何か臭くない?
ハラダ そうかな。
オクヤマ え、臭うよ。
ハラダ わかんないや。
オクヤマ あー!ヘンな臭いする!気になりだしたら止まんないよ、これ。
ヨシダ じきに慣れますから。辛抱してください。
オクヤマ 辛抱たまらん!
ヨシダ 辛抱してください。
ハラダ 辛抱なさい。
オクヤマ うう。
ハラダ 辛抱なさい、坊や。
オクヤマ 坊や?
ヨシダ 深呼吸をしてごらんなさい。
オクヤマ 深呼吸?
ハラダ 息を大きく吸って、吐き出すの。
オクヤマ 深呼吸は知ってるけど。
ヨシダ やってごらんなさい。
オクヤマ、深呼吸をする。
ハラダ どう?
オクヤマ …やーばい。気持ちいい。
ハラダ マジで?(深呼吸)…そうかあ?
オクヤマ 気持ちいい!やろうぜハラダ、今ならやばいことになる!
ハラダ よくわかんないけど、いくよ!
二人、演奏のポーズ。
歓声。とともに、ヨシダ、サトウ、退場。
入れ替わりにクメ、クサマ、アベ。
オクヤマ 気持ちよかったー!
ハラダ そうかあ?
クメ っどどどどうでした?初ライヴ。
オクヤマ 気持ちよすぎて覚えてない。
クメ えー。
ハラダ 僕は普通に覚えてない。
クサマ 駄目だあ。
アベ 意外によかったですよ。
クメ アベ君見たの?
アベ はい。
クサマ 謎が多いな君は。興奮する。
アベ え。
クサマ 冗談だよ。
クメ いいなあ。次はいつなんですか?
オクヤマ …さあ。
アベ 週末ですよ。毎週末です。
クサマ 何で君が知ってるの?
アベ 幸せになりたいので。
クメ そうか…なんとしても壷を買わねば!
アベ 決意だけじゃ駄目ですけどね。
クメ きっと買うさ。
アベ あれ、なんだか自信ありげですね。
クメ うん、あるよ、自信。自信あるよ。
アベ 金持ちっぽいものあったんですか?
クメ 今はないけど、必ず手に入れる。便利なものがあるからね。
アベ 便利なもの?
クメ 便利だわー。ほんと、便利だわー。
アベ 一人で盛り上がらないでくださいよ。
クメ あっと言わせてみせるから。
アベ 是非とも。
クメ 言えそうになくても、あっと言えよ。
アベ 言わせるんですよね。
クメ、退場。
オクヤマ よし、ハラダ、次のライヴに向けて曲作ろうぜ。
ハラダ わかりやすいの?
オクヤマ とことん、わかりにくいの。
ハラダ 自分で言っちゃった。
オクヤマ 自分でもわからないくらいの。
ハラダ 困ったちゃん。
オクヤマ あそこにいた人たち、ひいひい言わせてやる。
ハラダ 覚えてないけどね。
オクヤマ ひいひい。
クメ 今度のはどんなテーマですか?
オクヤマ そうだねえ、
クサマ やっぱり、アーティストって社会風刺とかしちゃうんですか?
オクヤマ しないよ、そんなの。駄目駄目、外部に求めたら。こう、内から湧き出るものを書かないと。
クサマ そうなんですか。
ハラダ え、でも、こないだ女性専用車両の唄…。
オクヤマ 大体最近面白いことないからね。
ハラダ 理由それだろ。
オクヤマ 戦争やってたときは色々言えたんだけどね。
ハラダ まあ、終わっちゃったからね。
オクヤマ 終わっちゃったもんなあ、戦争。あー、勿体無いな。
アベ え、戦争なんてあったんですか?
クサマ えー?テレビでわーわー言ってたじゃない。
アベ 僕、テレビ見ないんで。
クサマ そういう問題?
アベ テレビ見てると吸い込まれそうになるんですよ。
クサマ え?
アベ 吸い込まれそうになるんですよ。
クサマ テレビに?
アベ 吸い込まれたら怖いじゃないですか。嫌じゃないですか。
クサマ え、うん。
アベ だから、見ません。
クサマ わかったよ。
アベ 時々は見ますけど。
クサマ 見るんじゃん。
オクヤマ 時々はテレビ見るのに、ニュースの時間に絶対当たらないってどんだけの確立だよー。夕方とかは大体ニュース番組やってるじゃんかよー。時々ってそれほんとに時々なのかなー。時々なのかなー。
オクヤマ、うつ伏せになって書く。
ハラダ あ、今の歌詞か。
オクヤマ 思いついたのさ。
ハラダ 思いついたのか。
アベ あの、それで、戦争っていつ終わったんですか?
クサマ 始まり知らないのに終わりには興味あるの?
オクヤマ 随分前だよ。つっても、後半は全然面白くなかったね。あんなちっちゃい国、寄ってたかってアレしたら、大体どうなるかわかってんじゃん。
ハラダ 僕にはわからなかった。
オクヤマ 人間界に首を突っ込まないで。
ハラダ はーい。
オクヤマ まあ、戦争なんてどうでもいいっちゃどうでもいいからね。
オクヤマ、書きながら退場。
アベ なんか、取り残された気分です。
クサマ 時代に?
アベ 汽車に。23時発の。
クサマ 例えじゃないんだ。しかもおそらく最終逃した。
アベ 地方ですからねー。
ハラダ アベ君、気にしなくていいよ。オクヤマも言ってるけど、戦争なんて僕らにとっちゃどうでもいい事なんだから。ただ、僕等のなんかめんどくさいものの矛先が戦争っていうものに向いてた期間があって、それがなんか楽な期間だったってことだから。他のこと考えてなくていい期間だったってだけのことだから。
ハラダ、退場。
クサマ 一番いけない人に諭されてしまった。
クサマ、アベ退場。
場面変わって、ヨシダ、サトウ登場。
G-@ヘンな人の野望
サトウ 彼ら、アレでいいんですか?
ヨシダ 本当は私がアレしないといけないんだけどね。どうしてもね、不自由なりよ。国語が。
サトウ それはわかりますけど、彼らにお金をかけるのはなんだか無駄に思えるのですが。
ヨシダ そう?あの子たちにはまだまだ費やすわよ。ケツの毛まで抜くわ、私の。
サトウ ええ?
ヨシダ そしてあなたの。
サトウ、ケツを押さえる。
ヨシダ サトウさん。あなたよ、お金なら任せろって言ったのは。
サトウ それはそうですが…。
ヨシダ、サトウに絡みつく。
ヨシダ あら…不安なのかしら?駄目よ、サトウさん。私を信じて。信じるものはなんとやらよ。なんとやらがなんだったかは忘れたけど。
サトウ …はい。
オクヤマ、ハラダ、(クメ)このあたりで登場し、後ろを向いている。この場面には関係ない。
ヨシダ いいわ。サトウさん。あなたはずっと私に尽くしてくれた。主にお金。だから、あなたにだけは教えてあげる。いいえ、教えないのは反則だわね。
サトウ 私だけに?何をですか?
ヨシダ 私ね、あの子達の唄をちょっとばかし輸出しようって思ってるの。
サトウ 輸出?
ヨシダ ちょっとばかしよ、ちょっとばかし。
サトウ 輸出って、海外でデヴューさせるってことですか?何のために?
ヨシダ 海外デヴューか…ちょっこす違うかな。いっけね、ちょっと違うかな。難しい国語。ぽかぽか。(自分の頭を殴る)
サトウ ちょっと待ってください、すいません。私には何が何だかさっぱり…。
ヨシダ 盗むのよ。あの子達の言葉を。
サトウ 盗む?
ヨシダ 私はね、盗みに来たの。言葉を。言葉泥棒なのだ。モモと言葉泥棒なのだ。でも、私だけじゃムリだったから、あの子達も一緒に盗んじゃうの。
サトウ モモ…。
ヨシダ サトウさん。お願い。どうしても、手に入れて欲しいものがあるの。
サトウ …はい。
ヨシダ 船が欲しいわ。
ヨシダ退場
場面はオクヤマ、ハラダへ。サトウは下手で後ろを向いて座る。
G-A異変
オクヤマ 楽しいねえ。
ハラダ 何か楽しいことでもあったかい?
オクヤマ 気持ちいいねえ。
ハラダ そうかい、たくさんの観客の前で演奏できて嬉しいかい。
オクヤマ はは、通訳された。
ハラダ 通訳しました。
オクヤマ あははは。
ハラダ 楽しそうなので、ここでハラダ君渾身のおもしろを見てください。
ハラダ、おもしろ。
オクヤマ …。
ハラダ ハラダはお気に召さないの?
オクヤマ 火を点けてやりたい。
ハラダ ホステスか。
オクヤマ …よりによってホステスとは。
ハラダ 何かお作りしますかー。
オクヤマ ホステスか。あー、ストレスでファンデーションののりが…。
ハラダ ホステスか。絡みづらいなあ、とりあえず相槌だけうっとこう。
オクヤマ ホステスか。
ハラダ ホステスだよ。
オクヤマ 違うよ。
ハラダ NO.1だよ。
オクヤマ 嘘を吐け。
ハラダ ええと、NO.1だよ。
オクヤマ …やっぱ嘘じゃねえか。
ハラダ ホステスか。
オクヤマ もう、ホステスでいいよ。
ハラダ マジで?
オクヤマ 嘘だよ!
ハラダ 嘘かーい!(つっこむ)
オクヤマ うあああ!
オクヤマ、キーってなる。
ハラダ あれ、具合悪い?
オクヤマ 別に。機嫌は悪いけど。
ハラダ うまくないし、顔色悪いよ。
オクヤマ そんなことないよ。
ハラダ 顔ひどいよ。
オクヤマ うっせえやい。
オクヤマ、ふらつく。
ハラダ ほら、冗談抜きでさ。
オクヤマ 大丈夫だって。それより、早く歌いたいんだ。
ハラダ あそこ行くようになってからじゃないの?段々元気なくなってるよ。
オクヤマ 違うよ。むしろ、あそこに行くと元気になる。
ハラダ そうは見えないよ。
オクヤマ お前だって、あそこでやってると気持ちよくなるだろ?
ハラダ 僕は、別に。
オクヤマ ステージに立って思い切り深呼吸をしたら、ふわーっといい気持ちになるんだよ。
ハラダ ならないよ。
オクヤマ ああ、駄目だ。考えただけでもよだれが出る。
ハラダ よだれ?
オクヤマ ああ、早く行きたい。ハラダ、練習するぞ。
ハラダ いいけどさ…。
二人、後ろを向いて座る。
クメ、上手に登場。
G-Bネットオークション
クメ 便利ちゃん、便利ちゃん。
クメ、座る。
クメ アベ君に言われた貧乏顔はどうしようもないけど、その代わりに僕はこれを起動しますよ。起動。
クメはパソコンの電源を入れたようだ。
クメ ほんと、便利な世の中になったよね。家にいながら、どんなものでも手に入っちゃうんだから。そうです、便利なものの正体は、ネットオークションなのでした。うーん、親切。おっと、ログインして。ネットで探せば、絶対に金持ちっぽいものが手に入るぞ。…なんだお金持ちっぽいものって。
オクヤマ (へんなもの)
クメ いや、それはないでしょ。(とかなんとか)
ハラダ (へんなもの)
クメ それもちょっと。
オクヤマ (貧乏っぽいもの)
クメ 貧乏っぽいよね。
ハラダ (さらに貧乏っぽいもの)
クメ 貧乏そのものだよね。
オクヤマ (貧乏っぽいもの)
ハラダ (貧乏っぽいもの)
オクヤマ (貧乏っぽいもの)
クメ ああ、貧乏になる!心が貧しくなる!なんだ、この妄想。
オクヤマ・ハラダ すいませーん。
クメ いかんいかん。とりあえず、どんなものが出品されてるのか見てみよう。
ハラダ (貧乏っぽいもの)
クメ ない。あるかもしれないけど、あってほしくない。
オクヤマ なんでもあるよー、ドンキホーテには。
クメ ドンキじゃない。ネットオークション。お、時計かー。
ハラダ えー、時計?時計って腕時計だよね?そんなジャラジャラした腕時計したら重いだけでしょ。文字盤にまで変な宝石埋め込まれちゃってさー。時間わかんないじゃん。なに、時間わかんない時計って。「時間わかんないけど時計」か。略して時計か。時計じゃん。なに、意味わかんない。
クメ ああ、わかったよ。時計やめるよ。他に、高額のもの…あ、絵画。
オクヤマ えー?絵画?絵画って、だって絵でしょ?絵だよ?絵って…絵って!絵―だーよー?
クメ わかったわかった、絵もなしね。はあ、じゃあ、何がいいんだろ。車とか?…どうせ、免許持ってないだろーとかアレするだろうな。
ハラダ え、いいんじゃない?
オクヤマ 車なんて持ってるだけで金持ちっぽいじゃんか。
クメ ホント?じゃあ、車にしようかな。
オクヤマ・ハラダ えー、車―?
クメ 駄目なのかよ!優柔不断だなあ、僕。
オクヤマ …船.
クメ え?
ハラダ 船なんか、いいんじゃないかなあ?
オクヤマ ねえ、いいよねえ。
ハラダ ねえ、物語の進行的にねえ。
クメ どうなってんだ、僕の頭ん中。いくらネットオークションっていっても、船なんてあるわけが…あるんだねー。値段は…お金持ち価格だ。これだ。これしかない。早速入札しよう。…よし。これでアベ君から壷が買えるぞー。わあ、親切な展開。…あれ、他にも誰か入札してる。しかも、僕より高い値段だ。なんだよー。
サトウ、振り返る。
此処からは二人のオークション対決。
サトウ なんだ…オークションで船買うなんて私一人だと思ったのに、物好きもいるもんだな。出来るだけ足が着かないようにと思って、オークションを選んだが、何だこの船の名前。『○○丸』。
クメ くっそ、結構金持ってる人もやってるんだなあ。でも、負けないぞ。僕の顔が懸かってるんだから。これは僕と顔との戦いなんだから。
サトウ 粘るなあ。まあいい。金ならある。一気に吊り上げて諦めさせるだけだ。
クメ うわ、急に上がったなあ。残り時間も少ない。勝負に出たってわけか。でも、見てろよ。
サトウ 何、食いついた?意外に金持ってるな、こいつ。時間も迫ってる、まずいな。
クメ よし、入札が止まった。これは勝ったぞ。
サトウ 団長は必ず手に入れろといったんだ…よし。出し惜しみしても仕方ないからな。これでどうだ。
クメ えええ!?
電話の音。
サトウ 誰だ、こんな時に…。(モニターを見ながら)もしもし。
ヨシダ、登場。
ヨシダ 私です。
サトウ だ、団長!どうされました?
ヨシダ あの、船の件なんだけどね、
サトウ はい、大丈夫です。今、
ヨシダ あれムリだったら別にいいからね。
サトウ えー!
オクヤマ・ハラダ おめでとうございます。あなたが落札しました。
サトウ えー!!
クメ ちっくしょー!
場は続くが時間は少し進む。
ヨシダ ごめんねー。ほんっとごめん。
サトウ いいですよ、もう…。
ヨシダ まさかホントに手に入るとはなぁ、ラッキー。…あ、ごめん。
サトウ だからもういいですって。
ヨシダ 怒ってるー。
サトウ 怒ってません。
ヨシダ いかってるー。
サトウ いかってません。
ヨシダ いかれて、
サトウ ません。
ヨシダ よいやっさー。
サトウ …やっさー。
ヨシダ でも、これで足は用意出来た。サトウさん、出来る限りの食料を船に積んで。いつでも出航出来るように。
サトウ はい。しかし、団長がいない間、集会はどうするんですか?
ヨシダ ああ。いいわ。
サトウ いいわって…。
ヨシダ 私もう戻って来る気ないから。
サトウ え?
ヨシダ かいさーん。
サトウ 解散?そんな!
ヨシダ 大丈夫よ。あなたは連れて行くわ。
サトウ そういう問題じゃ…。
ヨシダ 私にはね、あなただけがいればいいの。
サトウ …団長。
ヨシダ あなたのお金だけがあれば。
サトウ やっぱりだ。
ヨシダ 私の使命に、必要ないものは、必要ないの。要らない物は、何にも要らないの。自分すら、要らない。目的を達成することだけが、私の生きる意味なのよ。意味なの。
サトウ …わかりました。二回ずつ。
ヨシダ あとは、あの子達ね。
サトウ 本当に、ついてくるんでしょうか?
ヨシダ 来るわよ。馬鹿だし。特にあの歌ってる子は絶対に来るわ。
サトウ …保険として、餌を撒いておくのはどうでしょう。
ヨシダ 餌?
サトウ はい。
ヨシダ、サトウ、退場。
H船上ライヴ?
入れ替わって、クサマ、アベ。
クサマ 船上ライヴ?
オクヤマ ふっふふー。
クサマ 本当ですか!
オクヤマ うん。ヨシダさんが取り仕切ってくれるんだって。
クサマ うおー!
アベ 解散…。
クメ ちくしょー!
ハラダ 彼らはどうしたの。
オクヤマ 知らない。
ハラダ それより、ホントにあのヨシダって人大丈夫なの?
オクヤマ 大丈夫って?
ハラダ 信用できるの?なんか胡散臭くない?
オクヤマ お前には言われたくないと思うぞ。
ハラダ 胡散臭くない?
オクヤマ 二度言うな。あの人は平気だよ。ただ胡散臭いだけだし。
クサマ やっぱ胡散臭いんだ。
オクヤマ それに、多少胡散臭いほうが、業界人って感じするじゃん。
クサマ すごい危険な考え方。
ハラダ …それもそうかな。
クサマ あ、納得した。
オクヤマ 皆絶対来てくれよな…。
オクヤマ、ふらつく。
ハラダ オクヤマ。
オクヤマ 何でもない。
クメ どうしたんですか。
ハラダ こないだからおかしいんだよ。顔色悪いし。
オクヤマ おかしいのは、前からだから。
ハラダ 自分で言うな。
クメ 確かに、顔色悪いですよ。
オクヤマ 顔が悪いのは…。
ハラダ 言うなら言えよ。
クサマ そんな体でライヴなんて、大丈夫なんですか?
オクヤマ こんな体でライヴなんて、大丈夫だよ。
アベ ライヴってヨシダさん来るんですか?
ハラダ え、うん。
アベ 僕、行きます。
クサマ え、アベ君いくの?
アベ アベ君、行きます。
クサマ なんで皆僕と話すときぎこちないの。じゃあ、僕も行こうかな。
アベ えー。
クサマ いいじゃんかよ。暗がりだし。
アベ げー。
クサマ 冗談だよ。
クメ 冗談好きだな。
オクヤマ クメ君も来るよね。
クメ あ、はい。もちろん行きますけど…船かあ。
オクヤマ 何?
クメ ○○丸。
オクヤマ はい?
ハラダ とにかくオクヤマ、無理はしないで。オクヤマが壊れちゃったら、僕嫌だからね。
オクヤマ お笑いできなくなるからか。
ハラダ …そうだよ!
全員、走って(or歌って)舞台端へ行き、後ろを向く。
サトウ、ヨシダ登場。
ヨシダ あら、意外といい船じゃない。
サトウ 意外といい値段しましたからね。
ヨシダ サトウさん、素敵よ。
サトウ ありがとうございます。
ヨシダ この船。
サトウ でしょうね。
ヨシダ 積み込むもの積み込んだし、今、無敵よ、この船。
サトウ 準備は出来ましたね。
ヨシダ ミサイルにも負けないわ。
サトウ 負けますね、おそらく。
ヨシダ 核よ。この船は今、核なのよ。
サトウ …うん。勢いは。
ヨシダ あの子達早く来ないかしら。
間。
ヨシダ え、リアルに待つの?
サトウ リアルって?
ヨシダ こう、親切にいこうよ。私待たされるの嫌いなのよ。
サトウ ホステスか。
ヨシダ 何?
サトウ いや…。
ヨシダ ああ、もう、親切!(ポーズ)
ハラダたち、振り返る。
サトウ あ、来ました。
ヨシダ 時空を超えたのね。おーい。(とかなんとか言って手を振る)
ハラダたち、手を振る。
ヨシダ 手を振ってるわ。
サトウ 振ってますね。
ヨシダ 馬鹿みたいだわね。
サトウ 馬鹿みたいですね。
ヨシダ 馬鹿じゃねえの!(叫ぶ)
サトウ 聞こえますよ。
ハラダたち、すっ転び、立ち上がって手を振る。
サトウ あ、聞こえてはなかったみたいです。
ヨシダ (大声で)待ってたわよー。早くいらっしゃーい。
ハラダたち、わーとか言って前に来る。
アベはヨシダを崇める格好をしている。
オクヤマ おおお!ホントに船だよー。
ハラダ おおお。
クメ おおお…。
オクヤマ テンション上がってきたー。
ハラダ 浮いてるしね。
オクヤマ …浮いてるっしねっ。
ハラダ 浮力ね。
オクヤマ 浮力っねっ。
クサマ オクヤマさん困ってますよね。
クメ それにしても、僕らの他に人いませんね。
クサマ っていうか此処人っ子一人いないよ。
オクヤマ いくぞてめいら!
クサマ 急に兄貴キャラだ。
ハラダ・アベ 急に兄貴キャラだ!
クサマ・クメ えー?
ハラダたち、走って別の場所へ。(この辺りは、ヨシダ・サトウとの場所の入れ替わりで表現できそう)
船の中。
オクヤマ うおお、すげえ、船ん中ってこんなんなってんだー。
ハラダ 船だー。
クメ 船だ…。
サトウ っていうか、普通に船だ。魚群探知機とかある。
ハラダ メカだー。
サトウ もうちょっとシャレた船なかったのかな。これ漁船じゃん。
オクヤマ でかけりゃいいんだよ。
クサマ いいんですか?
オクヤマ いいっていってよ!
クサマ あ、ちょっとは嫌なんだ。
アベ、舞台袖へ向かって。
アベ おおうえ!
クメ 大丈夫?
アベ 酔いました。おおうえ!
クメ まだ動いてないのに!
アベ 大丈夫です。おおうえ!
ヨシダ きゃー。
オクヤマ ヨシダさん。
ハラダ 妖怪人間。
クサマ 妖怪?
オクヤマ すいません、こんな…大きな船用意してもらっちゃって。
ヨシダ いいえ、船を用意したのはサトウさんだから。
ハラダ やるな。
オクヤマ こら。ありがとうございます。
ハラダ やるな。
オクヤマ 怒られたら一回でやめろ。小学生か。
ハラダ 中学生だ。
オクヤマ 立派な嘘吐きに育ちやがって!
ハラダ 恐縮です。
オクヤマ ま、いいや!
クサマ あの、今日って、どれくらい入るんですか?
サトウ え、ああ、結構入る予定。
クサマ アバウト。
サトウ っていうか、連れがいるってのは予定外。
クサマ え?
サトウ いや。
サトウ、吉田を連れて。
アベ おおうえ!
クサマ ああ、吐いてるなあ。(時計を見る)もうすぐ時間ですよね。
サトウ どうします?彼ら。
ヨシダ うーん。
クサマ 他のお客さんは?
ヨシダ うーん。
サトウ 団長。
ヨシダ 出航!
オクヤマ以外 えー!?
ヨシダ ぼー。
サトウ 蒸気船じゃないのに!
船、動き出す。皆、船の揺れを表すマイムを適当に。
クサマ (マイム)やるならちゃんとやれよ。
アベ あ、楽になった。(戻る)
クメ 動き出したのに?(追って戻る)
オクヤマ 船が出たー!
オクヤマ、客がいないことに気付かずはしゃいで外へ。(退場)
クサマ 客は?
ハラダ メカだー!
サトウ 団長、こいつらまで連れてっていいんですか?
ヨシダ うーん、やっちゃった。
サトウ えー、考えなし?
クサマ ちょっと、どういうことですか?
ヨシダ うー…。
ヨシダ、外へ逃げる。
クサマ あ、逃げた!
ハラダ、クサマ、追って退場。
サトウ だ、団長。
クメ、おおいに驚く。
クメ 親父。
サトウ …ショウタ?
アベ、空気を読んで退場。
クメ 親父、何でこんなとこにいるんだよ。
サトウ お前こそ、何で此処に。
クメ いや、親父こそ、
サトウ いや、お前こそ、
何か、グダグダになる。
クメ いいよ、こういうのは。
サトウ 久しぶりだな。
クメ …うん。
サトウ そうか、お前が彼らを。手紙は読んでくれてたんだな。ありがとう。
クメ 別にあんたのために読んだんじゃない。あの人たちの役に立ちたかったんだ。
サトウ そんなに彼らが好きか。
クメ ああ。少なくともあんたよりはずっとね。
サトウ そうか。
クメ っていうか、あのオーディション、審査員やるなんて聞いてないよ。
サトウ ああ、言ってないからな。
クメ 言えよ。
サトウ っていうか、私が主催だからね、あのオーディション。
クメ ええ?
サトウ 私が勝手にやってるの。会社の他の人もほとんど知らない。
クメ なんだよそれ、なおさら言えよ。あの人たち一回落したんだろ。
サトウ あ、まあ…でも、ヨシダさんが拾ってくれたわけだしな。
クメ 拾うって言うな。そのヨシダって人は会社の人?
サトウ ああ、いや、私がお世話になった人だよ。
クメ 胡散臭いなあ。
サトウ 胡散臭いよなあ。
クメ あんたが言うな。
気まずい間。
サトウ なあ、お金は足りてるか?
クメ 大丈夫だよ。
サトウ 足りなくなったらいつでも言えよ、父さんなあ、結構稼いでるん…。
クメ うるさいなあ!大丈夫だって言ってるだろう!
サトウ そんなムキになるなよ…。
さらに気まずい間。
サトウ 母さんは、母さんはどうしてる。
クメ …。
サトウ 母さんは、元気か。
クメ …死んだよ。
サトウ え?
クメ 死んだよ!死んだよ母さんは!とっくに死んでんだよ!
サトウ …そんな。
クメ あんたが出てってから暫くして、母さんは病気になった。それから、すぐだよ。すぐに逝っちゃった。
サトウ …悪い冗談はよせ。
クメ 冗談なもんか!
サトウ …ホントなのか。
クメ 母さんは死んだ。…あんたから送られてくる二人分の生活費。どうすればいいかわからなかった。だって僕は一人だったから。毎月、二人分。どうすればいいかわからなかった。
サトウ 知らなかったんだ。
クメ わかんなくて、でも何か言いたくて、言えなくて。どんどん、うまく、話せなくなっていった…そんな時に、あの人たちと出会った。僕が言いたいこといえないときに、なんか、全部言ってたんだ。言ってることはよくわかんないよ?でも、でも、とにかく全部言ってるってことはわかったんだ。無性にかっこよかった。…あの人たちのために、お金使おうと思ったんだ。いや、使ってもらおうと思ったんだろうな。だって、あのお金がある限り、僕は、あんたを、許せそうに無かったから。実際許せなかった。許せない。
サトウ すまん。
クメ あやまんなよ。許せないって言ってるだろ。
サトウ 忙しかったんだ、仕事のこと以外、何も手が回らなかったんだよ。
クメ やめろよ。この期に及んで言い訳すんなよ。
サトウ 言い訳なんかじゃ、
クメ やめてくれよ!あんたのこと、嫌いになっちゃうよ…。
サトウ、何もいえない。
クメ 何処連れてく気だよ。俺から、あの人たちまで取らないでくれよ。
サトウ …。
クメ 汚い話だけどさ、必要とされてればそれでよかった。たとえお金だけでも、僕を必要としてくれる人が欲しかったんだ。欲しかったんだよ。
サトウ 私もだ。給料が振り込まれるたびに、私は家族を捨てて、仕事を選んだってことを思い知らされた。怖かったよ。毎月毎月金ばっかり増えていくのが。宗教に落ちるなんてのはわかりきってたことなのかもしれんな。
クメ 宗教?
サトウ はじめは、少年から壷を買っただけだった。
クメ 壷?
サトウ そのうち、あの集会のためにと金を寄付するようになって、あの人喜んでな。すぐに幹部にしてくれたよ。会社でも、集会でも、幹部になってしまったよ、ははは。
クメ 壷…。
サトウ あの人は純粋に、ただ純粋に喜んでくれた。私の金を、なんの遠慮もなく使ってくれた。金でなら、あの人の役に立てるって思ったんだ。悲しくなんか無かったよ。むしろ、気持ちよかった。本当だよ。本当に。気持ちよかったんだ。
クメ 馬鹿だよ、あんた。
サトウ そうだな、私は馬鹿だ。
クメ 僕と一緒だよ。僕達、馬鹿だ。
ヨシダ、逃げ帰ってくる。
オクヤマ以外の他のもの、追って入ってくる。
ヨシダ サトウさーん、あの子達怖い。
クサマ 僕たちをどうする気だ。
ハラダ 肉を食わせろー。あわよくばセロリをー。
アベ 団長―。
ヨシダ きゃー。
サトウ 団長。
ヨシダ あ、あなたたち不自然なのよ。不自然はいらないの。
クサマ 不自然?
ヨシダ あなた(クサマ)は、何か、何か突然その子(アベ)に発情するし。その子はその子で私に何かアレだし。
ハラダ 僕の何処が不自然だって、
ヨシダ 不自然でしょう!あなたは、存在が、不自然じゃろう!早く、あの子連れてきなさいよ。
ハラダ オクヤマは不自然じゃないの?
ヨシダ 自然よ。
一同 えー。
ヨシダ 自然よ。あの子は、この国の人間の思ってることを、自然に言ってるわ。わかりづらいわかりづらい言ってるけど、案外普通なのよ。彼。
オクヤマ あ、オクヤマに普通って言ったら怒るぞー。
クメ アーティストって、自分は他人とは違うんだって、思い込んでますからね。
ハラダ そうそう。
クサマ アーティスト批判はいいから。
サトウ 団長、私も聞いておきたいのですが、どうして自然な言葉にこだわるんです。
ヨシダ …まあ、隠してたってしょうがないわね。どうせいずれわかるんだし。この国の言葉を盗むのが、私に与えられた仕事なのよ。
ハラダ 盗む?
サトウ 以前にも聞きましたが、盗むってどういうことなんです?
ヨシダ 持って帰るのよ、国に。そして、教えるの。国民に。
サトウ 国?
クサマ 国民?
ヨシダ あれー?言ってなかったかしら、私外国人よ。異人さんよ。
一同 えー?
クサマ 確かにヘンな人だとは思ってたけど。
サトウ すごく変なだけだと思ってた。
ハラダ 外人かー。やられた、妖怪じゃなかった。
ヨシダ 先進国にスパイを送り込むためにね、言葉を教えるの。つまり、私はスパイのためのスパイね。
サトウ スパイ…。
ヨシダ ホントは私がしっかり言葉を覚えればいいのだけれど。如何せん、センスがのうてな。えへ。
一同 えへって…。
ヨシダ きゃー、国民総つっこみ。
クサマ じゃあ、僕達、外国に連れてかれるんだ。
ハラダ 初めての海外旅行は拉致でした。
クメ・サトウ 親子で…。
ヨシダ 大丈夫よ。悪いようにはしないから。
沈黙。
オクヤマ (入りながら)客がいねえぞ!
一同 遅!
オクヤマ ヨシダさん、どういうことですか!
ヨシダ えー、最初っからせつめいすんのー?
一同、それはだるいとかなんとか。
ヨシダ あのね、私、外人なの。
オクヤマ …ふげらぱ!(とびちる)
ヨシダ あとは、察して。
オクヤマ 察した。
ハラダ マジで?
オクヤマ ふざけんなよ、今まで騙してたってことかよ。
ヨシダ そんな…利用してただけよ。
オクヤマ そうか、利用してただけか…ってなるかい!!
ハラダ 下手糞!
オクヤマ すいません。俺の歌はなあ、国語の教科書なんかじゃねえんだよ。表現なんだよ。俺自身なんだよ。
ヨシダ じゃあ、言わせてもらうわ。言葉を盗むことは、私自身なの。その為に育てられたの。アイデンティティなの。そう簡単に奪われてたまるか。
オクヤマ そんなの知るかよ!
ヨシダ 私だってあなたのことなんて知らないわよ。世界はね、自己中心的に出来てるのよ!サトウさん、そろそろ沖だわ。舵を取って。
クメ 親父!
サトウ ショウタ…お前まで怖い目にあわせてごめんな。私は、父親失格だ。
クメ 親父!
ヨシダ 早く。
サトウ、はけながら、
サトウ 最後に、世界を見せてやる。
サトウ、退場。
クメ 親父!
ヨシダ きゃー、里帰りよー。
オクヤマ ちくしょー!
オクヤマ、ヨシダに飛び掛るが、スプレーをかけられる。
オクヤマ あー、ヘンな臭いする!
ハラダ アレだ、オクヤマをヘンにしたのは。
オクヤマ ちがーよ、あー、ヘンにしたんだよ。
ハラダ あー、ヘンになってる。
オクヤマ ぐー。
ヨシダ そうだわ。今のうちに静かにさせておきましょ。
一同、ハラダの後ろに隠れる。
ハラダ 何で僕なんだよ。
クサマ なんか、強そうだから。
ハラダ もやしっ子だよ。
ヨシダ いくわよー。
一同 うわー。
ハラダ (一発ギャグ・ギターを鳴らす)
ヨシダ、吹っ飛ぶ。
一同 えー?
ヨシダ な、何よー!
一同 うわー。
ハラダ (一発ギャグ・ギターを鳴らす)
ヨシダ、吹っ飛ぶ。
クサマ 何か出てる!何か、ビームみたいの出てる!
ハラダ ええい!(ギターを鳴らす)
ヨシダがおののいている間に、オクヤマがスプレーを奪い、蓋を外して一気に飲み(?)干す。
オクヤマ とったどー!
オクヤマ、倒れる。
クサマ 今だ!
皆でヨシダを取り押さえる。
ヨシダ くそー。何すんのよ。
クメ それは、こっちの台詞だよ。
ヨシダ 離して!こんなの、駄目よ!
クサマ あのね、拉致って犯罪だよ。半端ないよ。国際問題にだってなりかねないよ?
ヨシダ そんなちっちゃなこと言ってられないのよ!
ハラダ ちっちゃくねーぞい!
ヨシダ 待ってるのよ、国で、私の帰りを。私の任務を。
ハラダ そんなの知ったこっちゃないよ。
ヨシダ 帰らなきゃいけないのよ!私が帰んないと、負けちゃうのよ!負けちゃうのよ!
ハラダ 何にだよ!
ヨシダ 戦争によ!
全員、手を離す。
ヨシダ 開放?
クサマ …え、なに、もしかして、あんたの国って、あの国?
ハラダ あの国だろ。
クメ あの国ですね。
ヨシダ 何よ、皆して人の国をあの国あの国って。とにかくね、私が行かないと戦争が、
アベ 戦争は、終わりましたよ。
ヨシダ …え?
アベ 戦争は、終わりました。
ヨシダ 冗談よしてよ。
アベ ずいぶん前ですよ。知らなかったんですか?
クサマ すごいよ、受け売りだけで人を追い詰めてる。
ヨシダ そんな…どうすんのよ。私。
アベ 僕を捨てた罰ですよ。
クメ 彼を捨てると戦争が終わるんだ。
ヨシダ どうすんのよ、無くなっちゃった、アイデンティティ。どうすんのよ。どうすんのよ。
ハラダ 帰ろうよ。一緒に。
ヨシダ 嫌。目的のない人生なんて、絶対嫌。イヤ。イヤー!
ヨシダ、走り去る。
アベ 団長!
クサマ、追いかけて舞台袖へ。
クサマ うわあ!
ハラダ どうしたの?
クサマ 飛び込んだ!海に!
ハラダ・アベ えー?
クサマ (戻りながら)マジかよ…。
アベ、クサマと入れ替わりに走って袖へ、そして退場。
クサマ アレ、死んだかな?
クメ 死んだんじゃない?随分沖に来てるだろうし。
クサマ そっか…そうだよな。
ハラダ でも、これで帰れるじゃん。
クメ それはそうですけど、えらいドライだなあ。
ハラダ まあね。
クサマ 褒められたと思ったんだろうか。
クメ でも、リアリティないな。人死んでんのに。
クサマ そうだね。
ハラダ 表現力のせいだ。
クサマ 内緒にして。でも、これで帰ったとしても、もっとリアリティのない生活に戻るんだろうね。
クメ なんだかな。
ハラダ なんだかなー!
クサマ とにかく、帰ろう。
アベの声 わー!
クサマ どうした?
アベ、戻ってくる。
アベ 吊った!あのひと、ネクタイで首吊った!
一同 えー?
アベ なんか、こう、(ジェスチャー)舵のとこにうまい具合に、こう、
クサマ よくわかんないよ!
アベ とにかく、舵が動きません!
一同 えー?
クメ 親父―!
クメ、退場。
クサマ えー…。
ハラダ はあ…。
クサマ、アベ、ハラダ、大きくため息をつき続ける。
そのうちに、波の音入ってくる。
そのまま、最初の場面の続きにつながる。
エピローグ
オクヤマ、叫びながらハケる。
クメ オクヤマさん、行っちゃいましたよ。
ハラダ 何か見えたのかな?
アベ でも、もう外真っ暗ですよ。
ハラダ そうだよね。
ハラダ、ギターを弾き始める。
クサマ ちょ、ちょっとハラダさん。ぴりぴりするんでやめてくれません?
ハラダ え?(ギターを鳴らす)
クサマ イタイイタイ。それそれ。また、なんか出てますよ。
ハラダ ああ、ごめん。自分じゃ調節できないんだ。
アベ いつからこんなんなっちゃったんですか?
ハラダ こんなんってひどくね?ああ、昔、雷に打たれてからかな。
クメ 雷?
ハラダ うん。それ以来、漏電するようになっちゃって。
クサマ 漏電っておかしいですよね。
ハラダ いや、するのよ、これが。充電しすぎると、余計な分が出ちゃうからあぶないのよ?
クサマ 充電?
ハラダ うん。しないと動けなくなっちゃうから。
クサマ ロボットじゃないんだから。
ハラダ、ロボットダンス。
クサマ 嘘を吐け、お前は人間だ。
ハラダ ホントだよ。しいて言えば、人間になりたかったロボ。
クサマ ねこじゃん。
クメ でも、確かにそういわれると納得できる節も…。
ハラダ だからね、僕のメモリには限界があるんだ。新しいこと覚えると、どんどん忘れてっちゃう。
クサマ それで、僕のこと…いやいやいや。
ハラダ 僕ね、怖いんだ。いつか、自分のこと忘れちゃうんじゃないかって。時々さ、自分がロボットだってことも忘れちゃいそうになるから。
アベ そうなんですか。
ハラダ でもね、それ以上に、オクヤマのこと忘れるのが怖いんだ。あいつのことは絶対に忘れたくない。だから、ずっと一緒にいたいんだ。
クメ ハラダさん。
ハラダ 好きなんだ。あいつのこと。
アベ ハラダさん。
小間。
クサマ じゃあ、僕も言う。
クメ え?
クサマ 好きなんだ。アベ君のこと。
一同 えー。
クサマ 一目見たときから、いやらしい意味で好きなんだ。
アベ えー。
クサマ、アベを抱きしめる。
クサマ だから、もう、あいつのことなんて忘れろよ。僕は、君のことちゃんと見てるから。
アベ …。
アベ、クサマの背中に手を回す。
ハラダ 受け入れたー!
クメ おめでとう!
ハラダ えー?
オクヤマ (入ってきて)見えたー!
オクヤマ、アベとクサマにちょっと引きながら。
オクヤマ 陸!陸見えた!
クサマ え?でも外は…。
オクヤマ 見えたー!歌えるよ!
ハラダ こいつには見えたんだよ。
オクヤマ 早く、行こうよ!きゃー!
ハラダ おう、行こう。
クメ ハラダさん。
ハラダ 僕は、信じるよ。オクヤマには見えたんだ。
アベ でも、
ハラダ あんなんなっちゃったけどさ、まだあいつ歌う気なんだよ。だったら、僕はとことん付き合う。あいつは、僕の相方だからね。
オクヤマ 相方って言うな!
ハラダ はいはい。信じたって、信じなくったって、この世は何が起こるかわかんないんだ。どうせわかんないんだったら、信じてみようって思うんだ。
オクヤマ ハラダー。
ハラダ はーい。
ハラダ、オクヤマ、退場。
クメ 僕も、あの人たちについてく。決めた。そう決めた。
クサマ …僕たちも、一緒だよな。
アベ はい。
全員、退場。
大音響、と共に全員が戻ってきて、笑いあう。
照明FO
オクヤマに何かが見えていたかは、誰にもわからない。
ハラダが本当にロボットなのかも、誰にもわからない。
このあと彼らがどうなったのかも、誰にもわからない。
しかし、唯一つ言える事は、
唯春の夜の夢の如し。
終わり。