学院演劇部第二期卒業公演 津留正和


CAST
バスドライバー高山…高山渓
ボンバー奥山…奥山雄太
高校生原田…原田浩司
山本…山本圭介

MC・音響・照明…津留正和



 場所はバスの中。高山が運転、客として座席に座る奥山と原田。山本、一番後ろで毛布をかぶって動かない。山本は人間として扱わない。

原 すいません、まだ出発しないんですか?
高 もう少々お待ちください。
奥 どうしたんですか?
原 いや、おかしいじゃないですか
奥 何がですか?
原 だってドア閉じてから、随分たちましたよ
奥 まあ、そうですよね。急いでるんですか
原 あ、ええ。そんな感じです
高 後5分ほどで発車します。
原 遅くないっすか。
奥 まあまあ、運転手さんだって好きで後れてる訳じゃないんだし
原 ここだってバス停から20メートルくらい離れてますよね。適当すぎませんか。
奥 まあまあ、運転手さんだって神じゃないんだし。
原 初心者でももっとうまく行くよ。だってプロでしょ。
奥 あ、プロってのはプロトタイプのプロですよね
原 (高山に)ちょっと、なんで行かないんですか。
高 疲れた
原 はあ?
奥 まあまあ、運転手さんだって好きで疲れてるわけじゃないんだし
原 お前はなんだよ
奥 津留さんだって疲れてるんですよ
原 なんで名前知ってるの?
奥 俺このバスよく使うんですよ。
原 へえ。
奥 なんであなたこのバスに?
原 え?
奥 あなた、学生さんでしょ。
原 あ、はい、高3です。
奥 若いねえ。
原 あなたは?
奥 俺、20。パチプロ。何してるの、こんな昼間に。
原 いや、ちょっとした旅ですよ。
奥 客俺たちだけだよ。
原 へえ。
原 あなたはどこに。
奥 とりあえず、終点まで。毎日こうやってるんだ。
原 へえ
奥 でも、どうしてここに来たの?
原 え?
奥 何にもないでしょう。
原 何がですか?
奥 思った以上になんにもないところでしょ。
原 正直、思いましたよ。
奥 へんぴなところだよね、八王子って。
原 はい、こんなに酷いとは思いませんでした。
奥 君、名前は?
原 原田です
高 僕は原田じゃないですよ
原 分かってます
高 バスドライバーです
原 うるさいです。あなたのお名前は?
奥 あ、ハンドルネームでいいですか?
原 不都合でも?
奥 ないですけど。
原 いいですけど。
奥 俺は、ボンバー奥山って言います。
原 理不尽
奥 まあ、リングネームですから。
原 プロレスの方ですか?
奥 あ、そうです。
高 僕はプロレスの方じゃないです。
原 ですよね。
高 プロバスドライバーです。
原 (奥山に)このバスはいつ出るんですかね?
高 あと5分
原 のびちゃったよ
奥 津留さん沖縄出身だから。
原 そうじゃなくてさ。だから発車してくださいよ、ねえ、津留さんでしたっけ?
高 高山です
原 え、だって津留さんって
奥 よし
原 え、どうしたんですか
奥 さっきあなたが乗ってくる前にかけたんだよ、津留って名前あなたに呼ばせたら俺の勝ち、呼ばれなかったら、高やんの勝ち
原 高やん?
奥 そういう関係なの
原 分からないよ
奥 約束は守ってもらうからね、負けた方がボウズって
高 ちくしょー(帽子を取るが、既にボウズ)
原 意味ねえだろが。

 高山、奥山の隣に移動

高 お前さあ(奥山に)、今日乗る前タイヤのとこいじってたろ。
奥 ああ、落し物したんだよ。ごめんね。
高 落とさねえだろあんなとこ
奥 あ、それよりさあ、高やんなんで先週こなかったの?違うドライバーだからがっかりしてたんだよね。
高 ああ、ごめん。ちょっとした一大事があってね
原 程度分からねえよ
奥 まあ、高やんが無事で良かった。
原 なんだよこのバス。
高 すいません、一つ報告があるんです。
奥 何、なんでも言ってよ、俺たちの仲じゃん
原 うぜえ
奥 悲しい報告、嬉しい報告?
高 両方ですね
奥 なーに、高やん
高 えー、この車、なんと、動きません。
奥 あー、そっち系ね
原 どこが嬉しいんだよ
高 ボンバーと一緒にいる時間が増えるだろ
原 二人でどっか消えろよ
奥 しょうがないよ、高やんのせいじゃねえよ
高 おう、ありがとうな。て言うか寿命なんだよ。車だって生きてるんだよ。だからこいつはもう十分ってとこまで働いてくれたんだけどさ
原 だったら先になんとかしとけよ
奥 まあ、原やん落ち着いて
原 馴れ馴れしいよ、なんだ原やんって。
奥 ああ、でもねえ、高やんお願いがあるの
高 なんだい、シャクレ
原 出てないじゃん
奥 今からやること、見なかったことにしてよ。俺がずっと前から計画したことだから、許して欲しい
高 いいよ。
原 何するんだよ
奥 俺ねえ、バスジャックする
原 え?
高 え?
原 あなた何言ってるのか分かってるの?
奥 決めたことなんだよ
高 待て、理由だけは聞かせてもらおうか
原 そうだ、なんでこんなことするんだよ。
奥 刺激だ、刺激が欲しかったんだよ。
高 分かった
原 はあ?
奥 じゃあ、お前ら俺の言うこと聞くんだぞ。言うこと聞かないやつはぶっ殺すぞ。
原 待って、やめとこうよ。
奥 うん、ごめんね、大丈夫。高やんと原やんには迷惑かけないから
原 他に誰いるんだよ
奥 女とガキは逃がしてやる
原 いねえよ
奥 おい、早く車を出せ。
高 どこにですか?
奥 どこでもいい。とにかく出せ。
高 分かりました

 高山、運転席に移動

原 車走らないんだろ
奥 なんとしても動かせ、是が非でもだ。一般道を20キロオーバーで走れ。
原 意外としょぼいな。
奥 とにかくぶっぱなせばいいんだよ。行こうぜ、ピリオドの近くへ。
原 そこ乗り越えろよ。
高 無理です。動かないんです。
奥 何が無理なんだ。出来るに決まってるだろ
高 素人に何が分かるんだ
奥 しゃあねえ、じゃあいいよ。
原 根気がないなあ
高 俺はな、プロのバスドライバーだ。会社に連絡されてたらどうするつもりだ。
奥 してねえじゃねえか。
高 緊急用のボタンがあるんだよ
奥 そんなもんあるわけないだろ。
高 どうして分かるんだ。防犯対策、客商売の基本だろうよ
原 高山さん、ありがとうございます
奥 嘘だろ
高 嘘じゃねえよ
奥 嘘だったら3発殴るぞ
原 もっと恐いこと言えよ
奥 嘘だったら都庁燃やすぞ
原 実質被害ねえよ
奥 俺分かるんだよ、そんな機能ねえよ。前に高やんに運転席いじらせてもらったから知ってるんだよ
高 防犯対策のためだ、お前でもそこまでは教えられない
奥 高やんひどいよ。
高 ごめんな、まだ通報してないから安心しろ
原 なんで言っちゃうんですか。
奥 じゃあ、やっていい?
高 いいよ。
奥 じゃあ、お前ら、俺の言うものを用意しろ
原 なんなんすか
奥 いいから用意しろ
原 何を?
奥 それはお前らが考えろよ
原 はあ?
奥 だって考えてないもん、とにかくジャックりたかったんだよ
原 はあ。
高 なんでもいいんだよ、お前のやりたいことないの?
原 親身になるなよ
奥 じゃあ、ジュースを買ってこい
原 レベルが低いな
高 何にする?
奥 クーの、春菊味
高 開発中だよ
原 売りだせねーよ
奥 じゃあ、力水
原 多分売ってねーよ
高 買いにいってきます
奥 おう、釣りはとっとけ
原 金渡してねえよ

 高山バスを出る

奥 待て、お前このバスから出るってなんだよ
原 お前が頼んだろ
奥 とにかく中にいろよ
高 どうすればいいんですか
奥 俺に聞くなよ、お前が決めていいよ
原 バスジャックやめちまえ
奥 やめねえよ
原 あのね、さっきから聞いてりゃね、あんたの遊びに付き合ってる暇はないんですよ
奥 遊びじゃねえよ
原 遊びだろ。ただ、みんなに迷惑かけてるだけだろ。
高 二人だけどな。
奥 僕は本気なんだ
高 いくらお前でも許せないよ。お前最低だよ
原 そうだよ、自分のやったこと考えてみろよ
高 言い過ぎだろ
原 お前なんだよ。
奥 とにかく、俺はやめないからな。
原 武器は?
奥 へ?
原 お前、武器持ってないの?
奥 必要ないよ
原 なんでだよ、じゃあ降りるぞ
奥 甘く見るな、俺の武器はよう、俺の心だから
高 かっこいいよう
原 お前うるさい
奥 俺には超能力がある。人の心が読めるんだ
原 ばかばかしい
高 じゃあ、俺の心を読んでみろ
奥 分かった。

 奥山、高山の乳首をつまむ

奥 お前は今、このバスから出たいと思っている
高 当たってる
原 そりゃ当たるわ

 奥山、離す

高 じゃあ、俺が宮崎あおいが好きか読んでみろ?
原 なんだそれ
奥 あ、宮崎あおいいいよね。どういうとこ好き?
高 やっぱ強気なところかな

 奥山、つまむ

奥 なるほど、好きなんだな
高 なぜ分かった
原 分かるだろバーカ
高 じゃあ、俺がブリーフ派でトランクス派じゃないことを当ててみろ
原 答え言っちゃってんじゃん
奥 (間があり)それは分からない
原 お前もいいから。

 奥山、離す

奥 原やん、いや、リスペクト原やん
原 勝手に変えるなよ。
奥 お前の心も呼んでやろうか
原 だからいいってば。

 奥山、原田の乳首をつまむ

奥 お前は今、日常に満足していない。この世界を変えてしまいたい。でも、自分には何もできないって嘆いている
原 何言ってるんすか、馬鹿馬鹿しい。
奥 俺が本気を出せば、すげえことが起きるよ
高 とにかくな、お遊びが過ぎたよ。不毛な時間を過ごしたよ。
原 そうですよ、てか普通にバス出しましょうよ。
高 それは出来ないんだよ
原 じゃあ会社に電話してくださいよ、そしたら代わりのバスでも来ますから。
奥 無視するなよお前らは。俺の目的はな、俺の目的はな、
原 なんだよお前は
奥 俺と一緒にやって欲しいんだよ
原 だからそれはなんなんですか
奥 俺には分からないんだ、お前が決めてくれよ
原 とにかく、連絡してくださいよ。早く行きたいんですよ。
高 どこに行きたいんだ
原 だから、西八王子ですよ
高 何するの、あんなところで
原 え?
高 あんた、学生さんだよね。何してるの、こんな真昼間から。あんたも何かあるんでしょ。ここに来た訳がさ。
原 ないですよ。
奥 誰も俺のことを分かってくれないんだ
原 何?
高 それにこのバスは発車しませんよ。会社と連絡も取れません
原 なんでですか?
高 このバスね、廃棄車なんですよ。会社の倉庫から持ってきました。
原 なんでですか。
高 先月リストラされたんですよ
原 え?
奥 高やん?
高 まあ、しょうがないんですけどね。
奥 高やん、生活どうするのさ。
原 それよりさ、なんでこの人がバス乗ってるかだよ
高 なんか、悲しくて会社に立ち寄ったんですよ。そしたらさ、こいつが。僕と同じに見えたんですよ。まだ動けるのに、捨てられちゃっててさ
原 何やってるんですか?警察に連絡しますよ
奥 やめてよ
高 バスに乗ってない自分は自分じゃないんです
原 え?
高 恐いんですよ、働いていないと
原 じゃあ、他に仕事探せばいいじゃないですか?
高 だめなんだよ、バスじゃないとだめなんだよ
原 え?
高 本当はね、宇宙飛行士になりたかったんだ。ちっちゃい頃からずっとさ。でも、いくら頑張っても僕には無理だったんだよ。
奥 宇宙かあ。いいなあ。
高 で、仕方なしにバスに乗り始めた。そしたら、まんざらじゃないんだよな。バスで何したいかって言ったら、人のために運転するってことだね。俺でも役に立てるんだって。やっと生きがい見つけてんだって。
原 でも、このバス壊れてるんですよね。
奥 バスなんて壊れてないよ
原 え?
奥 最初から壊れてなかったんだよ
原 はい?
奥 壊れてないよ、壊れてるのは高やんだよ
原 何?
高 その通りだ、このバスは動くよ
原 え?
高 動くんだよ
原 じゃあ、なんで運転しなかったんですか
高 恐かったんだよ
原 何?
高 バスドライバーとして、切り捨てられたわけだから
奥 高やん
高 だって、僕いらないって言われたんだぜ。僕必要ない人間な訳じゃん。
奥 そんなことないよ。高やんだけだもん、僕と話してくれるのは。
高 奥やん。
奥 高やん
高 奥やん。
奥 高やん
高 奥やん。
奥 高やん
原 やめましょう。僕の方が、よっぽど役にたたない人間ですから。
奥 原やん
高 原やん
原 僕なんか
奥 バスジャックって聞いてさ、生きてて何かしたかったんだ。証じゃないけど、俺にもこんなことできたんだぜって。結局何も変わらなかったけどさ。
原 奥やん。
高 バスジャックって聞いてさ、本当はちょっとワクワクしたんだ。なんか恐いけどさ、僕の中で、なにかが弾けたって言うかさ
原 僕もドキドキしてます。何か、今までで一番ドキドキしてるかもしれません。
奥 あのね、本当はこのバスに、爆弾仕掛けたんだ。
原 え?
奥 タイヤの部分に取り付けた。このバスが動くと爆発するようになってる
原 なんで?
奥 死のうと思ってたんだ。でも、一人で死ぬのってアレじゃない。バスなら思い入れ深いし。
高 お前、死にたいのか?
奥 ……あはは。嘘だよ。死ぬ訳無いじゃん
高 嘘じゃないだろ、お前?
原 なるほどね。
高 なんでお前落ち着いてるんだよ
原 嘘に決まってるじゃないですか。こいつがそう言ってるんですから
奥 で、どうする?
原 行きましょうよ
奥 どこに?
原 どこでもいいんです、とにかくここを出ましょう
高 分かりました。みんなでやりましょう、バスジャック。
原 もうバスジャックじゃないですけどね。
奥 降りるの、原やんは。
原 降りないよ、原やんは。
奥 やったー。
高 必要のないバスと、必要のない人間が集まったのか
奥 なんかいいんじゃないの?
高 良くないけどさ、いいんじゃないの?

 間

原 そうだ、宇宙に行きませんか?
高 宇宙に?
原 宇宙にですよ。
奥 何言ってるの?
原 行きたいですよね、宇宙
高 行きたいな
奥 行ってみたい
原 宇宙に行けるんですよ、このバスなら
高 え?
原 宇宙に行けるんですよ、僕達なら
原 このバスは、発車したら飛び立つんです、宇宙へと。

 間

奥 こいつのいうこと、俺は信じることにします
原 行ってみませんか、宇宙に。
高 行きたいけどさ。
奥 行こうよ
原 このバスは宇宙船です。
奥 そうだ、宇宙船だ。船長は高やんだよ。
高 僕?
原 宇宙へ行こうよ
奥 宇宙へ行こうよ。
原 行きましょうよ
奥 連れてって
高 でもさ
奥 今の高やんの気持ち読んであげよっか。

 奥山、高山の体には触れずに話す

奥 今、とびっきりににドキドキしてるんだよね
高 そうだよ、よく分からないけど、最高に楽しい。
奥 行こう、彼方へ
原 行こう、彼方へ。
高 行こう、カナダへ。
原 カナダですか?
高 いや。まずは宇宙行こうな。

 三人が決意を新たにしていろときに、山本が立ち上がる。
 山本はいすの上に立つ。山本は三人の覚悟である、つまり爆弾である。
 山本、精一杯の声を張り上げる。

山 行こう
全員 彼方へ。
 全員が席につき、出発の準備を始める。準備が終わり、全員が幸せながら  覚悟を決めた表情で時を待つ。  幕
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