わたしと小鳥とすずと


CAST
男1・A・アリス…奥山雄太
男2・B・少年…原田浩司

照明…高山渓



『私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地べたを早く走れない
わたしはからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴る鈴はわたしのように
たくさんのうたはしらないよ
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがってみんないい。』


























星とたんぽぽ



 幕

闇、目が慣れてくると二人の男の姿が見えてくる
二人と中央のテーブルに明かり

男1 目覚めたのはいつのことだろう
覚えたのはいつのことだろう
よんだのはいつだろう
答えたのはいつだろう
 暗闇の中を手探りし、
 掴み、
 生み出したのはいつのことだろう
  忘れることを恐れて、
  閉じ込めたのはいつだろう

 間
 
ここは何処だ
 空は見えない 
  冷たく重なるものが
 温もりを奪っていく場所
  光さえも見えなくなる 
  叫びと泣き声が分からなくなる 
  そんな場所に僕らは生まれ 
  そんな場所で僕らは死ぬ 
  こんな街で僕らは生きる(一礼)
男2 その少女の名はテルと言った

 テルはとても小さな村に生まれた
 村は海に面した漁師町で、どこにいても潮の 
 香りを感じることのできるところだった
 少女には家族がいた
 父、母、兄、弟、祖母がいた
 決して派手ではなかったが
 とても幸せな家族だった
 


少女はまだ二つだった
 家族は離ればなれになっていった
 けれど、少女は笑うのをやめなかった
 その笑顔で人を微笑ませるのをやめ
 なかった 
 少女はいのるのをやめなかった
 そのいのりが人をほほえませることを信じ
ていた
少女はいのりを詩にした
                                                              
男1,2中央のテーブルに向かう

男1 少し先の話をする
 それは暗闇を進むのと似ている
 一歩踏み出せば、ネオンの渦に飲まれ、
 すくんで立ちどまれば、生き霊の声に惑わされ
るかもしれない 

小間

 街、夜の街
 そこに何がありますか
 世界、命の世界
 此処に何がありますか
 ある時僕らは表情共にあり、
 ある時僕らはそれに逆らっていた
 僕らが生まれて愛を生んだが、
 その愛は僕らによって引きさかれる
 僕らが生まれて嘘を生み、
 嘘が嘘を呼び嘘になった 
 僕らは何のために産まれたんだ
   
男1座ってしまう
 
男2 少女はみすずと呼ばれるようになった
 みすずの祈りは少しずつ、少しずつ
 人々に唄われるようになっていった
 ある時は赤ん坊を抱く母親に
 ある時は故郷の老夫婦に
 そしてある時はみすずと同じ位の女学生に
 みすずの詩は笑顔の要素になっていった

小間

  みすずは死んだ(座り込む)
男1 僕らだけ生き残った
男2 時は流れていく
男1 そう、時は流れていく
男2 物音も立てずに
男1 今も、この時も
男2 でもみすずは死んだ
男1 もう目を覚まさない
男2 永遠の眠り

沈黙

男1 僕らは…僕らはどうすれば良い?
男2 …
男1 みすずは死んだ、それでも僕らは生きている!
男2 … 
男1 昔の面影を思い出す度、誰かに足元をすくわれる!
男2 …
男1 …今ではもうこんなに汚れてしまった…もう美しい
 自分には戻れないのかい…
男2 ………一人歩きを始めた(立ち上がる)
男1 え?
男2 みすずが死んで、僕らは一人歩きを始めた。
男1 そう、だから怖いんだ
男2 怖い?
男1 自分が自分でなくなる事を気付いてい
 るのに、何も出来ないでいる
男2 痛みにも気付いているかい?
男1 …わからない…だから怖いんだ
男2 …みすずは…(最初にいた場所へ行く)みすずは
 美しかった。みすずの生んだものは美しかった
 僕らは美しかった
男1 でも、死んだ!全て過去の話だ!
男2 誰が過去にした!
男1 (ビクリとする)………少なくとも僕らじゃない
男2 そうだな。僕らには何も出来ない。けれど、
 みすずはそんな僕らを愛した
男1 暖かな眼差しで…
男2 決してけがさなかった
男1 でも…死んだんだ… 
男2 …じゃあ、なぜ死んだ?
男1 人間は必ず死ぬ!それくらい知ってる…
男2 人間は?
男1 そうさ、人間…
男2(わりこむ)僕らはどうなんだ?
男1 …え?
男2 僕らだっていつか消えてなくなるんじゃないのか?
男1 そ…そんな………
男2 もしも、     
男1 やめろ…
男2 もしも、全ての
男1 やめろ!言うな!
男2 もしも、全ての人々が僕らを忘れたら?



男2 忘れられたら、死ぬんじゃないのか?
男1 ………もうすぐなのかい?
男2 わからない
男1もうすぐ死ぬのかい?
男2 …そうかもしれない
男1 怖い…
男2 僕もだ…
男1 ……どうすればいい?
男2 …どうすることもできないよ。僕らには何もで
 きない

小間

男1 もうすぐ忘れられるなら
男2 愛されなくなってしまうなら
男1 忘れ去られるその前に
男2 愛されなくなるその前に

本を開く

ほしとたんぽぽ

男1 青いお空のそこふかく、
 海の小石のそのように、
男2 夜がくるまでしずんでる、
 昼のお星は目にみえぬ。
男1 見えぬけれどもあるんだよ。
男2 見えぬものでもあるんだよ。
男1 ちってすがれたたんぽぽの、
 かわらのすきにだあまって、
男2 春のくるまでかくれてる、
 つよいその根はめにみえぬ
男1 見えぬけれどもあるんだよ
男2 見えぬものでもあるんだよ

暗転


ゆめとうつつ



  小鳥のさえずりが聞こえる

  明かりがそっとつくと、少年が眠っている
  少しの間の後、少年はふと目を覚ます

少年 んー…ん…。寝ちったぁー

  もぞもぞと立ち上がる少年

少年 (伸びをして)あったけぇなぁ。こんな日は
   家ん中に居ちゃあいけないってもんだよ

  少年はもう一度伸びをすると、再び眠って
しまう

少年 ZZZ(リアルにイビキ)

  と、舞台上手から色いろなものが飛んで
くる。トイレットペーパーや、トイレットペーパー等
明らかに少年をねらっている。が、当たら
ない。当たっても知らんぷり…
そのうち少年が再び目を覚ます

少年 んー…ん…。寝ちったあー。(周囲の異変に
   気付く)うわ!何だ?

  あわてて立ち上がる

少年 え…この公園そんな物騒なところだったかなぁ

  飛んできたものを片付ける、と、そこに向か
ってまた色々飛んでくる

少年 えぇ?うわっ…なんだ?

  次々と飛んで来ていくつかに当たる

少年 いてっ!何すんだこのやろう!

  上手へと走って行くと、ハケたとたん何者
  かに押されて飛び出す

少年 …な…なんだよぉ!

  さらに上手へと走って行く、と、今度は違う
  男が同じ様に飛び出す

アリ な…なんだよぉ!

  と、今度は下手に走って行く、と両側から
  同時に飛び出す

二人 うわぁ
少年 な…なんだよ!
アリ なんなんだよ!
少年 それはこっちのセリフだよ!
アリ そうかもしれないケドさ、僕急いでるのね
   悪いんだけどお前邪魔なんだ
少年 ジャマって…

  立ち去ろうとするアリス

少年 おい!待てよ!
アリ 何ィ?
少年 何をそんなに急いでるの
アリ 決まってるだろぅ?今日は女王様か、王様の、
   誕生日だか、命日の、祝賀会もしくはお
法事なんだから!
少年 ずいぶんあやふやだなぁ…
アリ あやふや?そうか、僕は今あやふやな事を
   言ってるんだ。何処nい行くかも分からないのに、
   何処かに向かって走ろうとしていたんだニャー
少年 …?
アリ つまり…どういうことだい?SAY
少年 へっ?僕に聞くなよ!分かんないよ!
アリ そう。わからないってことだね
少年 いいのか?それで?
アリ いいんだよ。いいかい?世界にはわかることと、わ
   からないことしかないんだから

  少し考える少年

少年 …いや、そうなんだろうけど50/50じゃないん
   じゃ…
アリ ストーップ!事を明確にしない!
少年 そういうわけにもいかないよ
アリ えい!えい!(その辺のものをぶつける)
少年 いた!こら!やめろ!
  やめる
少年 やっぱり君か!本当、やめろよこういうこと
アリ なーんでー?
少年 公園を汚しちゃいけないんだよ!
アリ どーこーがー?
少年 だから公え…ん…?(辺りを見回す)
アリ コーエンに見える?
少年 見えない
アリ 何に見える?
少年 …わからない…
アリ ね?それでそれで(ワクワク)
少年 …おしまいですけど
アリ そう!『それでおしまぁい!はい、さようなら!』
   ここは君のいたコーエンじゃないんでしょ?だった
ら難しいことは言いっこなし。チャンチャン。
少年 そんな!ここがあの公園じゃないんなら、
   い、一体何処なんだよ?
アリ 簡単さ。ここは、「君がいた公園じゃないところ」
少年 (あきれる)
アリ おっ
少年 わかった。つまりここは、あそこじゃないんだな
アリ おぉ!
少年 ここには学校も、家もないわけだ
アリ そのとおり!そして君のほかには誰もいない
少年 僕だけ…
アリ 君のしたいことをすればいい。行きたいところに
   行けばいいんだ。ここは君の世界なんだから
少年 僕の世界…
アリ wonderlandへようこそー!
少年 …あれ?ここは僕の世界なんだろ?
アリ そうさ
少年 じゃ、じゃあ君は何者なんだい?
アリ 僕かい?僕は、僕だよ
少年 えーと…つまり?
アリ つまり、そうねぇ…。僕は君じゃないやつ。って
   ところかしら
少年 あぁ…。何か、わからないんだけど、ひらめきを
   感じる
アリ いいよいいよー
少年 ねぇ、何て呼べばいい?
アリ 呼ぶ?
少年 だから、名前。教えてよ
アリ 名前ですか…。これはとても難しい
少年 難しい?
アリ うんむ。名前ってやつは、ものの個体性、個人性を
   表すものだろう?
少年 …そうだね
アリ それがやっかいなのさ
少年 どういうこと?
アリ 僕は落ち着きがないからさ。時にはお城へ急ぐ
   白うさぎ、またある時にはお茶会の気ちがい
帽子屋、ドードー鳥。双子のディーとダムに、
いも虫やハンプティーダンプティー。そして、君を
誘うチェシャ猫であったりもするんだ。
少年 …なるほど
アリ あぁ、そんなに難しく考えないで!何だかん
   だ言っても君は君で、僕は君じゃないんだから
少年 う…ん
アリ そ、そうだ!じゃあもっとカンタンに言うよ?
   この世界には君以外だれもいない。でも、それじ
   ゃあ、君がいるということを知るものもいなくな
ってしまう
少年 そうか。だから!
アリ だから僕がいるんだ!君の物語を見届ける
   ために
少年 物語…あれ?
アリ なぁに?
少年 君、さっき何者だって言ったっけ?
アリ え?白うさぎ、帽子屋、ドードー鳥…
少年 そう!それ、アリスがわだよ!
アリ …がわ?
少年 昔、本で読んだことがある!たしか…不思議
   の国のアリスがわ!
アリ …がわ…
少年 なんで一人なの?
アリ え?
少年 なんでそんなに沢山を一人で演じてるの?
アリ 別に演じてるわでじゃ…。それに…
少年 それに?
アリ ちょっと…諸事情で…
少年 …あぁー…

  小間

少年 あの話…どんなのだったかなぁ…
アリ あー!もう、いいじゃないか!そんなことは!
少年 あー…たしかー…
アリ だからやめようよ!
少年 …あ

 (少間)

アリ …
少年 夢オチだ。あれ、夢オチだった。
アリ …
少年 ぼうけんの終わりに、アリスがわは目を覚ます  
んだ。そして気付く…これはアリスがわの夢だ
ったと
アリ ……
少年 これ、夢なんだろ?あはは。じゃぁ、起きなく
っちゃ
アリ …そうさ。これは夢…。だけど、君は起きられ
ない
少年 …え?
アリ 僕が起きるからさ
少年 ちょっ…どういうことだよ?
アリ 最近人間は、ほとんど夢を見なくなった。す
   ると、夢の世界から人がいなくなってしまう。
   だから、誰かが常に夢の世界にいなけれ 
   ばならないんだ
少年 …まさか…
アリ そう、君の番だよ。夢見る少年君
少年 …いやだ!僕帰る!
アリ 僕だっていやだったんだ!
 
  アリス、少年をイスに押しつける

アリ 長かったよぉ!(少年を殴る)

  気を失う少年

アリ (去りぎわに)ふふふ…。新しいアリス…。いや、ア
リスがわに幸運を…。はははは…

  間

  ふと目を覚ます少年。
  

少年 うっわ!恐ぇー!マジビビッター!
   結局夢オチかよー!自分ウゼェー!
  
少し落ち着く

少年 半日も寝ちった…。母さん心配してるだろ
うなあ…。帰ろう

  立ち上がりハケかける

少年 (ふと立ち止まり)いつまでも夢見てらんないや

  ハケる…と、何者かに押されて飛びでる。
  その手には…トイレットペーパー…
   
   幕















大漁



暗闇

遠くの方で何かパラパラと音がしている
音の間に水の滴りが消こえる

とても暗い
とても、とても暗い

不気味な音が小さくなると、
あやしげな発光体が現れる
(ライトを持った男のようだ〉
はあっ…はあっ…はあっ…。

走ってきたその男は息を切らし、辺りを
照らした後中央にヘタリと座り込む

A はぁ…はぁ…なんとか生きているらしい…

その男はライトで辺りを明るくした
うっすらと顔が見える

A くっそ…生き伸びたのは良いが、ここは一体
 何処なんだ?

持ち物をあさってみる

A あいつら…無事なんだろうか。先頭の俺が
はぐれちまったんだからなぁ…くそ!俺は何て
ふがいがないんだ!

間、とても暗い、とても静かだ

A とても暗い…とても静かだ…
これが孤独なんだろうか…

暗い、とても暗い
静かすぎる…闇

A 誰かー!誰かいませんかぁー!

返事はない

A 誰かぁー!

返事はない

A …わかっている。誰もいないことなんて。
 わかっている。俺が一人なんだと言うことは。

ふと上を見るA

A さっきまで、あんなに温かかったのに…
あんなに明るかったのに…
こんな奥深くまでやってくると、太陽なん
 て意味を持たないんだな

小間

A 今のうちに少し休もう。少しだけだ、そう、
少しだけ(腰を下ろす)

A,言葉とはうらはらに深い眠りに落ちる

小間

またも静寂がやってくる、闇は今、どん
な表情をしているのか…
と、そこにもう一つの発光体、何やら落ち着
きのない動きである 

B キコエタゾ…聞こえたぞ…

とてもあやしい

B キコエタゾ…どこにいる

とても、とてもあやしい
Bは明かりをちらつかせながら、
Aのまわりをグルグルと…

B ニオウ…生き物のニオイだ!

BがだんだんとAにちかづく

B 近い…近い…チカイ…

Bさらに近づく

B 近いぞ、近いぞ。臭うぞ、臭うぞ…

B、後ずさりながら気付かぬうちにAに近づく
Bさらに近づくとAにぶつかり、A目を覚ます
B、A、お互いに顔にライト

A・B ワァー!(おののく)

A、Bとても離れて自分の顔を照らしながら

B ア…ア…アンタ!生き…生きてるのか?
A ああ…!そっ…そっちこそ!
B もちろんだ!
a よかったー!
b あぁ、本当に!
a よくぞ生きていた!
b ありがとう
a 悪いなぁ、またトラップだと思っちまったよ
b いや、実は俺もなんだ。敵が近くに居るのかと
  思って
a あぁ!…昔アレにかかった奴がいてな、只々苦し
  みながら逝っちまったよ…。だから…余計にな…
b …そうか…
a あぁ…
b あ、でもまてよ
a どうした?
b あのトラップは固体専用だよな
a あぁ、そうだよ
b おかしくないか?
a …あ
b 死にすぎてる
a 確かに

 小間

a アンタは、どうしてここに?
b …
a あっ、すまない!嫌ならいいんだ!
b いや!言わせてくれ!…俺は、向こうの、
  ほら、色んな地方のやつらが集まる所あるだ
ろう?
A あぁ。俺もそこに居た
B あそこに移り住んで来たんだ。妻が子供
  を生むって言うんでな
A !そうか
B この辺食べ物も豊富だろ?元気な子供
  を産んでもらいたくて名さ
A あぁ
B 知ってるか?あそこロシアのやつらが多いん
だぜ?
A もちろん知ってるさ。俺はロシアで育った
  んだからな
B そうなのか?
A あぁ。アンタんとこみたいに、母親が移って
  きたらしい
B そうか…
A …良い所だよ。ここは。
B でも…皆死んじまった

 間

B 俺達必死で逃げたよ.何が何だかさっぱり
  わからなくってさ。妻を引きつれて。
  でも、気がついた時、妻はいなくなっていた
  決して離れないと誓ったのに

 小間

B 名前、呼んだよ。死ぬほどにな。呼んで、
  呼んで呼びぬいた…。そしたら、悟ったん
  だ…。もうあいつは居ないんだ、俺は一
  人になったんだって
A …
B 頭がおかしくなると思ったよ。一人ってこん
なに怖いんだって… 
A あぁ…
B そこで、アンタの臭いを感じたのさ
A え?臭い?
B プンプンしてた
A 俺、そんなに臭いか??
B そうとう臭かったねぇ。…セリフがさ
  はっはっは
A …コイツゥ
A・B はっはっは
B …救われたよ。アンタが居て本当に良かった
A それは俺も同じさ。俺も…一人だった
B …聞かせてくれるか?
A あぁ。さっきも言ったが、俺はロシアに居た。
  いつもは町のほうにいるんだが、今日は何だ
  か、丘の方が騒がしくてな。情報がほしくて
  あそこに行ったんだ。あそこは、アンタや俺の
  故郷とロシアの間にあるからな
B なるほど
A そしたら…案の定、あのあり様さ
B …そうだな
A 初めて仲間が死ぬのを見たね。…けっこう 
  カンタンだった。恐らく敵の兵器だと思
  うが、それにかかったとたん…。(ゆっくり上を見
上げながら)ぷカーってさ
B きっと妻もそれで…!
A 俺達も必死で逃げた。逃げることしか出来
なかった…。仲間は…どんどん減っていった
B これは、戦争だな
A あぁ、だがフェアじゃない。一方的な殺戮
  だ
B …それにしても何故こんなに突然
A …恐らく…
B え?(と話を聞こうとすると)あ、おい!誰か
いるぞ!
A なに?
B (いろいろな方向を見て)ほらあんなに!やっ
  たじゃないか!
A 待て!ここに来たってことは、もう敵が…人間
  がそこまで来てるってことだろう!
B あ…!おーい!(客席に向かって)おーい!早
  くこっちに来―い!一緒に逃げよう!

A・B おーい!おーい!あ…

 A、Bゆっくりと上を見上げる、どうやら仲間
達が兵器につかまったようだ

B …のぼっていく…
A ……なあ、聞いてくれるか
B え?
A さっき言いかけた…俺達の死ぬわけ
B ……是非聞きたい
A 昔、俺達の国、日本と、ロシアの間で、ある領
  土問題があったんだ。北の島々、そう、あそこ
  をめぐってな。(じりじりと後ろにさがりながら)
  その問題が今日解決したらしい
B それじゃあ…
A あぁ、この海域は、日本のものになったんだ
B あいつら、刺身好きだもんな
A 生けづくりにならなってもいいか(笑)
B 俺は煮物が良い(笑)
A・B はっはっはっはっ。はっはっはっは…

 A,Bまわりからせまりくる“それ”に押されて中央へ

A 故郷にやられるのか
B ふっ…。それはそれで、案外普通なのかもな
 
 もうそれはa、bを捕らえられる距離ま
 で来ているのだろう
 a、bの表情は笑っているようにさえみえる

b さぁ!煮るなり焼くなり刻むなり、好きに
(料理)してくんな!(このセリフ深い)
a 日本国上等だ、バカヤロウ!

 a、b一瞬顔を見合わせて

a、b 大漁だぁ!大漁だぁ!

 暗転



   




































すなの王国






一点を見つめて座っているB、気を失っているように寝ているA。A、ゆっくりと起きる

A あれ?
A、辺りを見回す、Bに気が付く

A え、ここはどこ
B これからずっと、これからずっと

B、ひたすら一点を見つめている

A おい、あなた。聞こえてますよね。ここはどこですか
B ここは天国なのです。
A はあ?天国?
B 天国なのです
A ハハハ、そんな訳ないでしょう
B 天国なのです。あなたは死んだのです

間、だんだんAは自分の死を思い出す

A ああ、そうか、やっぱり俺死んだんだな。ここは本当に天国なんですね
B そうです。あなたは、最低な人間なのです
A はあ?
B ここは、天国なのです
A なんなんだよこいつ。でも天国かあ、やったね

A、はしゃぐ

A 俺ね、死ぬとき思ったのね。もしも天国と地獄があるなら、どっちに行くんだろうって
  
B …あなたはここに来る資格はなかった
A なんでだよ。あなたさっきからちょくちょくつめたい。あ、おい、天国ってどんなとこなんだよ
B 何をしてもいいのです。
A 何でも?
B いいのです
A やっぱ天国なんだなあ。他には?
B そのくらいです
A しょぼいじゃん。天国って、意外と普通なんだね
B そのうち分かるのです。この場所は特別なのです。ここは、あなたの望み全てが形となるのです
A おう、それはすげえな。まるで天国みたいだな
B むしろ、天国なのです。
A そうだったな。ハハハハ

 B笑わない、A気が付いて笑えなくなる

A お前さあ、気持ち悪いよ
B 僕は、気持ち悪いのです
A 認めちゃった。イエスマンかよ。え、ここにはさ、俺とお前しかいないの?
B そうなのです
A え?天国なのに?
B 人それぞれの天国があるのです。ここは、あなたの天国なのです
A あ、そういうもんなんだ。え、でもさ、だったらなんで俺の天国なのにお前がいるの?
B その内に話します
A 今話して 



A まあいいや。じゃあ、俺がいろいろ話していいか?ヒマだし
B もちろんです
A 俺はな、生きてた頃は、自由人だったんだよ。
B フリーターですね
A それだな。高卒の二十歳だったんだけど。つまんない毎日送ってたよ、
B どんな?
A まず、起きるのが12時頃。いいとも見ながらメシ食って、大体三時ごろからバイ  
ト。そんで、九時ごろ終わって、そっから遊び
B 遊び?
A おお、最近は彼女だったな。たわいのない話したり、ご飯食べたり、セックスしたり、   
とにかく楽しかった。お前もはなせよ?
B 僕は、中学生でした。
A …終わり?
 
 間

A そんでな、彼女がいきなり、頼みごとがあるって言ってきたのよ
B なんですか?
A 「私の保証人になってくれ」って。弟が重病で手術台が足りない、だってさ
B …それ信じたんですか?
A 当たり前だろ。もちろんオッケーしたよ。何があっても信じられるやつなんだ。
B どうなったんですか??
A 何があっても信じられるはずだったんだよ。でもな、裏切られたんだよな
B 優しいですね
A いや、バカだったんだよ。信じてたのにな
B いい人です。
A それから、借金取りに追われ続けるようになったんだよ。それで、どうしようもなくなった
B それが原因ですか
A そりゃあ最初は負けたらだめだって思ったよ
B 死んだらだめです
A でもな、そのうち分かったの。よく人は言うじゃん「あなたが生きているのは、勇気
が無いからじゃない、勇気があるから死ねないんだ。」あんなの嘘だよ
B 嘘なんですか
A 惨めでもいいから生きて欲しいんだろ。偽善だよ、ムカつくな。踏み切りに入っ
て衝突事故起こした。俺には親も家族もいなったから、誰にも迷惑かからないなって。
B それは嘘です
A え?
B それは嘘です
A 嘘?
B …僕の話を聞いてもらえますか?
A もちろん
B 僕は、殺されました。
A え?お前中学生って言ったよな。かわいそうに
B 僕は、受験生でした。受験勉強ばかりしてました。
A ああ、そうなんだ
B 志望校も決まって、あとはひたすら勉強のみでした
A 勉強かよ。つまんなくねえの?
B つまらないですよ、でも、今頑張れば後で楽できると思って。毎日必死でやってまし
た。楽しいことも我慢して…。気が狂いそうでした。
A で、殺された?
B あのときがいちばん辛い時だったろうな。高校入ったら楽しいこといっぱいあった
だろうな。誰とも遊ばなかったし、親友もいなかった。周りが敵だって思えてきて、誰も信じられなかった。高校入りたかったな
A でもね、高校入っても、社会出ても結局は楽しくはないんだよ
B え?
A 大人に成るにつれて、どんどん忙しくなるからね
B え?自由になるはずですよ。何をしてもいい時間が増えるんじゃないんですか?
A そんなことはないのね。汚いものばっかり見えてくるよ。だからね、今どんなに忙し
くても、人生を楽しむ気持ちを忘れちゃだめだよ。大人になってからじゃ遅いんだよ
B じゃあ、なんで大人は生きるんですか?
A なんで生きるか?
B つまらないんでしょう。社会は大変なだけなんでしょ?惰性で生きてるだけですか?
A それは違うと思うよ。探してるんだと思うな
B 何をですか?
A 自分の存在価値を、死ぬまでに探してるんだよ
B 見つかるものですか?
A いや、見つからないよ。でも、見つからなくていいんだよ。それを探すことが希望な
んだから
B むなしいですね。
A だよね
B あなたは見つかったんですか?
A 俺は、結局見つからなかったよ
B …僕が死んだ経緯を話しますね。



B 家の近くの駅前を歩いてたら、車に、跳ねられました
  
 今野、一瞬何かを考える

A そうなんだ
B 後悔してます。もっと毎日を本気で生きてれば良かった。
A かわいそう
B …やめにしません
A 何を?
B 分かっているんでしょ?
A だから何を?
B 自分かもしれないって分かってるんでしょ
A 何の話だって?
B 僕は、あなたに殺された
A …そんな訳ねえよ
B 本当なのです

 間

B あなたが車で踏み切りに飛び込む直前ですよ。覚えて無くてもしかたありません。
あなたは死ぬことで頭がいっぱいでしたから
A お前だったのか?
B 僕だったんです
A 俺じゃない。俺は悪くない
B あなたはさっき、自分が死んで悲しむ人はいないって言いましたよね?
A ああ、言った。
B 悲しくなかったですか?自分が誰からも愛されてなくて



B さびしい人生ですね   
A なあ。ここは、俺の天国だろ。なんでお前がいるんだよ
B いてはいけないのですか?
A そうだよ、お前目障りなんだよ、消えてくれ、頼むから消えてくれ、消えろよ
B 僕は消ええられません
A なんでだよ、お前がいると怖いんだよ。怖くてたまらないんだよ
B あなたが望んだことだからです
A はあ?
B あなたは分かっていたでしょう。死ぬ前に僕を跳ねたことを。一回止まりましたよね。
A そんなん知ったこっちゃねえよ、俺はその時もう死ぬって決めてたんだぞ。金が無く
なって毎日生きるのがつらくて、借金取りが来てもう限界だったんだ
B あなたが死んだ理由はお金がなかったからじゃない。人が信じられなくなって、自分
も信じられなくなったからだ
A そんなんじゃねーんだよ。死を決意したことないだろ。怖くて怖くてたまらないんだ。
お前に俺の何が分かるんだよ
B ああ、分からないさ。でも、その考えは絶対に間違っている。あなたは死を決意した
訳じゃない。ただ、自分が嫌で、自分を殺したかっただけでしょ。あなたのせいで
僕は死んだんです
A …消えてくれ。ここは俺の望みどおりの世界なんだろ。消えろ。早く
B だから、あなたがこれを望んだのです
A 俺はお前なんか望んでねえよ。消えろ消えろ消えろ
B あなたは僕のことは知らなかった。でも子供を轢いたことは知っていた
A 知らない
B 知っていたはずだ
A 知らねえよそんなこと知らねえよ
B さっきあなた自分で言ってたでしょ
A …そうか、じゃあそうなんだな。俺はお前を轢き殺したよ。だからなんなのさ
B 違う。自殺の方法はたくさんあるのに、お前は自分で死ねなかった。だから電車に殺
してもらった。一人で死ねなかったんだろ。それに、自分が死ぬのが怖くて、死ぬための言い訳を作らなきゃ、死ぬことも出来なかったんだろ。だから僕を轢いたんだ
A そんなことねーよ、お前バカだろ。証拠がねえだろ
B 証拠ならあるよ
A なんだよ
B …証拠は、僕がここにいることだ。
A は、なんだよ、それ
B ここはあなたの望みどおりの世界。僕はあなたの意志に連れてこられた。あなたは僕
を轢いてから、死ぬ前も死んだ後もずっと僕を気にしていた。自分でやったくせに、
罪悪感に悩んでいたんでしょう。あなたは、自分の弱さを認められないから。
A 俺は、弱くなんか無い。そうだ、俺は強いんだぞ。俺は死ねたじゃないか。ただなん
となく生きてるやつらよりずっと強いじゃないか。俺は勝ったんだぞ
B かわいそう
A なんだと
B 死んだ後もまだ気が付かないなんて。
A だから俺は勝ったんだ。お前が出てきたのは、お前が哀れで話してみたいと思ったからだ
B 違う。自分の過ちを認められないんだ。お前は叱って欲しかったんだ。僕を殺したことを、自殺した自分の弱さを、お前の人生自体を、誰かに否定して欲しかったんだよ
A 違う違う違う
B じゃあ僕の存在を消してください。
A …消してやるよ

A、必死に喚くが、何も起らない

B かわいそう
A やめてくれ
B あなたが僕に言ってることは、確かに正しいことでした。でも、全部あなたがやって
こなかったことでしょう。自分で悲しくならないの?
A だからお前はいつまでいるんだ
B 僕も分かりません。けど、永遠に消えないと思う
A う、うわあ
B どうして僕を殺したんですか。ずるいですよ。いろいろ不器用ですが、あなた
は結局善人なんですよ。弱さはきれいな証拠ですよ。結局天国にいるじゃないですか。
僕は…天国に行けませんでした。…誰も信じることができなかったから。

 A、泣き始める

B これからずっと、これからずっと、これからずっと、これからずっと

A、泣き崩れる

   幕







わたしと小鳥とすずと



男1 誰かが呼んでいました。
何処かで呼んでいました。
遠い、遠い、あの空と大地の境目よりも
ずっと遠い何処かで、
誰かが呼んでいました。

僕はまだ此処にいました。
あの日と何も変わらずに、
此処に立ち尽くしていました。
あの日と何も変わらない、
ちっぽけな僕がいました。

だから誰かの呼ぶ声に、
僕は気づきませんでした。

誰にも気づかれない声は、
そのまま消えていくのです。

その呼び声は真っ暗な
トンネルの中に消えました。

あぁ、夜が来ます。

男1 ・・・ねぇ。



男1 ねぇ、もう死んだ?
男2 まだみたいだ。
男1 そうか。

小間

男1 僕は?
男2 知らない。
男1 そうか。

あたりを軽く見回す1

男1 汚れてしまったね。すっかり。
男2 ・・・
男1 何処でどう間違えたんだろう。
男2 ・・・
男1 何がいけなかったんだろう。
男2 ・・・
男1 ・・・?!死んだの?!
男2 いや、まだみたいだ。
男1 そうか。

小間

男2 考えていたんだ。
男1 ん?
男2 此処は何処だったんだろうって。
男1 そんなこと・・・。
男2 僕らは生まれた瞬間から此処にいる。
 いや、僕らの生まれた瞬間にこの世界が出来たのかもしれない。
男1 なにを言ってるんだ?
男2 つまり、僕たちは生まれるべくしてこの世界に生まれてきたんじゃないか?
男1 よくわからないよ!
男2 君はさっき、汚れてしまったといったね。
男1 ああ。
男2 でも、そうじゃないんじゃないか?
男1 どういうことだい?
男2 この世界にはもともと僕らしかいなかった。
 けれど今じゃあ、こんなにもたくさんのものがこの場所に存在している。おかしい    
だろう?
男1 えぇ?
男2 僕らの他には、何も無かったんだよ?
男1 あ、そっそうか、何も無い場所に、突然何かが現れるなんておかしい!
男2 そうなんだよ。
男1 え、ちょっと待って、ということはこの世界が汚れた・・・いや、こんなにたくさ  
んのものであふれかえった理由はなんだい?!
男2 それを考えていた。
男1 なんだ・・・
男2 そして気がついた。
男1 え?!
男2 さっきも言ったろう。僕らが生まれて、この世界が生まれたんじゃないかって。
男1 ああ。
男2 じゃあ、僕らが生まれたのはいつだい。
男1 それはみすヾが僕たちを産んだときだろう?
男2 そうさ。厳密に言えば、みすヾのなかに、イメージが生まれたときなんだ。僕らに  
対してのね。
男1 イメージ・・・え?
男2 気がついたかい?
男1 この世界が、僕らへのイメージ?・・・想い?
男2 そうだったんだよ!つまり、僕たちはこんなにもの人たちに覚えられているんだ 
よ!
男1 じゃあ・・・死なないのかい?
男2 きっとね。
男1 (少し微笑むが)いや、待ってくれよ、だとしてもこのイメージの中にはとても汚
れたものもある!
男2 それは・・・
男1 こんなにも暗い世界じゃ、きっといつか・・・



男2 『みんなちがってみんないい』

男1 はっとした表情で2を見る

男2 みんな違ってみんな良い。みすヾが僕らに込めた想いだ。
男1 ・・・
男2 いろんな美しいものがある、いろんな醜いものもある。けれどみすヾはそれですら
良いものであるとうたったんだ。
男1 みすヾ・・・

立ちあがる2

男2 その呼び声は真っ暗な
トンネルの中に消えました。

けれど真っ暗なトンネルは、
ただ暗いだけじゃありませんでした。

暗くて向こうの見えない程に、
遠い、遠い、月と太陽の間よりも、
ずっと遠い何処かへ、
声を運んでいきました。

ほら、そこのあなた。
男1 え?
男2 そう、あなたです。
男1 僕はまだ此処にいました。
 あの日と何も変わらずに、
 此処に立ち尽くしていました。
男2 声はそこまで届きました。
   幾年もの時を越えて、あなたに声が届きました。
男1 ・・・

2,1のもとへ

男2 ・・・みすヾの想いもそうなんじゃないかな。
みすヾは確かに死んでしまった。だけど、僕たちは、みすヾの想いは生きている。たくさんの人の中で。
男1 僕らは生きている・・・
男2 その人の数だけ僕らがいる。
男1 その人の数だけ・・・みすヾがいる・・・?

うなずく2

男2 だからもう恐れるのはやめよう。
・・・ああ、朝が来ます。
男1 ああ、朝が来ます。

二人顔を見合わせて

男2 みすヾ・・・。
男1 あ!(客席を指差し)見てごらんよ!
 また新しいみすヾが生まれるよ!

二人手を差し伸べるようにして、高々と手を上げていく
ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・



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