みのりの秋


CAST
奥山雄太…奥山雄太
原田浩二…原田浩司

音響…角本歩
照明…大木淳


ここは奥山の部屋。

奥 はい、はい、申し訳ございません。 いや、しかしですけどね、坂本さん。一度使った以上返品は出来ないんですよ。 はい、はい、だからあれは、買った人の中で幸せになった人がいるってだけなんですよ。 こっちの住所を教えろ?そんなの出来る訳ないじゃないですか。 ですから、これからも身につけていただければ効果がある可能性が高いんですよ、いや、100%ではないですって

 〈2インターホン〉
 原田、上手より声のみ

原 奥山
奥 (無視して)はい、申し訳ございません
原 奥山
奥 すいません、少々お待ちください。(ケータイを手で塞ぎ外に)誰だよ
原 原田
奥 帰れよ
原 大事な話があるんだよ
奥 仕事中なんだよ
原 早く開けろよ
奥 また後で来いよ
原 僕帰らないよ。早く開けないと大きい声だすよ
奥 もう出してるじゃん
原 今のは僕の半分の力だ。
奥 なんなんだよ
原 早くしろ
奥 もしもし、申し訳ございません。しばらくしてから電話してもらえますか。すいません、坂本さん。失礼します。

 奥山、電話を切り原田を部屋に入れる(上手から)

原 なんで開けなかったんだよ
奥 開けたじゃん
原 開けんの遅いんだよ
奥 だからこっちは仕事中だったんだよ
原 え、お前仕事なんてしてたっけ?
奥 最近始めた。俺ももう25だよ
原 おお、そうか。何やってるの?
奥 なんだっていいじゃん。それより、今日はなんで来たの?
原 お前またやったんだってな
奥 だからってまた来るなよお前は
原 みのりちゃんかわいそうだろ
奥 お前関係ないじゃん
原 関係ないことないね。僕はお前の友達だ。そして、みのりちゃんの友達だ。心配なんだよ。
奥 だけどな、俺はうまくやってくからさ。大丈夫だよ
原 うまくやってないからみのりちゃん悲しんでるんだろ。僕は心配なんだよ。今回はお前何したんだよ
奥 いいから帰れよお前
原 聞くまで僕は帰らないね
奥 しつこいなあ。俺とみのりとは、ケンカがあってその分仲良くなるんだよ。だからケンカもたまには必要なんだよ
原 で、なんでお前はみのりちゃん追いかけないんだよ
奥 しょうがないだろ、仕事なんだから
原 電話したのかよ?
奥 したけど出ないんだよ。しょうがないだろ?
原 お前なあ、仕事とみのりちゃんとどっちが大事なんだよ
奥 どっちも大事だよ
原 あーあ、中途半端な答えだ
奥 お前な、それは女が男に聞く質問だからな
原 だとしても、そういうときはみのりちゃんって言うもんじゃねーの?
奥 いや、だってさ、みのりのためにも仕事はしなきゃ
原 もうお前ら別れた方がいいんじゃねーの。
奥 あのな、別れたらみのりは悲しむぞ。みのりは俺に惚れてるからな
原 じゃあお前もうみのりちゃんを泣かせるなよ。相当泣いてたぞ。
奥 待てよ。お前なんでみのりが泣いてるって知ってるんだよ
原 そんなことどうだっていいだろ
奥 お前またみのりんち覗いてたのか
原 それは、僕とみのりちゃんの家が近いのが悪いんだよ
奥 理由になってねーよ
原 そうだよ、家が近いって言う点では僕がみのりちゃんと付き合うべきなんだよ
奥 どんな理論だよ
原 ここだけの話、お前より僕の方がみのりちゃんのことが好きなんだよ
奥 だからなんだよ。みのりはお前のこと気持ち悪がってるんだよ
原 それは高校時代の話です。
奥 今もそうだよ
原 そうだとしても、それはミスタービーン的気持ち悪いだろ
奥 え、何?
原 だから、ミスタービーン的気持悪い
奥 だからなんだよ
原 (ビーンのモノマネ)オー、アーウ。テディ。似てるだろ
奥 実物覚えてねえよ
原 僕も初めてやったんだけど
奥 なんでGОサイン出せたんだよ
原 つまりは、キモかわいいってことだよ
奥 キモだけだよ。
原 どちらにしろ僕はみのりちゃんにとって必要な存在なんだよ
奥 あ、じゃあお前な、俺が女紹介してやるから、もうみのりに付きまとうのやめろ
原 付きまとってないよ。付いてまわってるんです
奥 自覚あるんじゃん。まあ、とにかく紹介するよ
原 だから、僕はみのりちゃんが好きなの
奥 だけどな、世の中にはみのりよりお前にもっとぴったりなやつがいるかも知れないだろ。 それを捨てるのはもったいないと思うよ。
原 でも、僕そこまでかっこよくないし
奥 大丈夫、モノ好きもいるかもしれないから
原 あ、フォローはしないんだ
奥 ともかく、紹介するから

 奥山、自分のケータイを見出す

奥 お前、どんな子が好みなの?
原 外見で言えば、かわいくて、凛としてて、清楚で、
奥 芸能人で言うと誰?
原 みのりちゃん
奥 近場だよ。じゃあ、性格は?
原 みのりちゃんみたいな子
奥 あらら
原 だって好きなんだもん
奥 お前な、外見はともかくみのりの性格は何知ってるんだよ
原 みのりちゃんは誰にでも優しいし、気が利くし、なで肩
奥 最後の違うけどな。お前が見てるのは本当のみのりじゃねーんだよ
原 なんだよ、本当のみのりって。あ、呼び捨てにしちゃった
奥 俺が見てるみのりは俺だけにしか見せないものがいっぱいあって、お前が見てるみのりはその他大勢が見てるみのりなんだよ
原 なんだよ、僕が見てるみのりちゃんだって、僕だけにしか見せないものがあるはずだよ
奥 だとしてもな、みのりはお前のこと好きじゃないんだよ。
原 じゃあ早く他の子紹介しろよ、
奥 だから好みを教えろ
原 中学生以下
奥 合法な範囲で
原 じゃあ、オススメは?
奥 そんなこと言われてもなあ。俺の知り合いだったら、彼氏がいないやつだったら全員OKだとは思うけど
原 マジで?ああ、面倒だからいいや。やっぱ僕みのりちゃんしか見えないから。
奥 お前もしついこいな
原 でもさ、僕お前よりみのりちゃんとたくさんメールしてるもん
奥 みのりは気持悪がってるだろ
原 そこが僕とお前との差だよ
奥 具体的に言えよ
原 僕は気持悪くても、おもしろい人間になることにしたんだ。僕にあってお前に無いも  
  の、それはユーモアのセンスだ。僕はおもしろいから。
奥 お前、別におもしろくないよ
原 ひがむなひがむな
奥 ひがんでねえけど

 原田、ケータイを取り出す

原 僕のおもしろメール見せてやるよ
奥 (メールを読み)「パパパパッパパパイナポー」
原 違うよ、(精一杯おもしろく)パパパパッパパパイナポーだよ。
奥 言い方じゃん。メールじゃ分かんねえよ。
原 次
奥 「やばい、今12チャンネル見て」
原 テレビチャンピオンすっげえおもしろかったの
奥 テレビに頼るな。テレビチャンピオンあんまりおもしろくねえし。
原 次
奥 「あーあ、終わっちゃった」
原 レゴブロック王決定戦のこと
奥 続きー?よりによって地味な回だし
原 次
奥 「ドラえもん映画最新作、ドラえもんのびたの、世界の戸棚」
原 おもしろいだろ
奥 つまんねえよ。バカだよ、こんなん考えてるの
原 どれだけ苦労してると思ってるんだよ。僕は毎日20個は考えてるんだよ
奥 20個?みのりかわいそうに
原 いや、おもしろいって返事してくれるもん
奥 みのりもバカじゃねーの
原 あ、今、みのりちゃんのことバカって言ったな
奥 だから?
原 なんでもないけど。みのりちゃんにそんなこというなよ。お前、みのりちゃんにもうちょっとやさしくしてやれよ
奥 お前しつこいんだよな。
原 だって、お前らにうまく付き合って欲しいんだもん
奥 だったらもう付きまとうなよ、俺にも、みのりにもな。もう俺達大人だよ。 俺達の縁は高校卒業した時点で切れたんじゃないの?お前だって、みのりのことがなけりゃ俺のとこに来ないだろ?
原 そんなことはないよ。けどさ
奥 けどなんだよ
原 なんでもないよ
奥 なんなんだよ

 奥山、立ち上がる

原 どこ行くの?
奥 トイレ

 奥山、ハケる。原田、奥山を見て落ち込んだ様子。座る。
 〈3電話の着信音〉

原 奥山、ケータイ鳴ってるよ。ケータイ

 奥山が来ないので、原田が電話に出る

原 みのりちゃん?あ、違いますか。いや、奥山じゃないです。奥山の友達です。原田って言います。 え、返品?石ってなんですか。お名前聞いていいですか?あ、坂本さん。 坂本さん、女性ですよね。この際聞きますが、あなた彼氏いますか?ほう、彼氏いない。 ちょうど良かった僕は彼女いないんですよ。はい、はい。僕の趣味は料理とボランティアでしてね、はい。 え?奥山の住所。なんで?ああ、年賀状かあ。杉並区高円寺北2の36の5です。あれ、まだ9月ですけど、あ、切れた。

 原田、電話を置く。奥山、急いで戻ってくる。

奥 電話なんだって?
原 年賀状の話
奥 何それ?
原 住所教えろって言うから教えといた、坂本さんから
奥 え、坂本さん?
原 うん
奥 何やってるの、お前
原 適切な対応
奥 間逆だろうが。お前なんで住所教えるんだよ
原 年賀状が
奥 そんなわけねーだろ
原 なんで?

 奥山、ケータイで電話をかける。

奥 あー、出ないじゃんかよ
原 みのりちゃん?
奥 違う、もう一個の問題の方。仕事だよ
原 お前仕事って何やってるの?
奥 まあ、いいか。俺ね、今通販の会社に入ったんだ
原 ああ、そうなんだ
奥 雑誌の広告に幸せになれる石ってあるじゃん。
原 うん。
奥 あれ売ってるの
原 サギじゃん
奥 違うよ、スレスレだよ
原 お前、なんでそんな会社入るんだよ
奥 会社が近かったからさ
原 お前バカだな
奥 気持悪いヤツにバカって言われたくねえよ
原 聞き捨てならない、顔関係ない。みのりちゃんも知ってるの?その怪しい会社のこと
奥 だから怪しくないって。みのりは知ってるよ。
原 お前、会社でどんな仕事してるんだよ
奥 俺の担当はウィルストーンのクレーム対応なんだよね。坂本さんはクレームくれてほんとうにしつこいの。 あ、ウィルストーンって分かる?
原 ああ、知ってる
奥 バカだよね、あんなん買うやつ信じられないよ。効果あるわけないのにさあ、なに考えてるんだかなあ

 原田、ネックレスを取り出すとウィルストーンが付いている

奥 えーっと、みのりの話だったよね
原 2万したよ。
奥 あ、効果あった?
原 無いよ。強いて言えば女のおっぱいもめたくらいだよ
奥 お前にしては大きな進歩じゃん
原 そうだけどさ。やっぱこの石意味ないもん
奥 この石は、つけてから時間がたてば立つほど効果がありますから。だから安心して
原 今更おせえよ
奥 ウィルストーンは名前の通り、意思のある石なんだよ。
原 待って、ウィルって意思って意味だったの
奥 そうだよ
原 僕てっきりさあ、ブルースウィルスのウィルだと思ってた
奥 どんな解釈だよ。あ、そうだ。ウィルストーンで幸せになれない人は珍しいから、逆に運がいい
原 まずね、お前あ、そうだって言ったら思いつきだってバレんじゃん。 しかも何?幸せになれないから運がいいって。そんな2万払っておみくじ理論で納得するかよ
奥 なんだよ、おみくじ理論って
原 あれだよ、大凶引いても、大凶は珍しいから運がいいってやつ
奥 え、だったら末吉の方が出にくいんじゃないの
原 いや、でも大凶は良くないからそのフォローとして
奥 でも末吉の方が珍しいじゃん
原 違くて、大凶の方が末吉より
奥 末吉の方が珍しいじゃん
原 じゃあ、それでいいよ。ともかく、あの石は2万だぞ。2万って大金だぞ
奥 ああ、じゃあ、一個じゃパワーが足りないからもう一個買えばいいってのはいけるかな?
原 いけるかなってなんだよ
奥 まあ、買ったやつが悪いんだよ
原 まあ、そうだけどさ。こういうものに頼るしか無いんだもん。自分にできること全部やったら、何かにすがるしかないだろ
奥 お前まだいっぱいあるじゃん
原 どこがだよ。字が汚い以外は完璧だよ
奥 整形は?
原 うるさいうるさい。うるさい。まあ、いっつも買ってから後悔するんだよな
奥 あ、業界裏話教えてやろうか
原 なになに?
奥 広告に出てるのブサイクなやつばっかりだろ?あれはねえ、見たやつにこんなやつが幸せになりやがって思って、悔しくなって商品を買わせる策略なのよ。ブサイクなほど効果あるの
原 よく考えれば分かることだろ。別に裏じゃねえよ
奥 そうか。あー坂本さん恐いなあ。お前住所教えちゃうしさ
原 だから年賀状くれるんだってよ
奥 もし爆弾でも届いたらどうするんだよ。あー、これマジで何かあるかも知れないな

 〈3電話の音〉
奥山出る

奥 もしもし、みのり?みのりか。お前今どこにいるんだ。外。狭めろ。 ごめん、俺が悪かったから帰ってきてくれよ帰ってきてくれよ。あ。

 電話が切れる。そしてまた
 〈3電話の音〉

奥 もしもし、俺が悪かったから。お前を愛してるんだよ。あ、坂本さん?
原 うそー。
奥 坂本さん、頼むから家に何かしないでくださいよ。え、家にくる?本当カンベンしてくださいよ頼みますから。ああ、冗談ですよね。え、小渕さんじゃないんだから。え?本当にいりませんからやめてください。それじゃ小渕さんでしょうが。あ、ちくしょ。

 奥山、電話を置く

原 坂本さんだったんだ
奥 恥ずかしいけどそれ以上にピンチだよ
原 何、小渕さんって
奥 ピザ送りつけてやるだって
原 小渕さんだ。変な嫌がらせだなあ
奥 最悪だろ
原 寿司じゃねえんだもんな
奥 論点そこじゃねえよ。でも、多分送ってこないでしょ。坂本さんも興奮しただけだと思うし。
原 今僕腹減ってるんだよ。小僧寿しで我慢したのになあ
奥 じゃなくて。お前さあ、知らない人から出前届けられたらどんな気分だ
原 配達の人が知らない人ってこと
奥 だったらほぼそうだろ。そうじゃなくて、知らない人から勝手に注文されたらだよ
原 キョトンとするな
奥 その後
原 食べるなあ
奥 なんでだよ
原 だって、作るのはお店の人なんだから
奥 そうだけどさ。でも、送ってこないと思うけどな
原 多分ね、だって坂本さんにメリットないもんな
奥 だよな
原 そんなことよりみのりちゃんどうだった?
奥 すぐに切りやがったあいつ
原 どこにいた?
奥 分からない。外だと思うけど。待つしかないのかな
原 そういや、どうしてみのりちゃん泣いてたの?
奥 俺が全部悪いんだけどさ
原 知ってる
奥 なんか気分悪いな
原 続けて続けて
奥 でもあいつ厳しいよ。誕生日プレゼントのために、会社の女の子と一緒にいたんだよ。
原 会社の女の子?
奥 ただの同僚の子だよ。一緒にいたところをみのりに見られたってわけ。で、あいつ怒り出して
原 待って、そのパターンか。だったらみのりちゃんにちゃんと話せば分かるんじゃない?
奥 え?
原 お前さ、その女の子に、みのりちゃんのプレゼント選んでもらったんでしょ?もー、鈍感なんだから
奥 違うよ
原 なんで?
奥 俺の誕生日プレゼントだから。今日俺誕生日なんだよ
原 お前バカだろ
奥 そんなことねーよ。そしたらみのり怒りだして
原 お前はどこまで鈍感なんだよ。あ、お前今日誕生日だっけ?
奥 そうだよ。もう、覚えてないよな
原 覚えてたよ。ただ、ちょっと油断しただけ
奥 忘れてたって言えよ
原 じゃあそれでいいよ
奥 なんでお前が逆ギレだよ
原 僕の誕生日だってお前何もしなかったじゃんかよ
奥 ごめんな。
原 あ、そうだ。プレゼント。お守りとして。(自分のウィルストーンを渡そうとする)
奥 いらねーよ。こんなん効果ねーし。
原 お前が言うなよ
奥 まだ、カロリーメイトとかの方が嬉しいよ
原 そこまで下かよ
奥 その石じゃプレゼントにならない。
原 あ、お前、その女の人からプレゼントって何もらったの?
奥 カレー
原 え、カレー?
奥 俺カレー大好きなの知ってるだろ
原 うん
奥 子供の頃週一回はカレーの日があったのよ
原 ださいけどな
奥 で、みのりはカレー大嫌いだろ
原 あー、そうだっけ
奥 ニオイかぐだけで気持ち悪くなるんだって。で、同僚の子が、すっげえカレー作るのうまくて、作ってもらったのよ。ちゃんとスパイスから作るのな。マジうまかったよ
原 待って。作ってもらったの?
奥 いいだろ、誕生日くらいカレー食ったって
原 作ってもらったって、どこで?
奥 ここで。
原 みのりちゃんはそれを見たの?
奥 うん。で、カレー食ってたらみのりが来て、「あ、みのりだ」って思ったらもっのすごい勢いで出てった
原 そりゃそうだろ
奥 あいつカレー嫌いだからな
原 そうじゃねえよ。お前がみのりちゃん以外の子を家にあげたからだよ
奥 でも、本当にカレーだけだよ
原 そうだとしてもだよ。お前は女の気持ち全然分かってないな
奥 お前に言われたくねえよ
原 反論できないけどさ
奥 でも、カレーはマジでおいしかった
原 そうなんだ
奥 マジでおいしいからな
原 いいなー
奥 あ、まだ残ってるよ。キッチンに(下手を指す)
原 あ、僕お腹すいてるんだよね
奥 へー
原 え、カレーまだ残ってる?
奥 うん
原 ちょっと欲しいなあ
奥 あげないよ
原 じゃあなんで残ってるよって言ったの?
奥 現状報告
原 必要ねえよ
奥 そうだ、みのりすっごい料理下手なの
原 あー、天は二物を与えずってやつか
奥 そうでもねえけどさ。しかも、気がつけばオムライスだよ
原 いいじゃんかよ
奥 あいつの得意料理なんだろうけど、すっげえまずいんだよ
原 マジで?
奥 なんかちょっとさ、カレーの味がするの
原 カレー嫌いなのに?
奥 もう訳分からないよな。やっぱさ付き合えばどんどんやなとこ見えてくるもんだな
原 そういうもんじゃないの?
奥 そうだけどさ。お前はいいよな、みのりの嫌なとこまったく知らないんだから
原 僕だって知りたいよ。みのりちゃんの全部知りたいよ。でも、僕の方がみのりちゃん    
  を長く知ってるんだよ。お前高校からだろ?僕とみのりちゃんはなあ、小学校も中学校も一緒なんだよ
奥 知ってるよ
原 僕は小学校の頃からずーっとみのりちゃんが好きなんだよ
奥 いや、そんな好きだった期間とかより、内容だろ。それにお前好きだって思ったって何もしなかったんだろ。
原 してたよ
奥 何をだよ
原 ずっとみのりちゃんのことを思ってた
奥 それが何もしてないってことなんだよ
原 してるよ。軽々しく気持ち伝えるより、ずっと難しいことだよ
奥 はいはい、言い訳ね
原 いい訳じゃないよ、僕の信念だよ
奥 どっちでもいいけどさあ
原 じゃあ、とっておきのこと言ってやるよ
奥 とっておき?
原 お前にとって凄いショックな報告な。
奥 なんだよ
原 みのりちゃんのことだよ
奥 何?
原 気になるだろ。恐いだろ
奥 うん、ちょっと、恐い
原 言っちゃうぞー(勝ち誇る)
奥 何。
原 言っちゃうぞー
奥 何、恐い何
原 言っちゃうぞー
奥 やだやだ、何、本当何
原 言っちゃうぞー
奥 やーだやーだ何?
原 言っちゃうぞー
奥 長くないかな
原 みのりちゃんのことだ。みのりちゃんは、高校時代にお前に告白した。でも、それはお前が好きだから告白したんじゃなくて、ただ僕がしつこかったから、僕から逃げるためにお前と付き合おうとしたんだよ。ざまあみろ
奥 それ、お前の方がダメージ大きいだろ
原 僕も今思った
奥 かわいそうに。でも、そうだとしても、今は2人で愛し合ってるんだよ。こっちは7年も付き合ってるんだよ
原 いいよな、お前は
奥 あれ、お前しつこかったって、みのりに告白とかしたんだっけ?
原 してないよ。ただ、ずっと目から愛してる光線を出してた。
奥 そりゃあ耐えられないわ。なんで告白しないんだよ。
原 だって、僕となんか釣り合うはずないし。
奥 お前、なんでそんな好きなのに言わないんだよ
原 あのとき3人でよく遊んでたろ。その後気まずくなると思って
奥 結局きまずくなっちゃったけどな
原 しょうがないだろ
奥 でも、お前、今でも告白して無いんだろ?
原 それは、お前とみのりちゃんが付き合ってるからだよ
奥 お前好きならさ、奪ってでも手に入れるくらい考えろよ
原 だって、そうしたらお前困るだろ。あーあ。お前があっと言う間にみのりちゃん奪っちゃったんだもんな
奥 なんか聞こえが悪いだろ
原 この泥棒ネコが
奥 あのな、それは女が女に言うセリフなんだよ
原 ペルシャネコが
奥 それは何の比喩だよ
原 ちょっとばかし僕よりかっこいいからって調子乗るんじゃないぞって比喩だよ
奥 無理があるだろ。あのな、もう、みのりのこと全部お前に話したし、お前がいたって解決にはならないの。だから帰って。
原 僕はみのりちゃんをなんとかしなきゃいけないんだよ
奥 帰れよ。家でぷよぷよでもやってろよ
原 何その言い草
奥 お前好きだったろ
原 バカにするなよ
奥 でもお前高3までやってたろ
原 まだやってるよ
奥 おかしいよお前
原 好きなんだよ、あのクオリティの高さが
奥 くだらねえ
原 だって、ぷよぷよしてるんだよ
奥 なんだよそれ
原 あれだけぷよぷよしてるものって言ったら、ぷよぷよかおっぱいくらだもん
奥 なんだよ気持ち悪いな
原 たわわ加減が一緒なんだよ
奥 お前どうせ触ったこと無いだろ?
原 あるよ。
奥 そうだ、その話聞かせろよ
原 僕だって、けっこうモテるんだぜ。
奥 人間顔じゃないもんな
原 うるさいうるさい、うるさい
奥 どこでさわったの?
原 いや、もんだの
奥 どっちでもいいから
原 コンパがあったのね
奥 うん
原 まあ、僕は大抵盛り上げ係りに徹することを余儀なくされるんだけどね
奥 察せるよ
原 黙って。コンパ終わりに一人の女性が酔いつぶれました。で、みんなはカップルになってるから僕だけ残って、タクシーでその子の家まで送ってったのよ
奥 おお、来たなお前
原 で、それで、彼女をタクシーからこう(後ろから抱きかかえるように)連れてって、彼  
  女の家の玄関までついたのよ。で、彼女は酔いが冷めてこう言ったのよ。「原田君、ありがとう。良かったらちょっと上がってってよ。」で、僕はそこで言ってやったのよ。「それはルール違反だよ。ちゃんとお風呂入って、歯磨いてから寝なよ。じゃあ。」ってね。で、僕は帰りましたと。
奥 おっぱいは?
原 僕も頭がいいからさあ、タクシーから連れ出すときにこうおっぱい(もみもみ)
奥 おもいっきりルール違反してるじゃん
原 違う、正当防衛だよ
奥 一方的だろ。でも、お前、ちょっとは偉いな。
原 僕は、誇りを持ったチェリーヤングですから
奥 やべー。なんかかっこよく見えてきた。あ、ちげえこいつ勝手に人のおっぱいもんでんだよ
原 ま、悪く言うとな
奥 良く言いようがないからな。あ、そういや、その、感触は?
原 緊張して覚えてない。おっぱいがなあ。
奥 だめじゃん。もまれ損だよ
原 もみ損だよ。おっぱいがなあ。あー、おっぱいがなあ。でも、おっぱいがなあ
奥 あ、みのりのおっぱいの話聞きたい?
原 下品だよ、ちゃんと乳房って言えよ
奥 お前あんだけ言ってたろ
原 みのりちゃんのは特別なんだよ
奥 みのりの乳房はねえ
原 やめてやめやーめーて。僕のみのりちゃんのイメージが壊れる
奥 じゃあやめるよ
原 僕のみのりちゃんを汚すな
奥 いや、汚してはいないけどさ
原 何カップ?
奥 え?
原 みのりちゃん、何カップ?
奥 え、言っていいの?
原 だめだめだめ
奥 お前めんどくせえ
原 みのりちゃんの胸かあ(想像する)

 〈3電話の音〉

原 あ、みのりちゃんごめん

 奥山出る

奥 もしもし、あ、坂本さん。
原 うぜえよこいつ
奥 シー。あ、申し訳ございません。ですから返品の方は承ってないです。申し訳ございません。えー?なんですか納得するまで許さないって。許す許さないの問題じゃないですよね。私が作ったんじゃないですって。あ、切れた

 奥山、電話を置く

原 しつこいね
奥 お前みたいだ
原 そんなことないよ
奥 似たもの同士だよ。
原 そういや、坂本さんは何色の石買ったの?
奥 黄色
原 一緒だ
奥 似たもの同士だ。なんの話だっけ?
原 おっぱいだよ(テンションあげる)
奥 また言ってんじゃんお前
原 だって、僕だってもう25だよ。セックスくらいしたいよ
奥 そうか
原 男子の初体験はの平均年齢は17歳だって、ホットドッグプレスに書いてあったもん
奥 昔のエロ本読んでるんだな
原 いいだろ別に。あー、僕もエロいことしてみたいなー。
奥 その前に相手探さなきゃな。一生童貞でいいのかよ
原 いやだ、初めての相手はみのりちゃんがいい
奥 お前俺の前でそういうこと言うなよ
原 だって本音なんだもん
奥 諦めろって
原 無理だよ
奥 あ、じゃあお前もう告白しろ。告白してだめだったらちょっとは諦めつくだろ。
原 かもしれないけど。僕、告白なんてしたことないし
奥 まあ、俺もないけど
原 え、ないの?
奥 うん。俺は来るものは拒まずって感じだったんだから
原 お前アメリカじゃないんだから
奥 なんだよその例えは
原 ね、告白ってどうすればいいの
奥 俺もアドバイスできないな。自分の気持ちを素直に伝えればいいんじゃないの?
原 自分の気持ちが分からないんだよ
奥 お前青春気取りか
原 僕は今始めて青春時代になったんです。僕はときめいてるんだ
奥 気持悪い
原 なあ、みのりちゃんはお前にどんな風に告白したの?
奥 奥山君が好きだから、付き合って欲しいって。で、結ばれたと。
原 お前そのときみのりちゃん好きだったの?
奥 いや
原 好きじゃないのに?
奥 恋愛感情はなかった。友達として遊んでたし
原 お前最低だな
奥 みのりもそのとき俺のこと好きじゃなかったんだろ?
原 そうだけどさ
奥 それに恋愛ってそういうことあるんだよ。付き合っていくうちにどんどん相手好きになるんだもん。
原 嘘だよ
奥 嘘じゃねえよ。お見合い結婚だって、知らない人同士が結ばれるんだろ?
原 そうだけどさ
奥 あ、じゃあお前お見合いすれば?そしたらそのうちセックス出来るよ
原 話変えないでよ。僕の告白の話でしょ
奥 思いのままを伝えればいいんだって
原 でも、今は告白できない
奥 優柔不断だな
原 違う。だって、今お前たちケンカしてるだろ。
奥 うん。
原 みのりちゃんは落ち込んでる。で女の子は傷ついてるときに声かけられると弱いんだ  
  よ。僕はみのりちゃんが普通の状態で、フラれるならかまわないから正々堂々と告白したいの
奥 お、お前えらいじゃん
原 ホットドッグプレスにのってた
奥 そればっかだな
原 僕はお前らのケンカが終わったあとに告白するんだ。だから、早く仲直りしろよお前ら。あーあ。迷惑だな
奥 お前
原 だめだったら、もうあきらめるからさ。ちゃんとみのりちゃん呼び出して、2人きり 
  になったところで、みのりちゃんにお酒飲ませて酔っ払ったところで告白するから
奥 酒に頼ってるじゃん
原 冗談だよ。ちゃんとやるからさ。だから、早く仲直りしろよ

 奥山、みのりに電話をかける

奥 みのりか?今どこにいるの?女友達の家。そうか。お前、俺が悪かったよ。ごめんなさい。気が済んだら戻ってくれ。俺らの関係は、俺ら2人のものじゃなかったんだよ。ずっと応援してくれるやつがいたんだよ。だから、俺はお前を離す訳にはいかねえんだよ。愛してる、みのり。ちょっと、今かわりたいやつがいるから。
原 僕?

 原田、電話に出る

原 みのりちゃん。もしもし、原田です。奥山がみのりちゃんとケンカをしたってことで、相談受けてました。あの、僕思うんだよね。僕は、みのりちゃんのことが好きなんだ。好きなんです。けどさ、奥山とみのりちゃんの間には入れないよ。実は、2人がケンカするたびに勝手にチャンスだって思ってたけど、毎回毎回仲直りしちゃって。今回もさ、お前ら勝手により戻せよ。
奥 原田
原 また勝手に愛し合え。でも、約束して。奥山がみのりちゃんのこと悲しませたら僕は怒るよ。でも、みのりちゃんが奥山のこと悲しませたら、僕怒るからね。約束だよ。みのりちゃんだって、この7年間で誰が大切な人か分かったでしょ。雨が降ろうが、風が吹こうが、ひたすらみのりちゃんのことを想い続けてきた人がいるんだよ。みのりちゃんの大切な人は、僕だったんだよ。愛してる。

 原田、電話を切って満足げな顔

奥 えー?
原 何?
奥 ここで言っちゃうんだ
原 自分の気持ちを素直に伝えたから
奥 お前最低だな
原 やっと自分の気持ちが言えたよ

 〈3電話の音〉
奥山出る

奥 はい、みのり?あ、坂本さん
原 なんだよ
奥 いい彼女さんですね?なんのことですか?
原 え、何?
奥 切れた。
原 何?
奥 気持わる
原 え?みのりちゃんのこと知ってるの?

 〈4メール着信音〉

原 おい、みのりちゃんからだぞ。
奥 え。何?
原 この用件を、私の大切な人に伝えてください。私はあなたを許してませんが、今回もいい訳くらいは聞こうと思います。そして、原田君にはいっつも感謝です。でも、やっぱり私は奥山が好きなの。ピーエス。友達の坂本さんになぐさめてもらってました。あんたがクレーム対応してる坂本さんです。あんまりうるさいから石は私が買い取っておきました。感謝しなさいよ

奥 何それ?
原 ふられた
奥 あ、ウィルストーンはみのりが買い取ったんだ。
原 ふられたー
奥 あ、じゃあ、坂本さんは納得したってことだよな
原 ふられ

奥山、電話する

奥 もしもし、みのり、戻ってきてくれ。え、もう向かってる?そうか。うん、うん、じゃあな。え?坂本さんも来るの?
原 なんで?
奥 断ってくれ。え?テンパってて面白い人が気に入ったから。え?

 奥山、電話を戻す

原 僕?テンパってて面白くてかっこいい人って
奥 一個余計だぞ
原 このウィルストーン、もしかして効果あったのかもな。
奥 坂本さんにもな。
原 坂本さん、どんな人なのかな
奥 すっげー美人かもよ
原 中学生かな?
奥 それはないけど
原 これ、誕生日プレゼント
奥 え?
原 これで、みのりちゃんとペアになるだろ。それに、僕に幸せが来たかもしれないからさ。後は自分でなんとかするよ。みのりちゃんとの恋愛成就だよ。はい
奥 いらねーよ、これ効果ねーもん
原 お前うぜーな
奥 お前さ、この石の広告出ろよ
原 僕はブサイクじゃないんだって
奥 ブサイクだろうが
原 そうだとしても認めない
奥 あ、そうだ。カレー処理しないと
原 みのりちゃん嫌いなんだもんな
奥 急げ、お前も手伝え。
原 食べていいの?
奥 当たり前だろ

奥山、下手に去る。ここで
〈2チャイムの音〉

原 もう来たの?
奥 早!待って。俺にやりたいことがあるんだよ。
原 何?
奥 お前告白したろ。俺だって、みのりに告白しなきゃ

 奥山、玄関(上手)のギリギリまで行く。ここで音響、
 〈5遥かなる想い〉


奥 みのり、そこでいいから聞いてくれ。俺がお前を好きになったのは、お前と付き合ってからけっこうたってからだ。ごめん。だけどな、今はお前がいるのが当たり前だ。お前が隣にいる空気が、俺は大好きだと思う。いつのまにお前を好きになったのか分からない。でも、今俺はお前を愛してるから。これからも俺と付き合ってくれ、みのり。え、なんですか?

 奥山、上手へはける。ピザを持って登場

原 ピザ?
奥 恥ずかしい
原 坂本さん、やばいね
奥 お前こうなったら絶対坂本さんと付き合えよ
原 やだよピザ女なんか、ストーカーみたいじゃん
奥 お前と一緒だろうが
原 違うよ。あの人はやだよ。

 セリフを続けながらテーブルを中心に奥山、原田を追いかけ続ける。

 音響高まる。フェードアウト。幕。

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