「ララバイ~lala-bye

 

キャスト

長男   浪人生。

次男   高校生。

三男   ひきこもり。

父    宗教にはまっている。

空き巣  空き巣。

 

プロローグ(次男)

 

母さんが座る席、それはいつも決まって同じ所だった。母さんがみんなを平等に見れる場所。みんなが平等に母さんを見れる場所。そんな、所だった。

うちの家族は父さんと母さん、それと兄さんと僕と弟、そんなごくごく普通の家族だ。別に特に裕福でもなく、貧乏でもない。そんな普通の家族。そんなうちにも一つだけ自慢できることがあった。母さんだ。母さんはうちの自慢だった。僕の口から言うのも変だけどキレイだし、優しいし、料理だってうまい。僕らの唯一の自慢だった。うちの家族は母さんを中心にまわっていた。太陽と一緒だ。母さんが笑っていれば僕らも笑っていたし、母さんが悲しそうな顔をしていれば僕らもなんだか悲しくなった。だから、母さんのいない生活なんて考えたこともなかった。もちろんあんな日が来るなんてことも・・・。

 ある日、僕らの世界から太陽が消えた。そう、母さんが死んだ。

そしてあの場所は、今でも誰も座れないでいる。

 

中央にちゃぶ台が一つ置いてある。下手が玄関。上手が台所や、二階への階段に続く。次男電話している。。

 

次男   お願いします。どうしても今日じゃなきゃ困るんですよ。もう、使いものにならなくて。水だってさっき台所の方まであふれてきたんですよ?えっ、なんとか今日来てくれる?ありがとうございます!え〜と、住所は・・・

 

     兄、下手から登場。

 

長男   つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心うつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。「つれづれなる」

は形容動詞。「まま」は・・・、なんだ?ままっていうのは前方宙返りしたまま、とかのままだよな。まま、まま、まま・・・ママ、お母さん、母さん(泣きそう)・・・母さ〜ん!!(絶叫)・・・名詞か。

次男   兄さん。

長男   ん?どした?

次男   うるさいんだけど。

長男   しょうがないだろ。勉強してるんだからさ。

次男   だからってあんな大声出してやることないでしょ。

長男   予備校で習ったんだよ、音読は勉強の基本だって。

次男   まさか、帰り道ずっとそんな大声で叫んでたの!?

長男   悪いかよ。

次男   ただの危ない人だよ。ていうかさ、歩き回りながらやったって頭いんないでしょ。

長男   大丈夫だよ。お前は知らないもしれないけどさ。実は歩きながらやるとすげぇんだよ。もうすげぇことになんだよ。

次男   聞いたことないよ。あ、そういえば兄さん鍵しめた?

長男   あ〜、多分しめたよ。

次男   多分って・・・あのね、最近ここらの家、何軒も空き巣に入られてるんだって。

長男   へ〜。

次男   だからさ、兄さんも戸締まりには気をつけてよね。

長男   わかったよ。で、お前はどうしたんだよ。

次男   何が?

長男   さっきの電話。

次男   あぁ、トイレが壊れちゃってさ。

長男   え〜。

次男   流そうとすると、水がどんどんあふれてきちゃうんだよ。

長男   なんか詰まってるんじゃないのか?

次男   それを見てもらうために修理の人を呼んだんだよ。兄さん変なもの流さなかった?

長男   夢とか希望とか?

次男   流しちゃったの!?

長男   うそだよ。

次男   とにかく、修理が終わるまではトイレは使えないからね。

長男   え、でも俺ちょっとトイレ行きたいんだけど。

次男   僕だってそうだよ。昼間からずっとトイレ使えないんだから。

長男   俺なんか朝からしてねえよ。

次男   まぁ、そのうちトイレの人来て直してくれるから待っててよ。

長男   わかったよ。・・・え〜と、つれづれなるままに・・・

次男   ちょっと、また最初の方ばっかりやってんの?

長男   復習だよ。

次男   いや、復習もいいけどさ、ちゃんと先進んでるの?

長男   大丈夫だよ。

次男   毎年、後半ばっかりでた〜とか言ってるじゃん。

長男   だから大丈夫だって。

次男   ほんとはさ、あれなんじゃないの?いつも勉強するたびに最初の方ばっかりやってるから最初の方しか勉強できなくて、後ろの方がどんどん手薄になって、毎年受験失敗してるんじゃないの?ちょっと、聞いてる?

長男   あ〜、うっせえなぁ。もう古文やる気なくなったよ。(座る)・・・英語か。

次男   歩きながらやるんじゃないの?

長男   だって、頭はいんないじゃん。

次男   殴っていい?

長男   そうやってあなたはいつも暴力で解決しようとするんですか?

次男   兄さんには言われたくないよ。

長男   と、ジェニファーは言いました。

次男   え〜。

長男   これを受け身の文にしなさい。

次男   うそつけ!明らかに今作ったでしょ!

長男   人を信じられないそれはもっとも悲しきことです。

次男   何様!?

長男   と、トーマスは言いました。

次男   だから作るなって!!

長男   わかったよ、英語やめればいいんだろ。

次男   そういうこと言ってるんじゃないよ。

長男   じゃあね、ジェニファー。

次男   だから、ジェニファーはいない。

長男   なんだよ、ジェニファーだって頑張ってんだよ!

次男   何の話!?

長男   ジェニファーだって頑張ってたのにさ、やることやたらポイかよ!

次男   やめてくれない、その言い方!なんか誤解招きそうで嫌なんだけど。

長男   え〜と、px+q=大化の改新!

次男   ちょっとまって!

長男   そして、等加速度運動をするのは、織田信長っと。

次男   違う、するかもしれないけど違う。

長男   と、スティーブンは言いました。

次男   言うわけないでしょ!

長男   え〜と、いいくそ作ろう鎌倉幕府。

次男   「そ」ってなに、そって!?

長男   119そ年(せんひゃくきゅうじゅうそねん)だよ。

次男   いや、だからさ・・・

長男   あれだよ、十六進数ってやつで「そ」でてくんだよ。情報でやっただろ?ほら、5、6、7、8、9、A。

次男   B。

長男   C。

次男   D。

長男   E。

次男   F。

長男   そ!!

次男   そは違う!

長男   と、キャサリンは・・・

次男   言いません!!

長男   ったく、堅いこと言うなよ。あ、お前解の公式って知ってる?

次男   あぁ、わかる・・・

長男   開いて、閉じて。

次男   え〜。

長男   貝柱の公式!

次男   もうさぁ、いいかげんにしてよ!!兄さんわざとやってるでしょ。

長男   そう思うのはお前の心がすさんでるからだろ。

次男   すさんでるのは兄さんでしょ。働きもしないで何浪もして。

長男   浪人生バカにすんなよ。浪人生だって精一杯生きてんだよ。みみずだっておけらだって浪人生だって!

次男   浪人生とおけら並列?むしろそっちの方がバカにしてるよ。

長男   精一杯生きてるやつの人生に格好いい悪いなんてないと思います!

次男   精一杯生きてないでしょう。毎日が堕落の一方でしょ。

長男   そんなことねぇよ。ただ多少向上意欲と生活能力を失っただけだよ。

次男   ニート宣言!?ほんとさぁ、兄さん勉強大丈夫なの?

長男   大丈夫。今年の俺はひと味違うからな。

次男   毎年そんなこと言ってるじゃない。あのね、うちにとっては受験料だって馬鹿にならないんだよ?ちょっとこれ見てみてよ。

長男   通帳?

次男   ここ。

長男   え、なにこれ!?残りこれだけでどうやって生きてくつもりなんだよ!

次男   だから言ってるんだよ!

長男   まぁ、大丈夫だよ。今年こそいけるって。

次男   それも、もう聞き飽きたんだよ!なんか根拠とかあるわけ?

長男   なんとなく今年は行ける気がするんだよ。

次男   理由になってないよ。

長男   だから、大丈夫だって。今年こそ見てろよ。今まではためてた期間なんだよ。

次男   ためてた期間なら受けなきゃよかったじゃん。

長男   続けることに意義があるんだよ。それにさ、受けなかったらさ、ニートみたいじゃん。

次男   ニートでしょ。社会不適合者のニートでしょ!

長男   お前な、俺とニートの違い教えてやろうか?ニートには目標がない。だが俺には目標がある。大学に入るという目標がある!!

 

     父、下手から登場。

 

父    やっばい。すっごいよかった。やばい。やばいよ。やばいって。

次男   あ、父さんおかえり。

父    いや、ほんとやばいよ。やばいってこれ。

次男   何がそんなにやばいの?

父    あ。あぁ、今日、月例集会行ってきたんだよ。

次男   また?え、でも今日仕事でしょ?会社はどうしたの?

父    早退した。

次男   え〜、何やってんの!?ただでさえ父さんリストラ候補にあがってるのに。

父    同僚の奴らは快く送り出してくれたぞ。あなたなんていてもいなくても変わりませんからって。

次男   喜ぶところじゃないよ!ちょっと、父さんもこれ(通帳)みてみてよ。ただでさえ、もう残りこれしかないんだよ?こんな時に会社クビになったらどうするのさ!

父    お前な、そんなことちっちゃい話なんだよ。今、俺たちが考えるべきことはいかに悪魔の浸食を逃れ、神に選ばれるかどうかなんだよ。

次男   またその話?もう聞き飽きたよ。

父    いいか、よく聞け。

次男   しつこいよ。

長男   いいじゃん、ほっとけよ。

次男   でも・・・

長男   それに親父がこの話し始めたら止まらないのはもう知ってるだろ?

次男   まぁ、そうだけど。

父    いいか、神は天と地を創造された!天はまだむなしく、地はまだ形なく、闇のふちが地の表を覆っていた!!そんな中、神は我々をお作りになられた。しかし、それは失敗であったのである!人は自らの欲望を満たすためだけに争い、地球を汚し、天までも侵し始めた!!そこで神は人類を洗い流すことを決意された!!そしてかつて我々人類は一握りの人間をのぞいて一度滅んだのである。つまり、そこで生き残った選ばれし人間の子孫が我々なのである。そう、我々は選ばれし人間なのである!!

長男   エバラれし人間?

次男   黄金の味!?

父    しかし、今の世の中は様々な嘘と虚構で塗り固められている。少女たちの体には値段がつけられ!私たちの自由は政府によって番号づけられ!そもそも個人の自由などというものは現代においては存在しない!

長男   俺も受験に落ちるしね!!

次男   それは実力でしょ!

長男   昔は頭よかったんだよ。

次男   昔はでしょ。

父    選ばれし人間である我々がなぜこんなに苦しまなければならないのか!

長男   そうだぁ!

父    それはなぜか!?

長男   なぜかぁ!

次男   なんで共感してるの?

父    この世にはびこる悪魔、そうサタンが我々を再び陥れようとしているためである。悪魔が我々の欲望や嫉妬、エゴを生み。争いや不幸を呼ぶ。そうこの世の不幸はすべて悪魔が生んでいる。悲しいことにこの悪魔の浸食を止めることは誰にもできない。神はいつかもう一度人類の選別を行うだろう・・・。

長男   やばいじゃん!!

父    さぁ、そんな中、私たちの信じるものは何か!!友情?愛?はたまた薬物か?? 違う!違う!どれも違う!!私たちの信じるべきもの、それは!この私なのだ!!

長男   え、親父なの!?   

父    あ、間違えた。

次男   今までの台無しだよ。

父    私たちの信じるべきもの、それは!バーバー山本様なのだ!!

長男   床屋なの?

父    教祖なの。

長男   だよね。

父    どうだ?すばらしいだろう?

長男   いや、なんか冷めたよ。

父    なんでだよ。

長男   いや・・・ねぇ?

次男   ねぇ?

長・次男 ねぇ?

父    だからなんなんだよ!

次男   いやね、父さんが僕たちに自分の信じるものを熱く語ろうとするあまりテンションが多少あがりすぎるのはしかたないと思うよ。だけどね、人に物事を勧めたり、紹介したり、家族であってもはずしちゃいけない瞬間ってあると思うんだよね。さっきのバーバーのとこね。やっぱあれは冷めるよ。それにね、やっぱり宗教において布教活動っていうのはさ、会社においての営業と同じくらい重要なことであるわけじゃない。それだけの重要な仕事なわけだからさ、組織としては信者にそれをできるようにするだけの教育をする義務があると思うのね。っていうかそれくらいできない組織に未来はないと思うのね。そんな組織に僕たちが入っても、メリットがあると思えないわけ。そして僕的に前々から一番許せないのは教祖の名前ね。教祖ってのはさ宗教組織の顔なわけでしょ?それがバーバーって、バーバーって床屋?わかりにくいよ。ってか馬鹿じゃないの?あぁ、でも、大丈夫だよ。父さんのその熱い思いは認めるし。それにコンセプト 自体はなかなかおもしろいから今後のやり方次第ではいくらでも可能性はひろがると思うよ。だからこれからもめげずにがんばってね。

父    ・・・あ、うん。なぁ、なんか父さん悪いことしたか?

次男   なんで?

父    いや、なんでって・・・

長男   っていうか、トイレ修理の人遅くない?

次男   いくらなんでもまだ来ないでしょ。

長男   いや、もしかしたら隣のおばちゃんの家に行っちゃってるかもしれないよ。

次男   それはないでしょ。ちゃんと住所は言って・・・あぁ、でも、ありうるかも。

長男   ほら。

次男   兄さんがうるさかったからね!

長男   それに、あのおばちゃん今旅行中でいないし。

次男   ん〜、じゃあ、ちょっと見てくるよ。

長男   あ、それと飯は?

次男   修理の人きたらね。

 

     次男、下手にはける。

 

父    修理の人って?

長男   あいつが呼んだんだよ。

父    ふ〜ん。

長男   なんか、トイレが壊れたらしくてね。

父    え、なんで!?

長男   ほら、あれじゃないの?最近親父便秘気味だったから。

父    あの時ので壊れたの!?

長男   そうだよ、きっと。

父    いや、確かにあの時は久々にすごいのでたけど、トイレが壊れるほどには・・・

長男   恐いなぁ〜、便秘って。

父    ということはあれか?今トイレは使えないのか?

長男   そうみたいだね。

父    え〜、でも父さんちょっと今出そうなんだけど。

長男   俺だってトイレ行きたいんだから我慢しなよ。

父    そうか。そういうことなら我慢しよう。まぁ、父さんにとってはトイレ我慢するなんて余裕だよ。父さんにはこういう時のための秘策があるからな。

長男   え、何それ?

父    見てろ。・・・ヒッヒッフー!

長男   それは出ちゃう方だよ。

父    フッフッヒー。

長男   バカの考えだよ。そこで逆にしちゃうのはバカの考えだよ。

父    うん。なんか便意がおさまった気がする。

長男   マジで!?スゴくね!?

父    あ、そういや、あいつはどうした?やっぱりまだ無理か?

長男   え?あぁ、相変わらずだよ。ずっと、ひきこもってる。

父    大丈夫かなぁ。昨日だって一回も顔見てないぞ。

長男   いいじゃん。ほっとけばいいよ、あんなやつ。

父    そうは言うけどお前の弟だろ?

長男   あんなひきこもり、弟でもなんでもねぇよ。

 

     空き巣、上手に登場。(家の中ではない)

 

空き巣  今日はっと・・・ここか。俺の調べによると今晩、ここの家は旅行で誰もいない。それにこのさびれた裏口。楽勝だな。

 

     空き巣、一度はけ、上手から再度登場。(家の中)

 

空き巣  ってもな〜、最近はサツも俺のこと感づき始めてるし、そろそろこの町とも・・・あれ?

父    あ、こんばんは。

空き巣  あ、こんばんは・・・って、え〜!!

父    えっと、どなたですか?

兄    ほら、親父トイレの。

空き巣  トイレ!?

父    あぁ、あのトイレの。いや〜、最近の修理会社は手際がいいですね。さっき呼んだばっかりだって聞いてたのに。

空き巣  え、・・・あの〜、ここ佐藤さんのお宅では?

父    佐藤さんならうちの隣ですけど。

空き巣  間違えた〜。

父    何がですか?

空き巣  いや、あの・・・

 

     次男、下手から登場。

 

次男   兄さん、やっぱりいなかったよ・・・って、もういる!?

兄    あぁ、ついさっき来たんだよ。

次男   いや、気づかなかったよ。じゃあ、さっそくお願いします。

空き巣  え?

次男   もう大変なんですよ。流そうとするなり水があふれてきて。

空き巣  いや、あの、なんのことだか・・・

次男   案内しますよ。こっちです。

空き巣  え、ちょ、ちょっと〜!

 

     次男・トイレの人、上手にはける。

 

長男   よかったね。これでトイレ直るじゃん。

父    いやいや、一時はどうなることかと思ったよ。

長男   これからは便秘の時は気をつけてよね。

父    わかったよ。

長男   え〜と、問1、下線部の・・・

父    なんだ、お前勉強か?

長男   まあ、一応ね。飯まで少し時間かかるみたいだし。

父    ほ〜、父さんもなぁ、昔はよく勉強したもんだよ。

長男   え〜、嘘っぽい。どうせ親父なんか両手で数えられる数以上はいっぱい!とかそういうレベルでしょ?

父    そんなことないよ。じゃあ、ちょっと問題出してみろよ。

長男   3+4は?

父    7。

長男   4×3は?

父・長男 いっぱい!!

長男   ・・・勉強、しようか。

父    だな。

長男   ・・・え〜と、つれづれなる・・・

父    ・・・ふ〜ん・・・へ〜!・・・ほ〜!!

長男   今度はなに!?

父    いや、この問題集マル多いなって。

長男   え?

父    ほら、こんなにあってる。やっぱりお前昔は頭よかったんだなぁ。さすが父さんの子供・・・

長男   俺の力じゃないよ。

父    え?

長男   母さんの力だよ。母さんが教えてくれてたから、だからできたんだ。

父    でも、実際にやったのはお前だろ?

長男   それでも俺の力じゃないよ。俺が頑張れたのは母さんがいたからなんだ。

父    どういうことだよ。

長男   昔から母さんと勉強してるときが一番楽しくて、それでいい成績とったら、母さんがよろこんでくれるのがすごいうれしかったんだ。だから、母さんによろこんでほしいって、そのためだけに勉強、頑張ったんだ。

父    ・・・。

長男   だけど、母さんがいない今は、もう、だめなんだ。俺が頑張れたのは母さんがいたからなんだよ。

父    ・・・。

長男   俺の力じゃないんだ。俺一人じゃ、何もできないんだ。

父    お前・・・

長男   と、マイケルは言いました!

父    え?

長男   問1、下線部の・・・ほら、親父だって勉強しなきゃ。

父    ・・・父さんだってさ、同じなんだよ。

長男   え?

 

     次男、上手から登場。

 

次男   じゃあ、あとよろしくお願いします。

長男   遅い〜。修理の人来たらすぐ飯って言ってたじゃん。

次男   詳しい状況を説明したりで色々大変だったんだよ。

長男   早く飯にしようよ〜。

父    で、今日の夕飯はなんなんだ?

次男   ん〜、コロッケかな?

長男   お前作ったの?

次男   いや、この前隣のおばちゃんからもらったんだ。

長男   あのおばちゃんかぁ。

父    あのおばちゃんかぁ。

長男   あのおばちゃんのコロッケって衣ばっかりなんだよなぁ。

次男   待って、あのおばちゃんってなんだか名前みたくなってる。

父    で、一人何個分くらいあるんだ?

次男   何個分っていうより三つしかないんだよね。

父    え、三つ!?

長男   なんで三つなんだよ!

次男   なんでって言われても・・・

長男   俺達が四人家族なの知ってんだろ!?なんであえて三つなんだよ!

次男   だから知らないって。

長男   ドメスティックバイオレンスの引き金になるよ!

次男   兄さんだけだよ。とにかく、僕は今から支度するから兄さんはあいつ呼んできといてよ。

長男   え、なんで?

次男   なんでって、家族でしょ?

長男   どうせ呼んだって来ないじゃんあいつ。

次男   だからって呼ばないわけにいかないでしょ。

長男   だってあいつひきこもりだぜ?そんなん気にすることねぇよ。

次男   だからこそだよ。ひきこもってばっかりでろくなもの食べてないんだから。

長男   あいつは部屋でちゃんと光合成してるから大丈夫だよ。

次男   そんなわけないでしょ。

長男   え、できるよ、あいつ。もやしみたいじゃん。そのうち芽とか生えてくるんじゃね?

次男   生えてこないよ。

長男   まぁ、大丈夫だよ。現に身長だって竹の子みたいにすくすくのびてるじゃん。

次男   竹の子って・・・とにかく、兄さんはあいつ呼んできといてよね。

長男   え〜。

次男   じゃないとご飯食べさせないから。

長男   じゃあ、親父行ってよ。

次男   人に押しつけないでよ!

 

     電話の音。

 

長男   お前だって俺に押しつけてるじゃん。

次男   僕は食事の準備があるんだよ!

長男   ついでに行ってくればいいだろ!

次男   早く食べたいって言ったのは兄さんでしょ!

父    ちょっと、お前ら落ち着けよ。ほら、電話だってかかってきて・・・あれ、止んだ?

長男   どうせ間違い電話かなんかでしょ。

次男   はぁ〜、じゃあ父さん、あいつ呼んできてもらえる?

父    よし、わかった父さんが行ってこよう。失いかけた父の威厳を見事取り戻してこようではないか!

 

     父、上手にはける。

 

次男   ねえ、兄さん。

長男   なに?

次男   あいつがもしきたらさ、もう少し優しくしてあげてよね。

長男   なんで?

次男   なんでって・・・いつも兄さんあいつのこといじめてるじゃん。

長男   気に入らねえんだもん。

次男   兄さんがそんなんだからあいつがいつまでたっても部屋から出てこないんじゃん。

長男   だってあいつ、いつもうじうじしてるし、何言ってもはっきりしないし。

次男   それは性格なんだからしょうがないでしょ。

長男   とにかく俺はあいつは気に入らないんだよ!

次男   いいかげんにしなよ。家族でしょ!

長男   家族でも気に入らないものは気に入らないんだよ!

次男   そういうのもうやめなよ。いつから兄さんそんなになっちゃったわけ?昔はもっと違ったじゃん。

長男   うっせえよ。

次男   たしかに受験失敗し続けて大変なのはわかるけどさ、あいつにあたったってなんにも変わんないじゃん。

長男   あたってなんかねえよ!!

次男   あたってるよ。

長男   あたってねえって言ってんだろ!なんだよ、偉そうに。

次男   偉そうって・・・

長男   どうせさ、お前は俺のこと馬鹿にしてんだろ。

次男   そんなことないよ。

長男   いいよな、お前は。家事とかやって、俺らを支えてるんだって、そう思えて。そんで俺を見下して。

次男   だから違うって。

長男   嘘つくなよ。どうせ心の中じゃ俺のこと馬鹿にしてんだろ!!

次男   いい加減にしてよ!!自分勝手な妄想で人のことそう言う風に言うのやめてよ。

長男   ・・・。

次男   とにかく、頼んだよ。

 

     次男、上手にはける。父・三男、次男と入れ替わりで上手から登場。

 

父    ん?あいつどうしたんだ?

長男   別に。・・・来たんだ、お前。

三男   ・・・。

長男   無視かよ。

父    どうだ。失ってしまった父の威厳を見事取り戻してみせたぞ。

長男   そーですね。

父    いや〜、威厳を失ってからはや三年・・・ってまだ失ってねえよ!って父さん上手い!山田く〜ん、座布団一枚ちょうだ〜い。

長男   そーですね。

父    どうしたんだお前?なんか機嫌悪くないか?

長男   別に。

父    そうか?ならいいけど。

長男   座れば?もう少しであいつが飯持ってくるだろうし。

父    そうだな。ほら、お前も座れよ。

三男   う、うん。

長男   あいかわらずむかつくしゃべり方だなぁ。

三男   に、兄さんには関係ないでしょ。

長男   関係なくないです〜。いらいらして勉強に手がつかないんです〜。

三男   べ、勉強って、僕がいなくったてどうせ兄さん・・・

長男   なに?聞こえないんだけど。

三男   ま、真面目に勉強しないじゃん。

長男   おまえにそんなこと言われる筋合いねえよ!

三男   だったら、兄さんだって。

父    まぁまぁ、お前ら落ち着けよ。久しぶりに顔合わせたんだからさ。な?

長男   ったくいらいらさせんなぁ、お前は。

三男   兄さんだって僕にあたるのやめてよ。

長男   あたってなんかねぇっつってんだろ!!

 

     空き巣、上手に登場。(トイレの中)トイレを直している。

 

空き巣  ・・・あれ?なんで俺トイレなんか直してんだ?おかしくないか?おかしいよね。いや、おかしくないだろ。いや、おかしいって・・・あ〜!!もうなんなんだよ!!そうだ、とにかくこの家から出よう。

 

     空き巣、一度はけ、再度上手から登場。(部屋の中)逃げようとする。

 

空き巣  ・・・。

父    だから、お前らちょっと、落ち付けって・・・あ!トイレ直ったんですか?

空き巣  え!?あ、あぁ、も、もちろん直りましたよ、多分・・・。

父    あ、そうですかぁ。で、どこ行こうとしてたんですか?

空き巣  え?いや、あの、トイレどこかな〜て。

父    さっき直してたじゃないですか。

空き巣  あ、そうですね。はい・・・

父    で、なにが原因だったんですか?やっぱりうんこですか?

空き巣  え?

父    いや、実を言うと私便秘気味でしてね。こないだ久しぶりにでたんですよ。

空き巣  は、はぁ。

父    そしたらそれのでかいのなんのって。ゾウのふんくらいありましたね。

空き巣  そ、そうですか。それはめでたいことですね。

父    で、やっぱりうんこが原因でしたか?

空き巣  え?え〜と・・・

父    ねぇ、どうなんですか!

空き巣  はい、うんこ・・・つまってました。ものすごい。

父    やっぱりそうでしたか。お前のいう通りだったな。トイレ便秘だったみたい。

長男   え、あぁ、そうだね。

父    便秘はつらいからな。トイレの気持ちは痛いほどわかるよ。

空き巣  ま、まぁ、とにかく直ったんで。私はこれで・・・

父    じゃあ、もうトイレ使っていいんですよね?

空き巣  え、だ、ダメです!それはダメです!!

父    え、なんでですか?

空き巣  なんででもです!!

父    でも、さっき直ったって言ってたじゃないですか。

空き巣  いや、あのトイレは今人間で言う術後と同じ状態なんですよ。

父    術後?

空き巣  人間だってお腹切られた後すぐには動けないでしょ?

父    まぁ、そうですね。

空き巣  だから、トイレもすぐには使えないんです。

 

次男、上手から登場。

 

次男   ちょっと、どうなってんですか!

空き巣  え?

次男   トイレ直ったからここにいるんですよね?

空き巣  え、えぇ、まあ。

次男   全然直ってないじゃないですか!!あいかわらず水あふれてきましたよ!

長男   あ、ずりぃ。お前先にトイレ行きやがったな!

次男   別にいいでしょ。

長男   俺には我慢しろって言ったくせに。

次男   で、どういうことなんですか!

空き巣  え、それは・・・

父    馬鹿だなぁ、術後はすぐに動けないんだよ。

次男   術後?

父    修理したあとは術後と同じなんだって。

次男   そんなわけないでしょ!!

父    え、まじで!?

次男   ないお金はらってまで呼んでるんですからちゃんともう一回直してくださいよ!

父    再手術ですか?

次男   だから手術じゃないって。ほら、早くしてくださいよ!

空き巣  え、え〜!!

 

     空き巣・次男、上手にはける。

 

三男   ねぇ、今の誰?

父    あぁ、トイレ修理の人。トイレ壊れちゃったらしくてな。

三男   ・・・。

長男   ったく、それくらい察しろよな。これだから、空気の読めないやつは。

父    だから、お前そういう言い方は・・・

長男   なに?

父    いや・・・

 

     次男、上手から登場。

 

次男   じゃあ、今度こそしっかり直しといてくださいよ!

父    あ、終わったか?

次男   まあね。あ、あと、ごめん、今日夕飯作るの無理だ。

父    え、なんで?

次男   なんか冷蔵庫まで壊れちゃったみたいでさ、中のもの全部痛んじゃってた。

長男   え〜、ちょっと勘弁してくれよ。

父    じゃあ、今日の夕飯は?

次男   コンビニとかで買ってくるしかないね。

長男   そんなん誰が行くんだよ?

父    そうだなぁ。

長男   あ、お前行けよ。

三男   え?

長男   お前行けっていってんの。

三男   ぼ、僕?

長男   どうせさぁ、いつも引きこもってばっかりでたいした栄養使ってないんだからこういう時くらい栄養使っとけよ。

次男   兄さん。

長男   あと、お前の分は買ってこなくていいから。

三男   え?

長男   お前は光合成できるんだからいらないでしょ?

三男   そんなんできないよ。

長男   え、できんだろお前。もやしみたいじゃん。あ、ここ芽?芽じゃね?

次男   兄さん!

長男   なんだよ!

父    あ、ほら、ここはあれだ。じゃんけんで決めよう。な?

長男   まぁ、いいけど。

父    ほら、行くぞ。みんな立て。・・・最初はグー、じゃんけん、

全員   ポン!(適当にじゃんけん。長男が負ける)

長男   げ〜。

父    はい、お前の負け〜。

次男   兄さん、しっかり行ってきてよね。

長男   え〜。やっぱりお前行ってこいよ。

三男   え、やだよ。

次男   兄さん!

長男   だって不公平でしょ。俺らはみんなのために働いたり、動いたりしてるのにさ。こいつ光合成しかしてないじゃん。こういう時くらいみんなのためになにかするべきでしょ。

次男   兄さんだっていつもなんもしてないでしょ!

長男   俺は勉強してます〜。

次男   あんなん勉強のうちに入らないよ!

長男   そんなことねえよ!

次男   そもそもじゃんけんに負けたのは兄さんなんだから兄さんが行くべきでしょ。

長男   うっせ〜な、こういうのは一番ダメなやつが行くべきなんだよ!

次男   だからそういう言い方やめなって!

長男   早くお前行けよ!

次男   ちょっと、そんなこと言ったら兄さんだってダメじゃん!働きもしないで何浪もして!!

長男   俺はダメなんかじゃねえよ!

次男   ダメだよ!

長男   なんだよ、いっつもこいつの味方ばっかりしてさぁ!

次男   そんなことしてないよ。

長男   してるじゃねぇか。今だって俺のことばっかり悪者にして。

次男   だから、違うって!

長男   やっぱり、お前は俺のこと馬鹿にしてるんだよ!

父    お、おい・・・

長男   親父は黙っててよ!!なんで俺ばっかり馬鹿にすんだよ。こいつの方がよっぽどだめじゃんか!!ひきこもりで、いっつもうじうじしてて!!こいつの方がだめじゃないか!!

三男   もういいかげんにしてよ!!

長男   なんだよ!

三男   いっつも僕のことダメダメ言ってるけどさ、本当にダメなのは兄さんの方じゃないか!!

長男   そんなわけねえだろ!!

三男   そうだよ!兄さんは自分がだめなのを認めたくないから、だから僕のことを馬鹿にしているんだ。僕を、自分よりだめだと思う人間を馬鹿にすることで、自分がだめだってことを隠しているんでしょ!自分がだめな人間だってことを認めたくないから!

長男   うるさい、うるさい・・・

三男   そんなくだらないことのために、なんで僕がこんな思いしなきゃならないんだよ!!

長男   うるさい、うるさい、うるさい!!お前に何がわかんだよ。母さんが死んで、たった一つの 頑張る理由もなくした俺の・・・お前に何がわかんだよ!

三男   そんなのわかってたまるかよ。だからって僕を傷つけるのかよ。そんなの、わかってたまるかよ!

次男   ちょっと、お前、言いすぎだよ。兄さんも混乱して・・・

三男   兄さんも、もうそういうのやめなよ!兄さんはそうやって一見まともなこと言ってるようにしてるけどさ、結局はその時弱い立場の人の味方をすることで、その場を取り繕おうとしているだけじゃないか!ただ、自分が悪者にならないようにしてるだけで、結局何も変えようとしないじゃないか!!そんな人に、なにも言われたくない!

父    お、おい・・・

三男   父さんだって、なんで子供がこんなことになってるのに何もしようとしないんだよ。なんでへらへらしていられるんだよ・・・。

長男   ・・・!!

 

     長男、下手にはける。

 

父    お、おい!

 

     父・次男、長男を追ってはける。

 

三男   ・・・。

 

トイレ、上手から登場。

 

空き巣  あれ?君だけ?

三男   ・・・。

空き巣  まぁ、いいや。じゃあ、俺はこれで。

三男   トイレ直ったんですか?

空き巣  え!?あぁ、もちろんだよ。だから今こうやって帰ろうと・・・。

三男   うそでしょ。

空き巣  え、なにが?

三男   トイレ直ったって言うの。

空き巣  そ、そんなことないって。

三男   じゃあ、なんでお金はらってもらおうとしないんですか?

空き巣  あ、あぁ!忘れてた、忘れてた!え〜とねぇ、代金はしめて・・・。

三男   もう、うそはいいですよ。あなた、トイレ修理の人じゃないでしょ。

空き巣  そ、そんなことないよ!俺は正真正銘の・・・

三男   さっき電話があったんですよ。やっぱり今日はトイレの修理来れないって。はじめは何のことだかわからなかったんですけど。

空き巣  あ、あ〜・・・、それは多分あれだよ。多分それはあっち側の手違いで・・・

三男   だから、もう、うそはいいですって。それにじゃあ、なんでトイレ修理しにきたくせになにも道具持ってないんですか?

空き巣  それは・・・。

三男   あなたいったい誰なんですか?

空き巣  言えない、それだけは絶対に言えない。

三男   空き巣?

空き巣  え〜!

三男   今、はやってるらしいし。

空き巣  いや、違う違う!断じて俺は空き巣なんかじゃない!

三男   じゃあ、なんなんですか?

空き巣  だからそれは言えないって。

三男   ・・・もしもし、警察ですか?

空き巣  ちょっと〜!!何しちゃってんの!?

三男   うそですよ。で、あなた誰なんですか?

空き巣  だから言えない。

三男   ほんとうに電話しますよ。警察に。

空き巣  わかった、わかったよ。言えばいんでしょ、言えば!・・・今日はなんて日だ。

三男   大丈夫ですよ。あなたがなんであれ誰にも言いませんから。

空き巣  ・・・そうだよ。俺は空き巣だよ。

三男   やっぱり・・・もしもし、警察ですか?

空き巣  ちょっと〜!!

三男   うそですよ。さっき誰にも言わないって言っておいたでしょ。

空き巣  だからってあえて俺を追いつめる理由がわからないよ。

三男   むしゃくしゃしてたんですよ。

空き巣  え?

三男   あと誰かをいじめるのってどんな気持ちなんかなって。けっこう、気持ちいいですね。

空き巣  なんで急にS宣言なわけ?

三男   こっちの都合です。

空き巣  都合によっては初めて会う人に自分の性癖ばらしちゃうんだ。で、なんで俺が空き巣だってわかったの?

三男   勘です。

空き巣  ・・・君ってさぁ。変わってるって言われない?

三男   なんでですか?

空き巣  いや・・・

三男   最近はずっと家族以外の人と話してないないのでわからないです。

空き巣  まぁ、どうでもいいや。じゃあ、とにかく俺はこれで。

三男   ちょっと、待ってくださいよ。

空き巣  え、なに?

三男   もう少し僕の話聞いてくださいよ。

空き巣  無理。

三男   警察に言いますよ。

空き巣  誰にも言わないっていったじゃん!

三男   それとこれとは話が別です。

空き巣  ずるくない?

三男   ずるくないです。

空き巣  っていうかさ、君、家族にいっつもうじうじしてるとか言われてなかった?

三男   言われてましたね。

空き巣  キャラ違くない?家族の前ではキャラ作ってんの?

三男   そういうわけではないです。とにかくもう少し僕の話聞いてくださいよ。捕まりたくなかったら。

空き巣  わ、わかったよ。なに?

三男   僕らね。母さんがいないんですよ。

空き巣  あっそ。

三男   あっそって・・・

空き巣  こちとら血も涙もない犯罪者なんでね。

三男   たかが空き巣でしょ。

空き巣  それにまぁ、俺だって家族なんてもういないようなもんだし。

三男   どうしてですか?

空き巣  こんなことしてて合わせる顔なんてあると思う?

三男   ないですね。

空き巣  即答かよ。

三男   ・・・喧嘩してたの、聞こえてました?

空き巣  ん?あぁ、あれね。まる聞こえだった。

三男   そうですか。

空き巣  けっこうはげしい喧嘩してたね。

三男   母さんが生きてた頃はこんなことなかったんですよ。もっと、みんな仲が良くて。いつも笑ってて。

空き巣  ・・・。

三男   でも、母さんは死んでからはすべてがダメになっちゃって。

空き巣  ・・・。

三男   僕ね、そんな家族を見ていたくなかったんですよ。だから、引きこもったんです。

空き巣  ・・・。

三男   部屋は、自分だけの世界は楽でした。母さんもおかしくなった家族もなにもかも忘れられたんです。・・・でも、あれですかね、そんなことしてたからここまで家族とすれ違っちゃったんですかね・・・なんでさっきから黙ってばっかりいるんですか?

空き巣  俺は話を聞いてくれ、としか言われてないんで。

三男   ずるいですよ。

空き巣  ずるくないです。

三男   ・・・今はもうみんなが何考えてるか全然わからないんですよ。ほんとはみんな僕のことなんかいなくなってしまえばいいって思ってるのかも。

空き巣  そんなに気になるなら聞いてみればいいだろ。

三男   無理ですよ、そんな。

空き巣  なんで?

三男   そりゃ、知りたいですよ。でも、・・・恐いんですよ、みんなが。みんなの気持ちを知るのが。

空き巣  ・・・。

三男   もし、ほんとうにみんなが僕のことなんていなくなっちゃえばいいって思ってたら、僕、もう、ひとりぼっちじゃないですか・・・母さんが死んで、残った家族にまで嫌われてたら、僕、もう、ひとりぼっちじゃないですか・・・。

空き巣  ・・・。

三男   ・・・空き巣って人殺しはしないんですか?

空き巣  は?・・・俺はしないけど?

三男   そうですか・・・でも、ナイフくらいは持ってますよね。

空き巣  まぁ。

三男   じゃあ、僕を殺してくださいよ。

空き巣  は? 人殺しはしないって言ったじゃん。

三男   あなたに断る権利はありませんよ。

空き巣  意味わかんねぇよ。もう、話は終わったろ。俺は帰る。

三男   警察に言いますよ。

空き巣  は?

三男   断ったら警察に電話しますから。

空き巣  おいおい、ちょっと待てよ。

三男   もう、嫌なんですよ。家族におびえる、こんな生活・・・。

空き巣  ・・・わかったよ。殺してやる。

三男   ・・・。

空き巣  ただし、お前の家族の前でだ。

三男   え?

空き巣  せっかくやるんだ。やるなら派手にやらなきゃな。

 

     長男。次男・父、下手から登場。

 

父    ほら、お前、落ち着けよ。なっ?

長男   ・・・。

次男   あれなんで二人とも一緒に・・・

空き巣  決まってんだろ。こうするためだよ!

次男   え?

 

     空き巣、三男をとりおさえる。

 

次男   ちょ、ちょっと、なにしてんですか!!

空き巣  なにって、見たまんまだよ。そうだなぁ、こいつ殺されたくなかったら、一千万持ってこいよ!

次男   一千万って急にそんな大金用意できるわけないでしょ!

空き巣  そんなこと知るかよ!さぁ、どうすんだよ。金はらうか、こいつ殺されるか!

次男   ちょっと待ってくださいよ!なんで急にこんなこと・・・

空き巣  だってさぁ、トイレ直してたってもうからねぇんだもん。なら、こっちの方が手っ取り早いだろ?

次男   だからって・・・。

空き巣  それにさぁ、こいつお前らにとってどうでもいいんだろ?

次男   え?

空き巣  だったら、こいつなら殺しても罪だって少しは軽くなるだろ。

次男   そんな、どうでもいいわけないでしょ!

空き巣  そんなことなぁ、お前らが言ってもなんの重みもないんだよ。

次男   そんなことあんたにわかるわけないでしょ!

空き巣  じゃあ、聞くけどよ。お前らこいつの何を知ってるんだよ。

次男   そりゃいろいろと・・・

空き巣  お前らさ、さっきこいつのこといつもうじうじしてるって、それは性格なんだからしょうがないってそう言ってたよな。でも知ってるか?ほんとのこいつを。

次男   え?

空き巣  ほんとはこいつけっこうおしゃべりで、案外強気で、ちょっとSっ気があって、なんだけど少し臆病な、そういうやつなんだよ。

次男   ・・・。

空き巣  それでも、やっぱりお前らにこいつのことがそう見えないっていうならな。それはお前らがこいつをそうさせたからなんだよ!それなのにそこの兄ちゃんは一人で勝手に被害者気取りか?

長男   そんなこと・・・

空き巣  そんなんでこいつのことほんとうに大切にしてるって言えるのかよ!

次男   それは兄さんが・・・

長男   な、何だよ。俺のせいかよ!

次男   そうじゃん。兄さんがあいつのこといっつもいじめてたんじゃん。

長男   そ、そんなこといったら、それを止めようとしなかった親父だって悪いだろ!

父    と、父さんのせいか?

長男   そうだよ。親父いっつも見てたのに全然止めようとしなかったじゃん。

父    そ、それは・・・

次男   でも、やっぱり一番悪いのは兄さんだよ!

長男   ち、違げえよ!

父    ちょっと、お前ら今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・

三男   もういいよ。

父    え?

三男   やるなら早く殺してくださいよ。

父    ちょっと、お前何言ってんだよ。

三男   やっと、みんなの気持ちがわかりました。ありがとうございます。

空き巣  ・・・。

三男   やっぱり、僕はもう生きててもしょうがないみたいです。

父    おい、ちょっと待てよ!

三男   こっち来ないでよ!・・・もう、僕のことなんかどうでもいいんでしょ?なら、僕を助けようとなんてしないでよ。

父    そんなことないって!

三男   じゃあ、なんでこんな時に責任のなすりつけ合いなんかしてるんだよ。自分が悪

くなきゃそれでいいのかよ!・・・結局父さん達は自分だけよければそれでいいんでしょ。

父    ・・・。

三男   ・・・早く、殺してくださいよ・・・。

空き巣  俺としては人質殺してもなんも得しないんだけどなぁ。まぁ、しょうがないか。こんなんじゃ人質にならないし。

父    ちょ、ちょっと待ってくれ!

空き巣  なんだよ。今更、あんたらにこいつになんか言う権利あんのかよ。

父    それは・・・

空き巣  ・・・なさけない父親だな。

父    え?

空き巣  赤の他人にとやかく言われただけで、実の子供に何も言ってやれないなんて・・・あんたがもう少ししっかりしてたらこんなことにはならなかったのかもな・・・。

父    ちょ、ちょっと待ってくれ!!

空き巣  まだ、なんかあんのかよ。

父    ・・・と、父さんさ、母さんが死んじゃった時、そのこと信じられなかったんだよ。今にも母さんが俺たちを呼ぶ声が聞こえてくる気がしてたんだよ。

三男   何言って・・・

父    聞いてくれよ!・・・だからさ、母さんがいつ戻ってきても大丈夫なように、この家を、この家族をどうにかして守りたかったんだ。・・・でもさ、父さんは馬鹿だから、自分の力だけじゃみんなを守ってやれない。だから、山本様に頼ったんだ。・・・嬉しかった。自分が山本様を信じることで、山本様を通して母さんの代わりにお前らを守ってあげられるって、そう思えたんだ。

三男   ふ、ふざけんなよ。・・・何が山本だよ・・・何が神だよ!それに頼った結果がこれじゃないか!そいつが僕らの何を守ってくれたって言うんだよ。何も守ってくれなかったじゃないか!そんなのただの父さんの自己満足じゃないか!!

父    うん。お前の言う通りだ。結局父さんはお前らを守ってあげてるって、そう思っていたかっただけなんだ。ほんとはただ、家族の中にある父親っていう自分の存在を守っていただけだったんだ。父さんだけじゃない。他のやつらだってそうだ。母さんが死んだ後、みんなはじめはなんとか家族を守ろうって、そう思ってたんだよ。でも、実際はみんな母さんみたいにはうまくやれなくて、結局家族じゃなくて、ただ家族の中にいる自分っていう存在を守ることしかできなかった。自分はここにいるんだよって、がむしゃらに叫ぶだけで、精一杯だったんだ。

三男   だから何だっていうんだよ。父さん達がそうやって自分のことばっかり考えてる間、僕がどんなに辛い思いをしてきたかわかるのかよ!

父    わかるよ。お前は俺たちなんかよりよっぽどしっかりしてたから、自分のことだけじゃなくて家族のこと全部見えちゃったんだよな。だから、自分のことだけ好き勝手に考えてるなんてことなんてできなかったんだよな。だから、部屋に、自分だけの世界に閉じこもっちゃったんだよな。

三男   ・・・。

父    だから、今度は父さんが頑張るから、今度こそ自分の力でお前らを守るから。お前がまわりのことなんか気にしないで、自分の存在を精一杯叫べるように、父さん頑張ってお前らのこと守るから、もう死にたいなんて言わないでくれよ・・・これ以上家族がいなくなるのはいやなんだよ。

三男   ・・・。

父    たとえ他にどんなものがあったって、お前らがいなかったら家族じゃないんだよ。トイレが壊れてたって、冷蔵庫が壊れてたって、お前らさえいればそれで家族なんだよ。でも、お前らが一人でもいなくなったら、それはもう家族じゃないんだよ!父さんには、この家族には、お前が必要なんだよ!!

三男   ・・・父さん。

空き巣  ・・・これでわかったろ。家族がお前のことどう思ってるか。

三男   え?

空き巣  お前が知りたがってたんだろうが。だから、聞かせてやったんだよ。・・・これで、俺のこと黙っててもらう分はチャラだからな。

三男   ちょ、ちょっと!

空き巣  あと、そこの二人!

次男   え?

空き巣  お前らも、もっとしっかりしろよな。兄貴が二人もいて弟一人支えられなくてどうすんだよ。お前らがそんなんだから俺がこんなことしなきゃならなく・・・

父    あなた、いったい・・・

空き巣  俺はただトイレを修理しにきただけですよ。今までのは、ちょっといろいろありましてね。・・・あ!あと、修理の代金なんですが、今回は結構です・・・変わりにもっとステキなもの、もらいましたから。・・・では。

 

     空き巣、下手にはける。

 

次男   ・・・いったい、なんだったわけ、あの人。

父    さあ?

長男   なぁ、お前なんか知ってんだろ。

三男   え、べ、別に。なんもしらないよ。

長男   うそつけ!お前、なんか絶対隠してるだろ。

三男   秘密だよ。

長男   なんだよ、こいつ。急に生意気になりやがって!

三男   そ、そんなことないよ。

長男   おい、教えろよ!

三男   やだよっ!

父    おい、お前らまた喧嘩すんなよ。

次男   いいじゃん。ほっときなよ。

父    でも・・・

次男   大丈夫だよ。今度は、大丈夫だよ。

父    ・・・そうだな。

次男   でもさ、あの人の言ってたステキなものってなんだったと思う?

父    さぁ?

次男   僕さ、思うんだ。それはきっと・・・あれ?机に置いてあった通帳は?

父    え?

三男   通帳?・・・あ〜!!

次男   な、なんだよ。

三男   ステキなものだよ!

次男   なに言ってんだ?

三男   だから、それがステキものなんだよ。

長男   どういうことだよ。

三男   あいつは空き巣なんだよ!

三人   え〜!!

長男   こんなところでもたもたしてる暇ねぇよ。早く追いかけなきゃ!!

父    おい、早く行くぞ!

三男   ちょ、ちょっと・・・

次男   ほら、なにしてんだよ。早く行くぞ。お前がいなくちゃ始まらないんだよ。

三男   え?

長男   家族みんなで行くんだよ。

父    ほら、行くぞ!

三男   ・・・うん!!

 

エピローグ(次男)

 

  母さんがみんなを平等に見れる場所。みんなが平等に母さんを見れる場所。そんな場所はもう、うちにはない。だって、母さんは、もういないんだから。みんな、今までそれを認められなかったんだ。だから僕らはありもしない母さんの幻影ばかり追いかけて、今ある大切なものを見失ってしまっていたんだ。でも、今度は違う。もう、大切なものを見失ったりはしない。

 もちろん、誰一人として母さんへの思いを忘れたわけではないんだ。だけどそれは僕らの中でゆっくり、でも確実に形を変えてきている。始めはただ辛かっただけの思いが、悲しいに、そしてそれは切ないに、そしてまた違う思いへと。

 だから、今ならちゃんと言える気がするんだ。母さんに、あの場所に、サヨナラって。