君のいないネバーランドで僕は


CAST
俺…奥山雄太
僕…原田浩司
照明…高山渓
音響…津留正和


     幕が開くと、布袋のスリルが流れる。と、同時に二人の男(ピーター・フック)が機械的な動きをする。しばらくして暗転。
 
 
     場所は中学校の校門の前。客席側に見えない校門がある。。
     舞台にはビールケースが10個。
     僕、ビールケースを使って遊んでいる。色々な物体としてみているようだ。
 
僕   オセロ。山。おせち。サンシャイン60。
 
   原田、ビールケースを片付ける。ややあって、奥山が通りかかる。
     校門の方を気にしながら歩いており、原田には気付かない。
 
僕   (奥山を見つけ)やぁ。
俺   (ビクッとする)
僕   久しぶりだね。
俺   え、あ…。
僕   なんだよ、僕だよ?忘れちゃった??
俺   いや、それは…覚えてるよ。…ちゃんと。
 
     僕、微妙な顔。
 
俺   ちゃんと。
僕   それならいいんだけどさ。
俺   うん、ごめん。
僕   謝るなよ。
俺   ごめん。
僕   …。
俺   …。
僕   じゃあ、中入ろうか
俺   いや、それはいいよ。
僕   まあ、座れ
 
  僕、俺にビールケースを勧める
 
俺   え?
僕   とりあえず、座ろう。話しようよ
俺   忙しいんだ
僕   嘘だ
俺   嘘じゃないよ
僕   ちょっとだけでいいから
俺   ちょっとだけなら
僕   サンキューな
 
  俺、ビールケースに座る
 
僕   お前もメール来たんだ?
俺   え?
僕   メール。
俺   あ、うん。
僕   (ケータイをいじって)「明日、午後八時より青葉台中学校3年Bの
同窓会を行います。場所、青中。午後十時正門前集合。」でもいきなりだよね?昨日の今日だもん。
俺   確かにな。
僕   それでも来るんだよな、
俺   そう?
僕   うん。そりゃあ何人かはしょうがないけど、殆ど来てるよ
俺   そっか。
僕   もうみんな中いるよ、遅いんだよお前は
俺   ごめん。
僕   まったく。こんなに狭かったんだっけ?
俺   え?
僕   校庭。でもさ、外から校庭眺めるのって、機会ないよな。ていうか立ち止まらないし。しかも、夜だろ。いつもと違うっていうかさ。ちょっと恐いって言うかさ。神秘的って言うかさ。なんか新世界っぽくね?
僕   ねえ。
俺   (ビクッとする)なに?
僕   さっきから僕ばっかり喋ってるよね?お前からはなんかないのよ。
俺   え、俺?
僕   なんか話せよ。
俺   え、あ…いい天気だね。
僕   そうね、いい天気ね、って夜じゃん。暗いからなんにも見えないじゃん。何言ってるんだよ。あ、でも星見えるな。おい、お前、星すっげえきれいじゃん。まだ見えるんだな。
俺   …。
僕   なんだよ。
俺   ふ。
僕   あ、笑ったのか?お前笑ったのか?
俺   何で二回言うの。
僕   え?
俺   っははは。よかった、やっぱ変わってないや。
僕   なんだよ、
俺   ごめんごめん。なんかさ、久しぶりじゃない。気使っちゃって
僕   そりゃあな。っていうか、僕だって気使ったんだから。
俺   お前が?
僕   久しぶりだね。
俺   久しぶり。どれ位経つんだっけ?
僕   もう五年近くになるんじゃない?卒業したきりだからさ、集まるの。
俺   そっか、そんな経つか。
僕   うん…。長かった?
俺   ?
僕   長かった?卒業してから、今日まで。
俺   うーん…。
僕   短かった?
俺   どうだろ?短かった。高校時代、本当に一瞬だった気がする
僕   僕も分かるよ
俺   やっぱそうだよな。
僕  高校入ってから、家近いのに会えなくなっちゃったもんな
俺  そうだよね
僕   元気してた?
俺   うん。お前と一緒だよ。
僕   言ってないよ
俺   きっとお前と一緒だから。お前は元気?
僕   うん、お前と一緒だよ
俺   良かった
僕   今何してるの?
俺   え?お前は?
僕   僕は今年から大学行ってる。
俺   マジで?良かったな。
僕   まあ、おかげさまで。
俺   すごいな、おめでとう。
僕   ありがとう。お前は?
俺   俺も大学には受かりまして
僕   おめでとうな
俺   ありがとう。
僕   なんだこれ?もっと昔みたいに話そうぜ
俺   …。なんでビールケースなの?
僕   え?
俺   なんでビールケースがここにあるの?
僕   え、悪い?
俺   悪くは無いけど
僕   そりゃあ悪くないなあ
俺   お前持ってきたの?
僕   そうだよ
俺   なんで?
僕   昔お前と一回ビールケース集めてところで遊んだろ?
俺   え?
僕   ほら、意味無く酒屋でかっぱらって。そこの桜井んち。
俺   ああ、やったねえ
僕   だから、再現だよ
俺   理由になってねえよ
僕   でも、お前が来るまでこれ一個でずいぶん遊べたよ
俺   どうやってよ
 
   僕、箱を一列に並べる原田。テトリスの効果音を出す
 
僕   これで、一列ピコピコピ。ピコピコピ
俺   …おもしろい?
僕   うん
俺   終わり?
僕   へ?
俺   うん、やりたいことは分かった
僕   ああ、じゃあ分かってもらえた
俺   うん、これは、テトリスだ
僕   そう
俺   でも、なぜ?
僕   おもしろいから
俺   おもしろくねえよ
僕   まあ、そんなこと言わずに
俺   変わってないなあ
僕   でも、懐かしいだろ
俺   うん
僕   昔は、何個積んだ上に立てるかってやったよな
俺   ああ、お前が落ちて鎖骨折ったもんな
僕   あんときは12個まではいけたんだけどな
俺   なんのためにあんなことしてたんだっけ?
僕   スリルを求めてたんだよ
俺   スリルかあ。なんでだろう。
僕   ドキドキすることって楽しいじゃん。
俺   楽しいねえ
僕   プライスレスだよ
俺   え、何?
僕   プライスレスなんだって
俺  使い方間違ってない?
僕   いや、いいじゃん。大切な想い出だよ
俺   俺もそうだけどさ
僕   そういや、ビールケースって丈夫だよな?
俺   何の話?
僕   いや、実際丈夫でしょ
俺   うん、丈夫っぽいけど限界あるでしょ、プラスチックだし
僕   じゃあ、お前、ビールケースが壊れてるとこ見たとこある?
俺   ないよ
僕   だろ?
俺   そう言われてもなあ
僕   雨の日も風の日も、雪の日もいっつも外で耐えているんだよ。例えかっぱらわれたとしてもよ
俺   かっぱらったのお前だけどな。たかがビールケースごとき
僕   お前さ、ビールケース壊せるのかよ
俺   はい?
僕   じゃ、お前が今ビールケース壊せたら100万やるよ
俺   マジで?
僕   あ、やっぱ百円な
俺   低学年か
僕   やってみろよ
俺   いや、無理でいいよ
僕   ヘタレが
俺   じゃあ、お前は壊せるのかよ
僕   壊せねえよ
俺   じゃあいいじゃん
僕   まずビールケースに謝れ
俺   なんでだよ
僕   すっごい侮辱されたんよ、こいつが、濡れ衣だよ
俺   何言ってるの
僕   悪いことしたら謝るって高校でならったよね
俺   もtっと早く習ってるよ
僕   謝れよ
俺   やだよ
僕   謝れ、ビールケースはいいからビルゲイツに謝れ
俺   ビルゲイツ?
僕   そうだ
俺   なんで?
僕   響きが似てる
俺   案の定だよ
僕   でもさ、ビルゲイツって何した人だっけ?
俺   ビルゲイツ?ビルゲイツは…
僕   ボディビルダーか
俺   響きだけだろ
僕   ああ、じゃあ、単語に区切って考えよう
俺   もう単語だからね
僕   ビル、ゲイ、ツ。ビルって、ボディビルでしょ
俺   …
僕   ゲイは、いわゆるゲイでしょ
俺   …
僕   ツ
俺   …
僕   津々浦々
俺   ありえねえよ
僕   マッチョで、そっちの気があって、全国の津や裏に…
俺   この話やめるぞ
僕   ビルゲイツ。
俺   ビルゲイツねえ。なんか神秘性すら感じてきた
僕   あ、宗教家か
俺   何?
僕   マッチョで、そっちの気があって…
俺   ああ、俺が悪かった。悪かったから折れてくれ
僕   ビルゲイツ。あ!
俺   何?
僕   ビールケースを開発した人か
俺   ビルゲイツが!
僕   だって、サンドイッチ伯爵が作ったからサンドイッチでしょ
俺   じゃあ、これビルゲイツって名前だろうが
僕   そう呼べばいいじゃん
俺   ベクトルが違うんだよ
僕   決定しました。今からこれは、ビールゲーズ。
俺   なんでちょっと残すんだよ
僕   名残おしいんだよ
俺   訳分からない
僕   でも、ビルゲイツってすっごい偉いよな
俺   ビールケース作ったから?
僕   そう。なかったらビン運ぶの大変だぜ
俺   まあな
僕   いやー、尊敬するわ
俺   そうかねえ
僕   でもさ、ビールケースに芸術を見出したのは、僕が初めて
俺   何?
僕   世界で始めてビールケースでテトリスをやった男
俺   あ、そう
僕   なんかすごくない?
俺   いや、すごくない
僕   んー…。でも、ほんっと昔はよく遊んだよな
俺   な。
僕   今はそんなじゃないけどな
俺   しょうがないよ、忙しいんだし
僕   でも、いい想い出だよな
俺   うん
僕   まだ、思い出いっぱいつくらなきゃな。
俺   子供だな、お前は。もう19だよ
僕   まだ19だよ
俺   その考えまずいよ
僕   いや、だって、成人式があるだけでしょ
俺   でも、体はもう大人じゃん
僕   あれ、大人と成人って違うの?
俺   違うんじゃないの?
僕   どう違うの?
俺   そんなん知らないよ
僕   でも大人の方がかっこいいよな
俺   はい?
僕   じゃあお前大人って言われるのと成人って言われるのどっちがいい?
俺   成人って、成人病っぽいから嫌だ
僕   やっぱ大人の方がかっこいいよな
俺   なんか、大人って言うのが、ストレートなんだよ。成人が、高速スライダーって感じ?
僕   どんな比喩だよ
俺   でも大人って言うと、子供と比較する感じだよね
僕   まあな。大人だな
俺   もうそんな歳だ
僕   お前は大人だ
俺   お前は?
僕   大人だ
俺   へえ
僕   まあね、大人が20歳ってのがおかしいのよ。だって考えてみれば子供、大人って概念は無いわけだからね。だから唯一の体の変化としては、子供を作る能力があるかどうか、ここしかないと思う。だから江戸時代では15歳で元服だったし。だから心だけ変えようとするから現代の若者は自分を変えられないんだよ
俺   …何?
僕   大人になるんだよ
俺   でも、早いよな?
僕   大人になるまでってこと?
俺   そうだよ
僕   僕もね、思えばあっと言う間だったな
俺   なんか、疲れない?
僕   何が?
俺   これから先、大人になるって思うと
僕   まあ、でもしょうがないよ
俺   どうする?
僕   どうするって、やってくしかないでしょ
俺   辛いな
僕   なあ
俺   子供の頃って、なんか楽しかったよな
僕   それはそうだな
俺   なんかさ、この世の中には知ったらつまらなくなることがいっぱいある気がするんだ
僕   まあ、あるだろうな。この先幸せってなんだろうね。社会でたら遊ぶ暇もあんまり無いし人付き合いとか大変そうだし
俺   結婚って幸せなんじゃないの?大人しか味わえない幸せ
僕   お前、変わったな
俺   そうかな?
僕   ずいぶん変わったよ。え、お前、大学では何やってるの?
俺   別に。お前は?
僕   別に。
 
  間
 
僕   そろそろみんなのとこ行かないか?
俺   え…。
僕   みんなの顔みたいだろ?
俺   …。
僕   皆も会いたいだろうからさ。
俺   俺は、いいよ。
僕   なんでよ?
俺   俺いても気まずいし。
僕   何でそうなるんだよ、お前人気者だったじゃないか
俺   ほら、皆盛り上がっちゃってるよ
僕   いいじゃんか。
俺   兎に角、俺はいいよ。
僕   じゃあ何で来たんだよ!
 
     小間
 
僕   ここまで来たんだからさ、なあ。
俺   …いや、やっぱいいよ。皆集まってるかどうか気になっただけだからさ。
僕   …ま、いいけどさ。
 
     小間
 
俺   あれ、何でお前はここにいるの?
僕   なんでって?
俺   だって、皆教室にいるんだろ?
僕   うん、いる。
俺   じゃあ、何で一人で校門の前になんているの。
僕   お前を待ってたんだよ。
俺   俺?
僕   来るって分かってたんだから。
俺   …なんで?何で俺なんかを。
僕   何でって…友達だからだよ。
俺   友達…そうか、俺たち友達だったんだもんな。
僕   ああ。他に理由なんているか?
 
     俺、にっこりと微笑む
 
僕   でもさ、僕たち中学卒業して会ってないよね
俺   まあな
僕   それは、しょうがないのかな?
俺   まあ、お互いいろいろあるしな
僕   しょうがないんだよね
俺   今更何よ
僕   中学時代はよく遊んだ、ていうかお前と一番遊んでたじゃん。でも、卒業してぱったりだったような気がするんだよ
俺   それはそれでいいんだよ。環境だって常に変わってるんだから。だから、同窓会ってみんなで集まって昔を懐かしみましょうって
僕   むなしくならない?
俺   え?
僕   ただ、昔は良かったって言っててむなしくならない?
俺   なるよ
僕   なるんだよね
俺   でも、しょうがねえだろ。今の自分がもっとむなしいから
僕   一種の現実逃避?
俺   一種のな
僕   お前親友いるの?
俺   親友かあ。お前は?
僕   いないよ
俺   俺もいない
僕   昔は気がつかなかったんだ。みんなうわべだけの付き合いってことに
俺   じゃあお前、俺はお前にとってその程度の友達か?
僕   昔はそうじゃなかった
俺   今は?
僕   昔はそうじゃなかった。
俺   …そうか
僕   お前も、変わっちゃった気がする
俺   俺は変わってないよ
僕   悪いことじゃないんだよ、しょうがないことなんだもん
 
  間
 
僕   そう言えば、メール送ってきた奴、手際悪いよな
俺   どうして?
僕   え、思わなかった?
俺   いや、思ったけどさ。お前はなんで?
僕   そんな急遽明日同窓会やりますねんて。それに僕たち19歳でしょ。やるんなら普通二十歳になってからだろ
俺   まあ、そうだね
僕   不思議じゃなかった?それにあのメール、誰から送られてきたのか な。
俺   まあ、不思議だけど同窓会なんていつでもいいんだし。
僕   いや、それに皆集まったのはいいんだけどさ、こんな時間だろ。居酒屋とかでやるだろ。無理して学校入り込む必要ないのに
俺   まあ、入り込むっってもかカンタンだけどな
僕   実はそうじゃないのよ
俺   え?昔よく忍び込んだじゃん。
僕   まあな。
俺   なんでダメなの?
    
 僕、ためる。
 
僕   (あの声で)セコム。んー、どーでしょー。セコム。
 
     小間
 
俺   かなわないな。
僕   セコムだからね。
俺   長島だからな。
僕   セコムだからね
俺   …あれ?でもさ、
僕   何?
俺   入ってるんだよね?教室。
僕   うん。
俺   おかしくない?
僕   なんで?
俺   セコム、きいてるんだろ?
僕   がんっがんきいてるね。(四方を指差し)カメラ、カメラ、カメラ…。
俺   わかんないなー。どうやってはいったの?
僕   …こう、色々とな。
俺   色々と?
僕   色々だよ。
俺  セコムの弱点知ってる人がいたとか
僕  色々だよ
 
     小間
 
俺   ま、色々なら仕方ないけど…。
僕   でも、ここに来ると思い出すよ。あの頃のこと。
俺   …うん。
僕   あの頃は何で忍び込んだんだっけ?
俺   なんでだっけ?なんであんなことしたんだっけ?
僕   天井に靴の後つけたりしたな。
俺   あ、お前坂崎ののリコーダーなめたよな
僕   違うよ。坂崎のリコーダーと僕のを交換して次の日ニヤニヤしてたんだよ。さきっぽだけ
俺   マニアック。てか変態だな
僕   今も持ってるよ。いけない事だってのはわかってるけど、そういうことが一番やりたくなるんだよな。
俺   えー。
僕   サディスティックな衝動?違うかな?
俺   どうだろう
僕   多分ね。やっぱスリルだろうな
俺    お前のはちょっと違うけ気がするな
僕    みんなスリルは好きでしょ
俺    そうかな?まあ、中学時代二人でやってたけどね。スリル同好会
僕    やったなあ。何かドキドキしようってな。とらないで万引きしたふりして店員困らせたりしたもんな
俺    かわいらしいスリルだな
僕    かわいかったよ
俺    でも、スリルって現実にはないじゃん
僕    なんで?
俺    映画とかドラマとか、そういうとびきりのスリルって現実にはないじゃん。俺がやろうとしても無理だし。作り物だって思えて冷めるみたいな
僕    それは分かる
俺    大人になるにつれ、自分の生活平凡なものかなーって思えてくるしさ
僕    いや、僕はスリルはまだあるからね
俺    え、お前の人生すごいの?
僕    80スリルくらいかな
俺    便利な単位
僕    あと、どうにかして20埋めたいんだよな
俺    スリルだからな
僕    うん、人生にスパイスないとつまらないでしょう、スパゲティだよ
俺    スパゲティかよ。でも、もう人生にスリルなんてないでしょ
僕    お前は努力してないだけ
俺    じゃあお前どんなのしてるの
僕    電車を子供料金で乗ったり、必要以上にキセルしたり、シルバーシートで横になったりしてる
俺    電車ばっかじゃん。それスリルじゃねえよ
僕    まあな。でも、スリルの神様と言えば?
俺    布袋トモヤス
僕    そうだよな。あの人には叶わない
俺    そうだよな、サッカーで言えばペレの位置だからね
僕    ほていさんって凶器だよな
俺    え、ああ、危険なオーラって意味でな
僕    いや、オーラじゃなくて、実際にひしひしと感じるのよ
俺    ひしひしと?
僕    うん、ぞくぞくしてくるんだ
俺    ぞくぞくはするな
僕    絶対全身に刃物しこんでるよ
俺    それは問題だよ
僕    かっこいいよなー。あの人みたいになりたかったよ
俺    だからか?
僕    何?
俺    今も持ってるの?
僕    まあな
俺    護身用とか言ってたけどさ
僕    だから護身用だって。世の中物騒でしょ。
俺    使ったことあんの?
僕    そうじゃなくて、持っていることがスリルなんだよ
俺    スリルか
僕    でも、スリルって麻薬みたいなもんだな
俺    なんで?
僕    例えば、絶叫マシンとかみんなお金払って乗るでしょ。恐いじゃん。それでもまたみんな乗るじゃん。
俺    そうだけどさ
僕    多分、日常生活じゃ満たされてないんだと思うな。僕も、満たされてないからさ
俺    へえ
僕    お前も満たされてねえんだよ
俺    え?
僕    満たされてたらまず今日ここには来ない
俺    そんなの分からないよ
僕    お前、今の人生に満足してない。てか、満足してる人なんていないんだからさ
俺    でもそれはしょうがないよ。どうやったら満たされるんだよ
僕    分かる人なんて世界中どこ探したっていないよ。どんなに幸せでも、どんなに不幸
でも、満たされてないんだよな
俺    やっぱり、スリルはもういいよ
僕    引退するのか?
俺    卒業だよ
僕    お前は中退だ
俺    お前も将来のこと考えろよ
僕   お前はそれで楽しいのかよ
俺   楽しくないかもしれないよ
僕   お前、それでいいのか?
俺   もう決めたんだ
僕   あきらめたのか?スリルも、やりたいことも、全部あきらめちゃうのか?
俺    しょうがない
僕    しょうがなくねえよ
俺    夢なんだよな
僕    夢?
俺    あの頃は、なんでも言えたんだよ。野球選手になりたい、宇宙飛行士になりたい、お医者さんになりたい、アナウンサーになりたい、宗教家になりたい。でもさ、今となっては、夢語るのって恐いんだよな。やっぱり夢は夢でしかないんだよ
僕    僕の場合は、いろいろ考えたけど、今は決まってないんだ。せっかく大学は入れたんだから、これから探すよ
俺    俺はな、教師になろうって決めたんだ。
僕    教師か?
俺    俺にしちゃあまともすぎるか?
僕    いや、決まったんなら偉いなって
俺    まあな、なんとか収入が欲しいからな。
僕    でも、それでいいの?
俺    何が?
僕    教師、本当にやりたいの?
俺    そんなやりたいこと仕事になんか出来ないもんよ
僕    大人だな、お前。
俺    お前が子供過ぎるんだよ
僕    なんで教師なんだよ
俺    俺も分からないけどさ
僕    そうか。
 
  小間
 
俺    それにしても、突然だよなー。
僕    え?
俺    セコム。
僕    たしかにね。
俺    何かあったのかな。
僕    え?ああ。
 
      何か変な僕。
 
俺    何?
僕    いや何も。
俺    何だよ。
僕    物騒なんだろ。色々と。
俺    あー、そういやTVかなんかで見たかも。
僕    え、何を?
俺    変人。
僕    変人?
俺    うん。そうだそうだ、思い出した。うちの学校だったんだよな、アレ。
僕    アレって?
俺    何、お前知らないの?
僕   え、何よ。
俺   泥棒だよ。ちょっと前にさ、この学校に泥棒が入ったんだってよ。
僕   そうなんだ。
俺   超キモイ。
僕   え?
俺   だってよ、そいつ何盗んだと思う?
僕   …。
俺   ブルマ。
僕   ブルマ?!
俺   クラスの女の子全滅だって。マジキモくね?
僕   てか、もう女子ってハーフパンツとかじゃないの?
俺   いや、まだブルマなんだって。なんでだろう
僕   校長の趣味かな
俺   ありえねーよ。でも変態だよな
僕   はあ?分からない?
俺   お前分かるの?
僕   お前どうかしてるぞ
俺   そちらほどでは
僕   ダイヤモンドとブルマとは永遠の憧れ
俺  え?もう一回言って?
僕  ダイヤモンドとブルマとスクール水着は…
俺  ストップ。お前さあ、増やしちゃうんだ
僕  あのね、僕さあ、増やしちゃうんだ
 
     間
 
俺   まだつかまってないらしいよ。
僕   へぇ。
俺   どうなのよ。
僕   そういうのもありなんじゃないの?趣向として。
俺   いや、そうじゃなくて。
僕   え。
俺   どうなのよ、こういう現状は。
僕   わかんないことはないけどね。神聖なものを汚すっていうのは何か
興奮しそうだし。
俺   だから、そうじゃなくて。
僕   なんだよ!
俺   そういう事件が身の回りでおきてるって言う事実をどう思うかだよ。
僕   どうでもいいよそんなことは!
俺   何だよその言い方は!
僕   若い子はやっぱぴちぴちしてるって事じゃないんですか!?
俺   若すぎるよ中学生は!
僕  若いこってのは男のロマンだろうが
俺  知らないよ変態が
僕  男は、心の底でみんなロリコンなんです
俺  気持ち悪いんだよこのロリコンが
僕  お前きもちわるいって言うなよ
俺  まずロリコンを否定しろよ
僕  だって若い子好きだもん
俺  ロリコン
僕  ロリコンじゃねえくせに威張るんじゃねえ
俺  ロリコン
僕  もういい、お前もある意味ロリコンだ
俺  なんでそうなるんだよ
僕  黙れロリコン
俺  黙れロリコン
僕  黙れめがね坊主
俺  かけてまえせん
 
     間
     冷静になる二人。
 
俺   やめよう。
僕   ああ。
俺   今俺たち物凄い痛かったぞ。
僕   やめよう。
俺   本当にしょうもないな、俺たち。
僕   そろそろ変わってもいい頃だけどな。
俺   ああ、あの頃は、大人になんかなりたくないって思ってたけど。今
は、大人になれない。
僕   なに?らしからぬ事言ってんじゃん。
俺   え?まあ。
僕   ていうかさ、集合のメールのことなんだけど、
俺   え?
僕   あれの送り主知らない?
俺   あ、知らない。
僕   メーリングリストみたいので送られてきて、細かいアレはチェンメ
みたいに広がったから、誰企画なのか分かんないんだよね。
俺   いいんじゃないの、誰でも。集まりたい奴が集まろうって言っただ
けなんだからさ。
僕   そうかな?
俺   え?
僕   いや。
俺   …ま、そういうことなんじゃないの?
僕   でも、分かんないんだよね。
俺   何が?
僕   どうして、そいつは、企画した奴は、今やろうと思ったのか。
俺   どうしてって、集まりたいって思っただけだろ。
僕   そうかな?
俺   なんなんだよ。
僕   本当にそれだけかな?だって、僕たち19だよ。二十歳になってか
らだったら、記念ってことで集まるのもあるだろうけど。あまりにも半端すぎやしない?
俺   …。
僕   お前、本当に何も知らない?
俺   どういう意味だよ。
僕   …いや。
 
     間
 
俺  ねえ、どうやって忍び込んだのさ
僕    なんの話?
俺    学校、みんな入れたんだろ?
僕    僕が?
俺   セコムの死角ついて
僕   やってないよ。なんで僕なんだよ
俺   ブルマ
僕   …
俺   ブルマ
僕   …
俺    スリルだから?
僕    いや、これはスリルじゃないんだよ
俺    え、なんで?
僕    血が騒ぐから…ブルマだから
俺    変態だ
僕    なあ、もうすぐ学芸会のじきだろ?
俺   ブルマ
僕   学芸会の話だったよな?
俺   おまえさあ…俺の心の中のモヤモヤ、いや、モヤブルマはどうするんだよ!
僕   好きにしろよ!僕ブルマなんか欲しくないんだよ
俺   え?どうして?
僕   スリルだから
俺   やっぱスリルか。え、じゃあなんでお前学芸会って言ったの?
僕   話うまく変えられそうだったから
俺   無理だよ
僕   学芸会じゃ力不足か
俺    もうそんな季節だもんな
 
 
      小間
 
僕    ああ、懐かしいな。学芸会
俺    俺たち、何やったっけ?
僕    忘れちゃったのか?
俺    ちょっとな、ちょっとだけ。
僕    ピ―ター・パンだよ。
俺    あ、そうだっけ?
僕    そうだよ。あのときは頑張ったじゃないか
俺    ああ、そうだそうだ。はは。よく覚えてるな。
僕    忘れられるもんか。
俺    そうだよな、
僕    あ、じゃあ思いだそ、僕やるから、お前やって  
      ね
俺  何を?
僕   二人でやってみようよ、ピーターパン
俺   やだよ、ていうか無謀に決まってる
僕   じゃあ僕ひとりでやる思い出させてやるよ
俺   おい、なんで積むんだよ?
僕   ボルテージだよ
俺   はあ?
 
   劇中劇  ピーター・パン(前半)
 
僕    舞台はロンドン郊外、しかし特別お金持ちではない。しかしそれほど貧乏ではない。しかし子供がいるので家庭は圧迫されているはず
 
   原田、一人でたくさんの役を演じる。ピーターパン以外は全部、僕がやる山、見てる
 
ウェンディ ねえ、お父さん、なんでうちにはお母さんがいるの?
俺    そんな話だっけ?
パパ    いないほうが良かったかいウェンディ
僕    お父さんなんてこと言うの?
    冗談冗談。マイケルジャクソン。はっはっは
ママ     はっはっは
パパ     はっはっは
 
   いったん奥山が止める
 
俺    ちょっと待てよ。分からねー、誰が誰だか分からねえーよ。お前は誰?
僕    ウェンディ
俺    お前は?
僕    パパ。(続いてママのポーズ)
俺    熊田曜子?
僕    なんでだよ。ママだよ
俺    なんで三人もやるんだよ
僕    そうしなきゃ表現できねえんだよ
俺    しきれてねーよ
僕    まだ続々と増える予定です
俺    かんべんしてくれよそれにストーリー違うじゃん
僕    漠然とは残してやるから平気
俺    不安だな
僕    口を挟むな。お前ピーターパンだろ
俺    え?
僕    ピーターパン
俺    はい
   再開
 
パパ    ウェンディ、お前はもういい歳なんだ。明日からは弟たちとは別の部屋を使いなさい。
ウェ    嫌ですわお父様、私はまだ子供です
パパ    違うんだ、お前は大人にならなきゃいおけないんだ、お前は立派な体じゃないか
俺     いやらしいよ親父
パパ    まだ胸は小さいがな
ウェ    やーだ、パパッたら
パパ    はっはっは
俺     えー
弟     おねえちゃん、どこかに行っちゃうの?
ウェ    行かないわ。けど今のように遊んでられなくなるかもしれないわ
兄     えー。
ウェ    ああ、誰か助けに来てくれないかしら
 
    多少の沈黙。奥山、とまどいつつもピーターになる
 
俺    ガラガラガラ(窓を開ける)
ウェ   早えよ
俺    えー、今そんな雰囲気すっげえ出てたじゃん
ウェ 空気よめよ
俺  ガラガラガラ(窓を閉める)
ウェ ああ、誰か助けに来てくれないかしら。あ、もうこんな時間だわ。早く来いよ
俺  どこ変わったんだよ。ガラガラガラ
ウェ あ、あなたは、布袋トモヤス
俺  ウェンディ。スリルはあるけども
ウェ あなたピーターパンよね
俺  それでいいや
ウェ  テンション上げろよ。上げないとエヴァンエリオンの話するぞ!
俺  やめてくれ
ウェ  アヤナミレイちゃんのタオルがポロリ
俺  はい、はい!
ウェ  ピーターパン、会えて嬉しいわ
俺  僕もだよ、ウェンディ
ウェ  でも私、あなたのしってるとおり、この部屋を離れなき
いけないの
俺  初耳だけど。じゃあ、もう話も聞けないんだね
ウ   私を連れて逃げて
俺  分かったよ。行こう、豊島園へ
ウ  ここロンドンだよ
俺  代官山へ
ウ  ここロンドンだよ。
俺  道玄坂へ。
ウ  ホテル街だよ。
俺  何もしないからさ。
ウ  ハレンチ!
俺  フレンチ!
ウ  ここロンドンだよ。じゃなくて、ネヴァ、ネヴァ
俺  ネヴァンゲリオン
ウ   うーえ。エヴァンゲリオンだよ気持ち悪い
俺  エヴァばかにするなよ。けっこう隠れファンが多いんだよ、甘く見るなよ 
ウ  何で隠れるんだよ
俺  後ろめたいんだよ
ウ  オタクはちょっと…
俺  じゃあ、ネヴァーランドへ
ウ   つれてってください
俺  あの二つの星の右側に飛ぶんだ
ウ   左側は?
俺  さあ、行こう。ティンカーベル
テ   (粉をふりかける)ようせいのほこり
俺  これで君も飛べるようになる。後は、楽しいことを想像するんだ
ウ    楽しいこと?
俺   楽しいことさ、そうしたら浮けるから
僕   四葉のクローバーだ
俺   ハッピー
僕   あ、今TSUTAYA半額だ
俺   ハッピー
僕   5時55分だ
俺   ハッピー
僕   学割きくんだ
俺   ハッピー
僕   ごはんって噛めばこんなに甘いんだ
俺   ハッピー
僕   青春の1ページだ
俺   ハッピー
僕   あ、今日わたしの誕生日だった
俺   ハッピー
僕    ハッピー
俺   ハッピー
僕    ハッピー
俺   さあ、ハッピーをハッピーして、一発ギャグ。
 
  原田、一発ギャグをやる。
 
僕  透明人間あしらわれはにかむ。さいたさいたチューリップの花がしかし今となってはひと夏の思い出。いつでもオルウェイズ国家権力助けてください。異体の痛いの屯田兵
俺   (客席を見て)浮いてる!
僕   わー、私浮いてる
俺   ネバーランドへ。せーの、あい
  
  二人、ジャンプする
 
俺   着いた
ウェ   ここがネバーランドね
俺   どうだ、でかいだろう
ウェ   広いわ
俺   どうだ、広いだろう
ウェ   でかいわ
 俺  ほら、あそこが花やしき
ウェ   へー楽しそうじゃない
俺   あれが花やしき
ウェ   へー
俺   それで、あれが花やしき
ウェ   つぶれちまえ
俺   で、ここにいたらいつまでも子供でいられる
ウェ   本当?嬉しいわ。
俺   ただ、一つだけお願いがあるんだ
ウェ   何?
俺   この島の子供たち、つまり、僕たちのお母さんになってくれないか?
ウェ   何をすればいいの?
俺   笑ってくれていればそれだけでいい
ウェ   分かった、やらせてください
俺   ありがとう
ウェ   子供たちはどこに?
俺   え、そろそろ帰るはずだけど。いつもはインディアンたちとゲーム     
     をやっているからね
ウェ   ゲーム?
俺   捕まえたら勝ち、捕まえられたら負け
ウェ   カバティね
俺   違う。でも本当に遅いな
僕    そのころ!…はいはい安いよ安いよ
俺    ちがうよ。場所がってか根本が。もう一回
僕    そのころ!…(石鹸)工場長休憩はいります
俺    わかんねーよ工場長。なんの作業だよ
僕    石鹸に金箔入れてんの
俺    どうでもいいよ。早く早く現場
小    ルールが違うだろ。早く開放してくれよ
イ    そういうわけにはいかないな。お前は大切な人質なんだからな
小    なんてこった!
俺    なんてこった!
イ    娘のリリーがフックにさらわれた。
コ    なんてこった
俺    なんてこった
イ    ピーターが娘を助け出すまでお前らを解放しない。いや、お前らは解放されない
俺    受身だ!
小    なんてこった
俺    なんてこった。くそ、フックめ!タイガーリリー、
小    なんてこった
俺    なんてこった。今行くぞ
小    時が混ざりだした。♪ユーキャンフライ
 
 タイガーリリーがひざまついている、助けに来るフック
 
俺   ああー、タイガーリリーが水に漬けられて、水がここまで来てて、潮が満ちたら死ぬ死ぬ
タ    あー死ぬ死ぬ。こうなったら、ピーターパンがフックの子分をだますしかないわ
俺    えー。はい。おい子分よ
子    へい。なんでございましょう
俺    その娘にもう用はない。離してやれ
子    ですがおかしら!
俺    おかしらって言うな!おかしらつきって言うな
子    船長
俺    キャップ
子    キャップ
俺    船長
子    戻ってきた
俺    いいからさっさと離せ!
子    アイアイサー。そのころ本物のフックは?
フ    ジョボジョボジョボ
俺    ついでに船に帰ったら皆に酒を飲ませておけ
フ    ♪愛としっていたのにー風は…あ!貴様
俺    貴様って言うな…似てねえ!
フ    ピーターパン
俺    はい
フ    今日こそは決着をつけさせてもらうぜ
 
   二人、スローモーション。要所で僕がやられる。。
 
フ   カッチカッチ。こ、この音は
俺   どうした。
フ    ワニだ!わしの腕を食いちぎったワニだ
ワ    (口をあける)
俺    恐がるフック
フ    (恐がる)
俺    襲うワニ
ワ    (口をあける)
俺    恐がるフック
フ    (恐がる)
俺    襲うワニ
ワ    (口をあける)
俺    恐がらせるフック
フ    (フックが乱暴になる)
俺    息絶えるフック
フ    どかーん。ってフック死んじゃったじゃん。え、終わり?フックこの後で番あるんじゃん
奥    …
 
     座り込む二人。
 
僕   おもしろかったな
俺   いや
僕   おもしろかったな
俺   無理があったんだよ
僕   昔、こんなことばっかやってたもんな
俺   そうだっけねえ…あ、そういえばさ。
僕   何。
俺   俺が来るまで何してたの?結構時間あっただろ。
僕   だからテトリスだよ
俺   そっか。
僕   あ、そうだ、文集読んでた。
俺   文集?
僕   卒業文集。アルバムに入ってたろ?
俺   お前、アルバム持ってきたの?
僕   同窓会やるんだからな、ムード作り。
俺   変なムード。
僕   いいの、結構面白いんだから。
俺   そう?
僕   将来の夢っていうテーマでさ、みんな可愛いの。
俺   そういえばさ、お前の作文結構ほめられてたよな。
僕   まぁな。
俺   読ませろよ。
僕   ちょっと、やめろよ。
俺   いいじゃん。
僕   僕が読むから。
俺   …なんで?
僕   僕の将来の夢は、まだ決まっていません。それは、今決めてしまうとかえって将来の幅を狭めてしまうことになるからです。なので高校で本当にやりたいことを決めて、その後は僕にしかできない人生を送ります
俺   かっこいいじゃん。
僕   書いちゃってたもんな
俺   何が?
僕   夢、高校で決めるってさ。
俺   いいんじゃないの。
僕   そうなんだけどさ。あ、お前も読めよ
俺   読んでいいよ。
僕   お前が読めよ
俺   何でだよ?
僕   いや、フェアにいこうよ
俺   じゃあ、読まないよ
僕   お前すっごいかっこいいこと書いてあるから
俺   …マジで?
俺   俺は将来、宇宙飛行士になりたいです。宇宙から地球を見てみたいんです、一回は。そのときはみんなに写メール送ります。この夢は絶対やりたいので、頑張って努力します。だから、俺に期待しとけ、あ、この期待ってのは絶対じゃないけど楽しみに待っとけって感じだよ、そこだけは勘違いするな。後、奥さんは元宝塚ジェンヌの人がいいです。男役はいやです。でも、男はもっといやです。でも、ぞうさんはもっと好きです。
僕   なんだろう、このグダグダ感は。
俺   だまされた
僕   でも、おもしろい。
俺   ばかにしてんのかよ。
僕   違うよ。夢を言い切れてるお前がうらやましい
俺   挫折したとしても?
僕   そうだよ。
俺   お前の夢は?
僕   夢か?そんなん話したことなかったからな
俺   何かあるの?
僕   僕の夢は、発明家だった。何か便利なもの作ろうとしたんだよ。ビールケース見て思ったんだよね
俺   ビールげーズな
僕   茶化すな
俺   え?
僕   ささいで、みんなの生活の当たり前のことなんだけど、必ず誰かの役にたってるんだよね。僕ならもっとすごいもの作れると思ってた。結局何も思いつかなかったけど。まだ僕ならできるってどこかで信じてる。笑えるでしょ
俺   笑えないよ
僕   お前つまんねえな
俺   お前、変わんねえな
僕   お前が変わりすぎたんだよ
俺   俺が変わった?
僕   ああ、変わっちまったよ
俺   …脱皮したんだ。自分の中の大切な部分、大好きな部分を取り除いちゃって、それがどっかいっちゃったんだ。それの繰り返しだよ
 
    原田、アルバムをしまおうとする
 
俺    あ?
僕    何?
俺    いや、なんかさみしいなって
僕    なんで?
俺   せっかくアルバム持ってきたんだから、もうちょっと見なよ
僕    あ、そうするか
俺    アルバムなんだからさ、写真見なきゃ始まらないだろ
僕    そうだな。お前あの頃どんなだったけなあ
俺    あ、お前いた
僕    本当だ
俺    うわー、変わってないなあ
僕    マジで?
俺    変わってない…つうか同じだよ!
僕    ちょっとは変わってるでしょ!?
俺    見てみろよ
僕    気持ち悪いくらい同じだ
俺    だろ?
僕    じゃ、お前どーなのよ。あれ、お前いないじゃん。
俺    いるよ
僕    どれだよ
俺    これだよ
僕    え、似てねーじゃん
俺    似てねーけど俺だよ
僕   変わったよ、え、全然分からない
俺   そんなに変わった?
僕    別人だよ
俺    自分で分からないけどさあ
僕    やっぱお前変わったよ
俺    みんな変わったよ。だってお前会ったんだろ?
僕    会ったよ
俺    どうなんだよ
僕    桜井が変わってた
俺    桜井って酒屋の?
僕    今日もお世話になったやつ。聞いて驚くなよ、あいつ、酒屋ついだんだって
俺    だろうね
僕    あと、坂崎
俺    あ、超かわいいやつな
僕    ウェンディ役やってたよな
俺    え?
僕    ピーターパンでウェンディ役。みんな美人だって言ってたじゃないか
俺    …ああ
僕    あいつな、子供産んでた
俺    そうなんだ
僕    そんな年だからね
俺    19だからね
僕    ピーターパンの写真もあるんじゃないの?学芸会
俺    え?
僕    ほら、学芸会のページ。あれ?
俺    何?
僕    いや、のってない
俺    え?
僕    僕らのクラス、乗ってないよ
俺    そんなわけねえだろ、最後の学芸会だよ
僕    だって、のってないんだもん
俺    本当だ、のってない
僕    なんでのってないんだろうな
俺    知るかよ
僕    何でだろうな。
俺    知らないよ。
僕    何でだろうな!
俺    しらねえよ!!
僕   …やろうよ。
俺   え?
僕   ピーター・パン、やろうよ。そのために来たんだからさ。
俺   え?
 
     原田、奥山に何かを渡す。
 
劇中劇  ピーター・パン(後半)
 
僕   結局ウェンディがさらわれてピーターパン対フックになるんだよな
俺    よく来たなあピーターパン。今日こそお前を殺してやるからな
僕    待て、フック。ウェンディを離すんだ
俺    そうは行くか。私の腕がなくなった、積年の恨み今晴らすぞ
僕    やっぱり、決着を付けなきゃいけないのか?フック
俺   そうだ。俺はお前を殺さなきゃいけない。ずっと前から決めていたんだ
僕    フック、そんなことしてなにになるんだよ。許してくれ。そうだ、フック、一緒に生きよう
俺    そうは問屋が卸さねえ。これ以上うやむやにはできない。今此処で決着を付けなきゃいけないんだ。
僕    なんでだよ。まだ僕たち、やり直せるんだよ
俺    もう遅いんだよ。TIME IS OVER
僕    俺たち友達じゃないのかよ
俺    もう遅いんだよ。もう遅いんだよ
僕    俺たちは友達だ
俺    僕たちは友達だった。
僕    俺たちは友達だった
俺    僕のためにも戦ってくれよ、ピーターパン
 
     フックがピーターに近づき、いつの間にナイフを握っていたピーターの腕をかかげる。
 
俺   うわあ!
僕   思い出した?ねえ、思い出したの?
俺   …ああ。
僕   痛かったんだよ。ここ。
俺   違う、俺じゃない。俺じゃないんだ、信じてくれ!
僕   ふふふ。
俺   本当なんだよ、摩り替えられてたんだ、知らなかったんだよ。
僕   ふはは。
俺   おれ、気付かなかったんだ!
僕   ははははは!気付いていたよ!お前は!
俺   (ビクッとする)!?
僕   お前は気付いていた。いいよ、隠さなくったって。分かってるんだから。
俺   違う、俺は…。
僕   隠さなくていいからさ、嘘はつかないでよ。嘘つかれたら、僕が痛い思いした意味ないじゃない。
俺   …。
僕   気付いていたよな?だから手加減したんだろ?だから僕、生きているんだろ?なあ、気付いてたよな?
俺   …。
僕   気付いてたよな!!
俺   ああ、気付いてたよ!!気付いてたさ。グリップ握った瞬間にわったよ。重さが全然違うからな。そうだよ、気付いてた。
僕   ははは。
俺   けど、仕方なかったんだ、幕はもう開いていたし、途中でやめるわけにはいかなかったんだ。もし、もしやめていたら、みんなに…
僕   皆に迷惑がかかるってか?想い出をぶち壊すってか。否、違うね。お前は、その先を知りたかった。もしこのまま劇が続けば、お前は人を刺すことになるんだ。お前はそのことに異常な興奮を抱いていたんだ
俺   確かに、あの時の俺は少しおかしかったのかもしれない。もしあそこでお前を刺せば、本物の血しぶきが上がれば、どれだけの快感を得ただろうと
僕   だから、僕を刺した。
俺   …だが、実際は違った。お前の体から流れる液体は、じわりと衣装をぬらし、ドロドロとした水溜りを舞台に造った。失敗だ、そう思ったよ。そして血の気が引き、冷静になって考えた、俺は何て事をしてしまったんだろうと。お前を、お前をこの手で…
僕   ちゃんと刺せば殺せたのにな。やっぱりビビっちゃったんだ。お前の負けだよ。ははははは!
俺   誰が、
僕   ははははは!
俺   誰が、
僕   ははははは!
俺   誰がナイフを摩り替えた!
僕   僕だよ!
 
     間
 
僕   僕だよ。僕がやったのさ。
俺   ど、どうして?
僕   どうして?どうしてかって?お前と一緒だよ。ナイフが本物になれ   
     ばどうなるか分からない。快感を感じたんだよ。ほんのイタズラ心さ。ま、刺されるのは僕だったんだけどね
俺   お前…。
僕   お前が僕を刺したとの目、忘れないぜ。いい目してたもん
俺   わからねえよ、わからねえよ!
僕   あれはゲームだ。僕プロデュースのゲームだったんだよ。もし、あそこで僕が刺されて、僕が死んだら…僕らの友情はどうなるか、周りの反応は、これからの人生は?全てが予測できない、しかし希望に満ちた究極のスリルだったんだよ!
俺   それで、ナイフを。
僕   …だが、実際は違った。僕は死ななかった。そして、何も変わらなかった。ただ、僕とお前がおかしいって思われただけなんだよな。何も変わりやしなかったんだ。
俺   そうだ、だから俺はみんなに会えないんだ。みんなが、俺を酷い目で見るような気がして、あくまでも見るような、冷たい目で…。
僕   それでも、何かしなくちゃいけない。そうだろ?
俺   え?
僕   メール、僕が送ったんだよ
俺   知ってたよ
僕   そうか
俺   みんな、いないんだろ。最初からわかってたよ 
僕   バレてたのか。
俺   友達だもん。お前のことは、今でも分かるよ
僕   でも、みんなに会ったのは、本当だよ
 
    間
 
僕   二十歳ってさ、大人じゃん。実際どうかは別として、大人として見なされるわけじゃん。線引いちゃうわけじゃん。…何か、引っかかってたんだと思う。このまま、大人になっていいのかって。
俺   …。
僕   ケジメつけなきゃいけないんじゃないかって。
 
     小間
 
僕   じゃ、つけるか
俺   え?
僕   ケジメ。
俺   なにするんだよ。
僕   あの頃未完成のまま放り出したもの、終わらせようよ。(ナイフを拾う)
俺   おい、やめ…。
僕   (ナイフを俺に渡し)ピーター・パン、終わらせようぜ。
俺   そういや、ピーターパンってどうなったんだよ
僕   はあ?ウェンディが帰って大人になるんだろ?
俺   じゃなくてピーターパンだよ。あの後、大人になったのかな。ネバーランド、離れたのかな。それとも、まだネバーランドにいるのかな。ピーターパンだって、大人になりたかったのかな
僕  そんなこと、どうでもいいだろ
俺  ただ、言っとくぞ。俺の中にはもう、ネバーランドなんて必要ねえんだよ。
僕  来いよ
 
    スリル
 
     幕
 

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