「 Neat! Neet! Hero!!

 

 

レッド           空回り!

ブルー           自虐!

グリーン          健忘!

イエロー          二日酔い!

ブラック          ニヒル!ナルシスト!短気!

鈴木 一郎          ()ヒーロー協会社員

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと明転

とあるアパートの一室。部屋に、テーブルと座布団とビールケースが置いてある。

ブルー、求人誌を読んでいる。

イエロー、一升瓶片手に酒飲んでいる。

ブラック、たそがれている。

以後、登場するヒーローたちは全て、自分の色のハチマキをしている。

 

ブラック 「どうだ、この華麗なポーズは!」

ブルー  「……」

 

  ブラック、ブルーに歩み寄る

 

ブラック 「どうだ!…どう?どう?…どうよ?」

ブルー  「……」

 

  ブラック、テーブルの上にすわる

 

ブラック 「いい求人あったか?」

ブルー  「…机に乗らないで」

 

  ブラック、机から離れるとなおもポーズを決める

 

ブルー  「…仕事あるわけないじゃないか」

ブラック 「おいおい、どうやってこの部屋の家賃払うんだ?」

ブルー  「仕方ないでしょ。無いものは無いんだから」

ブラック 「ひとつくらいあっても良くないか?」

ブルー  「不況だからね」

ブラック 「ちょっとその本見せてみな」

ブルー  「あ…」

ブラック 「なになに、今月の特集。『資格を活かして高収入!』。いいじゃないか」

 

  間

 

ブラック  「お前、資格なんて無いもんな」

ブルー  「いや、あるにはあるんだけど…」

ブラック 「何だ?」

ブルー  「ヒーローライセンス」

ブラック 「……」

ブルー  「ヒーローライセンス二級」

ブラック 「階級があるのか?」

ブルー  「え?ヒーローになるときに取得したでしょ?」

ブラック 「いや」

ブルー  「え?ブラックだってヒーロー協会に入会してるよね?」

ブラック 「何だ?その胡散臭い団体は」

ブルー  「え?だって、ヒーローやるならライセンスが必要…」

ブラック 「(遮り)無い。大体ライセンスなんてどうやって手に入れたんだよ」

ブルー  「ヒーロー協会が試験やってた」

ブラック 「ヒーロー協会?聞いたことないな」

ブルー  「一次試験が油絵で、二次試験が風景画だった」

ブラック 「絶対騙されてるな。受験料とか高かっただろう?」

ブルー  「受験料が1500円」

ブラック 「意外に安い。良かったな」

ブルー  「油絵の画材、水彩画の画材、あわせて78万円」

ブラック 「そこか!」

ブルー  「僕、サラ金で借金までしたのに……」

ブラック 「…フッ、悪い人たちに騙されちまったみたいだな」

ブルー  「そんな…」

ブラック 「人生万事塞翁が馬。そのうちいい事が巡ってくるかもしれないな」

ブルー  「そんな…そんなぁ…」

ブラック 「まぁ、今回は運が無かったな…と」

ブルー  「まただ、また騙された…。どうして僕は騙されるんだろう?」

ブラック 「……(無視)

ブルー  「僕が悪いんだ、僕が馬鹿だから。そうだ、僕は馬鹿なんだ。僕は馬鹿でクズでどうしようもない奴なんだ。ヒーローだな
んて笑っちゃうよな。僕は駄目だ!ヒーローのクズだ!いや、人間のクズなんだ!」 (以後、次の台詞までウジウジしてる。)

ブラック 「……(無視)

 

  間

 

ブルー  「…で、ブラックは何か資格持ってるの?大型二種免許とかあると便利なんだけど」

ブラック 「英検四級」

ブルー  「……」

ブラック 「…フッ」

ブルー  「もういいよ…」

イエロー 「辛気臭ぇ辛気臭ぇ!こーゆー時はパァーッと遊びにいこうぜ、パァーッとよぉ」

ブルー  「そんなお金どこにあるんだよ。ったく、真昼間っから酒飲んで…」

ブラック 「男のヒステリックはみっともないぜ」

ブルー  「あぁ〜もう…」

イエロー 「つーか、腹減ったんだけど、何かないか?」

ブラック 「冷蔵庫は二週間前から空だぞ」

イエロー 「知ってるよ」

ブルー  「じゃあ聞かないでよ!…冷蔵庫の脇に、角のパン屋のおばちゃんがくれたパンの耳があるから」

ブラック 「小夜子さんか!?毎度毎度の気遣い、痛み入る」

ブルー  「それで我慢してよ…」

イエロー 「かぁ〜、酔いがさめちまうよ、まったく」

ブルー  「仕方ないよ…」

 

  グリーン、下手から登場

 

グリーン 「お〜っす」

ブラック 「何をやってるんだ?」

グリーン 「帰ってきたの」

ブルー  「見りゃわかるよ」

グリーン 「だって帰ってきたんだもん」

イエロー 「お前も飲むか?」

グリーン 「遠慮しておくよ」

イエロー 「なんだよ…」

グリーン 「で、今日はみんな何やってるの?」

ブルー  「っていうか、なんで君がここにいるの?」

グリーン 「へ?何かまずいことした?」

ブラック 「また始まったか…」

ブルー  「何か…って、君はレッドのところに行ったはずじゃなかったの?」

グリーン 「そういえばそうだったような…」

ブラック 「レッドの奴がショッカーの鎮圧に行ったまま、長いこと戻って来ないからな」

ブルー  「そうだよ!だから君に救援をお願いしたんじゃないかぁ…」

グリーン 「あぁ〜あ、そうだったそうだった。いけね、うっかりしてた」

ブルー  「うっかりじゃないよ…」

イエロー 「ひゃはは、こりゃ傑作だ」

グリーン 「わかったわかった。今度こそちゃんと行ってくるよ」

ブラック 「頼むぜ」

 

  グリーン下手にハケかけるが、3〜4歩あるいて振り返る

 

グリーン 「角のコンビニでいいんだよな?」

ブルー  「違う!レッドの救援!」

グリーン 「そうだったっけ?」

イエロー 「何しに行くつもりだよ」

ブルー  「その癖なんとかしてくれよ…」

ブラック 「健忘もここまでくるとお茶目だぜ」

グリーン 「いや〜、ついうっかり…ね?」

ブルー  「ね?じゃないよまったくも〜どいつもこいつも」

ブラック 「男のヒステリックは(次の台詞が喰う)

ブルー  「もういいから!…仕方ない、代わりに僕が行くよ」

イエロー 「お前が!?過去一度もショッカーにすら勝った試しねぇじゃねぇかよ」

ブルー  「悪いかよ…」

イエロー 「精々レッドの足引っ張るなよ〜」

ブルー  「…どうせ僕は弱いよ。だって力無いし、根性無いし。だいたい僕は頭脳労働向きだったんだ。それを無理してでしゃばってヒーローなんかになっちゃって…。分不相応だったんだ。僕は向いてないんだ。駄目なんだ。大体、僕の武器ハリセンだよ?ハリセンで勝てるの?倒すべき敵に突っ込み入れてどうするんだよ…」

ブラック 「…どうやら、私の出番が来たみたいだな」

イエロー 「行ってやってくれ」

ブラック 「…私が出てったら大変なことになるぜ」

イエロー 「わかったわかった。期待してねぇからとっとと行け」

ブラック 「…フッ」

 

  ブラック、華麗に走って下手にハケる。

  同時に下手からレッドが駆け込んでくる。

 

レッド  「いや〜参った参った」

ブルー  「(ブラックの去った方を指しながら)何やってんの!?っていうか無事だったんだ、良かった」

レッド  「話を聞いてくれ」

ブルー  「ショッカー、倒してきたんでしょ?」

レッド  「まぁ聞けって」

ブルー  「うん」

レッド  「いやなに、数週間ぶりに警報機が鳴ったろ?」

グリーン 「うん、みんな居たもん」

レッド  「で、俺は即座に飛び出したわけだ」

グリーン 「行ってたねぇ」

レッド  「何故みんなついて来ない!?」

黄緑青  「夜遅いんだもん」

レッド  「お前らなめてんのか?ヒーローに時間は関係ない!」

イエロー 「偉いねぇ、レッドは」

グリーン 「結局独りで飛んでいったからな」

レッド  「全速力で…、あ、バイク質に出しちゃったから徒歩で…うん、by foot

グリーン 「on footだぞ」

レッド  「で、『ショッカーめ、待ってろよぉ〜!』って叫びながら、猛然とダッシュしたんだ」

グリーン 「傍から見たらただの変人だぞ」

レッド  「で、走るのに疲れて一旦立ち止まった時に、重大なことに気付いたんだ」

グリーン 「うん」

レッド  「目的地どこだぁ〜!!」

イエロー 「またかよ」

グリーン 「ぜんぜん進歩しないな」

イエロー 「お前それ言える立場じゃないから」

レッド  「焦って出動したから、ショッカーが出現した場所を聞き忘れてた…」

イエロー 「駄目じゃん」

レッド  「でもな、収穫はあったんだぞ」

グリーン 「何何??」

レッド  「公園で遊んでた子供たちにサインを求められた!」

黄青緑三人「え!?」

グリーン 「いいなぁ〜」

イエロー 「マジかよ〜」

ブルー  「うらやましい…」

レッド  「『赤い彗星コメットマンだ!サインして!』ってさ、…俺、コメットマンと勘違いされたらしい」

グリーン 「なぁ〜んだ」

ブルー  「そんなことだろうと思った」

イエロー 「ただの勘違いか」

レッド  「無性に悲しい…が、しかぁし!」

イエロー 「コイツも始まっちゃったよ」

レッド  「この世に悪がある限り、俺は負けないのだ!」

グリーン 「毎度毎度やかましいな」

レッド  「俺は戦う!俺は…(お腹をおさえて)とりあえず空腹と戦う!」

ブルー  「冷蔵庫脇にパンの耳があるよ」

レッド  「何!それは本当か!助かった!これでまだまだ戦える!!」

ブルー  「僕が取ってくるよ。疲れてるでしょ、レッドは休んでて」

レッド  「ありがとう!」

 

  ブルー、下手にハケる。

 

イエロー 「パンの耳ねぇ…」

レッド  「なんだよ」

イエロー 「もっといいもんが食いてぇ」

レッド  「贅沢言うなよ、俺たちヒーローなんだから」

イエロー 「ヒーローだったらもっといいもん食うべきだろ。いざという時のために」

グリー  「いざという時なんて来ないけどな」

レッド  「うるさい、パンの耳で十分だよ」

グリーン 「俺も嫌だ。うまいもん食いたい」

イエロー 「そんな金もねぇ…と」

レッド  「ヒーローで食べていけないなら、バイトすりゃいいだろ」

イエロー 「今月も求人ないってよ」

グリーン 「またかよ…」

イエロー 「俺らの蓄えって、あとどのくらいだったっけ?」

レッド  「そんなにないぞ!」

イエロー 「威張るな!…酒も残り少ないときた」

グリーン 「酒いらないから。あー、ついに戦闘服まで質いれしちゃったからね」

イエロー 「金策尽きたか…」

グリーン 「戦闘服の無いヒーローなんてヒーローじゃない!唯のボランティア変人だ!」

イエロー 「馬鹿なこと言うな」

グリーン 「金さえあればなぁ…」

レッド  「だから働くんだよ」

グリーン 「だからその働き口がないんだよ」

グリーン 「あー、冗談抜きで餓死するかも」

イエロー 「酒も無いしな」

グリーン 「しつこいよ」

イエロー 「で、どうするよ?」

グリーン 「どうしようかねぇ」

レッド  「そんなときこそ気合だ!気合があれば何でも乗り越えられる!」

黄緑二人 「はぁ…」

 

  ブルー、下手袖に

 

ブルー  「みんな!大変だ!ちょっと手を貸して」

 

  赤黄緑三人、下手へ駆け寄る

  赤黄緑青四人、(袖の中から)倒れこんだブラックを引きずって舞台中央へ

 

ブルー  「大丈夫!?」

グリーン 「何があったんだ!?」

ブラック 「…フッ」

イエロー 「いや、ここはすましてる場面じゃないから」

レッド  「おのれショッカーめぇ!待ってろよ!」

 

 レッド、上手にハケかける

 

ブラック 「待て、違うんだ。ショッカーにやられたんじゃない。…それに、方向が逆だ」

レッド  「何!?」

グリーン 「何がどうなったんだよ?」

ブラック 「いや…な、現場に駆けつけたら、レッドの姿は無く、既にショッカーと赤い彗星コメットマンの戦闘がはじまってたんだ」

イエロー 「レッドは道に迷ってたんだ」

レッド  「煩い!」

ブラック 「だからと言って、何もせずに帰るのは俺の主義に反する。コメットマン率いる彗星戦隊に加勢して、手土産にショッカーの二三匹でも倒して帰ろうと思ったんだ」

グリーン 「それで?」

ブラック 「ショッカーと勘違いされてボコボコにされた」

イエロー 「なんでだよ」

ブラック 「俺もショッカーも黒いからな…」

グリーン 「ご愁傷様です」

イエロー 「ってか、ブラックも弱ぇなぁ〜」

レッド  「おのれコメットマンめ!二度にわたって俺に楯突いたな!覚えてろよ!」

ブルー  「なんだかなぁ…」

イエロー 「宣言通り、大変なことになりやがった」

グリーン 「しっかし、ここ最近の彗星戦隊の活躍は凄いよな」

イエロー 「…あぁ、まあな」

グリーン 「ん?…実はな、奴らも数ヶ月前は俺らと大して変わらない生活をしてたらしい」

ブルー  「うそだぁ〜」

グリーン 「本当だよ、知り合いが奴らのこと知っててね。安アパートでうだうだしてたらしい」

イエロー 「そうか」

グリーン 「なんでも、肉体改造に成功して無敵の身体を手に入れたのが、人気の秘密らしいぞ」

ブルー  「いいなぁ、肉体改造するお金があるなんて」

レッド  「別に、このままでもいいじゃないか」

ブルー  「えぇ?弱いままがいいのかよ」

イエロー 「俺たちはお前ほど弱くないからな」

ブルー  「うるさいな!…あれ、でもコメットマン率いる彗星戦隊って、四人だよね」

レッド  「確かそうだよ」

ブルー  「半端じゃない?ふつう戦隊組んでるヒーローって、3人とか5人とか奇数が基本でしょ」

レッド  「確かに」

グリーン 「いや、それがな、うわさだと元は五人だったらしい」

レッド  「一人どうしたんだ?」

グリーン 「誰も知らないんだ。噂では失踪しちゃったらしい」

イエロー 「……」

ブラック 「なぁ?俺は…俺は負けたのか…」

ブルー  「え?わ、大変だ…」

レッド  「みんな、ブラックを止めるんだ!」

ブラック 「俺は強い…強いよな?…そうだろ!」

グリーン 「強いよ。強いから!」

ブラック 「違う、絶対違う。…おかしい。絶対おかしい!俺は弱くない。弱くないんだ!うわぁ〜〜〜!!」

 

  ブラック、下手に走り去る

 

グリーン 「待てよ!…俺、連れ戻してくる!」

ブルー  「グリーン!」

 

  グリーン、下手に走り去る

 

イエロー 「何だ?ありゃ?」

ブルー  「そうか、イエローは最後に僕らに合流したから、知らないんだよね」

レッド  「ブラックは、納得がいかないことがあるとキレてしまうのだ!」

イエロー 「なんだそりゃ」

ブルー  「普段はニヒルを気取ってるんだけどね。感情的になると、別人みたいになっちゃう」

レッド  「いわゆる、解離性同一性障害ってやつだ」

イエロー 「…なんか、俺らって一癖ありすぎじゃねぇか?」

レッド  「そうだ!みんなクラスに一人いるかいないかレベルの問題児だったのだ」

ブルー  「それは言わないで……」

レッド  「すまない」

ブルー  「駄目だね、僕ら」

イエロー 「酔いが醒めちまったぜ…」

 

  グリーン、下手よりビール瓶を持って登場

 

グリーン 「お待たせ、エビスビールでよかったよね?」

ブルー  「何やってんの!」

イエロー 「気が利くな」

ブルー  「違うでしょ!」

レッド  「エビスはちょっと高いけど、その分美味いからな」

ブルー  「だ ら!ブラックはどうしたの?」

グリーン 「買ってないよ、だって苦いでしょ」

ブルー  「黒ビールのことじゃないよ!」

 

  間

 

グリーン 「…あ、あ〜あぁ。そういやそうだった。いけね」

ブルー  「……」

レッド  「いやしかし、いったい何所にこんな物を買う金があったんだ?」

グリーン 「え?あぁ。俺、皆で管理してる通帳預かってるからさ」

ブルー  「えぇ!?」

グリーン 「お金には不自由してないよ」

レッド  「ちょっと待て!」

グリーン 「何?」

レッド  「それは俺たちの生活費じゃないか!」

グリーン 「そうだっけ?」

イエロー 「いいじゃん、みんなで飲めば(ビール飲みながら)

ブルー  「そういう問題かよ…」

レッド  「協調性が無いぞ!」

イエロー 「お前に言われたくねぇよ」

ブルー  「で、僕等の生活費、残金は?」

グリーン 「えぇ〜っと、830円」

レッド  「なんと!アイス最中八本分!」

イエロー 「アイスで考えるのか!?」

ブルー  「しかも消費税かかるから八本買えないしね。」

イエロー 「ほんとだ。一本105円、八本で840円かかる」

レッド  「妙だな。この間テレビCMに出演したギャラはどこに消えた?」

ブルー  「そうだよ!現金収入があったはずだよ」

イエロー 「久々の仕事だったもんな」

レッド  「確か、30万円ほどもらったような」

グリーン 「そんなことあったっけ?」

 

  赤黄青三人、思い思いの武器を手に、グリーンに迫る

 

グリーン 「ちょっと待ってくれ!今思い出すから」

レッド  「あまり待てないぞ」

イエロー 「俺たちゃ気が短けぇからな」

ブルー  「容赦…しないよ」

グリーン 「思い出した!ヒーロー協会に納入したんだ!」

イエロー 「どっかで聞いたことある名前だな」

ブルー  「最悪…」

レッド  「俺は初耳だ。で、なんでお金を使っちゃったんだ?」

グリーン 「協会の人にね。俺たちの弱さを指摘されて、肉体改造を薦められたんだ」

イエロー 「肉体改造!?」

レッド  「するとお前は改造人間になったってことか!」

グリーン 「いや、この通り生身の体さ♪」

イエロー 「え?どういうことだよ?」

グリーン 「うん。肉体改造一人当たり10万円で、三人分前払いした」

レッド  「俺たちは五人だぞ!」

グリーン 「とりあえず三人分納金すれば、残りの二人分は追々だってさ」

イエロー 「適当すぎるだろ」

レッド  「と、いうことは俺たちも改造人間か!」

イエロー 「ちょっと待て。話がうますぎやしねぇか」

ブルー  「うん。肉体改造は10万円程度じゃできないよ」

レッド  「そういうものなのか?」

イエロー 「第一、ヒーロー協会って団体が怪しすぎる」

ブルー  「うん、あはは…」

レッド  「何故お前が落ち込む!?」

イエロー 「聞かねぇでやってくれ」

レッド  「はぁ…」

イエロー 「で、協会から何か連絡あったのか?」

グリーン 「無いよ」

レッド  「今電話してみろ、詐欺じゃないのか!?」

グリーン 「さっきしたんだ。『おかけになった電話は、現在使用されておりません』」

レッド  「(喰って)Oh my God!!

イエロー 「なんてこった…」

グリーン 「へ?まずかった?」

ブルー  「当たり前だよ!…もう、今度からは僕が通帳管理するから」

グリーン 「すまん、ついうっかり」

イエロー 「はぁ…。まぁ、俺たちも遠からず身に覚えがあることだし、お前を責めたりしねぇよ」

ブルー  「あぁ…」

レッド  「そうだ!また頑張ればいいじゃないか!」

ブルー  「仕事があれば…ね」

 

  間

 

イエロー 「最近、テレビの仕事全然無いな」

グリーン 「そうだね」

ブルー  「仕方ないよ、特撮番組なんて時代遅れだもん」

レッド  「いや、特撮にも良いところはある!」

ブルー  「でも、今時の子供は観ないからね。一部のマニアな大人には依然として人気だけど」

イエロー 「俺が子供の時は、テレビに噛り付きながら観てたんだけどな」

レッド  「俺も毎週欠かさず観てた!ゴレンジャーとか、かっこよかった!」

イエロー 「次の日、学校ではその話題で持ちきりだったしな」

グリーン 「今の子供たちは、もっぱらテレビゲームらしいからね」

イエロー 「ヒーローに憧れるんじゃなくて、仮想現実の中で自分が主人公になる」

レッド  「気持ちは痛いほど分かるんだが、なんか悲しいな」

ブルー  「テレビ局も、ちゃちな特撮は縮小して、派手なCGをつかった番組やアニメーションを中心にしてるし」

グリーン 「実際、そっちの方が子供ウケ良いんでしょ?」

レッド  「特殊映像、凄いもんな」

ブルー  「僕らは、空中を走ったり、拳銃の弾をはじき返したりできないからね」

イエロー 「生身の肉体じゃ無理だよ」

グリーン 「リアルが受け入れられず、アニメやCGみたいな作り物の方が良いって…ね」

イエロー 「俺たち、時代遅れなのかな」

ブルー  「…うん」

グリーン 「何で…何で俺たちヒーローになったんだっけ?」

 

  間

 

レッド  「子供たちに…、子供たちに夢を与えるためじゃないか!」

黄緑青三人「……」

レッド  「子供たちに夢と希望を与える!なぁ、そうだろ!」

イエロー 「そうだな。ヒーローに憧れてたんだ」

グリーン 「でも、大人の階段の先には、希望なんてなかった。ただドロドロした世界が広がってた。だから俺たちは、子供に、次の世界を担う子供たちに、新しい世界の有り様をみせたかったんだったよな」

ブルー  「でも、気が付けば僕たちは社会のお荷物になってた…」

赤黄緑三人「……」

ブルー  「たいした学も学歴も無い。資格も無い。今更社会に復帰しようったって駄目。ヒーロー続けるにも実力が無い。毎日、鳴りもしない警報機の前でごろごろ時間を潰す日々、日々、日々!駄目なんだよ。駄目!駄目なんだ!駄目なんだよ!しょせん僕らは駄目人間なんだ!(以下喰う)」 (以後、しばらくウジウジしてる。)

 

  下手よりブラック

 

ブラック 「男のヒステリックは格好悪いぜ」

レッド  「ブラック!?」

イエロー 「大丈夫なのか?」

ブラック 「やはり、私がいないと駄目だろう」

グリーン 「つーかごめん。お前のことすっかり忘れてた」

ブラック 「おーい」

グリーン 「みんなそろったことだし、今後について話そうよ。金銭的にピンチなんだからさ」

イエロー 「原因お前な」

レッド  「いいから、とにかく話し合おう!」

ブルー  「そうだね…」

ブラック 「何かあったのか?」

イエロー 「グリーンが、この間のギャラを使い込んだ」

ブラック 「知ってる」

ブルー  「え!?」

ブラック 「私もその時一緒にいた」

グリーン 「え!?ホントに?」

レッド  「お前の事だから」

グリーン 「そういや誰かと一緒だったような…」

ブルー  「頼むからグリーンは少し黙ってて」

ブラック 「確か…肉体改造だったな」

イエロー 「そうそう、みんなのお金30万も使い込みやがった」

ブラック 「愚かだったな」

レッド  「いや、とめろよ」

ブラック 「男の決断の邪魔をするなんて、野暮すぎてできないぜ」

ブルー  「最低…」

ブラック 「…フッ」

グリーン 「故郷に帰れ!」  (故郷=くに)

イエロー 「お前こそ帰れ!」

ブラック 「まぁ待て、取り乱しついでに有益な情報を手に入れた」

ブルー  「え?」

レッド  「本当か!」

グリーン 「すげぇ!」

ブラック 「この私にかかればどうということはない。そもそも、取り乱すのも世間を欺くための偽装にすぎないのさ…」(喰う)

ブルー  「どうでもいいから。その情報は?」

ブラック 「どうでも?…まぁいい。実はな」

グリーン 「すげぇ!」

イエロー 「まだ言ってねぇよ馬鹿!」

ブラック 「近く●●テレビで特撮枠が組まれるらしい」

レッド  「何!?」

ブラック 「そこで、出演するヒーロー部隊五人を募集してるってコトさ」

 

  一同、狂喜乱舞

 

赤黄緑青四人「すっげぇ!ヤフー!(適当に狂喜の叫び)

グリーン 「久々に特撮の仕事だ!」

ブラック 「フッ、まだ採用されてないがな」

ブルー  「これでやっと定収入が…」

ブラック 「オーディションに受かったらな」

ブルー  「前回は一話打ち切りの記録作っちまったからな。今回は頑張らないと」

ブラック 「せめて三話くらいはもたせような」

レッド  「短い。映画化ぐらい当然さ!」

ブラック 「まぁな」

レッド  「久しぶりに決めポーズができる!」

ブラック 「ちゃんとポーズ決まればいいけどな」

ブルー  「じゃあ、決めポーズの練習しようよ!」

イエロー 「そうだな!」

 

グリーンとブルー、机を片付けながら

 

グリーン 「決めポーズ決まらないと洒落にもならないからね」

レッド  「じゃあいくぞ!」

ブラック 「やれやれ」

レッド  「せぇ〜の!」

 

  五人、決めポーズの体制に

 

グリーン 「天が呼ぶ!」

ブラック 「地が呼ぶ!」

イエロー 「人が呼ぶ!」

ブルー  「悪を倒せと」

レッド  「俺を呼ぶ!」

 

  台詞を言いながら、各自決めポーズを作る

 

レッド  「威勢がいいのは最初だけ!     ハッタリレッド!」

イエロー 「しこたま飲んでは朝帰り!     ただの酔っ払いイエロー!」

ブルー  「ウジウジ悩んで自虐する!     ネガティヴブルー!」

グリーン 「三歩で忘れる鳥頭!        若年性アルツハイマーグリーン!」

ブラック 「ニヒルなつもりがキレちゃった!  多重人格ブラック!」

五人   「五人そろって」

グリーン 「職安へGO!」

 

  一同、盛大にこける

 

レッド  「ちょっと待て!!」

イエロー 「なんだよそりゃ」

ブラック 「確かに職に困ってはいるが…」

イエロー 「さすがに職業安定所はねぇな」

ブルー  「ひどすぎるよ…」

グリーン 「あ、あれ?違ったっけ??」

ブラック 「ある意味正直だがな」

レッド  「違う…何かが決定的に違う…」

イエロー 「あれ?でも、俺たち何レンジャーだったっけ?」

ブルー  「イエローまで忘れたの?えっと…なんだっけ??」

ブラック 「殆ど名乗ることも無かったからな。無理も無い」

レッド  「無理も無いって、俺たちのアイデンティティーみたいなものだぞ!」

グリーン 「で?何レンジャー??」

レッド  「…ごめんなさい」

イエロー 「誰一人覚えてないのかよ?」

ブルー  「情けない…」

グリーン 「じゃあいっそのこと『ニートマンズ』でよくね?」

レッド  「そりゃないだろ」

ブラック 「ありのままの我々を表現するのも面白いかもしれない」

グリーン 「ハローワークで、僕と握手!ってか?」

イエロー 「うひゃひゃ、最高!」

グリーン 「こんにちは、僕ニート君。よろしくね♪」

ブラック 「ブラックユーモア満載だな」

ブルー  「ニートって言うな!」

レッド  「洒落になってないから。っていうか、そのニートって何だ?」

ブルー  「引きこもりっていうか…」

ブラック 「Not in Employment Education or Trainingの頭文字を並べた略語だ」

ブルー  「無職で学校にも行かず、定職にも就いておらず、職に就こうといった努力をしない人」

イエロー 「まさに今の俺らだな」

レッド  「誇るな!」

グリーン 「事実だしね」

レッド  「煩い!職に就こうと努力はしてる!」

イエロー 「お前、バイトの面接で受かった試がねぇじゃねぇか」

グリーン 「え?一度もないの?」

イエロー 「あぁ。一度レッドと一緒に面接を受けたんだが…。」

ブルー  「どんな感じだった?」

ブラック 「私も一度見たが、あれでは到底受からないだろうな」

グリーン 「たとえば?」

イエロー 「こんな感じ」

 

  イエローとレッドが二人、机を元の位置に戻しながら舞台前方に出る。

 

イエロー 「お名前は?」

レッド  「レッドです!」

イエロー 「え…、なかなか個性的な名前ですね…」

レッド  「ありがとうございます!」

グリーン 「馬鹿だろ」

レッド  「煩い!」

イエロー 「まぁ…。で、本職は何を?」

レッド  「正義の味方です!」

グリーン 「正体ばらしちゃったよ!?」

ブラック 「我々は世を忍ばねばならぬのに」

イエロー 「正義の味方って、君…」

レッド  「正義の味方ですよ。日夜悪と戦ってます!」

イエロー 「そ、そうですか…その正義の味方さんがアルバイトをしたいと」

レッド  「はい!正義の味方だけでは食べていけないので!」

ブルー  「馬鹿ですね」

グリーン 「うん、救いようがない」

レッド  「いいかげん外野は黙ってろ!」

イエロー 「分かりました、もう結構です。結果は後日お知らせしますから」

レッド  「もう終わりですか!?」

イエロー 「えぇ、次の方もいますし」

レッド  「仕方ありませんね。本日は、どうもあざーしたぁ!!」

グリーン 「…で、不採用♪…と」

ブルー  「聞くまでもありませんね」

レッド  「ぶっちゃけ、面接終わってから連絡来たためしがない」

イエロー 「放置プレイだ!ひゃはは」

レッド  「反論できない…」(少し落ち込む)

ブラック 「…それはそれでいいとして、それ以前に一人一人の名前設定がまずくないか」

イエロー 「滅茶苦茶弱そうだもんな」

グリーン 「地味だし」

ブラック 「むしろ弱点を露呈してる」

ブルー  「ヒーローとしてというより、人として駄目だと思う」

レッド  「ネーミングセンスを疑う」

グリーン 「誰だよ!こんなんに決めた奴」

赤青黄三人「お前だ!!」

グリーン 「あ、あらら。そうだっけ??」

ブラック 「フッ…」

ブルー  「この時点で間違ってたんだ、僕ら…」

グリーン 「すまん。全然覚えてないけど、すまん」

ブラック 「過ぎたことは仕方ない」

レッド  「認めちゃうのかよ!」

ブラック 「オーディションまで時間がない。今更変えるわけにもいかん」

レッド  「それはそうだけど…」

ブラック 「仕方ない。社会派ヒーロー『ニートマンズ』、ここに結成だ」

グリーン 「がんばろう!」

レッド  「仕方ない…か」

ブルー  「子供たちの間違った見本になりかねないけど」

イエロー 「とにかく、コレはチャンスなんだ。」

ブルー  「最後のチャンスじゃなきゃいいけど…」

レッド  「ちょっとは前向きに考えよう!」

グリーン 「とにかく頑張ろう!」

赤黄緑青四人「応!」

ブラック 「フッ…」

レッド  「で、オーディションはいつなんだ?」

ブラック 「知らん」

レッド  「場所は?」

ブラック 「知らん」

赤黄緑青四人「え〜!?」

レッド  「どういうことだよ!」

ブラック 「私はただ、ヒーロー募集のポスターを見ただけだ」

イエロー 「すごく怪しいポスターだな」

グリーン 「オーディションの日時は書いてなかったの?」

ブラック 「無い。ただ「詳細は12日午後6時放送の番組中でお知らせだよ♪」と書いてあっただけだ」

イエロー 「物凄く胡散臭いポスターだな」

グリーン 「っていうか今日じゃん!その番組!」

ブルー  「しかももう始まってる…」

レッド  「急いでテレビをつけるんだ!!」

 

  一同、テレビを壮絶に探す(ひたすらオーバーアクションで)

  が、みつからない

 

レッド  「テレビは何所へ消えた!?」

グリーン 「チーズは何所へ消えた!?」

イエロー 「関係ないじゃん!?」

グリーン 「ごめん。ついうっかり」

ブラック 「しかし妙だな、テレビがみあたらない」

ブルー  「この間まで確かにあったんだけど…」

グリーン 「だれだよ!テレビ隠したの!」

レッド  「誰もテレビ隠さないだろ。隠すメリットがない」

イエロー 「喰うに困って売っちまった…なんてな。ひゃはは!」

ブルー  「やめてよ、不謹慎だよ…」

グリーン 「ほら、あれだよ。きっと妖怪テレビ隠しの仕業だよ」

ブルー  「何それ?」

グリーン 「あれだよ、音声コードの白い方だけ食べるやつ」

ブルー  「お腹壊しそうだね」

イエロー 「ずいぶんとこの場に都合のいい妖怪だな」

グリーン 「で、食べたらちゃんと『ごちそうさん』って書置きするの」

イエロー 「なんなんだよ」

グリーン 「テレビ隠しの照れ隠しだよ」

イエロー 「なんかうまいこと言いやがった」

グリーン 「食べられちゃったテレビにはね、重大な異変が起こるんだ!」

イエロー 「どうなるんだ?」

グリーン 「NHKの受信料が倍額になるんだ」

イエロー 「今の俺らにゃ恐ろしい話だ」

グリーン 「で、今角のコンビニあたりを徘徊しているはずなので、俺がとっつかまえてきます。じゃあ」

 

  グリーン、慌てて下手よりハケる。赤黄青それを追ってハケる。

  グリーン三人に引きずられながら戻る。

 

レッド  「逃がすかよ!」

イエロー 「コイツ何か知ってやがるぞ!」

ブルー  「いいかげんにしてくれないかな?」

グリーン 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

レッド  「な が!ごめんなさいだって?謝ってごまかそうたってそうはいくかよ!あぁん?」

イエロー 「正直に白状しろよ。さもなくばアルコール漬けにして東京湾に沈めるぞ!」

ブルー  「ヒーローの言う台詞じゃないよ…」

グリーン 「ひぃぃぃ!」

ブラック 「まぁ待て、そうたたみかけても埒が明かない」

イエロー 「じゃあどうしろってんだよ?」

ブラック 「いったんグリーンを放せ。落ち着いたら異端尋問を始める」

ブルー  「そっちのほうがある意味エグいよ…」

 

  グリーン、開放され、上手付近に正座。

呼吸を落ち着かせて、みんなの方を向く。

 

ブラック 「で、テレビをどこへやったんだ?」

グリーン 「実は…」

レッド  「なんということだ!」

イエロー 「まだ何も言ってねぇって!それくどいよ!」

レッド  「すまん」

グリーン 「この間のクリスマス、みんなでケーキ食べたろ?」

ブルー  「話逸らさないでよ…」

ブラック 「まぁ、聞け」

グリーン 「五人で食べるには小さすぎたけどさ…そんなの我慢して、暖房の無いこの部屋で、みんなで丸くなってケーキつついてたじゃないか」

イエロー 「一本だけろうそく立ててな」

レッド  「ケーキなんて何年ぶりだったっけ…うまかったなぁ」

ブルー  「…なんか嫌な予感がしてきた」

グリーン 「あんな小さなケーキでもな、一個3800円もしたんだ」

レッド  「なんと!」

ブラック 「当時はストーブの灯油一滴すら買えなかったんじゃないのか?」

グリーン 「うん。だからね」

ブルー  「やめて、やめて」

グリーン 「だからね」

ブルー  「その先言わないで!悲しくなるから…」

グリーン 「だから…ね」

ブルー  「うわぁ…」

グリーン 「だ ら…ね」

イエロー 「お前もくどいよ!」

グリーン 「ごめん。だから、テレビ売っ払ってケーキ買った!」

レッド  「威張るな!」

ブラック 「やはりな」

イエロー 「ホントに売っちまってたとはな」

ブルー  「でも、売った代金が僕等のお腹におさまっちゃってるから…」

イエロー 「責めるに責められない…と」

ブラック 「フッ…仲間同士、連帯責任ってやつさ」

レッド  「テレビが…」

ブルー  「ちょっと待って、じゃあオーディションの情報は!?」

ブラック 「さすがにこの状況じゃあ…な」

グリーン 「諦めるしかないっすね」

イエロー 「お前が言うな!」

ブルー  「やっぱ僕ら、駄目だね…」

 

  重い間。一同、ため息

 

レッド  「待ってくれ!」

黄緑青三人「え?」

レッド  「テレビに出たいんだろ!」

グリーン 「…そりゃぁ、出たいよ」

レッド  「ならそんなに簡単に諦めるなよ!」

イエロー 「情報が無いなら、直接会場に乗り込めばいいんじゃねぇの?」

ブルー  「でも、会場すら分からないんだよ?」

ブラック 「待て、私が見たポスターに、連絡先などが書いてあるかもしれん」

レッド  「そうだよ!こんなところでウジウジしてるくらいなら、とにかく自分から動こうよ!」

イエロー 「確かに、どうにかなるかもしれねぇからな」

ブラック 「いいだろう」

ブルー  「…そっか、うん。とにかく行ってみよう!」

グリーン 「わかった。その話、俺も乗る!」

レッド  「よし!じゃあみんな!行こう!」

黄緑青三人「応!!」

ブラック 「フッ…」

 

  一同、勢いよく下手に去る。

  間

  一同、下手よりしょんぼりして帰ってくる。

 

ブルー  「全然駄目でした」

イエロー 「な〜にが『詳細は12日の番組内で発表だよ♪』だ!」

ブラック 「まさか『結果発表』だったとはな」

レッド  「オーディション自体はとっくの昔に終わってるって罠」

グリーン 「骨折り損??」

 

  間

 

ブルー  「やっぱり…。やっぱり僕たちにヒーローなんて務まらないんだよ」

レッド  「そんなこと言うなよ!」

ブルー  「駄目じゃん。数少ないチャンスだって、それに挑む前に駄目にしちゃってさ。なんかもう、何やっても駄目な気がする」

レッド  「元気出せよ!また次があるかもしれないじゃないか!」

ブラック 「…だめなのかもしれないな」

レッド  「ブラックまで、そんなこと言うなよ!」

グリーン 「…今回が最後のチャンスだったんじゃないかな。正直、みんなもう限界だろ?」

イエロー 「おぃ、ちょっと待てよ」

ブルー  「イエローは僕らに合流してまだ3〜4ヶ月しか経ってないじゃないか。僕らはね、こんなことをもう10年も繰り返して
るんだよ。全然進歩しないで、毎回毎回同じ様なミスで躓いて。もう、これ以上何も望めないよ…」

レッド  「何考えてるんだよ!みんな!子供たちに夢を与えるっていう志はどうしたんだよ!」

ブラック 「…今、俺たちは誰かに希望を与えられるような立場か?」

レッド  「え……。い、今は駄目かもしれないけど、きっといつか!」

グリーン 「いつかっていつだよ!もう質入するような物なんて何もないんだぞ!食ってけないんだよ!」

イエロー 「またみんなで工事現場のドサ回りにいけばいいじゃねぇか!」

レッド  「そうだよ!」

ブルー  「イエローはともかく、レッドはまともにバイト得られないじゃん…」

イエロー 「そんなこと言うな!」

 

  レッド、後ずさりしてみんなから少し離れる。

 

レッド  「天が、地が、人が、悪を倒せってよんでるじゃないか!」

ブラック 「お前なんか誰も呼ばない」

レッド  「うるさいな!」

グリーン 「あのな、実際誰も呼んでないんだよ!大体、悪ってなんだよ?」

レッド  「え?…」

グリーン 「ショッカーたちが悪か?いや違う。あいつらは『悪の秘密結社』って名前の企業に雇われてるだけの、ただのサラリーマンだ。適当に悪さして、適当にやられて、そして帰っていくだけだし」

レッド  「でも…」

ブラック 「そんな奴らを倒して、正義を語る…安っぽいヒロイズムだな」

レッド  「違うよ!」

ブルー  「違わないよ!…確かに今の世の中は真っ暗かもしれないよ。だからって、見せ掛けだけの正義を着飾って、何になるっていうんだよ!ヒーロー気取りでいるだけで、結局悪なんかと戦ってないじゃないか。まぁ、戦ったところで勝てないだろうけどね。肉体改造する金どころか、ろくに食べられない有様なんだからね!」

グリーン 「なぁレッド、俺たちは何と戦ってるんだ?」

ブラック 「我々が戦うべき『悪』とはなんなんだ?」

ブルー  「そもそも『悪』や『正義』ってなんのことだよ?」

レッド  「そんなの分からないよ!急に言われたって、分かるもんか…。俺だって…、俺だってね…、う、うわぁぁぁぁ〜〜〜!」

 

  レッド、下手に失踪。

  誰一人として、その後を追いかけようとはしない。

 

  気まずい沈黙。

  と、そこへ下手からダークスーツを着た男(鈴木)が出てくる。

 

鈴木   「今の、なかなか元気の良い方ですね、ハッタリレッドさんでしたっけ?」

ブラック 「誰だ!」

鈴木   「美味しそう♪」

グリーン 「突然現れて、何言い出すんだよこの人」

鈴木   「やぁ、今日は」

イエロー 「お前は!?」

ブルー  「知ってるの!?」

イエロー 「いや…」

鈴木   「おや、あなたもここでしたか。いや、でも今日はこちらの若年性アルツハイマー・グリーンさんに用事がありまして」

グリーン 「へ?俺??っていうか、どちら様で?」

ブラック 「素性を明かしていただけないか」

鈴木   「失礼、わたくしこういう者でして…」

グリーン 「こういうもの?そんな知り合いいねぇぞ??」

イエロー 「お前は黙ってろ」

 

  ブルー、名詞を受け取る。

 

ブルー  「え!」

ブラック 「どうした?」

ブルー  「う、うん。有限会社ヒーロー協会生態研究所所長、鈴木 一郎…さんだって」

グリーン 「ヒーロー協会だって!?」

イエロー 「っていうか、鈴木一郎ってそのへんにゴロゴロいそうな名前だな」

ブラック 「偽名か…」

鈴木   「いかにも。少々危ない橋を渡ることも多いのでね」

ブルー  「で、そのような方が、こちらになんの用ですか?」

グリーン 「思い出した!ジョンソンさんだ!」

イエロー 「違う!」

グリーン 「いけね、ついうっかり。えぇ〜っと、鈴木さんでしたっけ??」

鈴木   「えぇ。思い出していただけましたか?」

グリーン 「すいません」

ブルー  「すいません。お手数かけて」

鈴木   「いいんですよ。これから彼は、物忘れなんかとは縁の無い、すばらしい体を手に入れるのですから」

黄緑青  「えぇ!?」

ブラック 「フッ…やはりそういうことか」

鈴木   「えぇ、頭金30万円をしっかりと受け取ってしまいましたからね」

イエロー 「それじゃあ…」

鈴木   「肉体改造、させていただきます」

グリーン 「凄ぇ!本当だったんだ!」

ブルー  「やった!」

鈴木   「あら、あなたも美味しそうですね♪」

ブルー  「何なのこの人」

イエロー 「ちょっと待て!!」

ブラック 「話がうますぎる。いくらなんでも10万円で肉体改造が…(喰う)

鈴木   「できますよ!…ハイ、できます。肉体改造といっても、通常の改造とは異なり、機会ベースの半サイボーグ改造となりますが、それなら10万円あれば十分です」

グリーン 「何でそれだと安く済むの?」

イエロー 「臓器だよ!」

鈴木   「ハイ、手術契約の一部として、機械に変えた後に余った臓器はこちらで頂戴するかたちになります」

ブラック 「臓器密売か!?」

鈴木   「そんな人聞きの悪い…。いいですか?世の中には重病で、健康な臓器を喉から出が出るほど欲している方々が沢山いるの
です。そういった方々に、安くて良質な臓器を提供して差し上げる。コレ、れっきとしたビジネスですよ?わかります?病気の方々は安価で臓器が手に入って万歳、あなた方は破格の値段で最強の肉体を手にできて万歳。みんな幸せ、めでたしめでたし」

グリーン 「良い話じゃん」

ブルー  「それなら…」

イエロー 「やめろ!…肉体改造するとなぁ!…労災保険の対象外になるんだぞ」

グリーン 「いやにリアルな話だな」

イエロー 「改造しちゃうと、強靭な肉体を維持するために薬漬けになっちまうんだぞ!」

ブルー  「そうなの?」

イエロー 「その薬だって安くはねぇんだ」

グリーン 「え、これ以上お金ないよ?」

鈴木   「ご心配には及びません。」

ブラック 「何故だ?」

 

  レッド、下手に登場。様子を窺う。

 

鈴木   「考えてみてくださいよ。今貴方達が貧乏なのは何故ですか?…失礼かもしれませんが、みなさんは各々その性格に重大な欠点をお持ちだ。それに、ヒーローとして致命的なまでも弱い。だから仕事が無くて、定収が得られない。…違いますか?」

グリーン 「はい!」

イエロー 「自信満々に言うな!」

鈴木   「あははは」

イエロー 「あんたは笑うな!」

ブルー  「悲しいかな、否定できない」

ブラック 「確かに…な」

鈴木   「でもどうでしょう?あなた方が肉体改造によってその欠点を克服し、最強の肉体を手に入れたら…」

グリーン 「仕事が来るかも!?」

鈴木   「そうです!かもではなくて、確実に来ますよ。肉体改造後は、素手でコンクリートの壁が砕けますからね。ボディは鉄より硬い鋼鉄製ですし。私もおいしい臓器が手に入ります♪」

グリーン 「おぉ!」

ブルー  「じゃ、じゃあ銃弾なんかも…」

鈴木   「弾き返します。鋼鉄製ですから」

ブルー  「殴られても…」

鈴木   「痛くありません。鋼鉄製ですから」

ブルー  「空も」

鈴木   「無理です。…鋼鉄製ですから」

ブルー  「……」

グリーン 「…でも、凄いよ!これなら俺ら、ヒーローとしてやり直せる!」

ブルー  「う、うん!」

ブラック 「…確かに。胡散臭いが、このまま何もしないでいるよりは」

イエロー 「駄目だ!絶対駄目だ!」

グリーン 「え!?何でだよ!」

イエロー 「肉体改造なんかしちまったらな、一生定期的に修理したり、薬を投与したり。……駄目になっちまうんだよ!」

ブラック 「イエロー、お前さっきからやけに詳しいが、何か知ってるのか?」

イエロー 「それは…」

鈴木   「えぇ、彼もわたくしたちの大切なスポンサーの一人ですから(舌なめずり)

グリーン 「ど、どういうことだよ!」

イエロー 「…お前たちと合流する前…な、俺、彗星戦隊にいたんだ。」

ブルー  「え!?彗星戦隊って、あのコメットマンとかがいる、今売れっ子のヒーロー部隊じゃないか!」

ブラック 「本当なのか?」

イエロー 「あぁ、事実だ。俺は、黄色い彗星・へールポップマンだったんだ」

グリーン 「……ださ」

ブルー  「君は黙ってて!」

イエロー 「実はな、俺たち彗星戦隊も、ちょっと前はお前たちと変わらねぇ、ぐだぐだな連中だったんだ」

鈴木   「で、彼らは良いスポンサーになってくれました」

イエロー 「…でな、やっぱり肉体改造に手を出しちまったんだ。…くそッ。。」

ブラック 「…ということは、イエロー、お前もか!?」

イエロー 「いや、俺はこの通り生身のままだ。…頑張って用意できたのが40万ちょっとだったんだな。だから俺が、みんなに権利を譲った。俺はこつこつ働くけど、実力無くていつもあいつらの足引っ張ってたからな」

ブルー  「それで、他の彗星戦隊はどうなったの?」

鈴木   「肉体改造は成功いたしましたよ」

イエロー 「あぁ、アイツらは理想の肉体を手に入れた」

鈴木   「ハイ、おかげで今や念願のテレビ出演を果たし、子供たちの憧れの的です」

イエロー 「アイツらは変わったよ。…だから俺はアイツらから離れたんだ」

ブルー  「……」

イエロー 「その頃からさ。酒をあおるようになったのも」

ブルー  「…なら、イエローもこれから肉体改造しようよ!」

グリーン 「そうだよ、強くなって、また彗星戦隊に戻ればいいじゃないか!」

ブルー  「イエローがいなくなるのは寂しいけど、僕らは…大丈夫だからさ」

ブラック 「フッ…美しきかな、友情」

イエロー 「違うんだ!」

黄青黒  「えっ!?」

イエロー 「違うんだ。俺独り生身で弱かったから離脱したんじゃねぇんだ。足引っ張りたくない…とかそういうんじゃねぇんだ!」

ブラック 「どういうことだ?」

鈴木   「違ったんですか?」

イエロー 「……」

ブルー  「黙ってたら分からないよ!」

グリーン 「イエロー!」

 

  鈴木、時計を見た後、下手側にハケかける

 

鈴木   「時間ですか、しかたありませんね。もう少しお話をしておきたかったのですが…。まぁ、肉体改造をする決断をしましたら、名刺に書いてある住所までいらしてください。いいですか?よ〜く考えてくださいね。このままの肉体で今後も回りの流れに身を任せる方が特か、その脆弱な肉体を捨てて自らの手で未来を切り拓く方が特か。…聡明な皆さんなら、言わずともわかりますよね?先ほどからそこに隠れているレッドさんと一緒に、皆さんでよ〜く考えてくださいな」

 

  下手影から、レッドが出てくる

  皆、レッドに注目する。

グリーン 「レッド!」

ブルー  「大丈夫!?」

ブラック 「話は…聞いていたな?」

レッド  「…あぁ」

 

  鈴木、下手にハケながら

 

鈴木   「まぁ、精々その生身の脆弱な頭でよ〜く考えることですね。あ、そうそう。この間いただいたの代金の残額のことですが」

グリーン 「え?あぁ!20万円たりなかったんだっけ…」

鈴木   「えぇ、ですがそれはもう結構です」

緑青二人 「え!?」

鈴木   「今回だけは特別にサービスしましょう。貴方達が肉体改造をすれば、活きのいい臓器がまとまっててにはいりますし。特にレッドさん、あなた、とってもおいしそうですよ♪」

レッド  「……(悪寒)

グリーン 「本当ですか!?ありがとうございます!」

ブルー  「やった!」

鈴木   「それじゃあ、わたくし次の商談がありますので失礼させていただきます。くれぐれもご決断に誤りがないよう、よ〜く考えてくださいね?…ふふふ、はははははは!」

 

  鈴木、完全に下手にハケる

  残された者の間に、重い沈黙

 

レッド  「…みんな、行くのか?」

グリーン 「俺は…行く」

ブラック 「私もだ」

ブルー  「あ、じゃあ僕も…」

グリーン 「そういうの、もうやめろよ。自分のことだ、自分で決めろ」

ブルー  「…行くよ。僕も行く!」

レッド  「…俺は、行かない」

イエロー 「俺もだ」

 

  間

 

イエロー 「一つだけ話させてくれ。…彗星戦隊のその後だ」

グリーン 「へっ、理想の体を手に入れて、仕事もうまくいって、人気者になったんだろ?」

ブラック 「悪くない話じゃないか」

イエロー 「違う!違うんだ!」

ブルー  「違わないさ!どのみちこのままじゃ僕ら、駄目人間のままじゃないか。だったらすこしでも変わろうとして何がおかしいんだよ!」

レッド  「ブルー…」

ブルー  「僕は一番弱いし、すぐいじけるし、臆病だし…。だから、だからこそ、強い体に憧れちゃいけないのかよ!」

グリーン 「同感だ。俺たちは、俺たちの意思で道を選んだ。今までみたいにただなんとなく過ごすんじゃなくて、この手で活路を切り拓くんだ!弱かった俺たちがだぜ!本物のヒーローになれるんだ!」

レッド  「……」

イエロー 「肉体改造をした、彗星戦隊はその後…」

グリーン 「だから、理想の肉体を手に入れた彼らはテレビにも出て、今やみんなの人気者ですだろ?」

イエロー 「違うんだ…実はな、変わっちまったんだよ」

レッド  「何が?」

イエロー 「あいつら、肉体改造してから人が変わっちまったんだよ」

レッド  「どういうことだ?」

イエロー 「自分より弱いものを叩いてほくそえむような、悲しい大人みたいによ」

赤緑青  「え!?」

ブラック 「……」

イエロー 「力のあるものが、より弱いものを踏み躙る」

ブルー  「そんな……」

イエロー 「人は、その手に余る力を手にすると、どんどん歪んじまうものなのかもしれねぇな」

レッド  「……うん」

グリーン 「……」

イエロー 「改造後のあいつらは、もうかつての仲間じゃなかった。脆弱な肉体の俺を、言葉には出さないものの、ずっと見下していやがった。…だから俺は離脱したんだ」

レッド  「そうか…」

イエロー 「…悲しかったよ。だって、アイツら以前のことを何も覚えてねぇんだ。一緒に小さな鍋をつついたりしたことも。ショッカーにやられて、命からがら逃げ出したりしたことも」

レッド  「……」

イエロー 「それでな、夜中に泣いてるんだ。あいつら」

レッド  「…え?」

イエロー 「痛い、痛い、ってな。薬が切れると強化した体に骨格が耐え切れず、体中が悲鳴を上げるらしいんだ」

 

  間

 

レッド  「本物の、本物のヒーローは…」

イエロー 「もういいよ、レッド」

レッド  「本物のヒーローはァ!」

イエロー 「レッド、もういい…もう何も変わらねぇよ…」

レッド  「本物のヒーローは、薬や機械の力に頼ったりなんかしない!弱くたって、辛くたって、その身一つで戦うんだ!」

グリーン 「何言い出すんだよ」

レッド  「大人の世界に足を踏み入れたとき、煌びやかな世界はどこかハリボテのように感じた。…正直者が馬鹿をみて、社会悪が一般常識の影で蠢く世界。それが「世の中」ってモンスターの正体だって気付いたんだ」

ブルー  「もうやめようよ、そういうの…」

レッド  「みんなが、そういった悪の存在に気付きながら、それを黙認してしまう真っ暗な世界…。俺は、こんなときだからこそ、ヒーローが颯爽と現れて、悪を滅ぼしてくれるんだって、本気で期待してたよ……。でも」

ブラック 「現れなかった…って言いたいんだろ」

レッド  「子供の頃夢見たような、強くてカッコいいヒーローなんてどこにもいなかった。いるのは俺たちみたいな紛い物や、声にならない声で泣き叫ぶ弱者たちだけ。誰も、助けに来てくれなかったんだ」

イエロー 「紛い物…か」

レッド  「だからこそ!俺たちが「強くてカッコいいヒーロー」にならなくちゃいけないんじゃないか!!」

グリーン 「なるよ!なるための肉体改造じゃないか!強くも無いくせに正義が語れるかよ!」

レッド  「正義ってなんだよ!強さかよ!違うだろ!」

ブルー  「でも、今の僕たちには必要なんだ!そうでしょ!」

レッド  「そんなのズルじゃないか!そんなのイエローの言う通り、違うよ!」

イエロー 「レッド…」

レッド  「薬や機械に頼らなくたって、ささやかでも幸せな未来を掴めるはずさ!そうだろ!俺らならできるって!見せればいいじゃないか、子供たちに。名声でも無い、力でも無い、お金でも無い、…ささやかな幸せのカタチをさ…、それを守る本当の『強さ』ってやつをさ…」

 

  間

 

ブラック 「幸せかよ?」

レッド  「……」

ブラック 「今の状況は幸せかよ?」

レッド  「……あぁ」

ブラック 「違うよな?嘘だよな、そんなの。仕事の一つ満足に得られず、仲間に寄りかかって生活して」

ブルー  「ちょっと、ブラック!」

ブラック 「人気のあるヒーローを夢見ながら、実際は大声張り上げて走ってるだけ」

グリーン 「俺は嫌だね。…レッド、お前の子供じみたヒロイズムはな、もう時代遅れなんだよ」

イエロー 「……かもしれねぇな」

グリーン 「ささやかな幸せ?…そんなもの子供たちは求めてないんだよ。特撮自体もう古いんだよ。CGやアニメーションの方が派手でカッコいいからな。だから、俺たちも変わらないといけないんだ!…素手でコンクリートぶち抜いたり…、拳銃の弾はじき返したり…、派手でカッコいいじゃないか。いいじゃないか、それで。何が悪い?子供たちが喜ぶことをしようってんだぜ?そのためなら、どんな痛みにも俺は耐える」

 

  間

 

グリーン 「俺たちは行くからな」

ブラック 「またな。…いや、改造したら俺はもうここに戻らないかもしれないが」

グリーン 「そうだな」

ブルー  「え!?……うん」

イエロー 「待てよ!もっとよく考えろって!」

ブラック 「もう十分考えた」

グリーン 「結論は出ただろ」

ブルー  「…それじゃあ、さよなら」

レッド  「ブルー!グリーン!ブラック!」

ブラック 「…悲しい声を出すなよ」

ブルー  「今生の別れってわけじゃないんだし…」

グリーン 「…安心してくれ、レッド。俺がどんなに物忘れが酷くたって、忘れないよ。ずっと覚えてる。お前の顔と、お前たちと過ごした日々を」

イエロー 「…やっぱり、戻ってこない気なのか」

グリーン 「……」

レッド  「……」

 

  青緑黒下手からハケる

  うつむくイエロー

  ずっと、三人が去った方角を見つめるレッド

 

レッド  「……」

イエロー 「…あいつらも、彗星戦隊みたいになっちまうのかな」

レッド  「そんなことないよ!」

イエロー 「…どうだかな」

レッド  「グリーンは、俺のこと忘れないっていってたんだ!」

イエロー 「…残酷だな」

レッド  「そんなことは無いよ!ちょっと変わっちゃったって、またみんなで仲良く過ごせば、きっと元通りになるよ!」

イエロー 「帰ってきたら、もう俺たちなんて『弱者』としかみてねぇよ。それが、理想の肉体を手に入れる代償だ」

レッド  「そんな……。なら、やめさせないと!」

イエロー 「今更遅いよ。もう、連中は自分の意思を曲げねぇよ」

レッド  「やってみないとわからないじゃないか!」

イエロー 「あいつらが選んだ道だ、ほっといてやれよ」

レッド  「イエローは、同じ悲劇を繰り返すのかよ!」

イエロー 「…もう、慣れちまったよ。…酒飲んで寝りゃあ、悪夢も醒める」

レッド  「…その為だったのか」

イエロー 「当たり前ぇよ。もともと酒なんか好きじゃねぇんだよ」

レッド  「なのにそんなに飲んだくれて…」

イエロー 「…思い出しちまうんだよ。どんなに忘れようとしたってな、いっつも思い出しちまうんだ。大切な仲間だったから。……飲んで、酔って、寝て。次の日になれば忘れられるんじゃねぇかってな」

レッド  「イエロー…」

イエロー 「あーあ、これでまた酒の量がふえちまうな…」

レッド  「駄目だよそんなのは!イエローは仲間が変わっちゃった時に、分かり合おうとしたのかよ!結局逃げちゃったんだろ!」

イエロー 「違う!俺…俺だってな、必死で呼びかけたんだ!みんな、昔の俺らにもどろうよ…って。だけど!みんなはそれに答えなかったんだ!答えずに、黙って俺に背を向けて、俺のこと切り捨てたんだよ!」

レッド  「だからってあきらめちゃうのかよ!今からでもいい。きっと今度は受け入れてもらえるよ。それに、グリーンたちのことこのまま見捨ててもいいっていうのかよ!」

イエロー 「……結局、答えは変わらねぇよ。俺たち非力な二人が何やったって、何も変わらねぇんだよ」

レッド  「違う!イエローは変えようとしないだけだ!」

イエロー 「うるせぇ!」

レッド  「……仲間の、ピンチなんだよ!」

イエロー 「……」

レッド  「ヒーローは、ピンチの人がいたら必ず助けに来るんだ!」

イエロー 「……」

レッド  「ましてや、仲間のピンチなんだよ!今俺たちが行かないでどうするんだ!」

イエロー 「……俺は、もうお前を止めねぇよ」

レッド  「だから俺は行く!俺は…俺は、弱くたってヒーローなんだ!!」

イエロー 「……」

 

  イエロー、それまで片時も離さなかった酒を置き、下手へ去向かう。

  イエロー、振り向かずにレッドを背にする。

 

レッド  「どこへ行く?」

イエロー 「…もう一度、彗星戦隊と話をつけてみる」

レッド  「イエロー…」

イエロー 「…数ヶ月前のあの日から、俺はずっと悪酔いしてたみてぇだ」

レッド  「…うん」

イエロー 「ようやく酔いが醒めたよ。レッド、グリーンたちのことは任せた!」

レッド  「うん、ありがとう!イエロー!」

イエロー 「言っておくがなぁ、俺、結構強いんだぜ」

レッド  「急になんだよ」

イエロー 「お前一人じゃショーッカーだって倒せねぇだろ」

レッド  「うるさいな」

イエロー 「だから、お前のピンチには俺を呼んでくれ」

レッド  「…イエロー」

イエロー 「ちょっとは仲間らしいことさせろよ」

レッド  「あぁ、グリーンたちのことは任せろ!……そして、待ってるからな、イエロー!」

イエロー 「待ってるから…か。(泣きながら)…ヒーローなのにかっこ悪いな、俺」

レッド  「いや、今のお前は最高にカッコいいよ」

イエロー 「…お前もな」

 

  イエロー、下手に走り去る

ややあって、レッドはイエローが残した酒瓶を手に取り、イエローが居た席付近にそれを置く。

 

レッド、名残惜しそうに部屋を見渡したあと、下手に走り去る。

 

  レッドが下手にダッシュする瞬間、照明一気に暗転

  幕。

 






<作・角本> 「Neat!Neet!Hero!!」最後まで読んでくれてありがとうございます♪
今回の脚本。私の原作から修正を重ね、第七稿が大会上演版となっています。
そこで、最後に原作となる第一稿をおまけとして載せておきます。
口当たりを(なるべく)良くした大会版と違い、内容が濃かったり辻褄が合わなかったりですが、、
参考程度にお楽しみください。

ちなみに、大会でも賛否両論いただいた「ラストシーン」ですが、ノーカット仕様になっています。
レッドが走り去った後もしっかり書いてあるので、よろしければどうぞ♪

「Neat!Neet!Hero!!」原作版