「天才という名の孤独」

 

ハカセ 白衣

アル  前と後ろにでかく「R1」と書かれたTシャツ

モナミ タキシード

 

ここは南の島の一室。上手はけ口のみ。上手にベッド。中央に机。また、いすが机と下手にそれぞれ二つづつおいてある。(いすは箱のようなものでもいい)

 

客電FO

音響FI(クラシック)

照明FI

 

ハカセ、ベッドに寝転がっている。

アル、いすCに座って下を向いてぐったりしている(電源が入っていない)。

 

ハカセ んっ…、あぁあ(あくび)。

 

ハカセ、起き上がりベッドのヘリに座る。しばらく頭を押さえたりかいたりする。

 

ハカセ う〜ん。いい曲だ。やはり目覚めには美しい曲が似合う。あれっ?でもここには俺とアル以外いない…。アルがこんな気のきいたことするとはな。褒めてやらねば。

 

ベッドを立っていすCに向かおうとするが机の上に置手紙。

 

ハカセ んっ?洗濯してきます…。ふんん…。(置手紙を机に戻しまた頭に手をやる)んっ?アルはそこにいるし…。(ふと思いもう一度置手紙を手に取る)洗濯してきます?んんっ??

 

モナミ、登場

 

モナミ あっ、お目覚めですか。おはようございます、ハカセ。お加減はいかがでしょうか?

 

音響CO

少しの沈黙

 

ハカセ 誰あんた?

モナミ あぁ、申し遅れました。私、サニー社製アンドロイド、最新2212年モデル、半永久稼動可能窒素乾電池、および新開発自動学習型増殖可能CPUを搭載した、mon-ami0013です。

ハカセ …。は?

モナミ ですから、今年2212年に発表された半永久稼動可能窒素乾電池および新開発・・・。

ハカセ そうじゃなくて!あぁもう。わけのわからないところが多すぎる。

モナミ 恐縮です。

ハカセ 褒めてない!!あぁ!とにかく質問していくからわかりやすく答えてくれよ。

モナミ かしこまりました。

ハカセ あんたは誰?

モナミ アンドロイドのmon-ami0013です。人々は私のことをモナミと呼びます。

ハカセ モナミ?

モナミ はい。M,O,N,A,M,Iでモナミです。

ハカセ ここに来た目的は何なんだ?

モナミ あなたにお使いしたく思い参上したしだいでございます。

ハカセ ?なぜそんなことを?それでお前に何の利益がある?

モナミ 知的好奇心というものです。あなたがなぜここにいるのかが知りたい、これでは理由になりませんか?

ハカセ どうも腑に落ちない。

モナミ あなたは今からちょうど100年前、莫大な富を得た。しかしあなたはその後すぐに社会から隔絶されたこの島に移り住んだ。なぜこんな小さな南の島で外部との接触を一切避けて暮らしておいでなのかを知りたいのです。

ハカセ …。

モナミ ご迷惑はかけません。洗濯も掃除も、お食事の用意もできます。どうかおそばにおいてはいただけないでしょうか…。

ハカセ (少し悩んで)わかった。一人の科学者として未来のアンドロイドのお前の体にも興味がある。よろしくな、えっと、モナミ。

モナミ こちらこそよろしくお願いいたします。

ハカセ じゃあ早速だけど服脱いでくれる?

モナミ えっ?

ハカセ 君の内部構造見せてよ。ね?

モナミ ねってそんな、急に言われても…。ちょ、ちょっとやめてくださいよ。

ハカセ いいじゃんか、ちょっとだけ。

モナミ イヤですよ、やめてください。

ハカセ そんなに嫌がらなくても…。

モナミ イヤですもん。

ハカセ それはそうとモナミ、今は何年だ?

モナミ はい、本日は西暦2212年9月3日です。

ハカセ 2212年…。俺が冷凍睡眠に入ったのが2112年だから…。

モナミ はい。ハカセは百年間眠っておられました。

ハカセ そういえば俺は地下の冷凍睡眠カプセルに入っていたはず。なのにいったいなんでこんなところに…。

モナミ 私がハカセをこちらまでお運びして差し上げました。

ハカセ なぜそんなことを?

モナミ 凍りづけになって寝苦しそうだったので…。

ハカセ 寝苦しいも何も冷凍睡眠なんだからそんなことあるわけないでしょ?

モナミ そうですか?

ハカセ 「そうですか」ってお前…。じゃあ、俺の目覚めに曲をかけたのはお前か?

モナミ はい、そうです。

ハカセ そうだよな。アルは5歳児並の能力しかないからな、主人の目覚めにクラシックをかけるなどという高等な知性が備わっているわけないもんな。

モナミ アル?

ハカセ こいつさ。「R1」通称アルだ。俺がここに来て作ったアンドロイドだ。専門ではないんだが少々不便な生活だったんでな。OSなんかはみんな市販のものを利用した簡単なものだがな。

モナミ windows…。

ハカセ Meな。

 

ハカセ、アルの背中を触りスイッチを入れる。

 

アル  マスターの起床、および生命反応を確認。自動起動ルーチンに入ります。六十秒後に各可動部分のチェックルーチンに入ります。手動でチェックを行う場合はF2キーを、起動を強制終了する場合にはF3キーを6秒長押ししてください。

モナミ ずいぶん起動に時間がかかるんですね。

ハカセ まぁ、しょせんMeだからな。

モナミ ボディは何でできているんですか?

ハカセ プラスチックだよ。ところどころガラスも使ってある。

モナミ …。そんなんで大丈夫なんですか。

ハカセ 今までは何とかなってるよ。

アル  OSの起動を完了。各可動部分のチェックルーチンに入ります。

 

アル、ロボットっぽい動き

あるいは

右手を上げて「右手よーし!」

左手を上げて「左手よーし!」

とかやって最後にシコ踏んで終わり。

 

アル  全システムの正常動作を確認。通常の作業に入ります。

モナミ とまっちゃいましたよ?

ハカセ まぁ、しょせんMeだからな。

アル  マスター、おはようございます。

モナミ 動いた!

ハカセ あぁ。おはよう。久しぶりだね。調子はどう…。

アル  はい。朝食ですね。少々お待ちください。今日のメニューはハニートーストとカフェオレです。

 

アル、はける。

 

モナミ 行っちゃいましたよ!

ハカセ あぁ、あいつはいつもこうだからな。まぁ、作ったのが自分なんだからしょうがないよ。

モナミ しょうがないって…。あんなアンドロイドを使っているくらいならなぜ市販のものを買わなかったんですか?あなたにとっては安いものでしょう?

ハカセ あいつはこれでいいんだ。別に贅沢がしたいわけじゃない。

モナミ でも…。

ハカセ それに、今日からは君がここにいてくれるのだろう?

モナミ は、はい。

ハカセ それなら安心じゃないか。

モナミはい…。

 

アル、登場

 

アル  お待たせしました、マスター。朝食の用意ができました。

ハカセ ありがとう。あぁ久しぶりだな、この蜂蜜まみれのハニートーストとほぼ牛乳のカフェオレ。

モナミ …。

ハカセ ううん。この噛めば噛むほど歯が痛いほど甘みがあふれ出てくる食感はある意味癖になるよ。

アル  洗濯をしてきます。

 

アル、はける。

 

モナミ あっ、洗濯なら私が…。いってしまった。ハカセ、作り直しましょうか?

ハカセ いや、慣れればこのほのかなコーヒーの香りがするカフェオレもなかなかのものさ。やつには五百以上のレシピを組み込んだはずだったんだがな…。

モナミ まさか毎日それですか?

ハカセ まぁな。でもなんかかわいくてな。一生懸命で。自分で作った機械に愛着がわくなんておかしい話だな。

モナミ いえ、いい科学者の証拠ではないでしょうか。

ハカセ そうかな?

 

アル、登場

 

アル  洗濯が終わりました。

ハカセ 早っ!

モナミ 私がやったのをさも自分がやったかのように胸を張っていうのはやめてください。

 

アル、いすBに座りながら

 

アル  マスター、おなかが空きました。

モナミ っ!あなたっ!それでもアンドロイドですか!なぜあなたがマスターであるハカセに命令するのですか!?しかもとおまわしな表現で!

ハカセ あぁ、いいんだ。俺ちょっと地下いってとってくるよ。

 

ハカセ、はける。

 

モナミ また止まっているし。なぜハカセはあなたのようなポンコツを大事にしているんだろう。100年前にだって少なくともあなたより使えるアンドロイドだってあったはずなのに。それにハカセは「プロジェクト」で膨大な富を得たはず。なぜ…。

 

ハカセ、登場。

 

ハカセ お待たせ。はい、アル。

アル  ありがとうございますマスター。

 

ハカセ、ポリタンクみたいのをあるに渡す。

アル、飲み続ける。

 

ハカセ そういえば今世界はどうなっているんだい?

モナミ えっ?

ハカセ 俺は「プロジェクト」の第一期が終わってすぐここに来てしまったからね。それにすぐ冷凍睡眠に入ってしまったし。

モナミ あぁ…。えぇ、まぁそうですけど。あの後も食糧難による戦争は起こりませんでした。

ハカセ へぇ、あの地球連邦も意外とやるもんだな。

モナミ 月や火星への移住ももう当たり前のように進んでいるんですよ。

ハカセ そうか。まぁ100年ものあいだ眠っていたんだ。そのくらいのことはありえるよな。でも、なんだか悲しいな。技術に取り残されてしまった。昔の最先端も今じゃおもちゃ程度か…。

モナミ その心配はありません。ハカセならきっとすぐに追いつけますよ。

ハカセ そうかな?時代の壁は厚いぞ。

モナミ そんなことはありません。ハカセの頭脳はいつの時代でも通用しますよ。

ハカセ ははっ。おだてたって何もでないよ。

モナミ そんなつもりじゃ…。

ハカセ ははは。わかってるよ。

 

アル、立ち上がる。

 

アル  掃除をします。

 

アル、おもむろに雑巾を取り出し掃除を開始。

 

モナミ あれは…。

ハカセ いいのいいの。あいつの好きにやらしておけばさ。それに見てると結構面白いんだよ。

 

アル、掃除をしながらはける。

 

モナミ 博士は優しいのですね。

ハカセ 「優しい」か…。そんなことの初めて言われたな…。

モナミ そうなんですか?

ハカセ 生まれてこの方、友達なんて一人もいないからね。

モナミ …。なんでそんな…。

ハカセ 俺は昔から勉強だけはできてね。みんなは天才天才って言ってはやし立てるけど、俺に近づこうとはしなかった。そりゃそうだな。あのころの俺はただの機械だったからな。そう、ただのマシーン…。

 

 

モナミ 話していただけませんか?ハカセのこと。

ハカセ 興味があるのかい?

モナミ いぇ、ご迷惑でないなら…。

ハカセ いいよ、話そう。いい暇つぶしになりそうだからね。

    俺は昔、こんな風に人と話すことなんてほとんどなかった。子供のころからそうだったんだ。勉強はずば抜けてできたけど友達はいなかった。人とどうやって話していいかわからなかった。いや、机に向かっていたほうが楽だったからかもしれないな。だけど不思議と寂しくはなかった。自分は生まれたときに人にはない才能をもらえたんだから自分は幸せなんだ。そう思ってた。ずいぶんと思い上がりの激しい子供だろ?

モナミ いいぇ、ハカセほどの能力があれば仕方がないのではないでしょうか。それにハカセは周りからもちゃんと評価されていたのでしょう?

ハカセ あぁ。でもそのせいで俺の青春は最悪だったがな。評価されれば絶対にそれをねたむやつが出てくるからな。でも俺は自分に自信があったから、しょせん負け犬の遠吠え程度にしか考えていなかった。天才は1パーセントの才能と99パーセントの努力とはよく言ったもんだよ。その自身を保つためにどれだけ努力したことか…。机に向かって死に物狂いで勉強したよ。その分また人とかかわりがなくなってしまったのだがな。

モナミ ハカセは生まれながらの天才だと聞いていましたが…。

ハカセ そんな人はいないよ。まぁ生まれながらに1パーセントの才能を持っているかどうかっていう違いは大きいかもしれないがね。そこらへんはもう神の領域だ。

モナミ 神のみぞ知るってやつですね。

ハカセ あぁ。そのおかげで俺は様々な発明をして、たくさんの賞をもらったよ。

モナミ それなら聞いたことあります。ノーベル物理学賞に(その他賞の名前いっぱい)ですよね。

ハカセ 国民栄誉賞もだな。だけど、いくら評価されても別に何の感情も沸かなかった。悪くもなかったんだけど、なんかこう、心のどこかに満たされない何かがあった。それが何なのかがわからなかった。だから俺は、もっと勉強してもっとたくさんのことを知らなければならないと思って、研究を続けた。そんなときに上から「プロジェクト」ぜひとも参加してほしいと声がかかったんだ。

モナミ 「プロジェクト」。環境破壊によって不毛の大地となって飢餓に苦しむヨーロッパやアフリカの人々を助ける。

ハカセ 正直不可能だと思ったよ。あそこまで土壌が死んでしまっていると再生はもう絶望的。作物はもちろん雑草一本すらはえて気やしない有様だった。それで実際に現地視察に言ったんだ。そのとき…。

モナミ そのとき?

ハカセ 空港から一歩足を踏み出した瞬間、自分の目を疑ったよ。

モナミ …。

ハカセ そこに、すぐそこに、少年が倒れていたんだ。愕然としたよ。地球の裏側でこんなことが起こってるなんて話では聞いていても実感することはなかったから。その少年はもうすでになくなっていたんだけどね。まだ十歳にもならないくらいの子供だったんだ。そのとき思った。自分の愚かさを。今までいったい何やってたんだって。初めて人に対して何かを感じた。その後は研究に没頭したさ。もう二度と彼のようなかわいそうな少年の姿は見たくない、これができないようなら自分はいてもいなくても一緒だってな。

モナミ それで亜光速エンジンを…。

ハカセ うん。あの土地で作物は作るのは不可能。植林して土壌の回復を待っているあいだにそこに住んでいる人はみな死んでしまう。もうほかの場所から食物を輸送するしか手段はなかった。だけど当時の飛行機や船ではだめだった。もっと速く、大量に、コストを抑えて輸送する必要があった。幸いアジアの作物の生産量は十分とまではいかないものの全世界の人々が飢餓に苦しむことがなくなるくらいはあったからね。

モナミ はい、あの開発のおかげでヨーロッパ条約機構が食料を求めて戦争になることが回避できましたし。結果的にハカセは何億という人の命を救ったことになりますね。

ハカセ だけど、あの少年は助けられなかった。彼のおかげで俺はただ物を作り出す機械から自分で考えられる人間になれたんだと思う。だから思ったんだ。この才能を人のために使おうって。それがあの少年への俺のせめてもの償いになるのかなって。だから、また人類が危機に瀕したときのために冷凍睡眠で眠っていようと思ったんだ。でもきついなぁ。100年くらいで火星に行かれちゃぁな。これからあと何年寝ることになるかわからないのに…。ホント、俺が役に立たなくなってるかも。

モナミ …。

ハカセ まぁ、俺の話はこんなもんかな?う〜ん。少し長く話しすぎたな。ちょっと外の空気を吸ってくるよ。100年後の地球の空気をね。

モナミ はい。ごゆっくりどうぞ。

 

ハカセ、はける

 

モナミ 人の役に立ちたい…。ハカセは今がその時だって事に気づいておられないのだろうか…。

 

アル、登場。雑巾を持って不穏な動き。

 

モナミ …。あなた、なにしていんの?

アル  掃除です。

モナミ 掃除?あなたがやっているのは掃除じゃない。ただ散らかしているだけよ。掃除っていうのはこうやってやるの。

 

モナミ、アルの雑巾を取り上げ実際に動く。

 

アル  …。へぇ。

モナミ 教えてもらっているのに「へぇ」とは何ですか。まったく…。

アル  …。モナミは掃除が上手ですね。

モナミ これくらいできて当然。

アル  けっ。ちょっと褒めれば調子乗りやがって。

モナミ なにその態度の豹変振りは!理解できない…。

アル  考えるな。感じるんだ。

モナミ …。今もしかして私はあなたに諭されてしまったの?

アル  たまには悪くなかろう。

モナミ …。とにかく、あなたも手伝いなさい。

 

二人で掃除をする。

 

アル  もなみ(発音が変)さん、ひとつ聞いてもいいですか?

モナミ もなみではなくモナミ。何?

アル  楽しいですか?

モナミ 何が?

アル  ハカセと話してて楽しいですか?

モナミ 楽しいよ。なんでそんなこと聞くの?

アル  あなたがハカセと話していて楽しいならハカセもあなたと話していて楽しい。うん。いいね。

モナミ …。わからないわぁあなたの思考回路。

アル  僕も難しいことはわからない。

モナミ …。

アル  もひとつ聞いてもいいですか?

モナミ 何?

アル  アキハバラは楽しいですか?

モナミ …。なぜ急に秋葉原?

アル  ハカセはいつも僕にアキハバラの話をしてくれます。

モナミ まぁ、一部の強烈な人たちは楽しいんだろうね。

アル  ハカセも強烈ですか?

モナミ そうなんだろうねきっと。

 

ハカセ、登場

 

ハカセ いやぁ、100年たってもやっぱり地球は変わらないねぇ。

 

モナミ、ちょっと白い目でハカセを見つめる。

 

ハカセ 何?俺なんかした?

アル  ハカセが強烈なのです。

ハカセ 強烈?

モナミ いえ、何でもありません。こちらの話です。

ハカセ そう?ならいいんだけど。それにしても珍しいね。アルが話すなんて。俺ともあんまりしゃべらないのに。

モナミ そうなんですか?

ハカセ うん。やっぱりアンドロイド同士、相性がいいのかな?

アル  それはないと思います。

モナミ そんな全力で否定しなくても…。

ハカセ ははは、二人なら漫才コンビになれるよ。

モナミ ハカセまで何言ってるんですか!

アル  あはははは。

モナミ 笑うところちがくない?

アル  良いのです。

 

SE 上空を通り過ぎるミサイルの音。

可能なら一瞬照明に色。

アル、ショートして壊れる。

モナミ、システムダウン。

 

ハカセ 何が起こったんだ…。あっ、モナミ!アル!どういうことだ…。

モナミ 亜光速エンジンの重力場によってシステムに異常発生。再起動します。

ハカセ 亜光速エンジン…。そうか、今の音…。

モナミ 再起動完了。通常の動作に入ります。

    あっ、ハカセ!大丈夫ですか!

ハカセ なぁ、モナミ…。今のはいったいなんなんだ?

モナミ え、えっと…。

ハカセ 輸送船か?

モナミ え?

ハカセ 俺の記憶が正しければ、ヨーロッパへの輸送船もアフリカへの輸送船もここの上空は通らないはず…。モナミ、本当のことを教えてくれ…。輸送船なのか?

モナミ …。いえ、確証はありませんが92パーセントの確率で亜光速エンジンを搭載したM8長距離ミサイルです…。

ハカセ モナミ、さっきお前はあれ以来戦争は起こっていないといっていたな…。

モナミ はい…。

ハカセ 戦争のない平和な世界でミサイルは飛び交うものなのか?

モナミ いいえ…。

ハカセ なぜ嘘をついた!!

 

ハカセ、モナミに食ってかかる。

 

モナミ 私は嘘はついていません。

ハカセ どういうことだ?現に戦争が起こっているじゃないか!

モナミ この戦争は食料をめぐる戦争ではありません。少なくとも「プロジェクト」はうまくいっていました。

ハカセ じゃあこの戦争は…。

モナミ この戦争は…。この戦争は人間の欲望の結果です。

ハカセ お前はいったい何者なんだ?

 

モナミ、博士から離れて

 

モナミ 私は…。私はヨーロッパ条約機構の要請であなたを本部のあるスイスまでお連れするために参りました。

ハカセ ヨーロッパ条約機構は解体されたはずだぞ?

モナミ 4年前、再び条約が結ばれました。

ハカセ 何のために!?「プロジェクト」はうまくいったんだろ?

モナミ …。

 

ハカセ、ひざから崩れる。

 

ハカセ やっぱり、作っちゃいけなかったのか?人間はいつもこうだ。どんなにすばらしい技術も自分の欲を満たすために使おうとする…。やっぱり、作っちゃいけなかったんだ。

モナミ でもそれでは…。

ハカセ あぁ、しょうがなかったんだ。あの時は…。もしあの時もし亜光速エンジンを作らなければ人類は戦争で壊滅していた。

モナミ でも結局、人間はまた戦争を始めた。

ハカセ ちくしょう、俺のせいだ。

モナミ ヨーロッパはすでに壊滅状態です。ハカセのお力が必要なのです。あなたなら、亜光速エンジンを作ったあなたなら、きっとあのミサイルに対抗できる兵器が作れます。

ハカセ 俺に兵器を作れというのか?ただ人を殺すためだけの機械を作れというのか?

モナミ 戦争なんです。仕方がないんです。

ハカセ 仕方がない…。そんな簡単に人を殺すのかよ…。

モナミ やらなければやられます。

ハカセ そうやって殺されては殺し、またやられればやり返す。

モナミ …。

ハカセ そんなの俺は認めない。そんな世界を生かすために、俺は亜光速エンジンを開発したわけじゃない!

モナミ あなたの考えがどうであろうと、私はあなたをスイスへ連れてかえらねばなりません。

ハカセ なぜそこまでする?

モナミ それが、私の仕事だからです。

ハカセ それが本当に正しいのかよ?

モナミ 私の意志は関係ありません。私はただのアンドロイドにしか過ぎません。

ハカセ そうか、だったらお前をよこしたやつらに伝えておけ、俺は戦争の道具を作る気はないと。

モナミ それでは困ります。私に仕事をさせてください。

ハカセ 俺が行ったらまたたくさんの人が死ぬことになるんだろ?

モナミ …。

ハカセ じゃあお前の意見を聞かせてくれ。お前はどう思うんだ?

モナミ …。もし、自分に仕事がないとしたら私はあなたに協力します。私が考える限り、この戦争をとめられる方法があるとすれば、あなたに頼るしかありません。

ハカセ だったら、協力してくれないか?

モナミ 私は…。

ハカセ 君の力が必要だ。俺一人では何もできない。100年のブランクを埋められるのは君しかいないんだ。

モナミ …。

ハカセ もし俺がお前について行ったらどうなる!?

モナミ 戦争は激化し、結果的にどちらかの勢力は全滅します。あなたがこちらに加わることにより私達の勢力が優勢に戦争を進められることは明白です。ですが勝てたとしても、疲弊しきった人類に未来はないでしょう。

ハカセ それでいいのかよ。

モナミ いいわけはありません。人間がいてのアンドロイドですから。

ハカセ だったら手伝ってくれ。時間がないんだ。もうあの少年のような子は一人も出したくないんだ!

 

 

モナミ わかりました。協力しましょう。

ハカセ ありがとう。とにかく、ここにいては何も始まらない。とりあえずスイスへ行こう。

モナミ わかりました。支度をします。

ハカセ あぁ、頼むよ。

 

モナミ、はける。

ハカセ、アルに歩み寄り抱きかかえベッドへ

 

ハカセ もう君のようなかわいそうな子供はこれ以上増やさせはしないよ。君は僕に心をくれたのだから。もし帰ってこられたら修理してあげよう。それまでしばらく待っていてくれよ。

 

モナミ、登場

 

モナミ ハカセ、用意ができました。出発しましょう。

ハカセ あぁ、じゃあ行ってくるよ、アル。

 

モナミ、ハカセ、はける。

 

 

 

 

終わり